その5 響く森(Part. H)
「はーぼー、今日はお弁当届けてきて~。」
「え;私がですかぁ(’▽’;)」
翌朝のこと。
またいつもより一段と温かくなった陽気に感謝していると、オリヅル先輩がぐったり受付におでこをついてへにゃっとなった。
ディアス先生が大好きな先輩にしては珍しい。
でも具合が良くないみたい。まああれだけ寒い中を毎日通っていたなら当然でもあるか。
私も一時期、本当に食べ物に困っていた先生にご飯を分けてあげていたことがある。
先輩のご飯が届かなかった先生のことを想像すると、ちょっといてもたってもいられない気分にはなった。
ワープで先生の研究所にぱっと行けたら何も問題ないのだけれども、協会所属の私達は濫りに私用でワープしてはいけないという掟があって、中々そうもいかない。
渋々先輩のお弁当を持って外に出ると、雪解けに反射する日差しがキラキラ綺麗だった。
ライ君を抱っこして森に入る。
村と森を隔てる川を渡ると、水量が結構増えていることに気付く。
どどど、どどどと音が聞こえるのも心地良い。
「…そういえば、スズランさん達も今日から森に入るのかな?」
「気になるかや(-ω-)?」
「うん!同い年くらいの子って珍しいし、元気で良い子そうだなって昨日思ったんだ♪」
ふと昨日の彼女たちを思い出す。
弱気なのに一生懸命冒険についてくる可憐な妖精のサピアちゃん。
その子をまるで守るように、そして自然に引っ張っていく、健気なスズランさん。
二人の穴を埋めるように気を回す、しっかり者の妖精のシャムちゃん。
きっとあの三人には深い絆があって、そして旅をする大きな目的があるのだろう。
と、そんなことを思っていた時だった。
「きゃああああっ!!」
大きな悲鳴が森に響いて、私は咄嗟に身を屈める。
目を開ければ、ライ君が私の前で身構えて、周囲をきょろきょろ警戒していた。
「な…今の悲鳴(๑°ㅁ°๑)!!!?」
「あっちじゃ―!!」
ぱっと声の元を聞きつけた使い魔に続いて、私も一緒に動きだした!
その5 終
ひとこと事項
・オリヅル
ハーミアの先輩にして姉弟子。現在妖精の森の村支部長となっている。ゆったりとした黒髪と眠たげなたれ目が優雅な美女。正体の秘密を打ち明け自死した際にディアスの蘇生を受け、以降は運命を変えた彼のファンとなっている。
・ディアス
かつて勇者と共に世界を巡った龍。彼女の得意とした生命術を自らも極めるも、時代と共にそれは正反対の死霊術として忌み嫌われる存在となっていた。現在は死霊術師としてスコラ・リンデに籍を置き、暇な時間は妖精の森に与えられた研究所に籠っている。
・転送術士の制限
転送術は色々な場所へ瞬間移動できる利便性から、社会にとって悪用と見なされる行為にも利用可能性が高い。このため転送術士協会所属の転送術士は、国家の庇護を受ける代わりに私利私欲による転送術の使用を大きく制限されている。ただし命に係わる緊急事態における防御行動は、悪用に当たらない範囲での自由な使用が認められている。