その3 妖精論(Part. H)
妖精の森に“本物の妖精”がやってきた!
スコラ・リンデの授業で教わり、幻想生物図鑑に載っているスタンダードな妖精の姿。
それらは皆、美しい鱗翅を背中に持った小柄で美麗な少年少女の姿で描かれている。
私の目の前には今、まさに絵画から飛び出してきたような妖精達が立っていた。
「すごいっ!サピアちゃん、シャムちゃん♪」
「ひゃっ…;」「あ。すみません、サピアちゃんは恥ずかしがり屋なもので…」
「うわあっ!?ごめんねっ―!妖精らしい妖精を久々に見られたから…(*’▽’;)」
「えっ、それってどういうこと―!?」
隠れるサピア、かばうシャム、弁解する私に、驚くスズラン。
最後の驚きの理由を聞けば、だってここ“妖精の森”なんでしょ、と返ってくる。
至極当然な回答に、ああ、とちょっと申し訳なく思いつつ…。
「実はですね、この妖精の森…色んな妖精がいるんです。それはもう色々な…;」
「色々?」
「はい。イヌウサギとか、はなまるうさぎとか、ちぃちぃとか…。」
「…それって動物じゃないの?最後のは分からないけど…;」
「今挙げたのはみんな形はウサギとかトリです。もちろん妖精っぽい妖精もいますけど…。」
「少ない、けどいるにはいるってことかしら?」
頷けば、ちょっとこめかみを抑えるスズラン。
やっぱり妖精といえば、美少年美少女だよねっ!だよね…;
そんな彼女をフォローする、金髪の妖精。
「まあ…妖精にはクーシーのように犬の姿をしたものもいますから…;」
そんなのもいるんだ!と逆にシャムの博識に驚かされる。
とりあえずこの辺りの住民は「変な生き物」をみんな「妖精」って言うんですよ。
私もそれがカルチャーショックだったと伝えると、さらにややこしいことに、うちの犬が受付から顔を出した。
「ん…なんじゃ。フェアリーか、珍しいのう(-ω-)」
「いっ、イヌが喋った―!!」「「-!!」」
のっそり顔を出す、喋る妖精のイヌウサギ。
中身は私の今の師匠、ポケット先生なのは秘密でよさそうだけれど、彼女達には「しゃべる」「クーシー」的なのが出てきて、おまけにこんなのまで「妖精」だと知ってしまったら、トリプルパンチだろう。
「あ…えっと、これは…うちの使い魔のライ君です。」
「あ、使い魔…ね―;?」
とりあえずそれで納得してもらった。
その3 終
ひとこと事項
・イヌウサギ
長い耳をもった兎のような姿をした妖精。体長は30cm程度で、様々な模様をもつ品種で溢れている。最近では愛玩動物として王都で人気が出始めている。
・はなまるうさぎ
頬に花丸模様のついたうさぎ。妖精の森に広く分布し、落とし物を拾い集めて仲間に自慢する習性がある。返礼を持っていけば大抵は返却に応じてくれるとされている。
・ちぃちぃ
妖精の森地方に生息するスズメに似た鳥の妖精。渡りはせず、一年中を森で過ごす。穀倉地帯で数を増やすと穀物を荒らす害獣とみなされる。
・クーシー
犬の姿をしているとされる代表的な妖精の一種。
・ライト
純白のイヌウサギ。乱獲の末に劣悪な環境で王都で販売される中、命を落としたところを死霊術士ディミートリアスに蘇生され、その恩を受けてポケットの依り代となった。
・ドアズ・ポケット
魔術学校スコラ・リンデの老齢の教師にして大転送術士。現在のハーミアの師。かつて行方不明となった際にディミートリアスと邂逅し、以来帰還後もライトの体を借りて一時的にイヌウサギの姿でハーミアの指導と護衛に当たっている。