その2 出会い(Part. S)
妖精の森の村という場所ができた。
そんな噂を耳にしたとき、次の目的地は明確に定まった。
でもそこは、王国では人間が住んでいる果ての果て。
馬車や徒歩で行くならば、もっと離れた隣国の方が早く着くほど近くて遠い場所だった。
どうやって行けばいいんだ!って悩んだ末に見つけたのは“ワープ屋”の存在。
「さあ、準備はいいかい―?」「はい。」
「寒い場所だよ?」「大丈夫です。」
王都で偶々訪ねたワープ屋のお婆さんは、妖精の森の村のことをよく知っていた。
理由を聞けば、面倒を見ていた二人のワープ屋が村で働いているのだという。
でも、どんな妖精がいるのか聞いてみれば、イヌみたいなウサギだと答えられて、それは流石に違うだろうと気にもかけずに、そのまま森へ行くことを決意した。
エーレンツァという淑女な転送術士の見送りを受けて、転送陣の上に立つ。
するとぶわっと茶色い前髪が風に煽られて、2つ結びの後髪も揺らめく。
隣で「きゃっ」と小さな声を耳にしたかと思えば、次の瞬間、景色が変わる。
冷気が覆う室内で目を輝かせる少女には、すぐに気が付いた。
「ようこそ妖精の森の村へ(*’’▽’’)…ってわあ♪ほんとに妖精さんっ!」
紺地に白いセーラーカラーのついたローブは、都でも何人かすれ違った学生服。
それを羽織った、ちょっと前髪ぱっつん気味な七三分けの茶髪の子は、隣の二人を見て感激しているようだった。
「えっと…この村の子?」
「あ、ごめんなさいっ!ここのワープ屋のお手伝いで、ハーミアって言います。」
ということは、彼女も転送術士(の見習い?)というわけか。
エーレンツァさんが言っていた知り合いのうちの1人だろうか。
「ハーミアさんね。あたしはスズラン、冒険者をしているわ。こっちの二人は妖精のサピアとシャムよ。」
ちらりと後ろの気配を察すれば、サピアは肩に隠れて顔を出し、シャムは礼儀正しくも、どこか緊張した面持ちでぺこりと頭を下げていた。
その2 終
ひとこと事項
・Part.S
スズランを一人称とする場面
・スズラン
冒険者の少女。妖精のサピアとシャムを連れ、とある目的で世界の各地を渡り歩いている。今は別の場所にいる同じ生業の姉が2人いるらしい。
・サピア
薄桃色の二つ結びに青く透き通った翅が美しい小柄な妖精。人見知りで怖がりな面がある。
・シャム
金色の長いツインテールに緑色の瞳をもった、メイド姿の妖精。しっかり者な印象がある。
・エーレンツァ
王都メイ・ジルオールの転送術士協会第5支部を預かる支部長の女性。年齢は高いものの、足腰や言動はしっかりしている。オリヅルやハーミアの他、多数の協会員を束ねる転送術士。