その13 力を合わせて(Part. H)
洞窟にいた大きな蛇は、朝の竜とは敵意が違った。
ガイア級かは分からないけど、その大きな頭はガイアスタンピードを思い出させる。
スズちゃんがシャボン玉の剣で口の中から一撃を与えると、彼女を口にいれたまま、奥へ奥へと引っ込んでいこうとする蛇。それをライ君が転送術で救い出した。
今ので凝りてくれれば良いのだけれど…;
そんなことはないよね;
緊張で唾をごくりとしようとした瞬間…
「上じゃっ―!!」
ライ君が飛び跳ねてこっちへ向かおうとする。
後衛にいたのは、目を回したゆきうさぎと、サピアちゃん、シャムちゃん、私。
よかった―!!
最初の一撃は警戒していなくて全然分からなかったけど、集中していれば大丈夫。
測位術で上に穴があることなんてお見通しなのだ!
すぐに周りの皆を連れて転移すれば、上から降りてきた大蛇が地面に頭を大きくぶつけた。
奥で胸をなでおろすスズちゃんとライ君が見える。
土埃が落ち着くと、蛇は頭をぶつけて動けないのかと思いきや、シャボン玉に包まれて身動きが取れていないことに気が付く。
どうやらサピアちゃんが頑張ってくれているようだ。
と、今度は洞窟全体がカッと眩しく光り輝く―!!
「スズちゃん…!!」「スズさんっ、今ですっ―!!」
二人の妖精の声に、シャボン玉の少女は跳ねるように走り出し、思い切りジャンプをして剣を振りかぶる―!!
「なるほどな…温度の壁か(-ω-)」
後でライ君のこの呟きの意味を聞いたけれど、シャムちゃんは目くらましのためではなく、光の調節によって洞窟内の温度上昇を引き起こしながら、スズちゃんの体温を光の中に隠したのだという。蛇は熱探知ができず、またサピアちゃんのシャボン玉に阻まれて動きも取りづらいところにスズちゃんの接近を許してしまったのだ―!
「えいっ―!!」「ギャアアッ!!!!」
シャボン玉の剣を受けた大蛇は、大きな声を上げて倒れた。
でもその割には、特段目立った外傷もなかった。
「蛇…死んじゃったの?」
「ん?ううん、大丈夫。精神を削って無力化しただけよ。あとはこうやってこうやって…」
スズちゃんは自分のシャボン玉を器用に使って、蛇の体をぐるぐる縛ってしまう。
こんな重たそうな蛇でも、泡の中の空気が膨らめば風船にのったように動いてしまうのだから面白い!
やっとひと段落ついたところでゆきうさぎが目を覚まして、ライ君に必死に何かを伝える。
ワンワンチチチとやり取りが少し続くと
「ここがゆきうさぎのコロニーの1つらしいのじゃ(-ω-)。」
どうやら雪の季節に村の近くに移動しているうちに、蛇に占領されていたらしいということだった。
まあ、空いていたら誰が住んだとしても仕方はないかもしれないね;
なんて思っていると、ふと周囲が冷たくなる。
なんだろうと振り向けば、そこにはたくさんのゆきうさぎがいた。
その13 終
ひとこと事項
・ガイア級 その種の中で最大のものを表す接頭辞として、王国ではガイア―を付ける習わしがある。類似する等級にカオス級が存在するが、こちらは“曰くがついた魔物”を表すための接頭辞とされている。
・ガイアスタンピード 世界最大級のムカデ種(転送術士候補生IIに出てきました)。ハーミア曰く“学校のプール”くらいの大きさを持っている。かつて龍族に匹敵する権勢を誇っていたが、邪龍ブロセルニルの侵攻によって多くが撃滅されてしまった。鉱山の街ゴルトシュタットでは、彼らが巣作りのために掘った穴を鉱床として利用していることから、現在でも大切に保護されている。
・測位術 周囲の地形状況を把握する魔術の1つ。転送術士にとっては、ワープ後の着地に対して適切な姿勢制御を行ったり、視覚に依らない地形把握を可能にしたりするために習得が率先して推薦される魔術とされている。




