その10 トキリ山へ(Part. S)
ハーミアさんにライ君を加えて、一行はゆきうさぎのコロニー探しを開始した。
目指すは森の奥にそびえる“トキリ山”。
ライ君がゆきうさぎに故郷を訪ねてくれたことで、行き先がはっきりしたのだ。
あの山なら確かに頭に雪を被っているし年中冷え冷えなことだろう。
「そういえばハーミアさん、あの山までワープしちゃいえば良いんじゃないの?」
すごく素朴な質問。
あたし達だけなら歩いたり、場合によってはシャボン玉にのって移動したりって考えるけど、ワープ屋さんがいるならそっちの方が楽なんじゃないかって。
そう尋ねれば彼女は、あははと苦笑いする。
「ごめんね。実は私の系統の転送術って、行ったことがある場所にしか行けないんだ。
あと、ちゃんと申請してOKもらわないと、緊急時以外は基本的には魔法陣のある場所同士しか行き来しちゃだめなんだよ。」
「行ったことないって制限なら仕方ないし、これから行けば経験になるからよかったわって思うけど…後半の制約はなんだか窮屈ねえ;」
「所かまわず風呂やトイレにワープされてきちゃ困るじゃろ(-ω-)?」
「ああ…なるほど(´・ω・`);」
歩くのが面倒になって、ハーミアさんに抱きかかえられたライ君に説得される。
「あ、じゃあ勝手にワープポータル的なのを誰かが設置したら職柄的には困るわけ?」
「-っスズさんっ;!?」
シャムがあたしの質問の真意を捉えて慌てる。
普段落ち着いている子の方が、こういうとき取り乱すのよね。
でも私が平然としていれば、単なる興味本位の質問だってわかってもらえて。
「う~ん、そうだなあ…野良の転送術士っていうのがいるんだけどね、その人達が悪さをするために転送陣を設置しようとしていたら、それは報告して防がなきゃだめなんだよね。」
「…よく勉強しておるの(-ω-)」
あんまりないケースだから、国家資格の問題とやら出ると難問になる1題だそうで、なぜか使い魔の方が主人をほめる変な展開になった。
でもなるほど、そういうことね。
「あとは多分不問だと思うんだけど…」「…うん?」
「私、なんとなくそういうの設置されると分かっちゃうんだよね♪」「-!!」
転移の魔力独特の流れがどうやらハーミアさんには分かるらしい。
それを聞いて、またシャムがぎょっとなる。
分かりやすい子だなあ…;
意外と平然としているサピアは、まあどっちかといえば話よりもシャボン玉で包んであげているゆきうさぎの保護に集中しているようだった。
「あ、でも…」「…でも?」
「ここらへん、そういうのが多すぎて、どれがどれだか分かりにくいんだ( *´艸`)」
「そうじゃな…ただの森に見えて、色々なところに次元の歪みが見えおるわい( -ω-)。」
そうなんだ…!
すごいことを聞いてしまったと思った。
その10 終
ひとこと事項
・トキリ山
妖精の森の北にそびえる山脈で、標高の高い部分は万年雪を被っている。
人があまり足を踏み入れたことがない場所であり、植生や動物たちの生態も謎に包まれている部分が多い。現地民の曰くによれば、竜が住む集落があるという。
・野良の転送術士
転送術士協会に所属していない転送術士。協会の庇護が受けられず、国からの警戒対象ともなるため、暮らしの自由度は高いようでそうでもないらしい。このため、転送術が使えることを隠して市政に紛れる者も少なくない。




