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09 火の精霊王サラマンディル

 その後、お茶でも出すと俺が引き留めたにもかかわらず、ヴィリは帰って行った。

 意味深な、どこか寂しそうな笑みがどうしても気になった。


「たまには、ゆっくりしていってもいいだろうにな」

「……申し訳ありません。グレン様。ヴィリ様はお忙しいお方ゆえ」

「それはわかっているさ。サラマンディルからも今度ゆっくりしていくよう言っておいてくれ」

「……かしこまりました」


 炎の精霊王サラマンディルは、ジュジュに魔力を与えるために残ってくれたのだ。

 俺と話をしながらも、サラマンディルはジュジュに魔力を与えてくれている。


「じゅっじゅ~」


 サラマンディルに魔力を与えられつつあるジュジュは、心地よさそうに尻尾を振る。


「おお、ジュジュがまた元気になったな。ありがとう」

「……恐縮です」


 オンディーヌのときはジュジュは今にも死にかけの状態だった。

 だが、今は比較的安定しているため、サラマンディルもさほど集中しなくてもいいらしい。

 声をかけたら、魔力を与えながら返事をしてくれる。


「サラマンディルが魔力を流すと、俺の足の痛みも和らぐな」

「……それはなによりです。よほどグレン様とジュジュの相性が良いのでしょう」


 オンディーヌと同じくサラマンディルも、俺とジュジュの相性がいいという。

 二人ともそういうなら、そうなのだろう。


「サラマンディル。ありがたいが、ヴィリの護衛に付いていなくていいのか?」

「……ヴィリ様はお一人でもお強いので」


 足が悪くなる前、剣聖と呼ばれていた頃の俺でも、精霊と契約したヴィリとは、全く勝負にならなかった。


「……それにヴィリ様の契約精霊は私だけではありませぬゆえ」


 メインで護衛しているのはサラマンディルだが、他の精霊王に護衛されることもあるのだろう。

 そんなことを話している間に、サラマンディルは魔力を与え終わった。


「ありがとう。サラマンディル」

「じゅうぅ」


 俺とジュジュでお礼を言うと、サラマンディルは頭を下げる。

 そして、ためらいながら口を開いた。


「……グレン様」

「どうした?」

「……ヴィリ様が、グレン様に恨まれていると思われていた理由ですが」

「ん? 何か知っているのか?」

「……はい。ヴィリ様は、グレン様に勝つためだけに精霊契約の術式を編み出したのです。その事を気にしておられます」

「…………嘘だろ?」

「……本当です。ヴィリ様は大局を見据えておられていたわけではありません」

「そうだったのか」

「……だから、グレン様に恨まれていると思われているのでしょう」


 思ったより衝撃の事実だ。

 魔導の探求でも、地位や名声でもなく、単に俺に勝ちたかったとは思わなかった。

 確かに精霊契約以前は、俺の方が戦闘力は高かった。


 俺に勝ちたかっただけなのに大事になって、ヴィリもびっくりしていたのかもしれない。

 少し面白い。


「……どうかヴィリ様をお許しください」

「いやいや、恨みはしないし、怒ってもいない。むしろ光栄だよ」

「……光栄、でございますか?」

「俺に勝つためだけに、世界を変えるほどの技術を編み出す必要があったと思うと、自慢できるよ」


 子供や孫はいないが、子や孫がいたら絶対自慢するだろう。

 そして、孫たちにほら話あつかいされるにちがいない。


「……ありがとうございます」

「ヴィリにも、そう伝えておいてくれ」

「……かしこまりました」

「だから、気にせず遊びに来いと言っておいてくれ」

「……ありがとうございます。ヴィリ様も喜ばれるでしょう」


 その後、サラマンディルは、帰って行った。

 帰ると言っても、ドアを開けて帰ったわけではない。

 煙のように消え去ったのだ。


「さて、ジュジュ。ご飯の続きを食べようか」

「じゅっじゅ!」


 精霊王二人に魔力をもらい、ジュジュは相当元気になったように思える。

 だが、呪われているのは変わらない。

 まだ安全とは言えない状態だ。


「ご飯を食べてゆっくり寝よう」

「じゅっぎゅ」


 俺はジュジュに細かく切った干し肉を茹でて潰して冷ました物をジュジュに食べさせる。

 そうしながら、自分も食べる。俺の食事は硬い干し肉だ。

 食べにくいし消化には悪いが、茹でて冷ましてすりつぶした物よりはうまい。


 俺はジュジュがお腹いっぱいになるまでご飯を食べさせた。

 それが終わった後、服の汚れた部分を拭いた。

 染みになってしまったが、気にしない。

 元々余り綺麗ではなかったし、そもそもが安物なのだ。


 ふと、窓の外を見ると、日が沈んでいた。

 ヴィリが開発した格安魔法ランプもあるが、燃料は無料ではない。


「ジュジュ、寝るか」

「じゅ!」


 俺はジュジュを胸の上に乗せたまま、ベッドに横たわる。

 そして、寝かしつけるために優しく撫でる。


「じゅ~」

「怪我は痛くないか?」

「じゅぎゅ」

「痛くないならよかったよ」

「……みゅじゅ」


 撫で始めて数十秒後、ジュジュは寝息を立て始めた。

 とても疲れていたのだろう。


 小さいのに、呪われて、死にかけて、召喚されて、虐められたのだ。

 疲れていないわけがない。


「ゆっくり眠るんだよ」


 俺はジュジュを撫でながら眠りについた。

 そして、すぐに目を覚ますことになったのだった。

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