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85 怪しい廃屋

 俺たちは老婆の教えてくれた場所に向かって歩いていく。

 どこに敵の目と耳があるかわからないので、会話は全て小声だ。


「一応警戒はしておいてくれ」

「わかっていますわ」「ぁぅ」


 リルもフェリルも、俺に合わせて小声で返事をしてくれる。


「まあ、目撃情報も単なる犯罪者の確率の方が高いからな」

「グレンさんは、例の怪しい男が私たちの探している者である確率はどのくらいだと思われますか?」

「そうだな。一割もあれば、充分ってぐらいじゃないか?」

「そうですか……」「ぁぅ」

「とはいえ、今まで情報などほとんどなかったんだ。とりあえずそこから押さえよう」

「はい」「ぁぅ!」


(ジュジュ。この辺りから可哀そうな精霊の気配がしたら教えてくれ)

(じゅ~)


 今、ジュジュに呼びかけるときはなるべく念話を使った方がいい。

 ジュジュのことは、ただの精霊の赤ちゃんだと敵に思われていた方が都合がいいのだ。

 とはいえ、敵がジュジュに呪いをかけた一派ならば、ジュジュの重要性を理解しているだろう。

 その場合は、意味のない小細工になるかもしれない。

 あくまでも念のためである。


 ジュジュは真剣に周囲をキョロキョロ観察している。


「そろそろだぞ」

「はい」


 土地勘がないだろうリルに目的地に近づいたことを一応教える。

 俺は雑用の仕事で、この辺りをよく訪れているのだ。


「あ、念のために。グレンさん。連絡方法についてお教えしますわ」

「連絡方法? 学院とのか?」

「そうですわ。赤い魔法を上空に打ちあげれば、助けが駆け付けます」


 狼煙として赤い魔法を使うと言うことだろう。

 恐らくその助けとはオンディーヌたちに違いない。

 救援依頼だけでなく、敵の拠点を発見したと報せるために使ってもいいはずだ。


「わかった。リルが必要だと判断したら打ちあげてくれ」

「はい」


 しばらく歩くと老婆の教えてくれた廃屋がみえた。


「あれだ」

「小屋というには少し大きいですわね」

「俺の住んでいる小屋よりは大きいな」


 だが、ぼろぼろだ。

 人が住まなくなってから、二十年は経っていそうだ。

 放置していたら、そのうち倒壊するだろう。


 廃屋まであと五十歩まで近づいたとき、ジュジュがびくっとした。


(ジュジュ? まさか、気配が?)

(じゅ!)

(シェイド、気をつけろ)

(任せるのである!)


 どうやら、本当に精霊がいるらしい。


「気をつけろ、当たりかもしれん」

「っ! はい」


 一気にリルの表情が真剣なものに変わった。

 徒歩でニ十歩まで近づいたとき、廃屋が揺れはじめた。

 尋常ではない。

 このような異常な現象は、恐らく魔法と考えた方がよいだろう。


 俺は警戒して足を止める。

 俺に合わせて、リル、フェリル、シェイドも足を止めた。


 本当は敵の拠点の近くで、足を止めるのは良くない。

 だが、正体不明で、理解不能なものに近づくのは危険すぎる。

 魔法による現象ならなおさらだ。


(あれはなんだ? 揺れて見えるんだが……)


 念話でシェイドに尋ねる。

 シェイドは精霊王なので、魔法に関する専門家なのだ。

 いや、存在自体が魔法のようなものだ。

 魔法の腕前も知識も、人間の比ではない。


(え? なにがであるか?)


 だが、シェイドはきょとんとしている。


(いや、あの廃屋だよ)


 元々ぼろ小屋はあった。そのぼろ小屋が揺れて見える。

 小屋自体が揺れていると言うのとは少し違う。

 陽炎(かげろう)のように揺れているのだ。

 いや、陽炎より揺れが激しすぎる。

 これが物理的な現象とは考えにくい。


 シェイドは驚いた様子で、こちらを見て、それから再び小屋をじーっと見た。


(シェイドにはどう見えているんだ?)

(どうもなにも、普通のぼろぼろの廃屋なのだ)

(ということは、魔法による隠ぺい工作とかではないよな)

(さすがに魔法なら我は気づくのである。今の距離の百倍、いや千倍離れていても軽く気づくのだ)

(光魔法で視覚をごまかしているのじゃなくても?)

(もちろんなのだ。精霊にはそれぞれ得意魔法はあるとはいえ、我は精霊王なのである!)


 いくら熟練の魔導師でも、魔法で精霊王の目をごまかすことは難しかろう。

 恐らく、精霊がかけた魔法でも、シェイドならきっと気付くに違いない。


(魔法ではなくて物理的な現象でもないとなると、呪いか?)

(呪い……、だと?)

「リル、フェリル。あの廃屋はどう見えている?」


 リルとフェリルに近づいて小声で尋ねた。


「普通の廃屋にみえますわ。倒壊しそうで危険ですわね……」

「ゎぅ」


 リルとフェリルにも、普通に見えているらしい。


(………………あっ)

(どうした?)

(グレンさま。呪いと聞いて改めて見てみたのだが確かに呪われておるのだ)

(効果は?)

(そこまではわからないのだ!)


 精霊王は呪いの専門家ではないので仕方がない。

 とはいえ、他の精霊や、人間の魔導師よりも呪いを見分けるのはうまい。

 リルとフェリルはジュジュが呪われていることに気付けなかったが、精霊王オンディーヌは気付けた。


(グレンさまは、あれを見てどう思うのだ?)

(効果は当然わからない。それに、いやな気配すらしない)

(ふむ。隠ぺいのための呪いかもしれぬのだ。ジュジュさまはどう思われるのだ?)

(じゅ~)

(ジュジュさまは、廃屋が揺れて見えておられたのか。凄いのである)

(じゅ)


 どうやら、ジュジュも俺と同じように見えていたらしい。

 だが、呪いだと気付いていたわけではないようだ。


(ジュジュ。可哀そうな精霊の気配は?)

(じゅい)

(そうか、気配はないか。可愛そうな精霊の気配を感じたらすぐ教えてくれ)

(じゅ!)


 ジュジュは力強く返事をした。

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