81 助手のリルとフェリル
俺がメダルを首にかけたのを確認したヴィリは立ち上がった。
「じゃあ、僕は仕事に戻るよ」
「ああ、わかった。頑張ってくれ」
ヴィリは忙しい身である。
「あっ、リルとフェリルに助手になってくれるよう頼んでいるから、出発するのは少し待ってね」
「うん。どうせジュジュが起きるまで出発するつもりは無いからな。リルとフェリルが手伝ってくれるなら心強い」
そして、ヴィリは眠ったままのネコを抱いたまま、帰って行った。
「さて……、リルとフェリルが来るまでしばらくゆっくりするか」
「そうであるな。ネコは大丈夫だろうか」
「ヴィリは精霊の扱いに慣れているし大丈夫だろうさ」
そうは言ったが、少し心配ではある。そして、寂しい。
「今日はネコのためにお菓子を買って帰ろうかな」
「うむ! お土産は良い案なのだ。だが、クッキーがあるし、お菓子より肉とかのほうがいいのではないか?」
「たしかに。ネコは猫の精霊だし、肉も喜びそうだな」
「猫……猫科の精霊なのは間違いないのだ」
「ん? それってどういう……」
会話の途中で扉がノックされた。
「グレンさん、いらっしゃいますか?」
「じゅ?」
ノックの音と声で、ジュジュが目を覚ます。
「おはよう。入ってくれ」
「じゅじゅ~」「おはようだ、リル」
ジュジュとシェイドもリルをみて尻尾を振って挨拶している。
「はい、おはようございます。失礼いたしますわ」
「がう」
「フェリルもおはよう」
「じゅっじゅ~」「フェリル、おはよう。今日もモフモフであるな」
フェリルは身体が大きいので、小屋の中には入れない。
扉の向こうから、顔を覗かせている。
「グレンさん、お話はお聞きですか?」
「ああ、ヴィリから聞いているよ」
「メダルも受け取られましたか?」
そういって、リルは首にかけて服の中に隠していたメダルを取り出す。
そのメダルは俺のものより一回り小さい金色のメダルだった。
「もちろん、だけどリルのとは少し違うな」
俺もメダルを取りだしてリルに見せた。
「おお、親任官のメダルですわね。初めて見ましたわ。意匠は私のものと同じですけど」
リルは助手らしいので、身分を証明するためのメダルも少し違うのだろう。
「リルとフェリルはネコにあったか?」
「まだですわ。可愛い猫の精霊を保護されたとか?」
「ああ、今日は一日留守にするからヴィリに預かって貰ってるんだ。今度紹介するよ」
「早く会いたいですわね」
「がう」
フェリルもネコに会いたいらしい。
「フェリルにも後でちゃんと紹介するよ」
「がぁう」
「さて、ジュジュ、もう寝なくて大丈夫かい?」
「じゅ!」
どうやら、ジュジュの目は覚めたらしい。
とはいえ、赤ちゃんなので、またすぐ眠くなるに違いない。
ジュジュの食事と睡眠の間に、探索するしかないのだ。
「さて、ジュジュ。改めて説明するな」
「じゅぅ」
「かわいそうな精霊を見つけるのが今回の任務だ」
「じゅ!」
「ジュジュは可哀そうな精霊の気配を感じたら、教えてくれ。そこから先は俺たちの仕事だ」
「じゅっ!」
わかったと力強く言ってくれている。
ジュジュの尻尾も力強く揺れる。自信に満ちた揺れ方だ。
そんな気がする。
「どこから参りますか?」
そう尋ねてきたリルの目はやる気に満ちている。
精霊思いなリルのことだ。
可哀そうな精霊を助けるという使命に燃えているのだろう。
「ヴィリが怪しいと言っていたのは、王都の外縁部だが……」
「だが?」
「同時に貴族の屋敷も怪しいと考えているようだったな」
正確には貴族の屋敷、騎士団の建物、庁舎などである。
はっきりとは言わなかったので、ヴィリにも確信はないのだろう。
「とりあえず、まずは外縁部を散歩しようか」
「私もそれがよいと思いますわ!」
リルも賛同してくれた。
土地を広く使えて、人の目が届かない外縁部。
そこが最も怪しいのは間違いがない。
「ですが、外縁部のどこにいきましょうか?」
「そうだな。俺がよく仕事で通っていた場所があるからそちらからやろうか」
俺が老婆から仕事をもらっていた場所のことだ。
ジュジュがチンピラに絡まれた場所でもある。
「はい。土地勘がある場所の方が探しやすいですものね」
それもあるが、それだけではない。
あの辺りは人通りが少なく、持ち主不明の廃屋も多い。
勝手にぼろ小屋を使っても、咎められることもほとんどあるまい。
悪だくみするには最適だ。
だが確証はない。そういう可能性もあるかもなと思っているぐらいだ。
だから、特に説明はしない。
「さて、ジュジュ抱っこしようね」
「じゅ~」
俺は抱っこ紐でジュジュを抱っこして、剣を腰に差す。
それから小屋の外に出て、フェリルを撫でた。
「フェリル。よろしく頼む」
「がぁお」
フェリルは尻尾を振って、俺の顔を舐めてから、ジュジュのことを舐めた。
そして、シェイドに挨拶するかのように鼻をつける。
フェリルとの挨拶を終えた後、俺たちは学院の外へと歩き出す。
「ジュジュ。少しでも怪しかったら教えておくれ」
「じゅ~」
「ジュジュさまは、天才なのだ!」
シェイドがご機嫌について来る。
「…………あれ? シェイドって、実体化して歩き回っていいんだっけ?」
なるべく目立たないように、小屋の外では実体化しない方針だった気がした。
王子を助けるために実体化したのは例外的な事象である。
「…………」
無言で、しょんぼりした顔のシェイドがすくっと消えていく。
しょんぼりしたシェイドが凄く可哀想に思えた。
「じゅ~!」
ジュジュもシェイドと一緒に歩きたいらしい。
俺としてもできるならば、実体化したままのシェイドと一緒に歩きたいと思った。





