70 小屋のお風呂
せっかくなので湯船にお湯をため始める。
ネコはともかくシェイドとジュジュは風呂が好きなのだ。
そして、俺も風呂が好きだ。
シーツを洗い終わったら風呂に入ってゆっくりしたい。
湯船にお湯をためている間に、大きめの桶にシーツとお湯を入れて、大賢者石鹸をぶち込む。
「湯船にお湯がたまるまで、しばらくつけ置き洗いをしておこう」
大賢者石鹸は効果が高いのでつけ置き洗いする必要はあまりない。
だが、先にシェイドを洗ってあげたほうがいい。
その間、どうせシーツは洗えないのだから、つけ置きしておけば良いだろう。
「シェイド。洗ってやるからこっちに来なさい」
「かたじけないのだ。グレンさま。でも我は自分で洗えるのだ」
「だけど、背中を洗うのは難しいだろう?」
「それはそうなのだ!」
俺はシェイドのことを大賢者石鹸で洗ってやる。
背中の羽の間から、手足の指の股まで丁寧にだ。
「ふぁぁぁ」
シェイドは変な声を上げて、体を黒い闇でぼんやり覆った。
「シェイド、くすぐったいか?」
「心地よいのだぁ」
心地が良いと、闇が漏れるらしい。
新しいシェイドの習性を知ることができた。
「よし。シェイド。まだ、お湯は溜まりきっていないが、せっかくだしシェイドは湯船に入ってくれ」
「ありがたいのだ」
シェイドが湯船の中に入っていく。
「じゅう」
「に!」
シェイドのあとをジュジュとネコがついて行く。
「お、ジュジュさまとネコも入りたいのであるか?」
「じじゅ!」「に? にぃ!」
ジュジュは湯船の縁に手を掛けてよじ登ろうとしている。どうやら湯船に入りたいらしい。
それをネコは見つめている。
「ジュジュが風呂好きなのは知っていたが……。ネコも好きなのか?」
「に!」
好きなわけがないらしい。
ネコは猫の精霊なのだから、当然といえば当然だ。
さっきは寝ている間に大体洗ったが、起きたら多少暴れていた。
「まあネコは猫だもんな」
「にぃ」
俺はネコを抱っこして匂いを嗅ぐ。
「に!」
ネコは手足を軽くバタバタさせるが、暴れると言うほどでは無かった。
「うん、臭くないし、ネコは入らなくて良いよ」
「にぃぁ」
俺はネコを床に置く。
そして、ジュジュだけを湯船の中に入れてやる。
「シェイド。俺がシーツを洗っている間、ジュジュとネコのことを見ていてくれ」
「わかっているのだ!」
やはりシェイドは頼りになる。
俺はジュジュたちの様子を窺いながらシーツを洗う。
「もう、既に汚れはほぼ落ちているな、さすがは大賢者石鹸」
やはり大賢者石鹸は汚れを落とす性能が非常に高い。
最も安価で、最も普及した魔道具と呼ばれているらしいと聞いたことがある。
「確かにこれだけ効果があれば、普及するのも当然だな」
すぐに汚れが落ちたので、お湯ですすいでから絞る。
そして脱衣所にでてシーツを干した。
それから、俺は風呂場に戻って身体を洗い、湯船に向かう。
「ジュジュ、のぼせてないか?」
「にい……?」
ネコもジュジュのことが心配らしく、不安そうに湯船の縁に前足を掛けて見守っていた。
「じゅ!」
「シェイド、ジュジュとネコを見てくれてありがとう」
「気にするでない! ジュジュさまもネコも手のかからないよい子なのだ」
ジュジュは不器用ながら、チャプチャプ泳いでお風呂を楽しんでいる。
シェイドは、仰向けにぷかぷかとお湯に浮かんでいた。
寝るときもそうだが、ゆったりするとき仰向けになるのが好きなのかもしれない。
「じゅじゅ!」
「はいはい、すぐ入るよ」
俺はゆっくりと湯船に入る。
「にぃぃ」
ネコはそんなとこによく入るものだと、呆れと心配が混じった声で鳴く。
湯船は一人で入るには充分広い。足もゆっくりと伸ばせるぐらいだ。
だが、大型犬ぐらい大きなシェイドと、ジュジュが入っているので少しだけ狭く感じた。
ぷかぷか浮いているシェイドの身体の下に足を伸ばす。
「じゅ!」
ジュジュが俺の身体をよじ登ろうとする。
「にい?」
「大丈夫だよ、溺れていないからね」
ネコは俺が溺れてないか心配してくれている。
「ジュジュもネコも元気だなぁ」
ジュジュをなで回し、身体に何か異常が無いかよく観察する。
寝ている間に、また羽が少し大きくなったようにみえる。
手足も少し太く、力強くなったように思う。
「いいことだな。ネコは……」
「にい?」
俺は湯船の縁に前足をかけて、こちらを心配そうに見ているネコの頭を撫でた。
少しの間寝ただけなので、当然のことながらネコは成長していない。
元気だ。怪我もない。
「うん。よしよし。元気になるんだぞ」
「に!」
しばらくお風呂を堪能し、ジュジュを抱っこして湯船からあがる。
「あ、我もでるのである!」
シェイドが置いていかれまいと慌ててあとを追ってきた。
「のんびり入っていていんだぞ」
「充分堪能したのだ!」
脱衣所に出るとシェイドは自分の前足を使ってタオルで拭いていく。
「器用だなぁ」
「我は両手を使える賢い竜だからな!」
「じゅ!」
ジュジュもシェイドの真似をしようとしているが、あまり上手ではない。
「ジュジュさま、拭いてさしあげるのだ!」
「じゅう」
シェイドがジュジュの身体を拭いてくれている。
そして、俺はネコの身体を拭く。
ネコは湯船には入っていないが、シェイドやシーツ、俺の身体を洗っているときに近くにいた。
だから、結構濡れていた。
湯船で泳いだジュジュがおこした水しぶきの影響も大きそうだ。
ネコの毛は拭いただけではすぐには乾かない。
拭いたあと、タオルでくるんでおく。
「ネコ。俺が服を着るまで少し待っていてくれ」
「にい!」
俺が身体を拭いていると、ネコはタオルから出て身体をブルブルさせる。
そして、とことこ歩いて脱衣所から出て行った。
「まだ完全には乾いていないんだが……。まあ風呂に入ったわけでもないし」
ネコは水しぶきを浴びた程度なので、毛の根元まで濡れているわけではないはずだ。
俺は急いで身体を拭いて、服を着た。
「シェイドありがとう」
「問題ないのである。ジュジュさまはもう乾いているのだ」
「じゅ!」
そして、シェイドの背中を拭いてあげてから、居間の方に戻ったのだった。





