42 呪いの構造
竜はジュジュを優しい目で見て、それから俺を見た。
「我が呪われていたことは知っておるのであろう?」
「はい。それは知っています」
「うむ。我の呪いは解けた。グレンさまたちのおかげでな。だがジュジュさまの解呪は万全とはいえない」
「じゅ?」
ジュジュはこちらをみて首をかしげていた。
ジュジュの呪いは解けていない。だが、竜を解呪する前よりも元気になった気がする。
元々の目的はジュジュの呪いを緩和し、延命することだ。
今回の目的は達せられたと考えていいだろう。
「グレンさまはどのくらい呪いに詳しいのだ?」
「魔導師でも神官でもないですから、詳しくは知りません」
「そうか。……ならば、ゆっくり説明しよう」
「ありがとうございます」
「うむ。グレンさまの知りたいことは、詰まるところ、ジュジュさまの呪いの解き方についてであろう?」
「まさにそれです」
「なにから説明すれば伝わりやすいのか……」
竜はそういってジュジュを見た。
「じゅう?」
ジュジュは竜の頭をなでなでする。
撫でられた竜はかなり嬉しそうだ。
まるで、孫に頭を撫でられるおじいちゃんみたいである。
「グレンさまは、ジュジュさまの正体をご存じか?」
「それも知らないんです。お世話になっている水の精霊王は知っているみたいなんですが、教えてくれないんです」
「そうであったか。オンディーヌどのが。なるほど」
どうやら竜はオンディーヌのことを知っているらしかった。
少し考えて、竜は口を開く。
「まず、ジュジュさまは我らの、広い意味で同族だ」
「といいますと、ジュジュは竜の精霊ということですか?」
「そのとおりである。そしてジュジュさまは竜の精霊の中でもかなり強い種だ。赤子ではあるがな」
「ジュジュが成長したら、あなたぐらい強くなりうるのですか?」
「我など比べものにならないぐらい強くなるであろうよ」
「じゅっじゅ!」
ジュジュは自慢げに尻尾を振っている。
当然お世辞もはいっているだろうが、ジュジュを褒められると俺も嬉しい。
「ジュジュさまは、特に呪いに強い竜だ。我よりもはるかにな」
「強いのですか? 呪われて死にかけていますが……」
竜は呪われた状態で、強力な攻撃を繰り出してきていた。
一方ジュジュは瀕死だった。
赤子だということを差し引いても、とても呪いに強いとは思えない。
「うむ。間違いなくジュジュさまは呪いに強い。通常の手段では呪いをかけることなど不可能なほどだ」
「では、なぜ?」
いま、現にジュジュは呪われている。
「我が呪われた理由はそこにあるのだ」
話が見えない。
だから黙って俺は竜の次の言葉を待った。
「我にかけられた呪いは非常に強力で、強烈な苦痛をもたらすものであった。その呪いはジュジュさまに伝わるようになっていた」
「そんなことが……」
「我が抵抗できれば良かったのだが、どうすることもできなかった。呪い自体がそのように構築されておったのだ」
オンディーヌがジュジュに魔力を与えたとき、何もして無くとも俺に魔力が流れた。
それと、構造的には同じなのかも知れない。
「ジュジュさまに直接呪いをかけることができなかった。だから我を踏み台にしたのである。加えて我の呪いで受けた苦痛もジュジュさまに流れたはずだ。並の竜では死んでいただろう」
「じゅ!」
「本当に、ジュジュさまはお強い」
つまり、ジュジュを呪うために、竜に呪いをかけたということらしい。
「この手法も、ジュジュさまが成長すれば通用するまい。だから赤子の内に狙われたのだ」
「どうしてそこまで……」
そして、なぜ、そこまでしてジュジュを呪いたいのか理解できない。
俺のつぶやきに竜が反応する。
「グレンさまの疑問はわかる。そこまでしないとジュジュさまは殺せないのだ。実際には、そこまでしても殺せていないのだからな」
「それはそうかもしれませんが……」
幸運なこともあった。
魔力相性の良い俺と出会ったこと。
そして、俺たちのすぐ近くにオンディーヌたちがいたこと。
それらが無ければ死んでいた可能性は高い。
だが、ジュジュがそもそも耐えなければ、俺がいようとオンディーヌがいようと、助けられなかっただろう。
「そしてジュジュさまは、悪しき者どもにとっては、そこまでしてでも殺したいと思われるほど重要な竜なのだ」
そういうと、竜は俺たちの目を順番に見つめた。





