33 出発
厩務員長はフェリルを撫でているリルに言う。
「ペリシエさんは飛竜に乗った経験は?」
「はい。ありますわ!」
「それは心強い。ですが、操縦はグレンに任せてください。グレンの方がこちらの飛竜には慣れていますので」
「かしこまりましたわ」
そこに、飛竜を順番に撫でて回っていたオンディーヌが戻ってくる。
厩務員長はそんなオンディーヌに丁寧に尋ねた。
「オンディーヌさま。飛竜たちの様子はいかがでしたか?」
「うん、みんな元気。ちゃんと可愛がってもらってる」
「ありがとうございます。オンディーヌさま。今日はどの飛竜に乗られますか?」
尋ねられたオンディーヌは、飛竜たちを見る。
「うーん。私を乗せたい子」
「がうがう!」「がう!」
皆乗せたいらしい。自分に乗ってくれとアピールしている。
「じゃあ、ウイングロード、乗せて」
「がぁう!」
オンディーヌは群れのボスであるウイングロードを選んだ。
群れの序列などにも配慮したのだろう。
「かしこまりました。ウイングロードですね。すぐに準備いたします」
厩務員長がウイングロードに鞍を付けたりなどの準備をしはじめる。
「よかったな、オンディーヌさまに乗ってもらえて」
「がお」
ウイングロードもご機嫌だ。
飛竜は馬などよりずっと大きいので、三人ぐらいなら余裕で乗れる。
飛竜の中でも一番大きなウイングロードならば、五人ぐらいなら乗れるだろう。
それでも、さすがにフェリルが乗るのは難しいようにみえる。
「厩務員長、手伝いますよ」
「いや、いい。今日は金払ってないからな。ただ働きするのも、させるのも主義にあわん」
俺は竜舎で働くこともあるが職員ではない。
日雇いで働く手伝い要員なのだ。
厩務員長は、ただ働きさせない主義らしい。
「そうですか。もし手伝いが必要なら言ってください。有料で手伝います」
「ああ、だが大丈夫だ」
そのとき、オンディーヌが俺の袖を引っ張った。
「グレン。私がウイングロードを操縦する」
「そうか、それがいいかもな」
俺もリルもダンジョンの位置を聞いてはいるが、オンディーヌの方が詳しい。
それに、ウイングロードもオンディーヌが大好きらしい。
「準備が完了しました」
「うん、ありがと」
そして、俺たちは準備の完了したウイングロードに乗って空に飛びたったのだった。
天気も良く、風も少ない。
飛竜で移動するにはとても良い日だ。
飛竜の背には、先頭から、オンディーヌ、俺、リルの順番で乗っている。
「もっと、私にぎゅっとつかまるといい」
そうオンディーヌは言ってくれる。
「ジュジュがいるからな。いざというときは頼むよ」
俺は前でジュジュを抱っこしているのだ。
オンディーヌにしがみついたら、ジュジュが苦しかろう。
「うん。わかった」
そして、フェリルは地上を走って追いかけてくる。
ウイングロードを操るオンディーヌは、フェリルがついてきやすい進路を選んでいるようだ。
それに、ウイングロードも全速力で飛んではいない。
それでも、フェリルの足は相当速いと言えるだろう。
「じゅ~~」
「楽しいかい?」
「じゅ!」
ジュジュは初めての空が楽しいらしい。
目を輝かせて、背中のほんの小さな突起をピクピクさせていた。
「じゅ?」
「そうだな。俺も飛竜に乗るのは好きだよ」
上空の気温は低い。高速移動のせいで、向かい風も強い。
心地よい風というレベルでは無い。
それでも、高速で移動している感覚、地面や雲が後方に流れていく感覚は気持ちいい。
「リルさんは大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫ですわ。オンディーヌさまがスピードを控えめにしてくれているおかげでフェリルもしっかりついてきておりますわ」
リルは飛竜の背から、フェリルの様子をずっと見ているようだった。
「フェリルさんの疲労を考えて、ダンジョンの近くで一度休んだ方が良いかも知れませんね」
全力ではなくとも、飛竜の速度に地上を走ってついて行くのだ。
狼の精霊は持久力があると言われているが、限度がある。
フェリルも、ダンジョンに着く頃には疲労困憊になるだろう。
「そうですね。お待たせするかも知れませんが、よろしくお願いいたしますわ」
だが、手綱を握ったまま、オンディーヌが言う。
「その必要は無い」
「どうして?」
「私がフェリルに魔力を与える」
「それで疲れがとれるのか?」
「とれる。精霊の本質は精神的なもの。端的に言えば魔力」
「なるほど」
生命力や体力の類も、精霊にとっては本質では無いということかもしれない。
「ありがとうございます。オンディーヌさま」
「気にしないでいい」
オンディーヌは前を見たままそう言った。
出発から一時間半ほどたったとき、
「そろそろ降りる」
オンディーヌがそう言って、ウイングロードが下降を始める。
スムーズに地面に着陸する。
そして、すぐにフェリルも追いついた。




