ペンダント
あるところに 一人の女が泣いていました
聞けば 夫と死別し 女手一つで
二人の愛し子を育ててきたそうです
しかし それもつい先日までのこと
子が大きくなるにつれ
入る金より 出る金の方が増えてゆき
仕事を増やすにつれ 我が子との時間は
寂しさに泣きつかれて眠る顔を
眺めるばかりとなりました
せめて学校にでも歩かせれば
友達も増やせるものを
明日の食う金も無いのに
学ぶ金など夢にも出ません
笑いあうことも叶わぬ子らを
手元に置くぐらいならと
つい先日 せめて寝食のできるようにと
孤児院の門を叩いてきたそうで
唯一与えれたペンダントを片手に
裾にすがる我が子を叩いて
自分に未練を持たせてはならぬと叱り
自身を恨ませながら逃げてきた彼女を
どうして責められましょうか
しかし女は その不甲斐なさを呪い
今より酷く働きました
足らずとも三人を食わせた金は
独りでは余るもので 誰も帰らぬ家には
塵がいつか山になるように
10年余りの年月で一家を養う金がなりました
しかし女は それに手をつけることはありません
全ては我が子へ償う金と心に決めておりましたから
さて ある日のこと 女が疲れ床に向かう時
窓の外に影がありました
この時分に動くのは 夜警か盗人か
それとも悪鬼の類いでしょうか
見れば二人の男のようです
男らは 家主が寝付くのを確かめているようでした
やがてそれを見届けると 男らは家へと入りました
二人の男は馴れたように 家の中を歩き
棚や置物を一つ一つ 眺めてまわります
やがて 二人はそれぞれクローゼットと
一つしかない写真立ての前に足を止めました
そして片方の男が写真を手にしたとき
その脇腹にナイフが刺さりました
目覚めた女が刺したのです
写真には日付が クローゼットには
それを鍵とした金庫がありました
我が子の為に集めた金は 何があろうと
守らねばなりませんでした
異変に気づいたクローゼットの男は
慌てて女に掴みかかります
女は金切り声をあげ抵抗しました そして
数分の揉み合いののち 窓が割れて
乾いた音が響きました
騒ぎを聞いた警官が 男の近くを射ったのです
慌てて逃げる男でしたが その腹にも血が滲みました
逃がすまいと射ったものが当たったようです
警官は女を連れ出し 息絶えようとする男らから
金目の物を取り返しました
古びた 二つのペンダントを 取り返しました
あるところに 独りの女が哭いていました
聞けば 夫と死別し 女手一つで
二人の愛し子を育ててきたそうです
しかし それもつい先日までのこと
もう誰も帰らぬ家の前に
女はいつまでも哭いていました
二つのペンダントを手に いつまでも哭いていました