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星と雪とヨゾラ  作者: 86星
1/6

ウルフムーン前編

登場人物

星野翔太 ほしのしょうた

雪翔子  ゆきしょうこ

雪春   ゆきはる

アルク  アルク

海堂夏希 かいどうなつき

Chapter???

目の前には小さな鳥居がある

周りを見ると花がたくさん咲いている

空を見ると雪が降っている

不思議な場所それが最初の感想だった

小さな鳥居を見てみる

それには見覚えがあった

たしか病院の屋上にあったものと同じだ


Chapter0「星と雪の約束」

今でも夢なのではないか?そう思ってしまう

だけど僕達は生きている

それだけは事実だ

けれど僕には心臓が無い

そんな僕がこうして高校に入りそして天文部を作り普通ではあり得ない様な事を解決しているのは…やはり必然なのだろうか?


Chapter1「僕」

僕、翔太の生活は病院の中だ

それは何故か?とても簡単な事。病気だからだそれも心臓の病気

医師からは移植しなければ20歳まで生きられないそれは産まれた時から言われていた事…だから14歳の僕が入院しているのは当たり前の事なのだ。昔と比べれば医療が発展してるとはいえドナーは見つからないものなのだ。そんな事を思いながら僕は大好きな読書をする。僕は藍読でジャンル問わず読む恋愛ものやミステリーやライトノベル、僕と言う人間は本で出来ていると言ってもいいそれぐらい本が好きなのだ。病院は僕にとっては素晴らしい場所とも言えるだって1日中読書ができるし何もせずとも食事が出る(味は薄い)それにこの病院は驚く事に動物がたくさんいるのだ。フラミンゴ・リクガメ・エミュー・カメレオン・アルマジロ・ガー・タイマイ・ウーパールーパー・デグー・マーラこの病院では普通の光景…だが他の病院では珍しい光景らしい。そんな光景を前に読書をする。点滴が少し邪魔だがこればかりは仕方がない

そんな動物の鳴き声を歌に読書をするこれが僕の生活だ


Chapter2「私」

私、翔子の生活は病院の中だ

それは何故か?とても簡単な事。病気だからだそれも心臓の病気

医師からは移植しなければ20歳まで生きられないそれは産まれた時から言われていた事…だから14歳の私が入院しているのは当たり前の事なのだ。昔と比べれば医療が発展してるとはいえドナーは見つからないもの。そんな事を思いながら病院の階段を登る

時刻は深夜1時になろうとしている階段を上り切り屋上の鍵を外す…廊下に置いてあった荷物を両手に肩で扉をあける屋上に出てそして空を見上げる。そこには綺麗な星達が並んでいる私は星が大好きなのだ。私と言う人間は星で出来ていると言ってもいい。この病院は私にとっては素晴らしい場所とも言えるだって他の建物より高く見渡しがいい。そのおかげで他の場所よりも星がよく見える

私は手に持っていた荷物をあける。中身は天体望遠鏡だ重さは8キロあり口径130ミリ反射式鏡筒かなり太い天体望遠鏡だ重いので屋上の廊下に置いている。これから天体観測をするその為に天体望遠鏡を組み立て始める。左手の点滴が少し邪魔だがこればかりは仕方がない。これが私の生活


Chapter3「出会い」

僕の病室は個室で机には本が積まれている近くのナースステーションからは看護婦達の声が聞こえてくる。どんなに小声で話そうと夜の鎮まりかえった病院では聞こえてくるもの。どうやら今日あった出来事を話してるようだ

時刻は深夜1時になろうとしている。僕は読書に夢中で時間に気付かなかった

「もうこんな時間か…寝ないと」ベッドの明かりを消し目を瞑った。その時廊下から物音が聞こえたのだ最初は看護婦が巡回を始めたかとも思ったがどうやら違うみたいだった。誰かが階段から上ってくる音それに点滴スタンドを押す音…更にその足音は上へ上がっていく。点滴スタンドを持ち上げてる?僕は不思議に思った。そもそも点滴をしながら上の階にいくならエレベーターを使えばいいだがそれをしない…エレベーターはナースステーション側にあるエレベーターを使えば看護婦にバレる。つまりバレないようにする為にわざわざ階段を使っていると言う事になる。僕は気になりベッドから起き上がる。点滴スタンドを押しながら階段まで来る。階段はナースステーションとは反対側にある為看護婦にはバレない。だが仮に看護婦に出会ったとしても何も問題ない。飲み物を買いに行くと言えばいいし夜に廊下を散歩してる人だっているだが階段を上がった人は違うみたいだ。そもそもこの上には屋上しかない。それも施錠されている筈だ僕は気になり屋上へと向かった。

「点滴スタンドって重いな」僕はそう呟いた。病院の階段なんて滅多に使わない為かなり大変だった

屋上に着くと扉が少し開いていた僕はその扉をゆっくりと開いた

辺りは真っ暗で何も見えない…しかし屋上の真ん中に少し明かりが見えた。そこに人影が見えその人影がこちらを向いた

「誰?」と声がした女性の声だ僕は硬直した。いきなり声をかけられビックリしたのだ…なんとか声を出そうとして

「あっ…いや」声がでない!どうしよう!と思っていたら女の人が近づいて来た。僕に明かりを向けてきて

「良かったです…見つかったと思いました」そう言ってきた。よく見れば僕と同い年くらいの女の子だった。ピンク色のパジャマに髪は肩まで顔は整っていて可愛いと僕は思った


Chapter4「天体観測」

私は看護婦さんに見つかったのかと思い明かりを向けてみました。そこにいたのは私と同い年くらいの男の子。ジャージ姿で髪は少し長く顔は整っていて、私は可愛いと思いました

「良かったです…見つかったのかと思いました」私は少し安心し男の子に話しかけてみました

「屋上にはなにをしにきたんですか?」私はそう言ってみました

「音がしたので」そう男の子が言ってきました

「もしかして起こしちゃいましたか?ごめんなさい…」やはり点滴をしながら来たのが間違いだったようです…しかし今日の空は雲一つない天体観測びよりなのです!

「いや起きてたから…」どうやら男の子は恥ずかしがり屋さんらしいみたい。顔を赤くしてます

「そうですか?」

私は少し考えこう提案しました

「一緒に見ませんか?」

「何を?」

「星です!」

「星?」

「はい!星です!見ましょう!」私は男の子の手を引っ張り天体望遠鏡の前までやってきた。

「ちょ…ちょっとまっ!」男の子が慌てて言いますがお構いなしです

「ここのレンズを除いてみて下さい!」

「ここ覗くの?」男の子がレンズを覗きますそして…

「あっ!」驚くのも無理ありませんそこに写っているのは春の大三角形うしかい座・おとめ座・しし座です

「凄い…」男の子がそう呟きます。私は嬉しくなり解説を始めます

「今見えているのはうしかい座・おとめ座・しし座の春の大三角形です!またの名をアルクトゥールス・スピカ・デネボラと言います」

「えっ…なんて?」男の子は驚いた顔をして私をみています。それも当たり前です。見ず知らずの人にいきなり星を見せられわからない星の解説を始められたらそんな顔にもなります

「ごめんなさい!嬉しくてつい…」私は顔が熱くなりました。きっと真っ赤です…

「嬉しい…?ぷっ…はっはっはっは」男の子は笑いました笑われてしまいました…

「ご…ごめん!笑って…でも」

「でも?」

「星が好きって事は伝わった…かな」男の子はそんな事を言ってきました。私も嬉しくなり自然と笑顔になります

「私は雪翔子、貴方は?」

「僕は…星野翔太」

「偶然ですね!名前一文字違い」

「そうだね」

そこからは早かったです。仲良くなるまであっという間でした。私は星の話をして星野くんはそれを真面目に聞いてくれます。星野くんは本が好きな様で本の話をしてくれます。私も本は好きなので好きな本のタイトルを言ったりします。元々病院には娯楽が少ないので本は大切な娯楽です(入院経験者はわかる筈)

どうして屋上の鍵を開けられたの?と星野くんに言われたので私は答えました。係の人に頼んでこっそり貸してもらってるんですよっと

そして星野くんと出会って2週間が経ちました。今日も天体観測です。私達はこっそりと屋上に向かい(今日は点滴スタンド無し!)天体望遠鏡をお月様に向けました

「満月だ」

「そうです!今日はお月様を観測したいと思います」

「いいね!そう言えば月は観測した事無かったね」

「せっかくなのでお月様は満月が良いと思いましてとっておきました」私がそう言うと星野くんは喜びます

「満月の方が綺麗だからね。今日はどんな話が聞けるのか楽しみだよ」

「それではレンズを覗いて下さい!月が凸凹になってる部分がありますよね?それはクレーターといいます。クレーターは月に小惑星や彗星が衝突して出来たとされています」

「へぇ〜月はどれくらいの大きさなの?」

「直径3.474.3キロメートルとされています。因みに太陽が1.392.000キロメートルですよ、月が光っている見えるのは太陽の光を反射してるからなのです。つまり月と太陽は繋がってると言っても過言じゃありません」

「太陽が1番大きいのは知ってるけど他の星はどれぐらいのおおきさなの?」星野くんはレンズから離れ私を見ます

「大きい順からいいますね」

木星・69.911キロメートル


土星・58.232キロメートル


天王星・25.362キロメートル


海王星・24.622キロメートル


地球・6.371キロメートル


金星・6.052キロメートル


火星・3.390キロメートル


水星・2.440キロメートル


「こんな感じです」

「???聞いておいてアレだけど…わからない」

「何度でも説明しますよ」

「う…うん!」少し引かれてしまいましたがお構いなしです。私は夜が明けるまで説明し続けました


Chapter5「梅雨と家族」

雪と出会って早い事で2ヶ月が経った、季節は春から梅雨になり天体観測が出来ない日々が続いた。僕はいつもの検査を終え自分の病室に戻ったらそこに雪がいた

「お帰りなさい」

「ただいま、いつからここに?」

「5分前ぐらいですよ。検査が終わって暇でしたので来てみました」雪が僕の病室に来たのは初めてだったので少し恥ずかしかった(顔赤くなってないよね?)

「心臓どうだった?」僕は平然を装い聞いてみた

「いつも通りでしたよ、星野くんは心臓どうでしたか?」

「いつも通りだよ」

「そうですか」少し沈黙の時間ができる。いつも話題を振ってくれる雪だが今日は少し違うきがする。顔が少し赤い?

「大丈夫?顔赤いけど熱とかあるの?」

「だ、大丈夫ですよ」雪は少し焦った様に言う。僕は心配になり雪に近いた…そして左手を雪のおでこに当てた

「熱は…無いみたいだね。よかったよ」

「えっ!」雪は目をパチクリさせ更に顔を赤くさせたそしてそのまましばらく時間が経つ

「どうしたの?」

「い…いえ!なんでもありません!それにしても暑いですね」

「?まぁ梅雨だからね。でもエアコンかかって快適だと僕は思うけど…温度下げようか?」

「大丈夫です!そ、それより動物エリアに行きましょう」

「いいけど…」僕はよくわからないまま動物エリアに足を運んだのだ。(あれ?僕とんでもない事した?)そんな事を思った

動物エリアのソファーに腰をかける。手には途中で買った飲みものがある、僕はコーヒー雪は紅茶だ

「今日もアルマジロさん元気ですね」

「そうだね、君は動物好きなの?」

「はい大好きです。特にアルマジロさんはまん丸になると更に可愛くて触りたくなります」

「僕はあそこにいるクラゲが好きだな、なんかずっと見てられるよ」

「ふわふわ浮いているみたいで可愛いですよね、触ります?」

「触らないよ…」

「冗談です」雪はニコニコしながらそう言った。雪はいつも笑顔だ、僕はコーヒーで口を湿らせ

「君は動物に例えるとハムスターみたいだね」

「私がハムスターですか?」

「いつも元気でちょこちょこしてるイメージ」

「そうですか?私そんな落ち着きないですか?」

「落ち着きがないのといつも笑顔」

「そう言う星野くんもハムスターみたいですよ」

「僕が?」意外な事を言われた

「はい!小ちゃい所とか可愛い所とか」

「小ちゃいのは…仕方ないよこれから成長期なんだからね」あとさりげなく可愛いって言われた…男としては少し複雑だけど嬉しい

「あと…」雪がそこで言葉を止めた

「あと?」

「いえ何でもありません」

「そう」僕には雪が何を言おうとしていたか大体わかる。(あと寿命が短いところとか…)

暫く会話はなく動物達の鳴く声だけが聞こえる

そうしていると12時を告げる鐘が鳴る

「あっもうお昼ですね」

「もう1時間ぐらい経ったのか」そんなやりとりをしていると

「翔子」そう呼ぶ声が聞こえた。僕と雪が声のした方をみるとそこには若い女性がこちらに向かって来ていた

「お母さん」

「君のお母さん?」

「そう言えば星野くんは初めて会うよね」

「お母さんこちら同い年の星野くん」

「初めまして星野翔太です」

「あら、ご丁寧にどうも私はこの子の母親の雪春と言います」

雪の母親は雪春さんと言うのか

「娘がいつもお世話になってます」

「いえこちらこそ雪さんにはいつもお世話になってます…」

「あら礼儀正しい子じゃない翔子にもボーイフレンドができたのね」

「お母さん!」そんな事を言われて僕は目を背けた。(恥ずかしいよ…)

「もうお昼だから部屋に戻りましょうか?」

「わかった、星野くんまたね」雪は手うちわをしながら自分の病室に帰って行った

「お母さんか…」僕は呟いた

僕には家族がいない

僕が幼い頃に事故で亡くなった。だから家族がどう言うものかよくわからない

でも雪と雪の母親の光景をみてやはり羨ましいと思った

それから数日後

今日も雨だ。僕と雪は動物エリアにいた

「今日も雨で星見れませんね…」雪は少し残念そうだ

「仕方ないよ梅雨だからね」

「梅雨は嫌いです」

「君から嫌いって言葉が出るなんて意外だ」

「私にだって好き嫌いありますよ?」

「なんて言うか…嫌いなものが少なそうって意味だよ」

「う〜ん確かに好きなものの方が多いですね」

「それは少し羨ましいよ、僕は嫌いなものの方が多いからね」

「例えば?」

「例えば野菜全般は嫌いだね」

「大きくなれませんよ?」痛いところを突かれた

「あとは家族とか…」

「家族?お父さんお母さんが嫌いなのですか?」

「うん大嫌いだね」

「何かあったのですか?」雪は心配そうに俯いた僕の顔を覗き込んできた。僕はしまった!と思いすぐに言い訳した

「特に大した事ないよ、ただ少し喧嘩しただけ」

「そうですか…それはとても悲しいです…」

「なんで君が悲しむの?」

「だって家族は仲良しじゃないといけないんです。だって家族なんですから」

「そう…だね…今度会ったら謝るよ」僕は嘘を付いた。もう会えない人にどうやって謝るのか?そもそも喧嘩なんてしてない僕が一方的に嫌いなだけだ…だって…僕を置いていってしまったのだから…でも僕は雪を悲しませないと必死に取り繕い嘘を付いた



Chapter???

目の前に小さな鳥居がある

更に奥には小さなお社がある

あのお社見覚えがある

そうだ病院の屋上にあったものだ

どうしてこんな所にあるんだろう?

雪は未だ降り続いている


Chapter6「夏の大三角形」

あれから1ヶ月が経ちました7月7日

今日は七夕です!七夕と言えば天の川です!私は気合を入れます

梅雨が明け今年の夏に入り初めての天体観測

天気予報では今日1日雲1つない晴れ、笹に飾った短冊が叶ったのでしょうか?(晴れますようにと書きました)とにかく今日の私はテンション上がりまくりです!私はいつもの検査を終え病室に帰ってきます。そして真っ先に星野くんの病室に向かいます

「失礼します」私は扉をノックし室内にはいります

「今日は早いね」星野くんが読んでいた本を中断してこちらに向きます

「だって今日は七夕ですよ?七夕」

「それがどうかしたの?」

「七夕と言えば天の川天の川と言えば観測!そう天体観測です!」私は興奮気味に言います。多分引かれてますね、わかってますよ、わかっていても抑えられないのです

「七夕は星を観測する日なのです!」

「君は勘違いしているよ、七夕行事の由来は中国から伝わり奈良時代に広まった牽牛星と織女星の伝説と手芸や芸能の上達を祈願する中国の行事が合わさって日本固有の行事だよ」詳しいな〜と思って星野くんが読んでる本に目を向けます。その本に七夕と言う字が書かれてました、どうやら今知った言葉を得意げに語ってるだけなようです

私が本を眺めているとその視線に気付いたのか本を片付けて咳払いをしました

「で、でも久々の天体観測だからねテンション上がるのもわかるよ」

「そうですよね、同じ気持ちで良かったです!それでは早速行きましょう」

「行くってまだ昼前だよ」

「場所取りや望遠鏡の整備は大事です」

「屋上には僕達以外に来ないし望遠鏡も昨日確認してたよね?」星野くんの手を引っ張り無理矢理屋上まで行きます。何を言っても今日の私は止められないのです!ですが屋上に着き後悔しました…

「暑い…」

「暑いですね…」少し考えればわかる事でした…ずっと病院で暮らしてる私達は暑さや寒さの耐性がないのです、それは何故か?病院はいつも快適な温度だからです!

ここは一時退却です。私達はいつもの動物エリアに行きました、私の手には缶の紅茶、星野くんの手には甘い缶コーヒー

私は紅茶を一口飲み

「少し反省です…ごめんなさい」と星野くんに謝りました

「気にする事ないよ。夜には涼しくなってるだろうし君をそこまで動かす夏の星達、楽しみになったよ」(星野くんは優しいなぁ〜)

そんな事を思っていると

「君が星の事になると暴走するのは今に始まった事じゃないからね」

「確かに自覚はありますが…そこまで言わなくても」私は頬を膨らませて抗議します

「ごめん、でもそれはいい事なんじゃないかな?それぐらい星が好きって事だし僕はそんな君を尊敬するよ」それが私の初恋の始まりだった

昼食には七夕らしく煮麺がでました。それを食べ終わり星野くんの病室で本を読みます、星野くんが読んでるのは七夕関連の本、私が読んでるのは推理小説です(星の本じゃないの?と思った方は挙手!)物語も佳境に入った所で星野くんは本を閉じます。どうやら読み終わったみたいです

「読み終わったのですか?」

「うん、中々興味深い話だったよ。」

「私ももう少しで読み終わるので待っていて下さい」

「わかった」それから1時間ぐらい経ったでしょうか?私は小説を読み終わり本を閉じます。そして、物語に浸ります。今回の作品は良かったなぁ〜そんな事を思いながら思い返します

「すぅーすぅー」と寝息が聞こえたのでそちらの方を向くと星野くんは寝ていました。私はそんな彼を見ながら(可愛い寝顔)と思いました。彼の隣まで来たら私まで眠くなってきました、目蓋が重くなりウトウトとします。そして彼の隣で眠ってしまいました

起きたのは午後6時30分夕食の時間です。扉がノックされ看護婦さんが夕食を持って来ました、看護婦さんがあらあらと言い夕食をテーブルに置くとそのまま出て行きました。私は不思議に思い起き上がります

「おそよう」突然隣から声をかけられます、隣を見ると彼がいました。私の意識が一気に覚醒します

「!!!ほっ星野くんなんでここにいるの!?」

「ここは僕の病室で君がここで寝てたからだよ」そうでした…心臓さバクバクです。これで死んだら笑い者です、私は呼吸を整え

「どうして起こしてくれなかったのですか?」

「あれだけ気持ち良さそうに寝てたらおこせないよ、それに…う、ううんなんでもない」星野くんは顔を背けます

「そ、それより早くご飯食べよう、この後は夏の星を教えてくれるんだよね?」

「も、勿論です!で、では私も自室に戻りますね。19時30分に屋上集合です」

「わかった」私達は夕食を食べる為別れます。そして夕食を食べ終わると屋上へ向かいます、いよいよこの時が来ました、屋上の鍵を開け天体望遠鏡を持ち屋上中央にやってきます。私の天体望遠鏡は8キロある為、星野くんも一緒に運んでくれます。昨日のうちに組み立てておいたので後は観測する星を見つけるだけです

「さて問題です!天の川はど〜れだ?」私はクイズ方式で彼に星を探させます

「僕だって無駄に七夕の本を読んでた訳じゃないよ?東の空…あれが天の川銀河だね、それで上で強く光ってるのはベガ、左で強く光っているのはデネブ、右で強く光っているのはアルタイルだよね?でもまだはっきり見えないね。早く来すぎたかな」夏は日が長いのでまだ夕日が微かに見えます。つまり今は、黄昏時、微かな星と微かな夕日そして目の前を流れる江戸川…そんな絶景の場所に私達はいます。そんな時でした、私達の目の前に鳥居があるのに気が付いたのは…

「星野くん、鳥居がありますよ?」

「鳥居?そんなのある訳…本当だ…」

「前は無かったですよね?

「無かったね、て言うかさっきまであった?」

「きっと薄暗くて気づかなかったのでしょう、それに今日は七夕ですから誰かが設置したのかもしれませんね」

「ああ…確かにその可能性はあるね」私達はしばらく鳥居を眺めていました鳥居の奥には何もなくただ柵とその先に江戸川と土手が見えるだけです、そして黄昏時が終わり…辺りが暗くなります。それと同時に鳥居が消えたのです!

「鳥居消えちゃいましたね…」

「消えたね…」ここは病院です、病院の隣にはお墓もあります。そんなホラーな場所で不思議な事が起こればこれはもう…

「ほ、ほ…星野くん!霊障ですよ!」私はミステリーや推理もの大好きなのです!つまりテンション上がります!

「君は何でテンション上がってるのかな…?普通は驚くでしょ?」

「そう言う星野くんこそ冷静ですね?もしかして私と同じ仲間ですか!?」

「嫌いではないけど君程じゃないよ…ただ病院暮らしが長いとこれぐらいで驚かなくなるだけ、それより観測を始めよう」

「確かにそうですけど…わかりました」この時何故星野くんが鳥居から話を背けたのか今の私は知る由もありませんでした

「今回は天の川銀河の観測なので25mmの接眼レンズを使います。位置は…このぐらいでしょうか、覗いてみて下さい、ベガはこと座・デネブははくちょう座・アルタイルはわし座です」

「とても綺麗だよ、本にもそんな事かいてあったね」星野くんがレンズを覗きながらいいます、ですがその顔は別の事を考えている様でした


Chapter7「予兆」

夏の大三角形を見終わった僕は院長室へと向かう、屋上で見た鳥居の事を話す為

昔院長から聞いた話が本当なら…僕か雪どちらかが近いうちに「死ぬ」


Chapter8「母親」

私がもっと丈夫に産んであげられたら…

何度そう思った事だろう、雪春は今日も家で1人涙を流す。娘の翔子にいつ「その時」が来るかわからない不安…また大切な人を亡くしてしまうかもしれない不安…1人になるといつも思い出してしまう、私の愛した人が心臓病で亡くなった時の事を…あれは娘を授かってすぐの事、私の愛する人は突然この世を去ったのだ…いつもと変わらない朝、幸せな朝だった「いってらっしゃい」「いってきます」何気ない会話、それが最後に交わした言葉だった…愛する人が心臓病だった事は知らなかった、だから医師に告げられた時はショックだったしこの病気に遺伝性がある事も知らされた。私は祈った、どうか神様お願いします。この子だけは何があっても幸せに丈夫な体で生きさせてあげて下さい…と

だが世の中はそんなに甘くない、私の願いは無残にも打ち砕かれた。私は絶望した…恨んだ、この世界を何より丈夫に産んであげられなかった自分自身を…そして今日も泣く、この家で…次あの子に会った時に笑顔でいる為に…だから今だけは…泣かせて下さい…


8月の第一金曜日

私はいつもどおり翔子のお見舞いに来ていた。最近のあの子は楽しそうだ、おそらく新しいお友達ができたからでしょう、名前は確か星野翔太だったかしら?私は彼を探していました、お礼を言う為です。それからもう一つ…ナースステーションで話を聞くと彼はよく動物エリアにいるとの事でした。私は動物エリアに足を向けます。目的の人物はソファーに座りながら本を読んでいました

「こんにちは」彼は本から目を離しこちらを向きます

「こんにちは、確か雪のお母さん…でしたよね?」

「はい、翔子の母親の春と申します」

「それはご丁寧にどうも、僕は星野翔太です」前に自己紹介しましたがもう一度します

「今日は貴方に会いに来たの」

「僕にですか?」

「日頃、翔子がお世話になっているみたいだからお礼をと思って」

「そんな…お世話になっているのは僕の方ですよ」

「いいえ、そんな事ないわ、最近のあの子は貴方の話ばかりするの」

「そ、それは…少し照れますね」私はここぞとばかりに本題を切り出します

「貴方も…翔子と同じ病気なのよね?」

「…はい、それがどうかしましたか?」私はその冷静さに少し驚きます…

「あの子に聞いたの…怖くないの?あの子と同じ病気なら貴方は…」

「長くは生きられませんね、でも怖くはありません。と言うよりよくわかりません…長く生きられない、それが物心ついた時から言われていた事ですから」その言葉はまるで未来を諦めている…

「僕には両親もいません、事故で死んだとそう言われています。だから雪が羨ましいです、貴方の様な母親がいるから…もし僕にも親や大切な人がいたら死にたくない、怖いと思ったのかもしれません」彼はそう言い本の表紙を指でなぞります

「すみません…答えになったでしょうか?」

「ええ…充分答えになったわ」私はきっと翔子に聞けない事を彼に聞いているのでしょう、あの子の本当の気持ちがわからないから…あの子は私の前でいつも笑顔だから…

「僕は思うんです、雪は生きるべきだと…だってこんなにも貴方に愛されているから、だからきっとドナー見つかりますよ」そんな言葉に私は…

「ありがとう…あり…がとう…」涙を流してしまいます。私は母親として認めてもらえた気がして…何より諦めていたのは私かもしれない…だから毎晩泣いて、泣いて逃げていたんだ。そう気付かされました。翔子と同い年の子にそれを気付かされるなんてみっともない話、当の本人は何かいけない事を言ったのかと

「す、すみません、すみません」と謝っています。違うの…この涙は前に進むのに必要な涙…貴方のおかげで流してる感謝の涙、でも私はそれを声に出して伝える事ができないぐらいに涙を流しています。そこにあの子の声がしました

「お母さん?」翔子が私を心配して駆けつけます。

「お母さん?どうして泣いているの?」何で翔子がここに…そうか彼に会いに来たのか、翔子にもみっともない姿見られちゃったなぁ…でも言わなければいけない事がある。私は思っている事を告げました

「翔子、愛しているわ…ずっとずっと」

「お、お母さん!?は、恥ずかしいよ…」私は翔子を抱きしめます。もう諦めない、必ず助けてみせる!翔子を…そしてそれを教えてくれた星野くんを

それから私と翔子は病室に戻り面会終了時間まで話ました。私がどれだけ翔子を愛しているか、翔子が私をどれだけ愛していてくれてるか、そんな…当たり前の話をしました


Chapter9「花火大会」

翌日の土曜日

今日は江戸川の花火大会、土手にはたくさんの人が場所取りをしている。そんな様子を共用スペースの窓から見て僕は昨日の事を思いだす、雪のお母さん…あれが母親の姿なんだ、とても羨ましくて眩しくて僕には無いもの…そんな事を思っていると後ろから

「ほーしーのーくん!」と思いっきり抱きつかれた…声の正体は振り向かなくてもわかる。(恥ずかしいから辞めてー)

「ゆ、雪…今日は機嫌いいね…」こちらが引くほどに…

「えへへ!昨日はお母さんとたくさんお話しできましたから」

「それはよかったね」

「最初は星野くんがお母さんを泣かせたのかと思いました、びっくりです」多分当たり…僕何か悪い事言ったかな…?

「ま、まぁ僕もびっくりしたけど…君と君のお母さん、仲良くて羨ましいよ」

「そ、そんな事ないですよ!ほ、星野くんはお母さんと仲直りしたのですか?」そうか…まだ知らないのか

「してない」

「私が協力してあげましょうか?」

「そうだね…そのうち頼むかもしれない」

「はい!約束ですよ」約束か…

「それで今日の花火大会…」僕が花火大会はどうするのか?言い終わる前に雪は

「勿論、屋上でみます」今日の雪もテンション高いな…まぁとてもいい事だけど…後

「そ、そろそろ離してくれないかな?流石に暑くなってきたよ」まだ抱かれたままだった…

「ごめんなさ〜いです」悪びれるでもなく雪は抱くのを辞める。僕も雪もお互いに遠慮が無くなってきた、それが良い事なのか悪い事なのかわからないが…

「今何時?」

「もう7時ですよ、後15分で花火始まります」病院にいると時間感覚と言うものが無くなる

「行きましょう!」

「そんな引っ張らなくても…」僕は雪に右手首を掴まれ屋上まで連れて行かされる。途中ですれ違う入院患者や看護婦なんかは微笑ましいものを見るかの様に暖かな眼差しを向けてくる(だから恥ずかしいよ〜)

屋上に着き僕達は途中で買った、冷えた甘いコーヒーと紅茶を飲む。そして鳥居が現れた場所を見る、昔院長先生と話した日の事を思い出す、「屋上に現れる鳥居を見たら見た人は3ヶ月以内に死ぬ」院長先生に言われた時は子供を屋上に行かせない為の嘘だと思ったが実際に見て驚いた…だから僕は鳥居を見てしまった事を院長先生に伝えに行った。そして言い渡された言葉は意外なものだった

「あれは子供が屋上に行かない様についた嘘だ」…と僕の考え通りであっていたが実際に実物を見たのだ、嘘の訳がない…だが長い付き合いだからわかってしまう。院長先生は本当の事を言っている…では僕達が見た鳥居はなんだ?冷静に考えてみる。見間違いか?いや違う雪も見ているんだ、2人して見間違いたのはあり得ない。なら嘘が本当になった…?確か本で読んだ事がある。確か内容は、友達と怪談話しをしていて主人公が嘘の怪談を話した。そして翌日友達が確かめに行くと話した通りになっていたと言う話しだ。だがそれはフィクションの話しで本当にあった話しではない、ならもう一度確かめればいい、この1ヶ月近く僕と雪は天体観測で屋上に行く度にもう一度鳥居が現れないか試したのだ。だが結果は失敗…あれ以降鳥居は現れなかった、そんな事を考えていると

「あれから鳥居現れませんね、やはり幽霊の仕業です!」などと言ってきた

「いや…やっぱり見間違いだったんだよ」

「でも確かに見ました!ここは屋上です、鳥居に見間違うものなんて周りにありません!」雪の言う通りだ…なにか条件があるのか?

「あの日、七夕以外に何かあったかな?」雪は人差し指を下唇に当て考える

「う〜ん他には特にないですね…やっぱり彦星様と織姫様が見せた奇跡か霊障ですね」

「君はすぐに霊障にしたがる…それだったら僕は前者の方がいいね」

「おっ!星野くん意外にロマンチストですね?」雪は嬉しそうに言う

「まぁ…否定はしないかな。本ばかり読んでるとロマンチストにもなるよ」

「星野くんやっぱり可愛いですね!」男に可愛いは…あまり嬉しくないなー

そんな会話をしていると黄昏時に入った

「そうだ…時間…」

「時間ですか?」

「確か黄昏時だったよね?」

「はい、あれは綺麗でしたよね、丁度今みたいな感じで…」雪はそこで言葉を止めます。僕が不思議に思っていると…

「星野くん!見て下さい!」雪は目の前を指差した。僕は雪が指差した方向を見る。するとそこにはあの時と同じ鳥居があった…いや正確には現れたが正しい。僕達はその鳥居に吸い込まれる様に足を運んだ…


Chapter10「鳥居とお社」

鳥居を潜った瞬間眩しい光に包まれた

僕は眩しくて目を瞑った

その瞬間肌で感じた。空気が変わった…

さっきまで蒸し暑かった筈なのに肌寒くなった。僕は瞑っていた目を開いた…そこにあったもの…いや、正確にはそこにあった風景に驚いた、周りには花が咲いていた。さっきからやけに肌寒く感じた正体はこれか

花が咲いているのにも関わらず地面は雪で覆われているのだ。それに空を見ると雪が降っている…今は8月の第一土曜日…つまり真夏だ雪が降る筈ない

そんな不思議な事が起こっているにも関わらず僕は冷静だ、冷静過ぎて怖いくらいに…だから僕は一緒に鳥居を潜った雪を見た。さっきから僕の右袖を掴んでいるのだ、流石の雪も恐怖を隠せないのか右袖から震える感覚が伝わってくる。お忘れかもしれないが僕達は心臓が悪いのだ、驚いた拍子に突然死もあり得る。僕は雪の震えを抑えるため優しく手を握ろうとした、だが雪は…

「ほ、星野くん!星野くん!これはもしかしなくても異世界とか言うやつじゃないですか!?」凄く嬉しそうに興奮していた…心配して損した…だが心臓に悪いのは変わらないので僕は雪を落ち着かせる

「君は少しは落ち着いたら方がいいよ。それに異世界かどうかはまだわからない」そもそも異世界などは漫画やアニメの世界だけだ、現実で起こるなんて事あり得ない…そう否定したいが今の現状を表すなら正しい答えかもしれない。僕は改めて周りをみる

何処までも続く白い世界…よく咲いている花を見てみるとそれはユリの花だった…確か正式な花の名前はヒメサユリだっただろうか?白い雪に少し埋れて気付かなかったがピンクの花が見える。絶滅危惧種の花がこんなにたくさん?ますます現実味がなくなってきた。そして大事な事がもう一つ、目の前にはお社があるのだ。鳥居があるのだからお社があって当たり前か…そのお社がまた実に神聖な雰囲気を醸し出している。僕は持っていた缶コーヒーを一気に飲み干し後ろを見る

「鳥居がない…」僕の言葉に反応して雪も振り返る

「閉じ込められましたね!」そのテンションとセリフがあっていないよ…

このままここに立ち尽くすのも良くない、とにかく肌寒い、僕は雪の左手を握り視線で進もうと促す。流石の雪も寒いのか手が冷たかった。そして僕達は一歩また一歩とお社に近く、進む度に雪の音がザク、ザクと鳴る

道を外れるとヒメサユリがある為まっすぐしか進めない、お社まで20メートルと言ったところか…数十秒あれば着く、そんな距離だが僕はその道が長く感じた。この雰囲気のせいなのか本当はもっと遠いのか…自然と息が上がる。息が白い…やっとの思いでお社にたどり着くお社には屋根があり休めそうになっていた。僕達は屋根の下に入り丁度階段になっている部分に休憩する為座った、雪もそれにつられるように座った。握った手は離さない、隣に座った彼女の顔を盗み見る

長い睫毛に少し赤くなった頬、潤んだ瞳、最初に出会った時よりも長くなった髪、彼女がそっと頭を肩に当ててきた、密着しても嫌じゃない、僕はきっと彼女の事が好きなのだろう。彼女の体温が鼓動がとても心地良かった。ここはお社だだから神様…いるんだよね?どうかお願いです彼女の病気を治してあげて下さい…彼女には笑顔で幸せに生きて欲しい、僕のこの心臓を捧げます。だから彼女を助けてあげて下さい。それが僕の心からの願いだった


episode雪

私は星野くんの肩に頭を当てます

いつもの彼なら「君、少し重いんだけど…」とか言ってくる筈なのに今回は何も言ってきません、ようやく私の魅力に気付いたのでしょうか?そうだったら…そうだったら嬉しいです。彼の息遣いが聞こえてきます。彼の鼓動を感じます。彼の…温もりを感じます

私は彼に恋をしています。この場所で改めて実感しました、私は星野くんが好きなんだって、私は彼に助かって欲しい。だからお願いです神様…どうか彼の病気を治して下さい、私に出来る事なら何でもします。お願いです神様…

「それなら私が叶えてあげましょう」

私達はビックリして声のした方向、後ろを振り返ります。そこには白いワンピースを着た小さな女の子が立っていました


episode星野

さっきまで誰も居なかった筈だ、いや、居たが気付かなかったのか?今はどちらでもいい事か。この小さな女の子は何者か、重要なのはそこだ

「君は誰?」僕は冷静を装い問いただす

「私は君達で言うところの神様です!君達、私にお願いしましたよね?それを叶えてあげます。勿論対価は貰いますが」

「神様…ですか?」雪はこの子なに言ってるの?と言う反応だ

いきなり現れて自分を神様、とか名乗る子供が居たら僕でも唖然とするよ

「その顔は信用してませんね?それでしたら実際にお見せしましょう!先ずは貴方の願いはこちらの彼女がかかってる病を治して欲しいでしたよね?」

「星野くん!?」この子は神様ではなく悪魔なのでは?

「た、確かにそう願ったような…願ってないような…」僕は曖昧に返事をしておく、それより心を読まれた?

「それで貴方が彼のかかってる病を治して欲しいでしたよね?」

「〜〜〜」雪は顔を真っ赤にさせる。図星みたいだ、そうか…あの時僕達は同じ事を、お互いを助ける事を願ったのだ。僕はそれが嬉しかった。

「その病私が治してみせます」僕と雪は顔を見合わせる。はっきり言って信じてないからだ、だって女の子の見た目は小学生ぐらいで髪は黒髪ショート、何処にでも居る普通の子だ。そんな子が移植手術が必要な病気を治す?僕も雪も産まれてからずっとこの病に苦しめられてきたのだ

「信じられないよ」

「物は試し」そう言うと自称神様は僕と雪の胸に人差し指を当てる。5秒ぐらいだろうか?沈黙が続く…

「はい、治りましたよ。それでは現実世界ので確かめて下さい、それではまたお会いしましょう。」ちょっと待って…と言おうとしたが辺りが光で包まれる。そして…

ドーン!ドーン!と花火が鳴り響く

その音で僕は我に帰る。花火が盛大に上がったのだ。これは開始の打ち上げ…

「雪?」彼女が無事か確認する為右を見る。雪も僕の方を見ていた

「星野くん…私は夢でも見てたんでしょうか?」

「それは小さな女の子が神様とか言う…夢?」

「はい…星野くんも見たんですか?」

「見たよ。それに…」自分の右手を見る、雪の手を握っていた。体勢がお社に居た時と同じだ、僕は雪が左腕にしている腕時計で時刻を確認する。19時15分…体感だが30分以上はあの不思議場所にいた筈だ。それがほとんど変わってない?雪も僕の視線に気づいたのか時計を見る。しばらく見つめた後僕の方に向かって

「私達…不思議な体験したんですよね?これはもう…神隠しにあったしかありません!」

とか言ってきた。不思議な体験はしたが神隠しには言い過ぎだ。繋いだ手をブンブン振ってくる。痛い…

雪から手を解放され改めて考える…

鳥居にお社、自称神様の女の子、それに不思議な世界…謎が多過ぎる。この事を院長先生に話すか?その前に自称神様の言う事を信じるなら僕達の病気は…

僕は自分の胸に手を当てる。そこにはドクン、ドクンと脈打つ心臓がある。治ったかは自分ではわからない

明日の検査待ちか

「星野くん聞いてます?」

「ごめん花火の音で聞こえない」

「もぉ〜私達が如何に凄い体験をしたか説明してるのに…」雪のこの騒がしさは有り難い、僕を冷静にしてくれる、僕1人だったらパニックになって真っ先に院長先生にこの事を言っているだろう。それは駄目だ、あの時、院長先生は何も知らないと言った。あの鳥居の話も嘘だった。僕にとって院長先生は親代わりをしてくれる存在である、そんな人に迷惑はかけられない


それから花火はフィナーレを迎えた。一斉に打ち上がった花火はとても綺麗で僕達が現実世界に居る事を実感させてくれる

花火が終わり土手にいる人達が帰り支度を始める…

「星野くん、私嬉しかったです。星野くんが私の事を思ってくれて…ありがとうございます」雪は恥ずかしそうにお礼を言ってきた。だから僕も言わないといけない

「僕の方こそありがとう。君が僕の事を思ってくれて嬉しかったよ」僕達はお互いに見つめ合いそして徐々に近づいていく。これからする事はきっと不思議な出来事があったせい、花火大会のせい…目を瞑り後数センチ、後数ミリ…

ガタン!突然屋上の扉が開かれる

「貴方達もうすぐ消灯時間…あら?あらあらまぁまぁ…お邪魔しました〜」屋上を管理する看護婦さんが僕達を呼びに来たのだ、その音に僕と雪は慌てて離れる。看護婦さんは微笑ましいものを見たかのように温かな目を向け去って行った

思いっきり見られた〜!それに、しそびれた〜!僕は恥ずかしさのあまりに悶える。そっと雪をみる、雪も悶えていた、おそらく同じ事を考えてるに違いない…そう信じたい…

その後、会話もなく僕達はお互いの病室に帰ったのだった


Chapter11「願いの代償」

花火大会から一夜明け、今日の僕は売店にいた

朝食を終え食後の余韻を…と思い自販でいつもの甘いコーヒーを買おうとしたら売り切れだったので仕方なく売店まで足を運んだ

紙パックのコーヒー牛乳を小さなカゴに入れついでに雑誌コーナーを見てみる。テレビ番組表にファッション雑誌、僕には関係無いものばかりだ。漫画や小説にも目を向けるが今は足りている。病院の売店で売っている本はごく僅かで僕の興味を引く物は無い

そもそも本は院長先生に頼んで本屋か通販で買って来てもらっている。お金も両親が残した財産を院長先生が管理している

そろそろ会計するか…と思った時ふと紅茶が目に入った。そう言えば昨日の別れ際に雪が「明日は朝一に星野くんの部屋にいきますね!今日あった事色々整理したいので」とか言ってたっけ、紅茶も買っておくか

僕は紅茶をカゴに入れ会計を済ます

階段を使い自分の病室がある7階に着く、ナースステーションに軽く会釈し病室に戻る。まぁ予想はしていたが雪は既に来ていた。僕のベッドに座り

「おはようございます!星野くん」と笑顔で挨拶してくる。彼女の笑顔は武器だろう、その証拠に僕の机には飴やお煎餅などのお菓子がいっぱい置いてある

「おはよう、君はまた大量のお菓子を…相変わらず人気だね」雪はこの病院ではマスコットの様な存在、お年寄りには特に大人気なのだ。その笑顔でお年寄りからお菓子をもらう…一種の才能だろう、僕には真似できない

「皆さんいい人達ですよ?私の事を孫の様に接してくれます!」確かに入院患者の半数はお年寄りだ、僕達みたいな若い子はあまりいない、それも十代にもなると尚の事

「それにこのお菓子は私と星野くんに、ですよ?」

「何で僕にも?」

「最近、私達が一緒にいる所をたくさんの人に目撃されてます。つまり…その…」何を言いたいか大体わかった…

「カップルみたいに見られてる訳だね?」

雪は頬を赤らめながら

「そ、そう言う言葉です」と言ってきた。最近、他の患者や看護婦さん達にやたら挨拶されると思ったがそう言う事か…

昨日の屋上…花火が終わったあの時、看護婦さんが呼びに来なかったらどうなっていただろうか?本当にカップルになっていたのかな…?そんな事を考えている自分に恥ずかしくなり急いで取り繕う

「そ、そうだ、君の分も飲み物買ってきたんだ」雪に売店で買ってきた紙パックの紅茶を渡す

「ありがとうございます!」僕もベッドに座りコーヒー牛乳を開ける。右に雪が座っている。そろそろ本題に入るか

「それで昨日の事だけど君は信じる?」昨日会った自称神様を名乗る女の子、それに病気が治った事、あの場所の事…

「私は…私は信じたいです、そうしたらお母さんを安心させてあげられる…」実に雪らしい答えだと思った

「今日の検査でわかるんだよね」

「はい」雪は紅茶を開けストローで吸う

「いきなり僕達の病気が治ったら…皆んな驚くよね?どう説明しようか」

「そうですね…ありのまま話すのがいいと思います」ありのまま話す…か、神様に治してもらったと言うのか

「それは…信じてもらいそうにないね。でもそれしかないか、医院長先生なら信じてくれるかな?」いつにもなく弱気なのはわかっている、もしも…もしも生きる事を許されるのなら僕は何をしたいのだろうか?未来がないと言われた僕が未来を手に入れる。それがどれだけ嬉しく、どれだけ不安なことか…そんな事を考えてるのがバレたのか雪はそっと右手を握ってくれる

その手が温かくとても落ち着く、そのまま会話はない

そしてついにその時が来た

検査の時間だ、僕はベッドを立ち

「それじゃあ行ってくるよ」

「いってらっしゃい、星野くん」雪に見送られ僕は病室を後にする


僕は深呼吸し受付で名前を告げ順番を待つ、もしも治ってなかったら?笑い話にすればいいだけだ、だが治っていたら?…駄目だ、落ち着かないと、もう一度、深呼吸する

僕らしくないな、どの様な結果になるかもう薄々気付いている。その為に今朝、売店の帰りに「階段」を使ったのだから…

「星野さーん」どうやら僕の番が来たらしい。

「正直にか…担当の先生はどんな顔するだろうな」取り敢えずこれだけはわかる、今日の検査は長引きそうだな

異変は聴診器で心音を聴く時点で現れた、担当の医師が何度も何度も確認したのだ、そしてすぐにエコー検査の用意!と言い出した

それから何時間経っただろうか?今、僕達は院長室にいた

「信じられない…」医院長先生はそう呟く、僕と雪の心臓は全く異常が無い健康的な心臓になっていた。僕達は正直に言った。自称神様と名乗る人物に会って病気を治してもらったと、頭がおかしくなったのかと笑われる覚悟をしたが医院長先生が口にしたのは思いがけない言葉だった…

「君達は土地神様にあったのか…」と

そして教えてくれた、土地神様の正体を…


episode土地神様1

この病院が建つ前この場所は神社だった。その神社は昔、江戸川の守神とされていたらしい。しかし時代とともに忘れられ、この辺りには無かった病院が建てられる事になった

病院が建てられすぐに異変が起きた…重病の患者が次々と治っていくのだ、そしてその患者達が必ず口にする、神様に会ったと、そんな噂が広がり病室は満員が当たり前、どんな病気も治る病院として崇め奉られた。だがその背後では恐ろしい事が起きていた

神様に直してもらったと言う元患者達が次々と失踪又は死亡した。当時の警察は連続殺人として犯人を追ったが未だに犯人は捕まっていない、被害者の共通点はこの病院を奇跡的に退院している。そして、死ぬ前にこう口にしている…土地神様の……失敗したと…この事から神社を取り壊した祟りとして当時の人達は恐れたそうだ


episode土地神様1 end


医院長先生は過去に起きた全てを話してくれた

僕達は唖然とした…そんなオカルト話を信じろと?それに

「僕は産まれた時からこの病院に入院しているけどそんな話は聞いた事ないよ」

「この事件、最後の犠牲者が私の祖父、つまりこの病院の初代医院長だったんだ。祖父が最後に言ったんだ、俺が土地神様、最後の祟りにあう人間だ…だからもう怖がらなくていい…と」言っている意味がわからない…だが雪には伝わったみたいだ

「つまり医院長先生の祖父が祟りにあった最後の一人と言う事ですか?」

「……そうだ」医院長は長い沈黙の後、肯定した。だがなら何故、今になり土地神様は現れた?

「それはおかしくないかな?それだと何で僕達の前に土地神様は現れたの?」

「私も土地神様は信じて無い人間だったが…君達の話を聞いて変わった、土地神様は存在する。じゃなきゃ君達の心臓が一日で治るなんて…いや…それ以前に移植手術をしないで治る事何てあり得ないんだ!」いつも冷静な医院長先生が声を荒げた、それだけでこの出来事がどれだけ異常かがわかる

僕も雪も驚いて言葉が出ない、医院長先生は「すまない」と言うと

「噂通りなら何か…こう、試練なんかを与えられている筈だが何て言われた?」そう聞いてきた。僕と雪は顔を見合わせ考え始める…試練?そんな話は出ていなかった筈だ。だが…「対価はもらいますが」確かそんな事を言っていた。それに病気が治ったらまた会おうとも…雪も思い出したのか

「今日、なにか言い渡されるかもしれません」そう言った

「そうか…もし接触したら私の所に来るように、絶対にだ」

「わかりました」僕達は力強く頷いた

医院長室を後にし僕達は屋上に向かった、土地神様に会う為だ、今の話が本当か確かめなければならない、屋上に向かう階段に着くと…

「階段に鳥居がありますね、もうお呼ばれしてるみたいです…」時刻は十九時、黄昏時だ、場所は屋上じゃなくてもいいのか?

「人目につかなければいいってところかな?気まぐれな神様だね」

「星野は気まぐれな人は嫌いですか?」

「僕は一人しか好きになれない不器用な人間だからね」

「一途なんですね!それで…その好きな人は誰ですか…?」雪が上目遣いで聞いてくる。緊張をほぐす為の会話で余計に緊張しないといけないとは…自爆した…

「そ、その話は後にしよう、は、早く行かないと鳥居が無くなるかもしれない」取り敢えず最もらしい事をいい誤魔化しとく

僕は雪の左手を握り鳥居を潜る

その場所は前と変わらず雪が降り積もっていた。積もった雪に隠れる様にヒメサユリの花が左右に数え切れないほど咲いている

僕達はお社に向け歩き始める。やはり雪道は慣れないが何とかお社に着く、そこには待っていたかの様にあの女の子がいた

「待ちくたびれましたよ?それで結果はどうでしたか?」昨日はただの女の子に見えた彼女が今は不気味な存在に見える…

「結果は…治っていたよ。その事についてはお礼を言わせてもらう、ありがとう」僕は頭を下げた、雪も合わせて頭を下げた

「これで私が神様だと信じてくれました?」

「あなたは、土地神様ですか…?」雪は恐る恐る訪ねる、さてどんな反応が返ってくるか…

「昔はそんな名前で呼ばれてましたね〜懐かしいです」女の子は階段に座る。肯定した。この子が土地神様で間違いない…だから確認しなくてはならない事がある

「昔、大勢の人を殺したのは…事実?」

「殺したとは失礼ですね!私が殺した証拠がありまして?…と言いたいところですけ結果として殺したのと同じですね…」どこか悲しそうな表情、雪もそう感じたのか階段に座り優しく語りかけた

「どうしてそんな事になったか教えてくれますか?」女の子は頷くとぽつぽつと話し始めた


episode土地神様2


今からずっと昔の事

時代は千六百年にまで遡ります

私が産まれたのは江戸川が出来た頃です。民達が江戸川を守る神として鳥居とお社を作りました。言わば私のお家です。私の使命は江戸川区民を災害から守る事です。当時は知名度もあり有名な神様でかなりの力だってあったんですよ?参拝客が来て御供物をしてくれて、お祭りだって開かれました。ですが時代と共に私は忘れられていきました。ちょうどその時でした、この辺りに病院が建てられるお話が出たのは、私のお家…つまりお社はもう誰も来ない忘れられた場所、病院を建てるのには最適だったんです。初代医院長はここに目をつけ私の元に訪問してきました。「この場所に病院を作ってもよろしいでしょうか?」医院長はそう言ってきました。わざわざ私に許可を取りにきてくれる、とても優しくマナーのなってる人だから私は医院長の前に姿を現しこう言いました。「それで多くの人が助かるのなら是非お願いします」と…私はこんな見た目ですからね、最初は驚かれてました。それこそ私を近所の子供だと思っていたみたいです、失礼しちゃいます!まったくもぉう…でも話していくうちに信じてくれる様になりました。どんなお話をしたか?私しか知らない様なお話しました。この場所でどんなお祭りをしたかとか御供物は何が多かったとかそんなお話です。病院の屋上に代わりになる私のお社を建てると約束してくれました。それで昭和七年この病院が建ちました。約束どおり屋上に私のお社も建てられそこにお引越ししました。そして私は私の使命を果たすべく神様としての力、加護で次々と患者の病気を治します。それから何十年も経ち、初代医院長は亡くなり、また私は忘れられていきます。そして悲劇が起きました、私のお社に雷が落ちたのです。大きく破損してしまったお社…でもそれを治そうとする人は現れませんでした…当然ですよね、忘れられてしまったんだから…

病院の人達はお社を直さずあろうことか撤去してしまいました…お社を無くした私は少しずつ神様としての力を失います。それが何を意味するか?加護を受けた人達から加護はなくなり病気が再発、そして…ごめんなさい、この先は言いたくありません…

後は消え去るだけの私…お社が無くなってから何年経ったかも数えてません…そんなある日ある夫婦がこの屋上にやってきて言いました。「神様、どうかお願いです。お腹の中の子を救ってあげて下さい、そして成長を見守ってあげて下さい…」最初誰に言ったかわかりませんでした。ですがすぐに私に向かって言ったのだとわかります。だってその夫婦は私に向けて言っていたから…私が…見えていたんです!私は驚きそして訪ねました「私がみえているの?」そんな私の問いかけに「はい」と夫婦は答えました。ですが神様としての力を失った私にはもう誰かを救う事は出来ません、だから…「ごめんなさい。私はもうすぐ消えてしまうからそのお願いは叶えてあげられません」その時の気持ちは今でも覚えています…ですが夫婦は私にある指輪を渡してきました。「その指輪には小さいですが隕石がはめこまれています。だから大丈夫です、あなたを神様に戻してくれます」そんな夫婦に渡された指輪を手にします。その瞬間、驚く事に私は神様としての力を僅かに取り戻しました。その指輪にはお社と同じ力があったのです。私は初めて泣きました、忘れてた…人の温もりがこんなに温かい事を…

「私達、夫婦は元々、体が弱くもう先は長くありません…でもこの子だけは産んでみせます」そして思い出しました。私が神様として産まれた頃、そのお社の名前を、そのお社には私を奉る家族がいた事を…だから私は誓いました。必ずそのお腹の子を助けて見せると!


episode土地神様2 end


僕達は静かにその話を聞いていた

そして最初に言葉を発したのは雪だった

「辛かったね…」雪の頬を涙が伝う、僕は雪が泣いているんだと始めて気づいた。雪は女の子を抱きしめて泣いた。僕も階段に膝を着き雪と女の子の背中を優しく撫でる、そうすると女の子も泣き出した。だから僕も泣いた、次に言い渡されるだろう事実に…何分も何十分も…そんな時間が続いた


Chapter12「星野神社」

どれくらい経ったでしょうか?私達三人は涙が枯れるまで泣き続けました

落ち着きを取り戻した私達は今度は笑いました。星野くんが

「神様も泣くんだね」とか言うと女の子は怒り

「失礼ですね!神様だって泣きますし怒ります!」口を尖らせ怒る、そのしぐさは年相応だと思いました

「話が逸れましたがつまり祟りは、私が力を失った結果、そして二人を助けたのは…」

「僕の両親に頼まれたから…?」……え?

星野くんは何を言っているのでしょうか?

「…その通り」

「それでお世話になった神社って言うのが」

「星野神社、それが私を祀って下さった神社の名前です」だからちょっと待って?二人は何を話しているのでしょう?

「ふ、二人とも何の話をしているのかな?」

星野くんは少し悲しそうな表情をしている

「僕の両親はね…もういないんだ」いない、この意味を理解するのに時間がかかる

「じゃあ星野くんのご家族は…?」

「僕、一人だけ」それを聞いた瞬間、私は星野くんが何処かに行ってしまうのかと思い強く抱き締めます

「き、君はいきなり…」

「うるさい!黙って!」私は自分の声とは思えない声量で叫ぶ

「ご両親と仲直り…しますよね?」黙ってと言いながら質問している自分に嫌気がさします

「うん、するよ。必ず」自分が何故怒っているのかよくわかりません。前にご両親の事話した時に嘘つかれたから?多分それもあるでしょうでも…それよりも、星野くんが今している顔が気に入らない。まるで自分が誰にも愛されてないと思っている、その表情が

「星野くんは両親から愛されてる!だから産まれてきたの!だから!だから!だから…そんな顔しないで…お願いだから…」

「うん」また私と星野くんは泣く、星野くんは星野くんの為に私は星野くんの為に泣く


「ご、ごめん、服汚しちゃったね…」

「私も星野くんの服汚してしまったのでおあいこです」私は今、私にできる満面のも笑みで答えてみせます。抱き合ったまま…

「お二人さ〜ん、そろそろ本題に入っていいですか?」すっかり神様の事を忘れていました…私と星野くんはお互いに離れ話を促します

「それで私は星野さんのご両親にお願いされてお二人を救ったのですよ」私はふと思った事を口にします

「何で星野くんだけじゃなく私も救ったの?」

「あれ???だって生涯の伴侶と一緒にいるのは成長に必要な事ですよね?それに私が救えるのは二人だけだったので必然的に雪さんになるのは当然でしょう?」こ、この神様!悪魔では!なんて恥ずかしい事を…それに私達さっきまで抱き合っていたわけで…星野くんに顔を向けると顔を赤くして目を背けました

「と言うわけでこの指輪は星野さんにお返しします」

「待って!これが無いと神様は消えてしまうのでは?」

「先ほども申し上げた通り今、私のお社はこの指輪にはめこまれている隕石です。」

「つまりこの隕石がある限り神様は大丈夫と言う事ですか?」

「はい!そう言う事です。それに私は星野さんの成長を見守るように頼まれてます。つまりこれからは私も一緒に同行します」やっぱりこの神様は悪魔だ!

「そ、それは困る」そうです!星野くんが困ってます

「神様まだ名前ないよね?何て呼べばいいか困るよ」そっちじゃないです!星野くんは肝心なところで抜けています

「では星野さんが私に名前を付けて下さい」

「名前…」星野くんはう〜んと唸ります。その時、私は凄い名前を思い付きます

「アルクトゥールス」

「君は中二病だっけ?」さっきから星野くんが失礼です!でも…それは両親の事で肩の荷が降りたからかな?だからいい事

「星野くん、私と初めて会った日を覚えていますか?」

「四月の初めだよね?天体観測をした…」

「その時、見た星は覚えてますか?」

「それは勿論!春の大三角形だよね」

「はい!正解です!それじゃあ私の誕生日はいつか知ってますか?」

「確か…八月十八日だよね。もうすぐだね」

「次に星野くんの誕生日は?」

「僕の誕生日は九月十八日だよ」ようやく星野も理解したようです

「そうつまり星座です!春の大三角形はうしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラを繋いだ三つからなる大三角形です。私の星座はしし座、星野くんはおとめ座、つまり後はうしかい座と言うわけです」

「うん!いいね、僕達は三人で春の大三角形…今から神様の名前はアルクトゥールス、略してアルクにしよう」

「アルク…アルク…アルク!今日から私はアルク!宜しくお願いしますね。星野さん、雪さん」

「こちらこそ宜しく」

「宜しくね!アルクちゃん」

星野くんの実家が星野神社だった事がわかり星野くんの両親の事がわかりアルクちゃんと出会い今日は色々な事がわかりました

「ここから出ようか?」

「そうですね。風邪引いちゃいます」

「そうそう!後前にもお話ししましたが対価は頂きますよ?」

「アルク…君は何でそんな大切な事を今言うのかな?」対価…と言う言葉に私は胸がざわつきます。

「アルクちゃん、対価て…なにかな?」

「前にお二人共願ってましたよ。星野さんは心臓を、雪さんは何でもするって?」星野くんは何て事を!?私もですけど…

「僕、心臓捧げたら死んじゃうけど…」

「そ、そうです!矛盾してます!私は星野くんに生きて欲しいと願っています」

「その辺りは心配ありません。星野さんの心臓を私が預かる、つまり私の力で守るだけですから!雪さんには…そうですねー?今はまだ言いません。その時が来たら言います」

「さっぱりわからないけど取り敢えずは大丈夫と言う事?」

「はい!それから指輪はちゃんと星野さんがはめて下さいね?この指輪は私のお社であると同時に星野さんの心臓となるんですから」

アルクちゃんが何を言ってるのかよくわかりませんが…

「この指輪が無いと星野くんは…?」

「半径1メートル離れると死にます!」

とんでもない事を笑顔できっぱりと言った!

「それじゃまた、お会いしましょう」

辺りが光に包まれる…気づくと私達は屋上の階段途中にいました。星野くんの手には指輪がちゃんと握られています

「取り敢えず指輪した方がいいよね?」星野くんが右手薬指に指輪をしようとしますが私はそれを止め、指輪を優しく包み込むと星野くんの左手薬指にはめます

「き、君はこの意味わかってるの!?」

「わ、私は本気です!」

「…じゃあ、僕達は今から…こ、恋人だね…」星野くんは顔を真っ赤にします。勿論、私もお顔真っ赤です

「は、はい…宜しくお願いしますね、星野くん!」私は満面の笑みでそう答えるのだった


先ず私達は医院長室に行き今起き出来事とアルクちゃんに聞かされた話をしました。医院長先生はしばらく考えた後…星野くんの脈を確認します。「わかった…」その一言で私も星野くんの鼓動を確認する為に胸に耳を当て…彼の心臓がない事を確認してしまったのです…

「これで信用してもらえたと思います」

「星野くん…本当に大丈夫…?」

「大丈夫だよ、今までと変わらないよ」

次に医院長先生はこれからの事を決めてくれした。最初に私達がするのは本当に治ったのか経過観察、それで治ったとわかったらリハビリをするそうです。私達はずっと病院育ちで体力が平均年齢よりもかなり下回る事が予想される様なのでゆっくり時間をかけてリハビリをするそうです。その合間に外の世界の知識や学校に通うための勉強もするみたいです。そしてそれらを乗り越えて遂に退院し中学に通う事も出来るそうです!

これからの診察は院長先生がしてうまく誤魔化してくれて、星野くんは退院後、保護者である院長先生の家に住む事になるそうです

「院長先生は星野神社の事ご存知だったんですよね?僕の両親の事も…」星野くんは決心したようでした自分の両親と向き合う事を…

「私は君の両親に君を託され私もそれを承諾した。ああこれは君が産まれる前の話ね、それで君も両親同様に遺伝性の心臓病もちで産まれる可能性は高かった、星野家は代々、心臓疾患のある家計でね。君のお母様も心臓病だった…」

「母が星野だったんですね?でもアルクは父も心臓が悪いと話していました」

「君のお母様が恋をした相手…つまり君のお父様も心臓疾患の家計でね、それでウマがあったのか恋をして結婚しお父様が星野家に来て君を授かった…」

「そうだったんですね…」悲しそうな顔をする星野くん…そんな彼の手を私は優しく握る

「では何故、私が君を引き取る事になったのか、それは私の家計がこの病院を建てたからだよ。元々、星野神社だったこの場所に病院を建てた後も私の家と星野家は交流を続けてたんだ、それで私は君のご両親と出会った」

「つまり病院を作る時に僕の…星野家の人達と話し合っていたと言う事ですか?」

「私も聞いた話だけどそう言う事になる。ここの神様が許可を下さったと言う事も星野家は信じたらしい。そもそも星野家の人達はその神様…今はアルクだったね?アルクが見えていたらしいよ」

「母はともかく父も…ですか?」

「君のお父様から聞いた話だと最初は見えなかったらしい。だけど結婚して、しばらく経ったある日突然、見える様になったと言っていた。これはお母様の仮説だが…神社に住う事になって神聖な力を浴び続けたからかもと言う事だ」

「神聖な力…少し前の僕なら信じないオカルト話ですね…でも今は信じる…」

星野くんは握っている私の手を更に強く握った。恐らく一番気になっている事を言うのでしょう

「僕の両親は病死では無く事故死したのは…本当ですか?」医院長もその質問がくるとわかっていたのかすぐに答えてくれた

「ああ、本当だ。車の衝突事故だった…相手の運転手が信号無視をしてそれで…」医院長は言葉を区切り…

「九月十八日の事。事故にあった君の両親はこの病院に運ばれてきた。私は必死に助けようとした…だけど…今でも思う、あの時の判断は正しかったのか、そして私は本当に最善を尽くせたのか…と」

「そ、それは…」星野くんは何かを言い掛け辞めます。それは星野くんが産まれる前の話…彼が何と言おうと医院長先生には届かない…

「でもお母様のお腹の中にいた君は奇跡的に無事だった…いや…今思えば必然的だったのかもしれない…帝王切開で君を取り出した。その後にお母様は亡くなった…これは君のお母様のお願いだった。病院に運ばれてすぐに自分はもう助からないと悟ったのか帝王切開で君を取り出すようにと…例え…自分がどうなろうと…」その話を聞いて私は自然と涙を零す

「そう…ですか…」星野くんも、またとても悲しそうな顔をする

「君に名前をつけたのはお母様だよ。亡くなる前に言ってくれたんだ。翔と言う漢字には未来に翔と言う意味を込めて、それで[翔太]とね…これが私の知る全てさ」医院長室に沈黙が流れる…その沈黙は星野くんに必要な時間、だから私は更に力強く手を握る

「…雪、ありがとう、でも痛いよ」それでもこうして握っていないと星野くんが消えてしまいそうで…怖かった。だから私は言いました

「医院長先生!私は今日、星野くんの病室に泊まります。いいですよね?」星野くんも医院長先生も驚いて目をパチクリさせ

「彼が構わないなら私は構わないよ」意図を理解したのか医院長先生は優しく言ってくれます

「君はいつも、とんでもない事を言う…でも今日はお願いしようかな」

「はい!任せて下さい!」私達は医院長室を後にし一旦、お互いの病室に帰ります

お風呂と着替えを済まし消灯時間に星野くんの病室に向かいます。病室の前にたどり着くと私はノックをし、部屋に入ります

「星野くん、入りますね?」返事はない…星野くんはベッドに座って、ぼーっとしながら夜空を見上げていました。私は彼の隣に座り

「星、見えますか?」

「…うん」

「今日は色々あり過ぎて疲れちゃいましたね!」

「そうだね。色々あり過ぎたよ」

「アルクちゃんと出会って、この病院の昔話を聞いて、星野くんのご両親を知って、病気が治って、それから…私達、恋人になりました!」

「でも大変なのはこれからだよ。まず、君のお母さんに何て伝えようか?」

「病気は奇跡で治った!のと星野くんとお付き合いさせて頂く事になりました!かな?」

「そ、率直だね…まぁでも他に言い様がないか」彼は私の方を見ると少し笑いました。少し元気になったかな?

「君のお母さんは次いつくるのかな?」

「私のお誕生日の日です!」

「えっと…確か十八日だよね。でも病気に関しては無理がない?ここはアルクの事も話すとかさ」彼がそう言ってきますが…私は想像してみます。お母さん!私、神様に病気治してもらいました!……

「そんな説明したら頭のおかしな子になっちゃいますよ!」

「そうかな?君のお母さんなら喜んで信じてくれそうだけど…」

「流石にそんな事は…あるかも?」お母さん少し抜けてるところがあるからなぁ〜私もですけど…

「そ、それよりもです!お勉強やリハビリは大変ですよ」私は話題を変えます。このままでは私のお母さんが変に思われかねません!

「勉強の方は医院長先生が毎月買ってくれた。問題集で何とかなってるけど…それより学校生活が心配だよ…」彼らしい悩み…でも大丈夫!

「それには心配及びません!中学から通う事になっても私と星野くんは同じ学校、つまり!登校初日に私達、付き合ってます宣言を言えば人気者間違いなしです!」

「そ、それは…別の意味で心配になってきたよ…せめて中学は保健室登校でいいと思うけど…」確かに中学三年生でいきなり登校はかなり勇気が必要そう…保健室登校は無難かもしれません

「それに登校できても多分、三学期からだよ?受験の問題も控えてる」そうでした…中学を無登校の私達では入れる高校は無いかもしれません…困りました

「高校デビュー…」私が残念そうにすると彼は私の肩に優しく手を置き…

「大丈夫だよ。通信制の学校があるから」通信制の学校?それは何でしょうか?

「僕も詳しくは知らないけど前に医院長先生が言ってくれたんだ。僕達みたいな人でも通える高校があるって」

「良かったです。私も高校デビューできると言う事ですね!」

「君は高校デビューにこだわるね…」

「可愛い制服ですよ!女子高生ですよ!夢だったんです。高校に通うの」

「確かに僕も憧れてはいたかな。制服…ネクタイ結べるかな…?」最近思いましたが私の彼氏は悩むところがズレていますね…

「大丈夫ですよ。私が結んであげます!」

「それなら…安心かな?…安心だよね?首絞めないよね?」

「むぅー、これでも出先は器用な方です!安心して下さい」全く星野くんは…私は頬を膨らませて抗議します

「ごめん…でもその前にリハビリ頑張らないとね」そうです!先ずはリハビリで体力をつけないと話になりません。そもそも病院は段差や凸凹が無い作りになっていて歩くのがとでも楽と聞きました。そのせいで体力が意外に落ちるとか…

「筋肉痛…覚悟しないとね」私は想像してみます。屋上に行く階段…一階分ですら息を切らしている私達です。おそらくリハビリ内容によっては全身筋肉痛…産まれたての小鹿みたいになるに違いありません

「う〜運動嫌だよ…」私はリハビリに絶望します…

「ふ、二人でやればきっと楽しいよ!」彼に励まされます。今日は私が励ます筈だったのにおかしいな…?

「それにさ、これからは何をするにも二人で出来ると思うと…少しだけワクワクしないかな?」私はまた想像してみます…何をするにも二人で…それはとても、とても素敵な事!「私!ワクワクすっぞ!」そんな言葉に彼は笑い

「君にはやっぱり笑顔が似合うよ」と言われ、気付けば私も彼も笑顔になっていました


それからしばらくして私達は就寝する事にしました。ベッドは一つしかないのだから当然一緒に寝る事になります。恋人になった日にいきなり彼氏の部屋にお泊り…と聞くといけない気がすると思いますが断じて違います!私がここにいるのは今日の彼に必要な事だからです。彼の側にいる事が今、必要な事…その気持ちが伝わったのか

「今日はありがとう。ずっと側にいてくれて」

「彼女として当然の事をしたまでです」

「……」

「……」見つめ合う…無言の時間が続きます。お互いの吐息がかかるぐらい近い距離…エアコンの音だけが鳴り響く病室…そんな空間が眠気を誘ったのか彼はウトウトし始めました

「大丈夫ですよ。星野くん…今日はずっと私がついてますから、だから安心して眠って下さい」私がそう言うと彼は「うん…」とだけいい、すぐに寝息に変わりました。そんな彼の寝顔を私は寝入るまでの間、見ているのでした

それから何日かが経ち…八月十八日

お母さんに医院長先生が上手い事、レントゲンや血液検査の結果を見せてどうして治ったのかそれらしい説明をしお母さんを納得させて見せました。いざとなったら本当の事を言うつもりでしたがその心配はなさそうです。お母さんは私を抱きしめ…「良かった…本当に良かった…」としばらく泣き続けました。私も抱きしめお母さんの温もりを感じ続けた。それは温かく、とても落ち着く匂いがし、ああ…私はとても幸せ者なんだなぁ…と思わせてくれました。夕方には私の誕生日パーティー(と言ってもケーキを食べるだけ)をしてくれて。私の病室に星野くんも来てくれました。彼は私に「誕生日おめでとう」と言うと四つ葉のクローバーを押し花にして作ったしおりをプレゼントにくれました。私は彼氏からの初めてのプレゼントに大喜びしお母さんもそれを微笑ましく見ていてくれました。そしてお母さんは「それで他に伝える事はないの?」と言ってきて私は何の事だろう?と考えていると彼が照れた様子で「この度、雪さんとお付き合いさせて頂く事になりました」と彼が言い、「不甲斐ない娘ですがどうぞよろしくお願いします」とお母さんが言いました。取り敢えず私は抗議しておきます。「不甲斐ないとは何!不甲斐ないとは!」そして三人で笑い合いました。親が認めたカップルの誕生です!

九月になるとついにリハビリが始まりました。最初は軽く病室の周りを十周、看護婦さんの同伴で行いました。

夜には天体観測

「そろそろ星野くんにも天体望遠鏡を設置してもらおうと思います!十分以内に設置、出来たら私が飲み物を奢ってあげます!」

「十分以内に設置出来なかったら?」

「星野くんの奢りで飲み物を買います」

「いいよ。僕だってずっと組み立てるところを見てきたんだ」

「組み立てたら月を観測出来る様にして下さい。」

「月でいいの?」

「私は優しいですから!」

「わかった」

「それでは開始です!」

彼は先ず三脚を立て…それから異変に気付いた様です

「君…長さ変えたね…」

そうです!こっそりと色々いじっておきました。

「早くしないと十分経っちゃいますよ?」

彼は何とか三脚の長を整え、次に鏡筒を三脚に設置しようとします。周りは暗く初心者が手こずる場面…彼もまた手こずっていました。あっという間に五分が経ち、鏡筒を設置し終わった彼はポインターを月に向けてレンズを覗きます。使ってるレンズは10mm実はここも意地悪をしています。何故かと言うと…

「君ポインターまでいじったのか…」ここが初心者にとって一番の難関…組み立てただけの天体望遠鏡は鏡筒とポインターが合っていない為観測は出来ないのです!先ずは25mmレンズで鏡筒とポインターを明るいうちに合わせるのが常識なのです。一度合わせてしまえばもう合わせる必要は基本的にはありません。ですが私はわざとポインターをずらして、しかも暗い中、10mmレンズで組み立てさせました。つまりいくら頑張っても彼には月を観測する事はとても困難なのです

十分が経っても月を観測する事はできませんでした

「う〜…約束は約束、飲み物は僕が奢るよ」

「はい!お願いします!ですけど私も意地悪し過ぎました。飲み物は授業料と言う事で正しい天体望遠鏡の組み立て方と観測の仕方を教えますね」私は天体望遠鏡を遠くに見えるビルに向けレンズを25mmに変えます。そして星野くんにポインター調整と観測の仕方を教えるのでした

九月十八日になり今日は星野くんの誕生日です!私は四つ葉のクローバーを押し花にしたしおりを彼にプレゼントしました。病院ではプレゼント選びは限られており、やはり彼と同じ物を渡そうと考えた結果です

彼はとても喜び「大切にするよ」と言ってくれました。そしてまた一緒に寝ました。前とは状況が違うので襲われる覚悟でしたが彼にその気はなくすぐに寝てしまいました。私は抗議の意味を込めて寝ている彼の頬を、つんつんと何回もしました(これが意外と楽しい)

十月に入ると遂に本格的にリハビリが始まります。毎日が筋肉痛地獄でとても大変です…私も星野くんも産まれたての小鹿状態です。それでも看護婦さんは「毎日やらないとすぐに体力落ちちゃうよ?」といって私達を無理矢理リハビリに連れていきます。うぅ…鬼〜〜〜

それでも続けてるうちに筋肉痛にはならなくなり確実に体力が付いてきたのを実感できました

体力が付いてきたら次は不安定な足場…凸凹道での歩く練習です。これぐらい楽勝〜…と思っていた自分が恥ずかしいです…足を引っ掛けて転ぶ、真っ直ぐ歩けない、そしてまた転ぶ…の繰り返しです…うぅ…痛い〜〜〜

挫けそうな時は星野くんの病室で一緒に寝ます。最近アルクちゃんどうしてるんだろう?とか退院したら何をしたい?とかそんなた他愛のない会話…それでも十五年間、病院生活だった私達にとってそれはとても楽しく、明日もリハビリ頑張ろう!と思うには十分な会話でした。

十一月になると不安定な足場でも軽く走れる程度にはなっていました。まだ時々転ぶけど…

リハビリ意外にもお母さんが買ってくる問題集を今日までに何ページやると言う宿題形式でお勉強する事が増えました。これは学校に通うには必要不可欠なようです。星野くんもまた同じ様に問題集をやっています

わからないところは教え合い、二人ともわからなければお母さんに聞く…そんな毎日です

「そう言えば僕達、三学期から保健室だけど学校通う事になったんだよね?」

「はい!とても楽しみです」

「君は緊張しないのかい?」

「緊張はしますけど…緊張よりも楽しみが優ってるだけです!何たって二人で登校するんですから」

「そうだね…君と一緒なら大丈夫な気がしてきたよ」彼は当たり前の様に恥ずかしいセリフを平然と言ってくる…全くもぉう…そんなんだから余計に好きになってしまいます。私は誤魔化す様に話題を変えます

「ほ、星野くんは退院したら、先ず何をしたいですか?」

「僕?僕は本屋に行きたいな、医院長先生が退院祝いで本を買ってくれるんだ」

「星野くんらしいですね!」

「そう言う君は退院したら何をしたいの?」

「私は自分の家で天体観測です!」

「君らしいね」二人で笑い合いました

「こ〜ら!問題集は終わったの?」お母さんに怒られてしまいました…

十二月に入り短距離なら走れるぐらいには筋力が付き転ばなくなりました。お勉強の方も何が得意で何が苦手かわかりました。私は数学が得意で国語が苦手…対して星野くんは国語が得意で数学が苦手…流石は文学少年!お互いに苦手な科目を得意とするので教え合います。

「数学の何が面白いの?」

「私は数式を解く時、クイズ感覚でやってるかな?後、解けた時の喜び!星野くんはクロスワードやった事ないですか?」

「あるけど…僕には到底そうは思えないね。数字の列を見るだけで目眩がするよ…」

どうやら彼の数学嫌いは相当なものの様です「そ、それより、最近忙しくて天体観測あまり出来てないけど君、大丈夫なの?」バツが悪くなったのかいきなり私が気にしていた事を言ってきます。私の頭の中は一瞬で天体観測の事で一杯になる

「そう!それです!宿題が終わるまで天体観測禁止!なんてお母さんは鬼です!」

「五科目、全ての問題集が終わるまで、何て無理だと思ったけど後、一科目頑張ろうよ」

「問題集なんて早く終わらせて星を観測です!この季節の星はとても綺麗なんですよ」

「ちゃんと計画通りに終わらせればクリスマス前には終わるよ。今年のクリスマスは一緒に星を見て過ごすんだよね」それは彼との約束でした。」退院する前に君と出会った屋上で天体観測がしたい…」そう言い出したのは星野くんでした。だからクリスマスと言う特別な日を選んだのです!だって私達は恋人だから…

「はい!ホワイトクリスマスもいいですが今年は晴れて欲しいです」それは心からの願い…彼氏と初めて過ごす特別な日だから

それと今更かもしれませんがお勉強は私の病室でおこなってます。最初、彼を招いた時は…「僕とあまり変わらない間取りなんだね。で、でも…君の匂いがするから落ち着くよ」とか言ってきたので取り敢えず彼の背中を叩きました。懐かしいなぁ〜

そんな話に花を咲かせていると…

「もぉーお勉強、終わったの?」お母さんに怒られてしまいました…

そして十二月二十五日、遂にクリスマスがやってきました。天気は晴れ!時刻は十一時を回ったところ。私達はパジャマにコートを羽織り屋上に出ます

「それでは星野くん、いいですか?今日観測するのは冬の大三角形です」

「冬の大三角形?」

「冬の大三角形はオリオン座のベテルギウス・おおいぬ座のシリウス・こいぬ座のプロキオンを線で結ぶと出来る大三角形の事です」

「ああ、聞いた事ある名前だね」

「夏の大三角形と同じぐらい有名ですからね」

「もう見えてるけど一際輝いてるあの三つの星かな?」

「正解です!冬の大三角形は輝きが強く特徴を覚えればすぐに見つけられます。それでは25mmレンズで見てみましょう」今日の冬の大三角形は今まで見たどの星よりも綺麗に見えました。なんででしょう…?そんなのは決まっています。いつも一人で見ていた夜空、でも最近は違う…隣に大好きな人がいてくれる。大好きな人と大好きな星を見る…私にとって、とても、とても幸せな事…きっと病気と戦って、戦って、戦って、戦い抜いた私へのご褒美…きっと神様が見ていてくれたに違いありません。いや、実際は神様に病気を治してもらったんですけど…それでも、私はこの幸せが続けられるならばどんな事でもするでしょう。アルクちゃんが与える何かもきっと乗り越えてみせます!

私はそっと彼に寄り掛かります。そんな私を彼は優しく抱き寄せる…彼から鼓動の音はしない…それでもとても温かく生きている。それに対して私の鼓動はバクバク…きっと彼に伝わってるでしょう。それでも彼は私を離さない…私も彼から離れない…それは合図の様なもの、恋人同士が二人っきり…それも夜空に星が輝く、更にはクリスマスと言う特別な日に…だから私達はどちらからともなく近づきそして………


それから年が明け令和二年

私達は遂に退院の日を迎えた

今までお世話になった人達に挨拶をしお母さんの車で家に帰る…私にとっては初めての家…自分の自宅なのに緊張します…きっと私は実家はどこ?と聞かれれば迷う事なく病院!と答えるでしょう。車の後部座席には星野くんも乗っています

「わざわざすみません…送ってもらって」

「いいのよ。翔子の将来の旦那さんだもの、それにお世話になった医院長先生のご自宅に住むのでしょう?私も場所知って置きたかったし」

「はい…医院長先生にはまだまだお世話になりそうです」

「子供が遠慮なんかしないの!きっと医院長先生もそっちの方が喜ぶわよ」

「そ、そうですかね?でもあの人、基本病院に住んでるも同然ですから、一人の時間の方が長くなりそうです」

「寂しかったら家に遊びにおいで?翔子と同じ部屋でお泊りさせてあげるわ!」嬉しいですがお母さんはとんでもない事を言ってます…

「お、お母さん!」私は恥ずかしかったので抗議しておきます

「医院長先生のご自宅は鹿骨の方なのよね?」

「はい、確か虹の家が近くにあってわかりやすいと言っていました」

「私の家は篠崎なんですよね?」

「ええ、そうよ。鹿骨からだと歩いて十五分ぐらいかしら?そんなに遠い距離じゃないわ」それはとても嬉しい事を聞きました。

「いつでも会えますね!」

「そうだね、でも連絡手段は欲しいかな?」

「そ、そうでした!お母さん…」

「わかってるわよ。退院祝いにスマホ買ってあげるわ」流石は私のお母さんです。言いたかった事をすぐに当ててくれます

「実は僕もうスマホ持ってるんだよね」そう言って彼はポケットから最新機種のスマホを出します。いつの間に買ったんですか!ずるいです!

「医院長先生が自宅を不在にしてる時が多いからって年末に買ってくれたんだ。君に言うとずるいです!とか言いそうだから黙ってた」そう指摘されても言わずにはいられません!

「ずるいです!」

「これ僕のLINEのID、渡しておくね」

「やっぱり許します!」やったー星野くんのID…これでいつでも連絡し放題!私、チョロすぎるかもしれません…

そんな楽しい会話をしていると彼の家となる場所に着きました

「この家であってるわね」

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして」

「星野くん!また明日ね!」

「うん、また明日」何故また明日かと言うと明日は私の家の近くにある神社で初詣するからです!人生初めての初詣…テレビとかでは見たことありますが実際に行くのは初めてなので今からテンション上がりまくりです!

彼を送った後、私の住む家に到着しました。目の前には篠崎公園がある住宅地に私の家は立っていました

ここが今日から私が暮らす家、車庫付きの普通の一軒家でした。それでも私は嬉しくて…ようやく退院したんだ…という実感が湧いてきました。だから私は

「お母さん!今までありがとうございました!これからもよろしくお願いします!」感謝の言葉をお母さんに言っていました

「あらあら、この子は…」お母さんは涙目で私を抱きしめてきました。お母さんの鼓動が…温もりがとても心地よくて、ずっとこうしていたいと思いました

家に入り先ず私がした事は自分の部屋の確認でした。お母さんがお掃除してくれていたのかとても綺麗でした。どこに何を飾るか、このは本棚に入れて、小物は机の上において、それから、それから、やる事は尽きません

そして何より一番驚いたのはご飯です!病院のご飯は味が薄くて美味しくない…とよく言われてましたが、それが当たり前の私にとってはよくわかりませんでした…しかし!今ならわかります!ご飯がとても美味しい!病院食も美味しかったですがお母さんが作ってくれたご飯は最高でした。

その後、お風呂に入り、部屋の模様替えの続きをして、終わった頃にはいい時間になっていたので明日に備えて寝る事にしました


Chapter13「アルクの最初の頼み」

僕は雪の家に向かっていた

今日は初詣をする約束だからだ。スマホのマップを見ながら慣れない道を一人で歩く、雪の家まで十五分掛かるらしい。昨日は家で荷解きをし…と言っても本しかないが…その本を本棚に入れた。後は医院長先生が買ってきてくれたこの私服だ。上は黒のコート、下はジーパン、このジーパンというのはとても歩きにくい…病院で常にジャージだった僕は今更ながら後悔した。もっと私服にも慣れておくんだった…自転車で行けばいいのでは?と思うかもしれないが残念な事に僕は自転車に乗った事がない…つまり自転車に乗れないのだ

そんな事を考えてるうちに雪の家がある場所にたどり着く。そこにいたのは…誰?

「あっ!星野くん!迷わなかったですか?」

「…誰?」

「酷い〜!彼女の顔も忘れたのですか?」

…え?今、目の前にいる少女は雪なの…か?確かに彼女の私服姿は初めて見るがここまで変わるものなのか?上は白のコートに下はロングスカート、いかにもお嬢様と言う感じだ

「君…なの?」

「はい!私ですよ?へ、変ですか?この格好…」僕の反応が彼女を不安にさせてしまった様だ

「い、いや、あまりにも…そ、その…か、可愛かったから…」自分の顔が赤くなるのがわかる」

「そ、そうですか!それなら良かったです!」雪も顔を赤くしている

考え方によっては今日が初デートにもなるのだ。気合を入れてくれた事に感謝しないと…

「うん、よく似合ってるよ。僕好みだ」

「あ、ありがとうございます!星野くんはお嬢様系コーデが好きなんですね」

「そうなのかもしれない」

「覚えておかなくては…」そこまで真剣に考えてくれて嬉しい反面、恥ずかしかったので「そ、そろそろ行こうか」と言った

「あっ!はい!行きましょう!こっちですよ」そう言うと彼女は僕の右腕にしがみ付き神社に案内してくれた。彼女の鼓動が伝わってくる。それは温かくとても落ち着く鼓動だった。後、恥ずかしい…


雪の家から徒歩二分でたどり着いた神社の名前は浅間神社

夕方に来たからか人はあまりいない。神社の右側には屋台が並んでいる

「ベビーカステラ食べない?」僕は雪に提案してみた

「先ずは参拝が先ですよ!まったく、もぉ〜星野くんは甘い物に目がないんだから…」雪に引っ張られる様に人生初の参拝を済まし、その後人生初のおみくじを引いてみた。結果は僕が吉で雪が小吉だった。まぁ無難な結果だろう。ところでいつまで雪は僕の右腕にしがみ付いているのだろう?まぁ周りの人も気にしてないし、僕も正直、嬉しいから…いいか

そして念願のベビーカステラを購入して彼女と二人で食べる。初めて食べるベビーカステラは病院のおやつで出ていたワッフルよりも甘くて全体がふわふわでとても、とても、美味しかった

「僕の…星野神社も、昔はこんな感じで賑わっていたのかな?」僕はアルクの言葉を思い出しそんな事をぽつりと呟いた

「だったら本人に聞いてみてはいかがですか?」確かにそうだが…

「最近はアルク…姿見せないし、会えるかな?」

「私の勘では今日、会えると言っています!だってもうすぐ黄昏時ですし」空を確認すると確かに夕日が沈みかけていた。彼女の勘はよく当たる。と言っても、明日は晴れます!とか明日は雨です!とかそんな天気予報を見ればわかる様な事がほとんどだった気がするが…

そして僕達は人気の無い裏道に足を踏み入れた。僕も雪もアルクに会えなくて寂しいのが本音だ。だから期待して黄昏時間近に人気無い場所に移動する…そして一分後…そんな願いが通じたのか、目の前に鳥居が現れた。僕と雪は顔を見合わせて笑い鳥居を潜る

周りが光に包まれ気がつくとそこは…ヒメサユリと雪が積もった、アルクが居る世界だった

お社にはアルクがいた。雪はアルクを見るなり

「アルクちゃん!」とアルクを抱きしめた…やきもちなんて…妬いてないよ?

「雪さん苦しいです…」久々に見たアルクは以前と変わらずロングヘアーに白い半袖のワンピース姿だった

「アルク、久しぶり」

「星野さん、お久しぶりです」何とか雪から解放されたアルクは仕返しとばかりに悪い笑みを浮かべ

「お二人は付き合い始めたんですよね?私ずっと見てましたから全て知ってますよ」それを聞いて雪は慌てた

「あ、アルクちゃん?全て…て?」

「言葉通りの意味ですよ?あぁー特にクリスマスの夜は凄かったですね。見てる私までドキドキしちゃいましたよ」

「あ、アルクちゃん!!」雪は赤面しあわあわとし始める。この神様は、やっぱり悪魔だ…僕は確信したのだった

「それで?今まで何してたの?」僕は本題を切り出す事にした

「情報収集です。私は江戸川の神様、江戸川区に住んでいる人達を幸せにするのが目的です」

「それで?」僕は先を促す。因みに雪はまだ再起不能状態…

「ですから私には近いうちに自殺したり人を殺める人を知る力があります。そこで、です。雪さん?保留にしていた願いの対価、覚えていますか?」その言葉に雪は復活する。そして真剣な眼差しで答えた

「勿論、覚えています」

「雪さんには私のお仕事を手伝ってもらいたいと思います」神様のお仕事…嫌な予感しかしない

「具体的には何をするんですか?」

「今回の内容は近いうちに自殺をしてしまう人を救う事です」その穏やかじゃない言葉に僕は生唾を飲む、おそらく雪も同じ心境のはずだろう

「そ、その人は誰?」

「[海堂夏希]、その方が今回の対象です」


こうして動きだしたんだ

運命の歯車が…


Chapter???

鳥居を潜り歩き続ける

どれくらい歩けばいいのだろう

お社はまだ遠く…辿り着けない


Chapter14「海堂夏希」

私、海堂夏希は虐めを受けている

虐めは中学一年の時からあった。その時は私に矛が向く事が無く見て見ぬ振りをした。虐めを受けていた子が不登校になるとまた別の人が虐められ始めた。私はまた見て見ぬ振りをした。そして中学二年になって遂に虐めの矛が私に向いたのだ。私は友達も少なく人見知りするタイプだが何故、虐めの対象になったのかはわからない…いや、理由など無いのだろう。おそらくはただの暇つぶし…友達だった子も見て見ぬ振り…自業自得だ。今まで私もそうしてきたのだから…それでも私は勇気を出して先生に相談した。先生は虐めの元凶である子を注意…その行動は逆効果だった。

「あいつ、先生にチクった、調子にのってる」と言われ虐めは更にエスカレート、机にチョークで落書きされ、チョークを投げられ、ヒソヒソと悪口を言われ、椅子に画鋲を置かれ、思いっきり蹴っ飛ばされ…スマホでは、既読無視やブロック…果てには死と言う言葉まで使って来た…私の心は限界だった…親には言えない、言えば親はショックを受けるだろうし、何より迷惑をかけたくない…

じゃあまた先生に言えばいい。いや、また

「調子にのってる」と言われエスカレートするだけだ…調子にのってるのは向こうなのに…八方塞がり

だから私のとった行動は保健室登校だった

先生は不審がったが本当の事は言えず

中学二年の三学期…私は今も保健室登校をしている。不登校になれば親に本当の事を話さなくてはならない、それだけは嫌だ!

だから私は保健室登校の道を選んだのだ

それでも私は救いを求めている。

「誰か助けてよ…」始業式で誰もいない保健室に私の声が響く…


Chapter15「学校」

今日から僕は人生初の学校に通う事になる

場所は入院していた病院から徒歩三分にある中学校だ。僕と恋人の雪は今、中学三年生になる。そして今はその三学期目

突然クラスに姿を現してもクラスメイトを驚かせるだけだ

だから僕と雪は保健室登校する事になっている。それに受験先の高校の説明も受けなければならない

朝の支度を済ませ僕は学校指定のジャージに着替える。何故ジャージ?と思うかもしれないが三学期しか通わない学校の制服を買うのは躊躇わられたからだ。医院長先生は気にしなくていいと言ってくれたが僕としては気にするし何より病院でずっとジャージだったのだ、ジャージが一番落ち着く

家を出て京成バスに乗り学校近くのバス停に降りる、そこには既に雪が来ていた

「おはよう!星野くん!」

「おはよう」僕は彼女の服装を見る

「どうかしました?」

「いや…何で君までジャージなのかな?」

そう、雪の姿は僕と同じ学校指定のジャージだった。確か前に制服がどうとか言っていた筈だが…?

「それは当たり前ですよ。だってジャージなら星野くんとペアルックです!」

「その考えだとこのジャージ着てる人皆んなペアルックになるんだけど…?」

「細かい事は気にしない!気にしない!それでは行きましょうか?」相変わらず元気だなぁ〜と思いながら僕は彼女の後に続く

「今日の予定は、先ず指導室で担任との挨拶、それから進路の資料を貰って…後は保健室に向かえればいいかな」

「私達が通おうとしてる高校はポスト投函でいいんでしたよね?」

「ネットで調べた限りだとそう書いてあったよ。その辺りの事も話し合うと思う」そんな話をしているとあっという間に学校に到着した。校門には担任と思しき女性教師が立っていた。僕達は名前を告げ指導室に案内される。上履きは無い為、来客用スリッパだ

先生は僕達の登校を心から歓迎してくれた。話によるとこの先生の担当は英語らしい。それから生徒手帳を渡され、校則を幾つか説明、そして本題である進路について…

僕と雪は同じ高校に通う為、進路指導も一緒に行う事になった、これは先生なりの配慮だろう。確かに登校初日に先生と一対一は絶対に嫌だ…

僕達が通う通信制の高校は今年出来るらしい。らしいと言うのは既存のビルを丸々学校として使う為、今は準備中だとか

試験等は一切無く、入学届を郵送で提出するだけでいいと言う、まさに僕達には願ったり叶ったりの高校だ。入学費も十万ととても安い。これなら医院長先生にも迷惑をかけないだろう。雪に至っては僕と同じ高校ならどこでもいいと言っている

僕達が既に行く高校を決めていたのが意外だったのか担任の先生には驚かれたが逆に安堵のため息もつかれた。どうやらもっと世間知らずで厄介な生徒が来るとでも思われたかな?その後、話は順調に進み入学届を渡された。どうやらこれを保健室で書いて今日は下校していいらしい。実はこんな事もあろうかと証明写真は撮影済み…そんな話をしたら担任の先生はじゃあ今から書いちゃおうか?と言ってきた。おかげで僕達は目的の保健室に入る事が出来た。今は始業式の最中…体育館からは校長だろうか?話し声が聞こえて来る


保健室はとても静かで保健室の先生も居なかった。おそらく始業式に参加しているのだろう。だからか保健室中央で椅子に座っている少女を見た時、この子がターゲットの子だとすぐにわかった

その子は僕達が保健室に入って来るなり驚いてベッドのカーテンに隠れてしまった

ここで動くのは得策じゃ無さそうだ…

「じゃあ雪、ささっと書いて帰ろっか?」雪も意図を理解したのか

「はい!」と言ってくれた

僕達は側にあった椅子を机の前に持って行き座った。机と椅子が三つ…保健室の先生が事前に用意してくれていたみたいだ。つまりカーテンに隠れてる彼女は僕達が来るのをわかっていた可能性が高い

「え〜と…入学志望の理由か」

「う〜んっと私は星野くんが入学するからって書きます」

「却下…」

「半分は冗談です!」やっぱり半分は本気だったのか…まぁ僕と同じ高校ならどこでもいいとか言ってたからなぁー

取り敢えず真面目に病気の事を書くか

それから三十分後…最後に証明写真を貼り付けて…

「出来ました〜!」

「僕も終わったよ」

「この後どうします?」

「せめてこれからお世話になる保健室の先生には挨拶しておきたいかな?」

「それには私も賛成です」

「それじゃあ待とうか」

「はい!」それから僕達は保健室の先生が帰ってくるまで待つ事にした


episode海堂夏希1

今、私は窮地に陥っている

目の前には知らない男女が二人…

私の咄嗟の防衛行動で隠れたが二人は気にする様子も無く何かを書いている

会話から高校の入学届だとわかる

つまり二人は中学三年生!私は中学二年生…つまり先輩!それがわかった瞬間、心の中で危険信号が鳴る、私の中で先輩は怖い人と言うイメージがあるからだ

今日の朝の出来事を思い出す…

私が登校するとそこには机と椅子が二つずつ増えていたのだ。だから私は保健室の先生に尋ねた。そして返ってきた言葉は

「今日から訳有りの子達が登校してくるの、海堂さん、仲良くしてあげてね」と…

仲良く…どころじゃない!相手が先輩だとは聞いていない!私はどうするべきか…

隠れてしまった手前、のこのこと椅子に戻るのは気が引けるし、このまま隠れているのも変だ。それに先輩に失礼ではないか…?

自分で言うのは変だが私は極度の人見知りだ

そんな私が先輩に話しかけられるとでも?無理!無理!絶対に無理!誰か助けて〜!

そんな祈りが通じたのか、保健室の先生が始業式を終え帰って来た。二人の先輩は先生に挨拶とこれからお世話になる事を告げると帰って行った…

た、助かった…

その後、私が隠れている事に保健室の先生は不思議がったが深くは聞いてこなかった。この先生はこの学校で唯一、心を許せる相手であり私が虐められてるのを知っている人…だから私の味方はこの先生しかいないのだ


episode海堂夏希1 end


翌日…

僕達は昨日と同じく病院の前で待ち合わせ私学校に登校する

「あの保健室に居た子…あの子が海堂夏希で間違いなさそうだね」

「はい…ショートボブに人見知り、それに組章は二年二組でした」まだ断言は出来ないかもしれないが…因みに僕と雪は三年二組だ

「あの子が近いうちに自殺…」

「アルクちゃんから聞いた時は驚きましたが私は彼女の自殺を止めるのが役目なんですよね?」そう、初詣に行った日、あの時アルクに言い渡された言葉、それは僕達が通う中学に近々、自殺する人が現れる…それを止めて欲しいと言う事だった。名前は海堂夏希、学年と組は二年二組、髪型はショートボブ、性格は人見知り…そして虐めを受けている事もアルクから聞いた…アルクは雪の病気を治した対価としてアルクが指名した人を救う事を言い渡した。拒否権はもちろん無い

人を救う…なんて簡単じゃ無い事はわかっている。それでもやらればならないのだ

「星野くん…やっぱり星野くんは無理に関わらなくてもいいんですよ?」

「無理はしてないよ。確かに僕は既に心臓という対価をアルクに払ってるから関わる必要は無いかもしれない…それでも僕は関わるよ。雪の対価は僕の対価も同じだよ。だって僕達、恋人でしょ?」少し恥ずかしい事を言ってしまったがこれが僕の本心だ

「ほ、星野くん…」雪は顔を赤らめている。僕は誤魔化す様にもう一つ意味を付け加えといた

「そ、それにさ、アルクは元々、僕の家系が祀ってた神様なんだから、祀ってた神様の願いが聞けるなんてきっと幸せな事なんだよ」

「ふふ!星野くん、お顔が真っ赤ですよ?」

僕はバツが悪くなり雪から顔を背ける

そうだ、これは僕と雪とアルクの三人で協力しないといけないんだ。アルクは僕に危ない事をして欲しくないみたいだが僕は雪に危ない事をして欲しくない…だからと言って僕一人でどうにか出来るとも思っていない。だから三人でやるんだ

学校に着き保健室の扉を開ける

「おはようございます」

「おはようございま〜す」僕と雪は椅子に座っていた先生に向かい朝の挨拶をする

海堂夏希はまだ来ていないか…

今日はどうやってコンタクトを取ろう?昨日は様子見だったが今日は少し話してみようと思う。彼女がいつ自殺するかはアルクにはわからないらしい。ただ自殺する…この事しかわからないのだ。アルクが僕達の病気を治した以上、予知能力を持っていても不思議ではない

「星野くん…」雪が小声で話しかけてきた。雪の視線を辿ると…海堂夏希がベッドのカーテンに隠れていた。どうやら先に登校していたらしい。そして既に警戒モード…そんな僕達のやりとりを見ていた先生が

「あの子、人見知りなの、気を悪くしないであげてね?」と言ってきたが…

「前途多難だね…」僕は自然と呟いていた

授業が始まり僕達は配られたプリントをやっていた。病院で問題集をやったおかげか難なく解ける。だけど…さっきから凄い視線を感じる。海堂夏希が僕達の事をちらちら、見ているのだ。僕達は、気付かぬふりをしているが、さてどうしたものか…雪の方を見ると私に任せてとウィンクしてきた。確かにコミュ力なら僕よりも雪の方が遥かに上だ。なら雪に任せるのがいいだろう

「私の名前は雪翔子、私とお話ししませんか?」雪は必殺、満面の笑みで優しく話しかけた。しかし、海堂夏希は「ひゃう!」と奇声をあげるとまたベッドのカーテンに隠れてしまった…保健室の先生はそれを苦笑いで見ている。

「星野くん…駄目でした…」しょんぼりして戻ってくる雪の頭を撫でる

もし海堂夏希が虐めを受けているのなら人間不信になっていてもおかしくないのかもしれない。それに彼女は僕と同じで人見知りだ。そう言えば僕はどうやって雪と仲良くなったんだっけ…?確か、去年の四月…病院の屋上で出会って、星を見せられて…それから僕は雪に惹かれていった。気付けばいつも側に居るのが当たり前で…それが闘病中の僕に力をくれた。僕と雪は[病気]と言う接点から仲良くなったのだ。じゃあ海堂夏希と僕達の接点は?その答えはすぐに出た

……無い

何か接点を見つけなければ会話をするのは難しいだろう…何かないか?何か…

僕は辺りを見渡す。するとふと海堂夏希のスクールバッグに目が止まる。バッグが少し開いていて中にはゲーム機が入っていたのだ。あのゲーム機は…スイッチ?あれなら僕も持っている。十四歳の誕生日に医院長先生にかってもらった。でも校則でゲーム機の持ち込みは禁止されている筈…そこで僕の左薬指にしてある指輪に目が止まる。そう言えばこの指輪も校則違反な筈だ、だが先生は注意しなかった…気付かれなかったのか?

僕は試してみる

「先生、僕のこの指輪…校則違反ですよね?」僕は左薬指にしてある指輪を保健室の先生に見せる。すると先生は…

「そうね。普通なら没収…だけど君達は少し普通の生徒とは違うから、だから多少の校則違反は見逃すわ」普通の生徒とは違う…その言葉の意味を僕はすぐに理解した

僕と雪は学校と言う場所自体が初めて、だから先生達も気を使っているのだと…

なら海堂夏希はどうだ?先生が特別扱いする何かがある、例えば虐めとか…

アルクの事を疑っている訳ではないが、本人の口から直接聞かない限りは断言できない

そして僕と海堂夏希の共通の話題を見つけた。これしかない!僕は攻める

「君のバッグに入っているゲーム機…スイッチだよね?実は僕も持っているんだけど…」

そこまで言って海堂夏希の目が光るのを僕は見逃さなかった


episode海堂夏希2

今、彼はスイッチを持っていると言った?

持っているだけなら別に珍しい事ではない。クラスの子も別の学年の子も持っている様なゲーム機だからだ。しかし私が注目しているのはゲーム機ではなく彼だ!彼はおそらく私と同じ友達はあまり作らない人見知りタイプ、同族の私の勘がそう告げている。先程、話かけてきた雪翔子と言う先輩はカースト上位も狙えるタイプ、先程見せた笑顔がその証拠だ、私の苦手なタイプ…

告白すると私は生粋のゲーマーなのだ

一日中ゲーム三昧、そんな生活を送っている。ゲームは現実逃避するにも向いている。虐められている私の唯一の癒しだ。だがそんな私でも誰かと一緒にゲームをしたい衝動に駆られる時がある。そんな時はインターネットを使って対戦したり協力したりするのだが私は人見知りだ…ネットで叩かれないか…ネットでも虐められないか…そんな心配からか心から楽しむ事が出来ない…でも私と同じタイプであろう彼ならどうだ?この際、性別は問わない、大事なのは私と同じタイプで保健室登校をしている訳あり!これだけだ。だから私は勇気を出して彼の問いに答える事にした

「あ、あの!あの!あの!せ、先輩も…ゲーム…好き…なの?」私の勇気ある一言に彼は

「うん、好きだよ。僕はインドア派だからね」やはり私の勘は間違っていなかった。その嬉しさから次々と言葉が溢れてくる

「ど、どんなソフト持ってるの?あ、後、後、どんなジャンルのゲームが好き?そ、それから、それから!読みゲーはやる?」

「お、落ち着いて…先ずは自己紹介からしようよ?僕は星野翔太、そしてさっき自己紹介していたけど彼女が僕のこ、恋人の雪翔子、僕達は二人とも三年二組だよ」

いけない…いけない…私は同族を見つけた嬉しさから我を忘れていた様だ…

「私は海堂夏希、二年二組、よろしくお願いします。先輩方」

「よろしくお願いしますね。夏希ちゃん」

「よろしく、海堂さん」

雪先輩はいきなり下の名前で呼んできた!やはり苦手なタイプかも…でも星野先輩さっき雪先輩の事、恋人って言ってなかった?私の聞き間違いかな?

私は改めて聞いてみる事に…

「あ、あの…先輩方はお付き合い…なさってる?」

「はい!お付き合いしてますよ?」

雪先輩が満面の笑みで答える。

星野先輩と雪先輩が恋人?冷静そうに見えて私と同じボッチタイプの星野先輩と清楚で笑顔が似合う雪先輩が?そう言えば先生が訳ありと言ってた…深く詮索しない様にしよう

「えっと…海堂さん?失礼な事考えてない…?」

「ご、ご、ご、ごめんなさい!」どうやら顔に出てしまっていたみたい…気を付けねば

「それでさっきの質問だけどソフトは大人気の対戦ゲームで好きなジャンルとかは特にないかな。だって色々なジャンルやるし、もちろん読みゲーもね。元々僕は本が好きで濫読するタイプだからね」

「人気対戦ゲームとはこれの事!?」私はスイッチを取り出してソフトを見せる。それは大乱闘対戦する大人気シリーズのゲームだった

「そう。それだよ、海堂さんもやっぱり持っていたんだね。明日コントローラー持ってくるから一緒にやろうか?」

「その必要はありません!こんな事もあろうかともう一つコントローラーあります」

そう、備えあればなんとやら、私は常にコントローラーは二つ持ち歩く主義なのだ

「じ、準備いいね…海堂さん」

「今日の昼休みにやろう!」私のゲーマーとしての実力、見せてあげよう

「で、でも先生が…」

「私は何も見てないわ」

「星野くん!頑張って下さいね」

「…わかったよ、お手柔らかにたのむよ、僕下手だから」


お昼休み…

「星野くん!じゃ〜ん!お弁当を作ってきました!」

「助かるよ」保健室登校でも給食の筈だけど何故、二人はお弁当?

「夏希ちゃんには話してなかったね。私達、しばらく食べ物は病院が決めたものしか食べれないんです」

「な、なんで…」と言い掛けて止める。訳あり…おそらく何かあるのだろう。私にも触れられたくない事がある様に二人にも触れられたくない事がある。私はそう理解し給食を食べる。因みに今日の給食はバターロールと小松菜のスープ、もやしのナムル、フルーツヨーグルトだ

しかし、彼女の愛妻弁当…少し羨ましいかも

見た目はとても美味しそうなお弁当…これで私の目の前であ〜ん、とかったら私は気まずくて保健室を飛び出すだろう

だが先輩達は常識がある方々の様で普通の会話をしていた

「味、大丈夫?」

「うん、僕好みの味だよ」

「よかったです!」

二人を見ていると何だか落ち着く…最初は警戒こそしたが実際、話をしてみると星野先輩は私と同じくゲームが好き、じゃあ雪先輩は?私が勝手に苦手意識を持っているだけできっと優しい方なんだろう…だから私は聞いてみた

「雪先輩の趣味ってなんですか?」

「私の趣味ですか?」雪先輩は卵焼きを突きながら考える

「やっぱり天体観測ですかね」

「天体観測…と言うと星を見るやつですか?」

「はい!そうですよ」

私は星に詳しくないが月と雪先輩…きっと絵になるんだろうなぁ〜と思った

「雪はもう一つ趣味あるよね?お化けとかそういうの好きっていう」

「失礼ですね!ミステリーがホラー好きと言って下さい」

「意外ですね。そう言えばこの学校の七不思議、知ってますか?」

「七不思議ですか?」案の定、雪先輩は食いついてきた。これは仲良くなるチャンスだ

「先ず一つ目はトイレの花子さん…」

「ありきたりだね。そんなのは迷信だよ」

「星野先輩はあまり信じないタイプですか?」

「いや、神様とかは信じるよ。でも幽霊は信じないね」

「もぉ〜星野くんはすぐに迷信って決めつける…夏希ちゃん、続けて!」

「は、はい!二つ目は誰も居ない音楽室からピアノの音が鳴る…」

「それを確認した人はいるの?」

「これは放課後、忘れ物を取りに来た生徒が実際に聴いたそうです」

「これは…霊障ですね!」

「いや、違うよ。その生徒は聴いただけ…つまり音楽室は確認していない。音楽室でたまたま先生が演奏してただけ」

「三つ目は美術室の絵画の目が光る!これはどう説明する?」

「霊障ですね!」

「月明かりの角度だね」

「じ、じゃあ四つ目の数える度に数が変わる階段は?」

「霊障ですね!」

「ただの数え間違えだよ」

「じ、じゃあ、じゃあ五つ目の体育館の電気が点滅するは?毎回、交換してるのにその電球だけ点滅するんです!これは私も見たよ!」

「霊障ですね!」

「電球を変えてるだけだよね?電線の不具合…電気屋にでも修理してもらえばいい」

「じゃあ、じゃあ、じゃあ夜に走る校長先生は…?」

「ご本人ですね!」

「本人だね」

「七つ目はないんですか?」

「七つ目を知った人は神隠しにあう…」

「つまり無いと…」

「星野くん!本ばかり読んでるからそんな頭になっちゃうんですよ!」

「僕は至って普通だよ…」そんな当たり前な会話に私は笑ってしまった。これが私が欲しかった学校生活なんだ

「ふふふ…あれ…」それと同時に涙が溢れてきた

「夏希ちゃん!大丈夫…?」

「海堂さん…」保健室の先生は今は居ない。それでも…この二人なら…いや、まだ出会って二日しか経っていない。しかも先輩だ…困らせる訳にはいかない

「大丈夫…た、ただ可笑しくて」私は何もない振りをした。虐めなんて話したくないから…だから笑った


昼休み半ば私は約束通り星野先輩と対戦ゲームをする事にした。ルールは1on1の2ストック制、アイテム無し、必殺技無しのガチ対決だ。私に1on1で勝とうなんて…この先輩、下手と言ってたけど実はかなり上手いんじゃ…

「じゃあ始めようか?」

「はい…」先ずはキャラ選び…ここから勝負が始まってると言ってもいい。星野先輩は何を選ぶ…?

「僕はランダムで」え…?

「ふ、ふざけてる?」

「ふざけてないよ?だってランダムの方が色んなキャラ使えて楽しいし」それはどんなキャラでも私に勝てると言っているの!?

馬鹿にされたものだ!私のゲーマーとしてのプライドがそれを許さない

「私は本気でいきます!」私はマイキャラクターとして毎回使っている。スピードで相手を一方的に攻められるキャラにした

ゲームが始まり先輩のキャラが表示される。先輩のキャラは剣を持ったカウンター系キャラだった。これは勝った!カウンターなど投げ技からのコンボで封じられる

「お手柔らかに頼むよ」

「いいえ!全力でいかせてもらいます!」

試合開始!

私は開始、一気に攻める!投げ技からのコンボ!これの繰り返し!相手には何もさせない!そして…

「星野先輩?」

「どうしたの?」

「弱過ぎる!何で!?」

「だから言ったじゃないか…僕は下手だからお手柔らかにと」

「私、挑発されてるのかと思いましたよ!それで本気出したら何ですか!」

「ま、まぁまぁ夏希ちゃん、落ち着いて下さい」

「僕は協力の方が好きなんだ」

「その気持ちはわからなくないけど…けど!私の気持ちを返して下さい!」その時、保健室の先生が帰ってきた…

「あらあら、青春?若いわね〜」変な誤解をされた…


episode海堂夏希2 end


それから一ヶ月が経った

今日は二月十四日

僕はいつもの様に病院で雪と待ち合わせし学校へと向かった

「来月で私達、卒業…ですね」

「正直、実感ないかな」

「そうですよね」

「今のところ動きはないね」

「夏希ちゃんも教えてくれないし…」そう…ここ一ヶ月、特に進展は無かったのだ。

海堂夏希と仲良くはなれた。だがそれで終わり…お昼休みに僕がゲームでボコられるだけ…そんな毎日だった。

僕達は保健室に着き先生に挨拶する

「そう言えば聞いたわよ?高校、受かったんだって?おめでとう!」

「ありがとうございます」受かったと言っても郵送で入学届を送り、合格通知が届いた…それだけだ。だから実感はあまりない

「これで心配なのはあの子だけね…」先生がそんな事を口にした。今、気が付いたが海堂夏希はまだ登校していないらしい

「あの子とは夏希ちゃんの事ですか?」

「い、いいえ!何でもないわ、ごめんなさい」このチャンスを逃す訳にはいかない

「先生…この学校に虐めはありますか?」

「き、急にどうしたの?」先生は突然の事でキョトンとしている

「いえ、ただの興味ですよ」

「ある訳ないでしょ?」先生は否定した

「そうですか。ではもう少し直球で聞きます。海堂夏希は虐めを受けていますか?」

「………」先生は何も答えない…これは肯定したも同じだ。僕達はようやく海堂夏希を救うスタートラインに立てた

「先生、私達は夏希ちゃんを大切なお友達だと思っています。だから…必ず私達が救ってみせます」雪は断言したが先生は悲しい顔をした

「その気持ちは嬉しいわ、確かに貴方達が来てから夏希ちゃんは元気になったわ。でも現実は残酷なの…私達、教師が出来る事は限られているし、本人がそれを望んでいない…私だって救いたいわよ?でも教師が関わる事で事態が悪化するの…それは貴方達も同じよ」

先生は子供を諭す様な優しい口調で言った

「それは…」雪も正論を言われ黙ってしまった。

「つまり、僕達が関わらずに虐めを解決すればいいんですね?」

「ほ、星野くん?そんな方法あるんですか?」

「星野くん…貴方の気持ちはわかるわ…でもそんな方法はないの…わかって?」先生の言ってる事は正しい…だがそれは常識ではの話だ

「きっと海堂は僕達が卒業する頃には普通の学校生活を送っていますよ」先生が何か言おうとしたがそのタイミングで海堂夏希が登校してきた

「あれ?皆んな揃ってどうしたの?」この様子だと聞かれていないか…雪も聞かれていないとわかったのか。いつもの笑顔で話しかける

「今、私達が高校を受かったというお話をしていたんですよ」

「本当ですか!?それはおめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「ありがとう」スタートラインには立った。後は行動するのみだ

今日のお昼休み、いつも通り雪が作ってきたお弁当を食べる

「先輩、卵焼き下さいよー」

「駄目、これは僕だよ。雪がせっかく作ってくれたお弁当を誰かにあげる事はしない」

「ちぇ、雪先輩は愛されてますね〜」

「ほ、星野くんも夏希ちゃんも恥ずかしい事言わないの〜もぉーう…夏希には私の卵焼きあげる」海堂夏希…雪の扱いが上手くなってる…なんか悔しいなぁー

でもそんな光景はまるで姉妹みたいでとても微笑ましいものだった

「海堂さん、いつもの対戦、やるでしょ?」

「え〜先輩弱いんだもん…」それは否定できない

「じゃあ今日の対戦に負けた人は何でも言う事を聞く、それでどう?」

「先輩、それ本気!?そんなに私と対戦したいんですか〜?」海堂夏希は意地悪な笑みを浮かべた

「そろそろ決着をつけようと思ってね。それに罰ゲームがある方がやる気、出るでしょ?」そんな挑戦的な僕の態度にゲーマー魂に火が付いたのか

「わかった、完膚なきまでに叩きのめしますよ」これで舞台は整った…それは海堂夏希を救う戦いの始まりでもあった


ゲームの対戦は佳境を迎えていた

僕と海堂夏希は互角の戦いをしている

「ど、どうして!?昨日まで私が圧勝だったのに!?」

「それは簡単な話だよ。今までは手加減してたからね」今までランダムでキャラを選んでいた僕だが今日は自分の得意キャラクターを選んだ

「星野先輩にゲーマー魂は無いんですか!」

「あるよ。だから今日は本気を出して相手をしているんじゃないか」

「本物のゲーマーならいついかなる時も全力を出す!そう言うものでしょ!」

「僕はいついかなる時も全力を出していたよ。全力で、遊んでいたよ」

「なっ!?」海堂夏希の操作が乱れ始める。今、僕は精神攻撃を行なっているのだ」心が痛む…だけどこの戦いに勝てなければ海堂夏希を救えない…

「ゲームは本気で楽しむもの、違うかな?」

更に挑発する

「むぅ〜!正論ばかり言ってるとモテないよ?」相手も反撃してきたが効かない

「僕、か、彼女いるし…」やっぱり少し効いた…

「そうだった!?あー!」そんなやり取りをしているうちに決着がついた

「僕の勝ちだね」

「むぅ〜!私とした事が〜!」どうやら相当悔しいらしい。僕も少し罪悪感を覚えたが今後のためだ…そんな気持ちを抱いていると雪が僕を抱きしめてきた

「やりましたね!星野くん!」

そして小声で(星野くんは優しい人ですから…だから一人で抱え込まないで下さい)と言ってきた。どうやら雪には僕の感情などお見通しの様だ。(ありがとう)僕は小声で返す

気持ちを切り替え

「それじゃあ約束通り言う事を聞いてもらうよ?」

「ゲーマーに二言はありません!何でもこいです!」その瞳は潤んでいた…(だから罪悪感が…僕も泣くよ…?」

「じゃあこの学校を案内してもらおうかな?」その言葉に海堂夏希は、ぽかーんとする

「も、もう一度行って下さい!」

「だから、この学校の案内を頼むよ」

「そんな事でいいんですか?」

「僕達、一ヶ月で卒業でしょ?それなのにこの学校の事何も知らないから、お願いしたいなーと思って」これは本心だ

「……し、仕方ないですねー、案内してあげる」海堂夏希は少し躊躇したあとオッケーしてくれた。僕は心の中でごめん、と謝った。だってこのお願いは海堂夏希にとって辛いものだから…保健室登校の人が廊下を出歩く…しかも僕達とは違って海堂夏希の顔を知っている生徒が存在する…そんなの…公開処刑の何物でもない…だから僕は謝り続ける…ごめん…ごめんと…


episode海堂夏希3

それから一ヶ月が経ち三年生が卒業する日がきた。私は卒業式には参加していない。更に言うなら保健室にもいない

私は今、屋上にいるのだ。鍵を壊し屋上に侵入した…そして柵を乗り越える

そう…私は今から死ぬのだ…自殺…それが私が今しようとしている事

「お父さん…お母さん…ごめんなさい…」私は大切な家族に謝る

「それと、星野先輩…雪先輩…仲良くしてくれてありがとうございました…」ここで命を経つ私をどうか許して下さい…

私は一歩踏み出す…あと一歩踏み出せば落下するだろう。校舎は五階建て…この高さからなら確実に死ぬ…

「はは…ここに来て私は怖気付いてるの?」でも…ここから飛び降りればもう虐められずに済む…もう辛い思いをせずに済む

そう思うと自然と恐怖は治まってきた

私は屋上から飛び降りようとする…

その時!屋上の扉が勢いよく開いた。ああ、先生に見つかって止めに来たんだなぁーと思った

私は後ろを振り返る、そこに居たのは先生でもなく星野先輩や雪先輩でもない

一番会いたくない人物…私が世界で一番憎んでる人物…虐めの主犯格だ

その主犯格がこの世の終わりの様な顔をして

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、私、死にたくないです。ごめんなさい、ごめんなさい」と言ってきたのだ

その後に続いて先生達もやって来た、どうやら屋上に立っている私に気付いて来たらしい

その光景に私はビックリして一歩後ろに下がってしまった。後ろには地面なんてないのに…


海堂夏希3 end


Chapter16「虐めは殺人未遂」

何故、海堂夏希を虐めていた主犯格がこんなに怯えて謝っているのか…それは一ヶ月前の校内を案内するから始まっていたのです

勝負に勝った星野くんは夏希ちゃんに校内を案内する様に頼みました。それを渋々、承諾した夏希ちゃん

私達は昼休み後半に夏希ちゃんに校内を案内してもらいました。勿論、知らない生徒が廊下を歩いているのですから「誰?」「転校生?」などと言う声はあちらこちらから聞こえてきます。先ずは四階の一年生の階から…ここでは先輩達が歩いているのをみて恐縮する可愛い一年生達が見れました

そして夏希ちゃんのクラスがある二年生の三回を案内してもらってる時です

殆どの生徒が夏希の登場に唖然としたり嫌な顔をしたりでした。その中で唯一、声を掛けてきた女子生徒がいました。髪を後ろでまとめスカートの裾は校則より短く、目つきが悪い…それが彼女に抱いた第一印象でした。その彼女が言ってきました

「先輩達を連れて何か用事?」夏希ちゃんはおどおどし…

「えっと…す、少し学校の案内を…」

「へぇ〜みない顔だもんね?転校生すか?」

「まぁそんなものだよ」

「ふぅ〜ん、じゃあ邪魔しちゃ悪いね。また遊ぼうね。海堂さん?」そう言い残し女子生徒は去って行きました。夏希は安堵の溜息をついていました

夏希ちゃんは少し足早になり私達、三年生のクラスがある二階を案内してくれました。反応は同じ様で「転校生?」とかでした

最後は職員室や保健室がある一階を案内して昼休み終わりのチャイムがなり案内は終わりました


学校が終わり下校時間、私と星野くんはバスで帰宅します。星野くんは私に尋ねてきました

「今日の学校案内、どうだった?」

「なんか私達だけ場違い感が凄かったです…疲れました」

「そうだね、僕も疲れたよ」

「それなら何で学校案内なんてやらせたんですか?」

「君は学校案内に意味が無かったと思っているのかい?」星野くんが言っている意味が無いは、おそらく夏希ちゃんにとって意味があるか無いか、でしょう

「少なくとも夏希ちゃんの心の傷を開く様な行動だったと私は思うな」

「そ、それは…ごめん…」

「でも、これも夏希ちゃんを救う為にやった事、ですよね?だったら私の責任でもあります。星野くんが一人で抱え込まないで下さい」

「君は優しいね…本当に僕の彼女なのかい?」

「正真正銘!星野くんの彼女です!」そこで私達が降りる浅間神社のバス停に到着した

「僕は幸せ者だね」星野くんがそんな事を恥ずかしげもなく言う時は何かあります。これは長い付き合いだからわかる事です

「夏希ちゃんが誰に虐められてるか知る為にわざと学校案内させたんですよね?」

「…流石だね」

「そして対戦ゲームも昨晩、猛特訓した、というところでしょうか」

「君は僕の事を監視してるのかい…?」どうやら全部、図星なようです。ですが監視とは納得いきません!

「愛が為せる技です!」

「そ、そろそろ恥ずかしいならやめないかな…?」

「え〜私は照れてる星野くん見るの楽しいですよ?」もっと眺めていたいが話が進まないので仕方ありません…私は話の先を促します

「君は誰が虐めの主犯格かわかった?」

お昼の夏希を思い返します…ある生徒を前にして動揺した…その事を思い出し

「あのポニーテールの子…ですよね」それはもう確信でした。子供の頃から入院していると看護婦さんの顔色を窺ったり真似をして成長する事になります。そうなると人を観察する事に長けるようになります。それが生きる為に私達が身に付けた特技…とでも言いましょうか。そしてポニーテールの彼女からは私達を三人を見下す様な…そんな態度がみてとれました

「他の生徒達は動揺していたところを見るにおそらく主犯格の女をどうにか出来れば解決…と言うところかな?」

「でもどうやって解決しますか?保健室の先生には虐めに対して関わらないと言っちゃいましたよ?」

「それを今から考える」とても難しい事なのは私でもわかります。夏希ちゃんに勘づかれず、更には虐めの主犯格を更生させなければいけません。そんな都合よく事が運ぶ事はないでしょう

「う〜ん…難しいな」そんな会話をしているうちに分かれ道に辿り着きます。星野くんとはここでさようならです。あぅ〜

「明日から休日だしゆっくり考えるとするよ。じゃあまた月曜日に」星野くんは去ろうとしますがまだ大事な事が残っています!

「ま、待って下さい!」私が急に呼び止めたものだから星野くんは驚いています

「ど、どうしたの?」

「ほ、星野くんは今日、なんの日か知ってますか?」前に看護婦さんが言っていました。今日と言う日は男性にとってとても特別な日…つまり星野くんが知らないはずないのです。それなのに星野くんは…

「き、今日…?なんの日だったかな?」とぼけて知らないフリをしてきます。星野くんはやはり男らしくないです!やっぱり男としてはハムスターみたいに小ちゃいです!むしろハムスターに失礼かもしれません!仕方ありません!私から言いますか

「今日はバレンタインデーですよ?なので星野くん!受け取って下さい!」私は昨日、お母さんに教えてもらいながら作ったチョコレートを星野くんに渡します

「あ、ありがとう…」星野くんは顔を真っ赤にさせて照れています。可愛いです

「大切に食べるよ」

「はい!」私達は笑顔で帰宅するのでした


翌日の土曜日、私はお母さんにスマホを買ってもらいました。お家に帰り早速、星野くんの連絡先を登録しメッセージを送ります

(翔子です!スマホ買ってもらいました)

(よかったね)

(これでいつでも連絡し放題ですね)

(うん)

この素っ気無さ…まさに星野くん!

今、私は星野くんとスマホでやりとりしているんだ!そう思うと自然と笑顔になります

(夏希ちゃんの事、何かおもいつきましたか?)

(なにも)

私も一晩、考えましたがやはり何も浮かびませんでした…それもその筈です

今、私達がしようとしている事は、夏希ちゃんにバレずに主犯格の彼女に虐めを辞めさせる事…前に先生が注意して事態が悪化した前例もある為、下手に動けないのです…

それに主犯格の彼女は虐めを悪い事とは捉えていないのです。相手にいかに虐めはいけない事で悪い事なのか…それを伝える必要があります

返信に考えあぐねていると

(僕は、虐めは殺人未遂だと思ってる)そんな返事が返ってきて私は唖然とします。ですが…そうかもしれません。病院のテレビで虐めについて取り上げられた特番を見た事があります。それは酷い内容で吐き気がするぐらいでした…本当に同じ人間なのかと…そしてその対応もとても難しく国も問題視していると…

虐められてる子が先生に言うと勿論、先生は虐めている子を注意します。そうすると調子にのってるとかで虐めが更に悪化…そして先生に注意を受けた子が親に虐めてないのに怒られたと言い親が学校に苦情の電話を入れる。そうすると先生は何もする事が出来なくなる…そんな事の繰り返し…結局、学校は虐めを見て見ぬ振りをするしかない。完全犯罪も同然なのです。星野くんが言いたいの虐めをしている人は人間ではない…と言う事でしょう

私の中に潜む裏の顔が言っています

相手が人でなければいくらでも方法はあると…

私は星野くんには内緒でアルクちゃんと会ってた時の事を思い出します。あれは私達が初詣をした次の日の事でした

「雪さん…必ず私のお願いを叶えて下さい」

「勿論、そう言う約束ですし私で出来る範囲なら何でもしますよ?その事を確認する為に私をこの世界に呼んだのですか?」

「それもありますが…これからする話は星野さんには内緒でお願いします」私は訳が分からずに聞き返しました

「どうして星野くんには内緒なんですか?」私が尋ねてもアルクちゃんは答えてくれません…ただ、真剣な眼差しで私を見つめてきます。その瞳の奥に宿る何かに私は…これ以上聞く事は出来ませんでした。だから…

「はい、約束します」この時は覚悟なんてものは無かったです。そして真実を知りました

「星野さんは…もう死んでいるんです」私は何を言われたか分からず、しばらく何も言えずにいました。それをアルクちゃんは先を話して欲しいと言う事だと思ったらしく続けます

「お母さんのお腹から帝王切開で取り出された星野さんは既に死んでいる状態でした…でも私は星野さんのご両親から頼まれました。無事に産まれさせ成長を見守ると…だから私は禁忌を犯したんです」アルクちゃんは何を言っているの?星野くんがなんだって?星野くんが…既に死んでいる?

「私が犯した禁忌は私と星野さんを繋げる事…」アルクちゃん、冗談は辞めて下さい…

「雪さん?大丈夫ですか?」

「冗談ですよね?だって…だって…だって!星野くんは生きています!」

「雪さん!落ち着いて下さい!雪さん!」

「私は!落ち着いています!」私は落ち着いている…私は落ち着いて…いる。大丈夫…星野くんは大丈夫…星野くんは生きている。先ずは深呼吸、私は息を大きく吸いゆっくりと吐いた。大丈夫だ、だから続きを聞こう

「それで星野くんとアルクちゃんを繋げたとはどう言う意味ですか?」

「神様にも命という概念はあります。その事を理解したうえでお話を聞いて下さい」

私はこれから語られる内容に覚悟が必要な事を悟った

「既にお母さんのお腹の中で亡くなっていた星野さんに私は私の命を繋ぎました。もっと単純に言えば私と星野さんは一心一体になった…と言う事です」命を繋いだ…それはおそらく神様だから出来る技なのでしょう。しかし一心一体とは?

「つまりですね…私が死ねば星野さんも死にますし星野さんが死ねば私が死にます」

「だから一心一体…」星野くんの彼女としては複雑な気持ちです…

「神様の死の原理は前に説明しましたよね?信仰が無くなり忘れ去られると力を失って消えてしまいます。それが神様の死です」アルクちゃんが伝えたい事が何となくわかってきました

「つまり人助けをしてアルクちゃんの存在を認めてもらえばいいんですね?」

「理解が早くて助かります。因みにですが私が死ねば雪さんも心臓に受けた加護が消えて死んでしまう事も忘れずにお願いします」二つ確認しなければならない事がある

「私が死んでも星野くんとアルクちゃんは死にませんよね?」

「私は、死にませんよ?ですが星野さんはどうでしょう?肉体的に死ななくても精神的には死んでしまうと思うのです。だから雪さんも絶対に死なないで下さいね?私達は三人で一つ春の大三角形…でしょ?」

「はい!そうです!私達は春の大三角形です。それからもう一つ聞いておきたいのですが指輪がある限りアルクちゃんは消えないのでは?」

「それはわかりません…隕石は神でもわからない未知の物体です…ですので指輪の力が永遠に続くとは限りません。そういった意味でも保険は必要なのです。そしてその力が失われるのは今日かもしれませんし、明日かもしれないのです。だから…失敗は許されません!」なる程…確かに未知の力に頼り切りも心許ないかもしれません…

「雪さんだけに背負わせるつもりはありません!私も全力で協力します!」


そんなやりとりを思い出していました。そして私は提案をしました

「アルクちゃんに手伝ってもらうのはどうでしょう?」

「アルクに?」

「はい!きっと協力してくれると思いますよ?」

「面倒くさいとか言いそうな気がするけど…今は何でも試せ…か、わかったよ。明日の黄昏時にアルクの世界に行ってみよう」

そう言い星野くんは通話を切ろうとしますがまだ恋人として大事な事を言っていません!

「ま!待って下さい!」

「まだ何かあった?」これを言うのは恥ずかしいですが…

「星野くん!大好きです!」そして私はすぐに通話を切りました

とても恥ずかしく私はベッドの上で転がりまくります!そんな事をしていると星野くんからLINEのメッセージが届きました

(チョコレート美味しかった、僕も好き、おやすみ)

そんなメッセージを眺めて…私はスマホを胸に抱きながら更に転がるのでした!


アルクの力

1・神様は信仰を失うと消える


2・星野とアルクの命は繋がっている


3・指輪の力で今はアルクも消えずに済んでいるがその力はいつ失われるかわからない


4・アルクが消えれば命が繋がっている、星野も死ぬ、雪も加護を受けているので加護がなくなり心臓病が再発し死ぬ


5・アルクが消えない為に人助けをし上手い事アルクを信仰させる


6・星野の心臓はアルクがもっている。これはただ星野を近くで感じていたいから。加護を一番に与えると言ったのは言い訳


7・アルクがいる世界には黄昏時にしかいけない


8・アルクの世界に行ける鳥居は江戸川区ならどこでも出現可能。理由はアルクが江戸川の神様だから


9・アルクの世界には誰でも入る事が可能、その世界は現実と時間の流れが違う、性格には現実世界の一時間がアルクの世界では一分である


10・アルクの世界から出る権限はアルクが持っている。またヒメサユリと雪が降っている地形はアルクの趣味、好きな形に地形を変えられる


アルクの力 end


翌日の夕方、私は星野くんと合流します

場所は星野くんのお家です!私が星野くんのお家に行きたいと言ったら星野くんはすんなりオッケーしてくれました。今日、私はハムスターから狼になった星野くんに襲われるかもしれません…勿論、想定済みです

「何もない部屋だけど楽しい?」星野くんの部屋を笑顔で見渡す私を見て彼は尋ねてきます

「彼氏の部屋ですよ!楽しくない訳ないじゃないですか!」私が興奮気味で言うと星野くんは照れたようで顔を赤くします

「そ、それならよかった…ぼ、僕も君の家に行きたいな」

「いつでもいいですよ!今日、この後、来ますか?なんならお泊りしていきます?天体観測をしましょう!」更に興奮した私に彼は

「落ち着いて…どうどう」と言って落ち着かせようとします

しかし落ち着ける訳ないじゃないですか!?だって彼氏の部屋ですよ?病院の病室とは違って凄く彼の生活感がします!それに彼の匂い…これは興奮するに決まっています!

「君は会った時から変わってないね」

「人間そう簡単に変わりませんよ?私は私です!」

「そうだね。君は君だ」

「星野くん?彼女がお家に来ているんですよ?」

「そ、そうだね、ごめん、お茶入れ忘れてた」彼はお茶を入れに部屋を出て台所に向かいました…なる程…彼に狼になる気はないみたいです。少しガッカリした様な安心した様な不思議な気分になりました

彼がお茶を持ってきて…それから黄昏時まで他愛もない会話をしました。中学での出来事や昨日のやりとりの事…そんな会話をしているうちに黄昏時がやってきました

星野くんの部屋に鳥居が現れ私達は潜りました

「お久しぶりですね!星野さん、雪さん」アルクがお社に座って待っていてくれた

「久しぶり、アルク、本当に会いたい時に現れてくれるんだね」

「常に見ていますからね?星野さんの事」

「…怖いよ」

「そうです!彼女は私なんですから私の許可をとって下さい!」

「僕の意思は関係ないんだね…」

「それで私に何か用があるんですよね?」おふざけは程々にして本題に入ります

「夏希ちゃんを助ける為に力をかしてください!」

「お願いできるかな?アルク」私と彼は頭を下げます。アルクの答えは既に決まっていたみたいですぐに答えてくれました

「いいですよ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「それで具体的には何か決まっているんですか?」私達は顔を見合わせて首を横に振ります

「現状、一番難しいのは虐めの主犯格をどう更生させるかだね。一時的じゃ駄目、海堂が安心して三年生を過ごせないといけないからね」星野くん言ってたじゃないですか?虐めは殺人未遂だって…虐めてる奴は人間じゃないって…

「星野くんは虐めの主犯格を殺してもいいと思いますか?」私の中にある裏の顔が心を蝕んでいく…彼が一人で行おうとしている事に怒っているから?いいえ、きっと違います…悲しいから…だから心が痛む…

私がそうなセリフを言ったのがよほど変だったのか彼が驚く…

「き、君はそんな冗談を言う人だったけ…?」

「私は冗談じゃないですよ?」

「虐めの主犯格を殺す…」

「虐めの主犯格のを殺してこの世界に隠すと言った方がいいですかね?」

「殺す…」やっぱり…星野は…

「夏希ちゃんだって死にたいくらいの精神的ダメージを負っているんです。主犯格は死んで当たり前…そう思ってますよね。星野くん?」

「……」彼は黙ってしまいます。だから私は言います

「これは昨日、星野くんが考えてた作戦ですよね?」

「君はどこまでも僕の考えがわかるんだね…」彼は観念したかの様に話始めた

「そうだよ。僕は虐めを行う奴は人間だと思っていない。だからといって動物とも思っていない…そして虐めは殺人だと思っている。だから僕は正当防衛が通じると思ってる…でもこの言い分は警察には通じないだろうね」

「星野くん…私はあなたを愛しています。それにもうすぐ出会って一年になります。だから昨日の通話で察してしまいました…」

「君は…反対するだろうね…君は優しいから」違います…違いますよ。星野くん…

「本当に優しいのは星野くんの方です。だから私には言わずに一人で実行しようとしたんですよね?」

「本当に…君には敵わないな…」彼は涙を流し始める

「僕は海堂さんの事を大切な友達だと思っている…だから許せないんだ…彼女を虐める奴を…でも方法がこれしか無いんだ…」私は彼を抱きしめる。そして優しくいいます

「星野くん、人を殺したらその人こそ人間ではなくなります。だから他のやり方を考えましょう?私は絶対に星野くんの味方です。でも星野くんの考え方は間違ってません。虐めをする人は人間ではない…これには私も同意します。だからこそ人間じゃないものから人間へ更生させるのですよ?」

「でもどうやって…?そんな方法はないよ…」私はゆっくり…彼を諭す様にいいます

「アルクちゃんが力をかしてくれるんですよ?」次第に彼は落ち着きを取り戻します。しかし体は私に抱きしめられたままです

「僕はアルクの…この世界を利用して犯行を行おうとした…」

「その考え方は間違ってませんよ。この場所に主犯格の子を連れて来て怒ればいいんです。そして更生するまでこの世界から出してあげない…これが私の考えた作戦です」だから星野くんまで人間を辞めないでください

「もう二度と殺人をしようと考えない…約束できますね?」彼はゆっくりと頷く

なんで彼が殺人を犯そうとしたか…昨日私は一晩中その事を考えていました。そして辿り着いた答えはとても簡単でした

彼には親がいない…何がいい事で何が悪い事かわからない…だから殺人の重さも知らないで育ってしまった。本来は親がやっていい事とやっちゃ悪い事を教えるものです。でも彼にはそれを教えてくれる人がいなかった…ただそれだけの事…だから私は決めました。彼の家族となり親が与えられなかったもの全てを与えてあげようと…

「これからは私は家族です!結婚は…まだ出来ませんがそれでも…家族です」

「うん…うん、ありがとう…ありがとう[雪]」

え…?今、星野くんは私の事をなんと呼びましたか?

「い、今なんて私の事を呼びました…?」

「〜〜〜」星野くんは私の胸に顔を埋めてしまいます。ここから表情は伺えませんが耳が真っ赤になっているのだけはわかります

「だ、だから雪…」

「〜〜〜」私は嬉しさのあまり声にならない程の喜びの奇声をあげました。だって!だってですよ?彼は一度たりとも私の事を呼んだ事はないのです!いつも私を呼ぶ時は「君」でした!それが!それが今!雪と確かに呼んでくれたのです!実はとても気にしていたのです…私はいつも君、呼ばわりされているのにアルクちゃんはアルク、夏希ちゃんは海堂さんと呼んでいるのに!!!と…それが!それが!今ようやく私の事を雪と呼んでくれました!私は彼を更に思いっきり抱きしめます。私の愛をたくさん注ぐ為に…

彼はジタバタしますがお構いなしです!今の私は誰にも止められません!私は猛烈に幸せなのです!

「あの〜雪さん?お邪魔だと思ってずっと黙っていたのですが…」アルクちゃんが話かけてきますが…

「アルクちゃん!聞きましたか!?星野くんが私の事を雪と呼んでくれました!」

「はい、ちゃんと聞いてましたよ」第三者から確認した事で私のテンションは更に上がります!

「あの…嬉しいのはわかりますが…そろそろ星野さんを解放しないと窒息死してしまいますよ?」私はその言葉に我に返ります!彼を見ると私の胸に顔を埋めたままぐったりしていました。私は慌てて解放しました

「……胸は…凶器になるんだね…」

「ご、ごめんなさい!星野くん大丈夫ですか?」彼はゆっくりと起き上がります

「雪の胸…大きんだね…もう甘えるのはやめるよ…」そ、そんな!私に甘える可愛い星野くんが見れなくなるのは嫌です!

「Dカップはありますからね!それよりもっと私に甘えて下さい!」

「D…?よくわからないけど…まぁ落ち着くのは確かだしたまに甘える程度なら…いい…かな?」照れながら彼はまた甘えてくれる事を約束してくれました

「そ、それより雪も甘えてくれてもいいんだよ?」彼だけが甘えるのが恥ずかしい様です

「星野くんがもっと頼りになるハムスターになってくれたら考えてもいいですよ?」

「ハムスターである限り無理なのでは?」当たり前です!歳は同じでも私の方が早く産まれた、お姉さんなのですから!

そんなやりとりを見ていたアルクちゃんが笑いました

「はははー!人って面白いね〜」

「アルクちゃんも人ぽいですよ?」アルクちゃんは笑ってできた涙を目に溜め込みながら答えます

「私は人の姿をした神様ですよ?私が人間らしく見えるのは星野神社の人達が私をその様に育ててくれたからでしょうね」

「育てたと言うのは崇めた奉った事?」

「はい!あっ!でしたら星野さんは私の弟になるんでしょうか?」悪戯ぽく笑いながらアルクちゃんはとんでもない事をいいます。流石の彼もむかついたのか反論します

「待って!僕が弟?それは無理がある」そうです!例え神様で何百年、生きていたとしても見た目は子供なのですからせめて兄と呼ばれるべきでしょう。そして私と彼が結婚すればアルクちゃんは妹に…

「血は繋がっていないんだ、責めて義弟じゃないかな?」やっぱり私の彼氏はズレているのでした…


それからしばらくして、お社に座り、アルクちゃんにどう協力して欲しいか言います

「先ずは先程も言った通り主犯格の人物をこの場所に送り込みます」

「この場所なら何時間いようと現実世界では時間は経たないんだよね?」

「正確には違います。この場所はお二人の住んでる世界とは時間の流れがとても遅いんです」

「それなら作戦には支障ありませんね。この場所で更生する…つまりもう虐めはしないと思わせるまで閉じ込めます」

「説得だと根気のいる作業になるよ?」

「説得ではありません。脅迫です!」

「脅迫?」星野くんは眉を潜めます。その疑問に私は笑顔で答える

「はい!こんな不思議な場所に閉じ込められるんです…きっとパニックなるでしょう

そこで神様のアルクちゃんが虐めをもう辞めるなら元の世界に帰してあげるといいます」

「なる程です。私は神様役ですね」

「僕はどうすれば?」

「星野くんは私と一緒に神様の遣いをします」

「つまり神様を守る役だね」

「それだけではありません、場合によっては脅迫も行います」

「武器とかは必要?」

「そうですね…脅しに適した武器なら必要になるかもですね」

「わかった」

「厄介なのは相手が走って逃げた時です…この雪道で走るのは今の私達では辛過ぎます」

「それなら心配無用です!」アルクちゃんは立ち上がると右手を上げます。その瞬間…景色が歪み見慣れた光景に変わります

「これは…僕達が入院していた病院?」

「はい!この場所は私の力で作られたものです。つまり地形や物体は好きに作り変える事が出来ます」

「ヒメサユリが咲いてた雪の場所は?」

「私の趣味です!」周りを見渡すと病院だがお社と鳥居だけは残っていた

「あのお社から元の世界に帰れますか?」

「帰れませんよ?私が帰さない限り」つまり地形も物もこちらが有利な物に出来るという事ですか…これは作戦の幅が広がります

アルクちゃんが地形を元に戻します

「アルクが神様みたいだね…」

「私は神様ですよ!?」その後も段取りが進み…後は決行日だけになりました

「決行はいつにするの?」

「まだ決めていませんが…夏希ちゃんが自殺する前じゃないと意味がありませんよね…」

「その事ですが多分、お二人の卒業式の日ではないかと思いますよ?」私達は驚き、アルクちゃんの方を振り向きます

「何でわかるんですか?」

「それを話すには先ずなんで私が海堂夏希さんの自殺がわかるかを説明する必要がありますね」どうやらちゃんとした原理があるようでした。でも前は名前以外わからないと言っていたような気がします

「私は…勘はいい方なんです!」あまりに予想外の言葉過ぎて私達は、ぽかーんと口が開いたままになってしまいます

「と言うのは冗談半分で…」

「全部冗談じゃないんだ…」

「星野さんがはめている指輪ですよ」

「この指輪に何かあるの?」

「その指輪を星野さんにあげてから未来が見えるんです」

「つまり?」

「隕石のおかげですね」私達はまた口をぽかーんと開けてしまいます…そして私は込み上げてきた感情を爆発させます!

「さ…流石は隕石!無限の可能性を秘めているだけはあります!」

「雪さん…?」

「雪はオカルト系が大好きなんだよ。幽霊や宇宙人、UMA、不思議な現象…とかね」

「だって!これは新発見ですよ!論文を出せばノーベル賞ものです」

「雪は放っておいて、もうちょっと詳しくお願いできるかな?」

「その指輪を星野さんに渡してから星野さんの身の回りで起こる事がわかる様になったんです。これは私の予想ですがお母様の影響だと思います」

「僕のお母さんの影響?」

「簡単な話ですよ。我が子を大切に思う…そんな力が働いているんだと思います。だって私が見えていた方ですよ?そんな力を持っていても不思議ではありません」私は我に返ります

「つまり星野くんの近くで起こる事や起こってる事がわかると言う事ですか?」

「そうなります。そして昨日です。見えたんですよ。屋上の柵を乗り越えている海堂夏希さんが…校門には卒業式の看板がありました」

「でも最初は自殺する事しかわからなかったんですよね?」

「最初はお葬式で泣いている星野さんの姿で次にスマホで海堂夏希さんから遺書の様なメッセージが送られていました」

「未来予知と同じですか?」

「映像ではなく写真の断片みたいな感じで見えます」私はふと思った事を口にします。誰もが思うであろう最悪の事態です…

「それは…決められた未来なんでしょうか…?」その言葉に二人とも黙ってしまう…

「僕達が行動した結果…それでも自殺した…と言う事?」

「勿論、その可能性でもあり、私達が行動しなかった可能性でもあります…」

「雪、それは心配要らないよ。僕のお母さんがこの力を与えたなら僕を悲しませる事はしない筈…未来は変えられるよ」星野くんの瞳は自信で満ち溢れていました…

「ご、ごめんなさい…いらないことを言いましたね」

「雪さんの疑問は最もです…でも私も星野さんのお母様を信じます」全く私は駄目ですね…恋人の親を信じられないとは…酷い話ですね…反省です!

「そうですね!信じましょう」

「そろそろお開きにしないかな?僕はもうクタクタだよ…」体感ではもう三時間ぐらいこの場所にいた気がします

「色々、段取りも決まりましたし明日は月曜日で学校ですからね」

「では元の世界に帰しますね?またお会いしましょう」

「またね!アルクちゃん!」

「またね、アルク」


それから私達、二人は頻繁にアルクちゃんの世界に行き作戦を修正したりしていきました。それと同時に夏希ちゃんと更に仲良くなりLINEを交換したり遊びに出掛けたりもしました。勿論、星野くんも一緒です

お昼休みにはいつも対戦ゲームをしています。どうやら夏希ちゃんはあの時、星野くんに負けたのが悔しかった様で…

「星野先輩にはもう二度と負けないから!」と言って勝ち続きです。そんな楽しい平和な生活が続き…早いもので私達が中学を卒業するまであと一週間になりました


今日は私のお家の屋上で天体観測です!

「へぇ〜ここからだと江戸川が一望できるどころか千葉県まで見えるんだね」と星野くんは屋上の景色に感動していました

「星野先輩って意外にロマンチスト?」夏希ちゃんは彼を揶揄う様に言います

そう!今日の天体観測は夏希ちゃんも一緒なのです!天体観測は初めてらしく今日を楽しみにしてくれていました!

「失礼だね。海堂は」

「星野くんはロマンチストですよ?私とお付き合いする時も指輪を…」

「あれは君がやったんだよ…」

「そ、そうでした…」夏希ちゃんはやっぱり年頃の女の子だからかこの話にくいつきます!

「どっちから告白したの?星野先輩から…は性格的に無さそうだからやっぱり雪先輩から?」

「ど、どっちでもいいよ。大事なのは今、好きな事なんだから」星野くんはさらっと恥ずかしい事を言います…

「きゃー!星野先輩、大胆ですね〜」

「ほ、星野くん〜!」

「たまには仕返ししないとね」彼は少し得意げな表情で私を見てきます。今日は私の負けです…まさか星野くんがこんなにも大胆に仕掛けてくるとは思いませんでした…私は仕切り直す様に咳払いをし

「そ、それでは月の観測をしたいと思います」夏希ちゃんは待ってました!と言わんばかりに拍手してくれます

「それでは星野くん?テストです!二分で天体望遠鏡を組み立てて下さいね」最近はこうして彼に天体望遠鏡を組み立てさせ、レンズ調整させるのが天体観測をする時のお決まりになっていました

「二分もあれば充分だね。まかせてよ」頼もしい返事です!スマホのタイマーを起動し

「それではスタート!」私の合図と同時に彼は先ず三脚を広げて脚の長さを三つ揃えます。そして次に三脚の下にアクセサリー置きをセットし三脚は完成…ここまで三十秒です。次に鏡筒の三脚にセットする為、持ち上げ固定ネジで固定します。鏡筒を固定させたら次はポインターを月に向けレーザーポインターで角度調整…最後にレンズ調整し…

「終わったよ」時間は…一分十二秒

私はレンズを覗き、月が見えるのを確認すると…

「合格です!」と言いました。これは将来有望です

「へぇー星野先輩、手際いいですね」彼の作業を見ていた夏希ちゃんが驚いた声で言う

「雪に鍛えられたからね…失敗する度にジュースを奢らされたものだよ」

「毎日、お弁当を作ってる対価です!」

「美味しい、お弁当には感謝してるよ」

「病院でお料理のお勉強しか甲斐がありました!」私は彼を見つめる…彼も私を見つめる…

「ストップ!ストップ!二人の世界に入らないで!」あ、危ないところでした…夏希ちゃんが目の前にいるのを忘れてました…

「それでは夏希ちゃん、レンズを覗いて見て下さい」そう言うと夏希はレンズを覗く

「わぁ〜凄い!」それは心から感動しているのが伝わるぐらい透き通った声でした。そんな声に私は嬉しくなり自然と笑顔になります

「星野先輩も見ますか?」

「僕は後でいいよ」星野くんも気付いているのでしょう。夏希ちゃんの笑顔に…

初めて会った時の夏希ちゃんは私達に警戒してベッドのカーテンに隠れていました。まるでこの人達は自分を虐めるんじゃないか…そんな視線を私は感じでいました。それが星野くんのゲームという発言に反応し、ゲームという娯楽で仲良くなり、海堂夏希という存在は自分を取り戻していきました。そして…今、私達に見せている笑顔はきっと本来の夏希ちゃんの笑顔…私達が見たかった、笑顔…

こんなにも可愛らしい笑顔を奪った虐めの主犯格は許せません…ここ何週間の調査でわかった事、それは虐めの主犯格は全く悪いと思っていない事…それに二年二組は虐めという腐った絆で結ばれている事…きっと虐めの主犯格は将来、虐めていた事などさっぱり忘れて生活していくのでしょう。ですが夏希ちゃんは…夏希ちゃんが負った心の傷は永遠に癒える事はないでしょう…例え虐めの主犯格が更生して謝ったとしても…例え虐めの主犯格が虐めの罪の重さを知り自殺したとしても…夏希ちゃんは消える事のない傷を負って生きていかなければいきません。だから私達が卒業式当日に実行する行動はきっと正しい…例え世間ではグレーゾーンにあたる行動でも…私達は無邪気に笑う夏希ちゃんをいつまでも眺めているのでした


「今日、海堂さんは雪の家に泊まるんだよね?」

「はい!その予定です」

「それじゃあ僕はそろそろ帰るよ。雪、後はよろしくね?」

「はい!任せてください!」

「ちょっと〜先輩方?私は先輩方の子供じゃないんですよ?」そんなやりとりに私達は笑います

星野くんを玄関まで送り、私は自分の部屋に戻ります

「久々のお泊りだ〜!」

「夏希ちゃんは友達のお家でお泊りした事あるの?」

「ありますよ?でも同級生の家だから先輩の家に泊まるのは初めてだな〜…少し緊張してきたかも…」

「自分の家だと思ってくつろいで下さいね?」今日、お母さんはお仕事で遅くまで帰って来ないのでお夕飯を作らなくてはいきません

「私、夕飯の支度してきますね?」私が部屋から出て行こうとすると…

「あっ!雪先輩、私も手伝いますよ!」と言われます。ですが夏希ちゃんはお客様、ここは断るべきでしょう

「大丈夫ですよ。夏希ちゃんは待っていて下さいね」

「先輩…なんか笑顔が怖い…」どうやら私も緊張しているようです…そういえばずっと入院生活でお友達をお家に泊めるのは初めてでした…今更、その事に気付く

私は台所に行き事前に買っておいたカレーの材料を冷蔵庫から取り出します

玉ねぎ、ジャガイモ、ひき肉、カレー粉(中辛)

人参は私が嫌いなので入れないです!絶対に!

カレーは四十分で出来ました。お皿に盛り付けて…と、完成です!私は夏希ちゃんを呼びに行きます

「夏希ちゃん、夕飯できましたよ〜」夏希ちゃんはスイッチでいつもの対戦ゲームをしていました

「あ!は〜い」夏希ちゃんはゲームを中断する。私はリビングに向かいます。その後を夏希ちゃんがついてきます

「あのゲーム、そんなに面白いんですか?」私は前々から気になっていた事を聞いてみます

「凄く面白いよ!雪先輩もやりませんか?」

「私は遠慮しておきます。見ている方が好きなので」

「雪先輩はやっぱり星野先輩の事を応援しているんですか?」

「私はどちらも応援してますよ?」それは私の本心です。リビングに着き椅子に座ります

「わぁ〜カレーだ!」

「お口に合えばいいけど…」

「いただきます!」

「召し上がれ」夏希ちゃんはスプーンでカレーをすくい、口に運びます

「お、美味しい!」私はほっとします…

「お口に合って良かったです」

「何言っているんですか!?毎日、学校で美味しそうなお弁当持ってきておいて!」

「あれは病院の献立を参考にして作っているから…」

「そう言えばお二人は訳ありと聞いていたけど入院してたの?」そう言えば話していませんでしたね

「そうですよ。学校から見える病院がありますよね?そこの病院で入院してました」

「なんの病気だったんですか?」その言葉に私は答えていいか躊躇います…その僅かな沈黙が夏希ちゃんには聞いちゃいけない事と思わせてしまったようで

「ご、ごめんなさい!誰しも聞かれたくない事、ありますもんね」

「う、ううん!気にしないで」夏希ちゃんには悪い事したかな…?でも心臓病と答えたらもっと心配させてしまうでしょう

その後、夏希ちゃんはカレーにガッツいて三杯もおかわりしました。作った側からしたらとても嬉しい事です!

それから私達は一緒にお風呂に入ります

「それで結局、どちらが告白したんですか?」お風呂に浸かりながら夏希ちゃんは聞いてきます

「どちらかと言えば私から…ですかね」私は体を洗いながら答えます

「星野先輩って臆病そうですもんね〜」

「確かに甘えん坊な一面はありますが決して臆病じゃないですよ?」

「そうなの?」

「私だけが知っている星野くんの一面もあります」

「例えば?」

「内緒です!」

「気になる〜!」これがガールズトークと言うのでしょうか?私は恥ずかしくてきっと顔が真っ赤です…でもお風呂なので誤魔化せますよね?

お風呂から上がり、後は寝るだけです。ですが、私達は夜が明けるまでお喋りし続けました。これがお泊まりの醍醐味なんだなぁ〜と私は実感したのでした


そして卒業式…運命の日がやってきました。私達が作戦を実行する日です

私達はいつも通りに保健室に登校します

「おはようございます!先輩方!」夏希ちゃんは既に登校していました

「おはよう」

「おはようございます!」

「ついに今日、卒業ですね。おめでとうございます!」

「まだ気が早いよ」

「それに私達が卒業式に参加するのは午後部からです」卒業式は二回行わられます。一回目は普通の生徒達の卒業式、二回目は特殊な事情をもつ生徒達の卒業式…私達は後者の方の卒業式に参加します

「今日で先輩方とお別れかぁ〜」

「別に永遠の別れって訳じゃないよね?LINEで連絡とれるし、会おうと思えば会えるよ」

「……」その言葉に夏希ちゃんは反応しません…

「夏希ちゃん?」

「…あ、ごめんなさい…少し考え事を…」夏希ちゃんは何を考えていたのでしょうか?

「そ、それより!星野先輩からLINEと言う言葉がでる事に驚き!」

「なんで?」

「だって星野先輩、LINE返事、短いんだもん!顔文字とかつけて欲しいです!」

「用件をスマートに伝えるのが一番だよ」

「怒ってるのかな?とか思うじゃん!」

「そ、そうなの?」星野くんは私の方を向き意見を求めてきます

「そうですね。少し機嫌が悪いのかな?とかは思っちゃいます」

「雪まで…次から顔文字つけて送るよ」

「そうして下さい!」

「海堂さん、僕も君に言っておきたい事があったんだ」

「なんです?」

「なんで敬語になったりタメ口になったりするのかな?」

「え?私、そうな喋り方になってます?」思い当たる節が無いのか夏希ちゃんは不思議そうな顔をする

「なってますよ。これは私の考えですが夏希ちゃんは先輩に対して慣れていないのではないでしょうか?」

「し、仕方ないじゃないですか!私、人見知りだし…すみません…」しょんぼりしてしまいました…

「僕が言いたいのは僕達は別に敬語だろうとタメ口だろうとどっちでもいい…ただ海堂さんは大切な友達だから素の姿でいて欲しんだ」そんな星野くんの言葉に夏希ちゃんはぽかーんと口を開いたまましばらく停止してしまいました。私も星野くんの後に続きます

「私も、素の姿の夏希ちゃんの方がいいです!だって私は、夏希ちゃんが大好きですから!」


episode海堂夏希4

私は星野先輩と雪先輩の言葉を聞いてどんな顔をしていたか…?そんなのわからない、でも自分の瞳から熱い液体が流れるのがわかる。そんな私を雪先輩が抱き締めてくれる。それはとても温かく…例えるなら、そう、母親に抱き締められた時と同じ感じだ。そんな雪先輩の胸の中で私は堪えていた感情が爆発し…温かな胸の中で優しい鼓動を聞きながらただ泣きじゃくるのでした

それは嬉しい涙なのか?それとも悲しい涙なのか?そんなのはわからない

それでも確かなのは…私も星野先輩と雪先輩が大好きだと言う事だけだ

その後すぐに保健室の先生がきて何事かと驚いていたが、先生はすぐに理解してくれた。だって今日は卒業式なのだから…私が先輩方の前で泣いていても不思議じゃない。それに先生は何だか嬉しそうにしていました

それはきっと私に信頼できる親友が出来たから…

だからこれから起きる事に私は耐える。絶対に耐えて見せる


それは今日の朝の事だった

スマホに着信があったのだ、私は通話相手の名前を見てゾッとした…その相手は私を虐めている人物だったから…二度と会いたくない相手からの通話…普通は出ない、でも出なければまた虐められる…だから私は通話に出た

「も、もしもし…」私の声は緊張で震えていた…

「海堂さん、おはよう、突然だけど今日、学校が終わったら二年二組に来て?これ、命令だから、来なかったらあんたが仲良くしてる先輩達がどうなっても知らないから、それじゃあ」相手は用件だけ伝えるとすぐに電話を切った。私を呼び出して何を考えているのだろう?それよりも恐ろしいのは最後に言った言葉だ…私が仲良くしてる先輩達…?真っ先に星野先輩と雪先輩が頭に浮かぶ、相手は先輩方に何をするというのか…いや…大丈夫、私が二年二組に行けばいいのだから…先輩方には手を出させない!絶対に!


学校が終わり夕方…今頃、星野先輩と雪先輩は卒業式の第二部に出ているのだろう

私は二年二組の教室の前にいた…

何度か深呼吸し決意して教室の扉を開ける

扉を開けた瞬間、何かが私に向かって飛んできた、私はそれに直撃する…そして足元に落ちる…それはチョークだった

「ナイス!」教室の中には複数の女子生徒がいた、その真ん中には今日、私を呼び出して来た虐めの主犯格がいた

チョークを投げたのはその隣にいる取り巻きのようだ

「いやー正直、先生とかだったらどうしよかとも思ったけど、あんたで良かったわ!」

あっははは!と周りの取り巻きが笑う

私は突然の事で何も出来ないでいた…

「あんたさ!最近、仲良くしてる人いるよね?名前知らなけど、男と女の二人」

星野先輩と雪先輩の事だろう

「ムカつくんだよね〜あんたみたいなゴミが楽しそうにしてるのさぁー」

何で知ってるの?そんな疑問が顔に出ていたのか答えてくれた

「あんた前に学校を案内していた事あったじゃん?あの後さ、跡を付けてみたんだよね〜そしたら、楽しそうにお喋りして?笑って?…あんた調子にのってない?先輩と仲良くなって私達から逃げる気だったの?でも残念!その先輩達は今日で卒業!そしてあんたはまた一人ボッチ」取り巻きが私に向かってまたチョークを投げてくる。正直痛くはない…でもとても不快な感覚が込み上げてくる

「せ…先輩達は関係ないよね…?」これがせめてもの私の抵抗だった

「まぁ一応、先輩だし?大目に見てあげるつもりだけど?それはあんた次第、先ずは土下座しな?調子にのってすみませんでしたってさ」誰かと仲良くしただけで調子に乗ってる?調子にのってるのはそっちでしょ?私はそう思いながらも大人しく従うしかない…私は彼女達の前に行き土下座しようと膝をつく…その瞬間、無防備になったお腹を蹴られる。私は後ろに飛ばされて無惨にも床に転がる。あまりの痛さに私は咳き込む…

あっはははは!彼女達が一斉に笑う

「あんたさ!どんだけその先輩が大事な訳?ウケるー!そういうのマジ無理ー!」

いまだに立てない私に向かってまたチョークを投げて来た…

「そうだ!いい事考えた!あんたさ、屋上から飛び降りなよ?そうしたら先輩達には手を出さないであげる」流石に言い過ぎだと思ったのか取り巻きの一人が「やりすぎじゃない?」と言う、だが彼女は視線で黙らせる。この行動だけで彼女がどれだけこのクラスで偉い立場にいるかわかる。いわゆるカースト一位なのだ

「噂に聞いた話だとあの先輩達、入院していたらしいじゃん?私のお父さんの圧力で就職出来なくしてあげてもいいけど?」彼女がカースト一位の理由、それが父親が大きな会社の社長だとか…だから皆んな彼女には逆らえない、だから彼女は調子にのる…

先輩方には手を出させない…絶対に!そしてもう一つ私の頭の中で案が浮かぶ、もし私が死ねば彼女を社会的に陥れる事が出来るのではないかと…馬鹿な考えかもしれないが虐めを受けている人が最終的に至る場所だろう

「いいよ…屋上から飛び降りればいいんだね」私は教室から出て屋上に向かう…誰かついて来てないか後ろを見る

「誰もついて来てない」私は最後の切り札を使う。それはスマホだ、実は教室に入る前に録画モードにしていたのだ…それを、星野先輩にLINEで送る、私の遺書も文章に加えて…私は屋上に辿り着く、そこから見える景色はまるで私を天国に誘うかの様な綺麗な景色だった。確か黄昏時だけ…?私は屋上の柵を乗り越える。これで私が死ねば彼女に大きなダメージを与えられる筈だ…星野先輩ならきっと送った遺書と動画を警察に見せて彼女を社会的に倒してくれる…

そんな事は叶わないのは頭のどこかで理解している。どうせ彼女の父親に揉み消されるだけだろう。それでも彼女には私を殺してしまった罪悪感を一生味合わせる事ができる

だから…これがせめてもの私の抵抗…


episode海堂夏希4 end

オリジナル小説を書かせて頂きました86星です。最後までご覧くださりありがとうございます

また序盤ですが感想などお待ちしております

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