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1召喚


 アルファ聖国、ベータ帝国、ガンマ王国、この三ヶ国の領土の中心に位置する魔法学園デルタ。数多くの優秀な魔法使いを排出するその学園には広大な敷地があり、その一角に数十人程度の少年少女達が集められていた。彼らの顔に浮かぶのは興奮と不安。これから彼らは彼らにとって一生のパートナーとなる存在を呼び出す。さんな大切な儀式に参加しようとしていた。


「アリス、そんな不安そうな顔してたらダメだって」


「でも、私、うまく魔法使えないし…」


 アリスフィア・ルキフェリア。ガンマ王国の貴族の出の彼女は不安げな表情を浮かべながら隣の友人を見る。アリスフィアよりも身長が高く、モデルのようなスタイル、顔の作りも整っており、人形のような印象を受ける。


「使い魔の召喚には魔力を流し込むだけなんだから魔法云々は関係ないでしょ!シャンとする!」


「ルディ…ありがとう」


 アリスフィアはそんな彼女の言葉に幾分か不安を紛らわせ、彼女、ルディア・クロムウェルに微笑んだ。その様子に満足したのかルディアも満面の笑みをアリスフィアに向ける。魔法学園に入学して一月ほどではあるが、二人の間には確かな信頼関係が構築されていた。


「そろそろ時間だな、これより使い魔召喚の儀を執り行う。一人一人名前を呼ぶからこの魔法陣の前に出てきたまえ」


 数人待機していた教師のうちの一人の女教師が前に進み出てよく通る声で儀式の開始を宣言する。冷たい印象を与えがちではある女教師ではあるが生徒達からはよく相談に乗ってくれると評判はいい。


「お、始まったね。どんなパートナーになるんだろ、ワクワクするね!」


「ちょっと不安もあるけど…仲良くできるといいな」


 そんな話をしながらルディアとアリスフィアの視線は現在進行形で行われている使い魔召喚から離れない。精霊と呼ばれる存在を呼び出し、契約する。その契約した精霊によって扱う魔法の属性が決まるのだ。時にはともに戦うこともあり、大事な相棒となる。


「はぁぁぁぁぁ!?」


「え…!?うそ!?」


 順調に進んでいた使い魔召喚の儀式、とある生徒の時に問題は起こった。その生徒の名はキリヤ。平民出身の彼が呼び出したのは精霊ではなく


「人間?」


 人間の女性であった。その女性は状況を理解できていないらしく周囲を困惑した様子で見回している。もちろん、その女性を呼び出してしまったキリヤも同じように狼狽し、近くに立つ教師へと助けを求めるように視線を向ける。


「うわぁ、あれ完全に人間だよね?本当にこんなことあるんだね…」


「うん、私も初めて見たけど…あれが異世界人なんだね、ルディ」


「キリヤくんこれから大変になっちゃうね、ただでさえあいつらに目をつけられてるのに」


 使い魔召喚の儀式ではごく稀に精霊ではなく異世界の住民を呼び出してしまうことがある。それは人間だったり、悪魔だったり天使だったりと様々ではあるのだが原因はつかめてはいない。天使や悪魔が存在したのは5000年以上も前だと伝承には存在しているのだが、使い魔召喚でごく稀に呼び出された彼らからはかつて人間を滅ぼそうとしていたような存在とは思えないほど友好的であるという。一番厄介なのは異世界から呼び出されてしまう人間達だ。異世界人達にはこちらの世界に呼び出されるとき強力な能力が一つ備わるらしい。全て授業で習った事のため判断はできないアリスフィアたちなのだが、やはり、目の前でその異世界人達を見てしまうと本当にそんな強力な力があるのか疑問が生まれてくる。


「うわ、めっちゃキリヤ君のこと睨んでるじゃんあいつ」


「ほんとだ、なんであんなにキリヤ君のこと目の敵にしてるんだろうね、アナキアさん」


 アナキア・グリッド。キリヤの事を目の敵にしているベータ帝国の貴族の子女。今にも殴りかからんとしそうな気配が漂うほどに彼女は契約を結んだキリヤと異世界人の女性を睨んでいる。何が彼女にそこまでさせるのかを理解できないアリスフィアとルディアは、キリヤ少年の未来に静かに幸福が訪れる事を祈った。


「ルディア・クロムウェル、前へ」


「よし、じゃあ、アリス行ってくるね」


「うん、気をつけてね」


 緊張感を浮かべてルディアは魔法陣へと向かっていく。その後ろ姿を眺めながらアリスフィアは祈る。今は既に姿を消した神に。友人に何も起きない事を。伝承では人類を生み出し、そして滅ぼそうとした敵と伝えられているのだが、何かに縋るという場合、やはり全知全能の存在に縋るというのは全人類共通のことなのかもしれない。アリスフィアもその例に漏れず友人の無事を祈る。


 アリスフィアの位置からではルディアの細かな表情まではっきりとわからないが、魔法陣が眩い光を放ち、爆煙を巻き上げながら現れた精霊と契約を交わしたようだ。


「よかった…」


 アリスフィアに満面の笑みを浮かべて近づいてくるルディアに小さく手を振る。無事に契約できたことが嬉しかったのであろうルディアはアリスフィアの近くに来ると勢いよく抱きついてきた。


「おめでとうルディ!」


「ありがとうアリス!!炎の精霊なんだって!!私炎属性だ」


 嬉しそうに語るルディアの姿に自分のことのように嬉しくなる。彼女が無事であるということもあり、なおのことだ。


「アリスフィア・ルキフェリア、前へ」


「あ、行ってくるねルディ」


「うん、頑張ってね!!」


 両腕を振り回し、アリスフィアを応援するルディア。その姿に励まされると真っ直ぐに魔法陣に向けて歩み始める。


「準備はいいか?ルキフェリア」


「はい、先生」


「よし、では魔法陣に魔力を流したまえ。……強い意志に精霊は反応する。頑張りたまえ」


「はい、ありがとうございます。先生」


 優しく微笑んだ女教師に感謝しつつ、魔法陣に近づきながら深呼吸をする。強い意志。ルディアはどのようなことを思っていたのだろうか。そんな事を思いながらもゆっくりと魔法陣に手をおく。息を吐き出すように魔力を魔法陣に流し込んでいく。幾何学模様に魔力の光が走り、徐々に魔法陣に魔力が満たされていく。


 私と仲良くしてくれるような、優しい精霊さん、友達が困っていたら助けてあげられるような力を私に貸してください!!


 光る、光る、光る。アリスフィアから流し込まれた魔力に満たされ、眩い光を放つ魔法陣。その光はさらに激しさを増す。そんな時、アリスフィアの脳裏に狼が噛み付いてくるようなイメージが走った。


「ーーーー!?」


 咄嗟のことで魔法陣から手を離してしまう。魔力で満たされた魔法陣の光は治らない。さらにその光を激しくさせており召喚が止まる様子は見られない。先ほどのイメージはなんだったのだろうか。震える手をさすりながら眩い光を放つ魔法陣に視線を向ける。そして、先ほどまでとは比べ物にならないくらいの光を放った。


 光が治ると魔法陣の中心に何かが存在している。先ほどのように眩い光は先に召喚していた生徒達の時にはなかったものだ。光に眩んだ目にようやく情報が入ってくる。透き通った透明な物質で作られた玉座、そこに腰掛けた黒髪の青年は目をパチクリとさせて前のめりに手を伸ばしている。その手を伸ばしている先には絶世の美女といっても過言ではない女性が四つん這いになりながら目をこれまたパチクリとさせていた。


「人、間?」


 アリスフィアの口から漏れたその言葉は震えていた。人間に見えるその二人組。そう二人。近くで驚愕の表情を浮かべている女教師の様子から、自分が異常な事態を引き起こしてしまった事を再度理解した。


「な、何事?え、まって人間?」


「ちょっと、これ何?何が起きてるわけ?ちょっとクズ虫早く説明して!説明して!」


 魔法陣の二人組が先に再起動が完了した。絶世の美女がものすごい速さで黒髪の青年の胸ぐらを掴むと勢いよく揺さぶる。再起動は完了したようだが状況を全く理解できないようだった。


「俺が聞きテェーわ!!あそこからは出れないんじゃなかったのかクソあま!!」


「そんなの知るわけないじゃない!!誰が好き好んであんなところに引きこもるのよ!」


「まぁいい、人間がいるってことはちゃんとした世界だろ?しかも魔法陣ってことは魔法…裏の方に戻ってこれたってことか?」


「そうかもだけど、あれからどのくらいの時間が経過しているのかわからないわよ?それに、この魔法陣、なんの効果なのかいまいちわからないわ、呼び出す?召喚?」


「そんなことはとりあえずこれ使ったであろうあの子に聞けばいいんじゃね?」


 そういうと黒髪の青年がアリスフィアの方向を見る。絶世の美女もそれにつられるように同じ方向を見た。意を決してアリスフィアは二人組に近づく。


「急に呼び出してしまい申し訳ありません。私の名はアリスフィア・ルキフェリア、あなた方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 謝罪、その後に自身の名を告げる。異世界人であろうその二人はアリスフィアに視線を向けて離さない。値踏みされるようなその視線二人組から視線は外さない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 状況が理解できない事態に陥るのはこれで人生二度目だ。目の前に立つ少女、アリスフィア・ルキフェリアと名乗った彼女は視線を俺とクソ女から離さない。彼女の近くにはクール系美女が緊張感いっぱいの表情を浮かべ、それを遠目に見るように数人の少年少女が固まっている。白いワイシャツに紺色のスカート、ワイシャツの上に羽織るようにフード付きのマントをつけている。学園?なのだろうか?だとして考えられるのは使い魔召喚とかそのへんか?


(ちょっと糞虫、これどうすんのよ)


 脳内にクソ女の声が響く。念話をしてきたようだ。このクソ女の声が脳内に響くとかめちゃくちゃムカつくことではあるが…


(おそらく使い魔召喚だとは思う、情報を集めるためにはこの娘と契約した方がいいと思う)


(はぁ?この完璧最強女神の私様が失敗作どもの使い魔?あんた、ついに頭いかれたの?)


(絶対言うと思った、ここがお前がいた世界とは確定したわけじゃない、それにもうお前女神でもなんでもないだろ?半神半人)


(ぬぐぐぐぐ…わかったわよ)


 どうやら納得してくれたようだ。この元女神は俺たちとの戦いの後最後の力を振り絞り次元の狭間を作ると近くにいた俺の足を掴み身投げをしてくれやがった。俺とこの女を飲み込んだ次元の狭間は閉じられ、長い時間そこを漂うことになってしまった。瀕死の状態で次元を切り開くと言う荒技をやってのけたこのクソ女はその時の影響か半分以上の力を失い半分人間、半分神と言うような中途半端な存在になってしまった。ザマァ


「あぁー俺の名前は…」


 てか普通に名前言っていいのか?まぁ名前知られたところで問題はないだろうが、この世界があの世界であるなら正直なんとも言えない。あの世界であるならばもう一つの名前だと知られている可能性が微粒子レベルで存在する。ここは無難に本名にしておくか


「俺はクロト、で、こいつは」


 待て、さりげなくこのクソ女のこと紹介しようとしたのだがそこで俺の動きが止まった。


 こいつの名前なんてしらねぇ…


「私様はハーフ、ハーフ様とでも呼びなさい」


 クソ女は偉そうにその無駄に育った胸部装甲を張った。ハーフなんて名前だったのかこのクソ女。


「クロト様、ハーフ様、突然およびしてしまって申し訳ありませんでした」


 アリスフィアは謝罪を述べると現状を説明し始めた。現在いる場所は魔法学園デルタと言うそうだ。三つの国が交わる場所であり、今行われているのは使い魔召喚の儀。本来であれば精霊が召喚され契約することで属性が確定するとのことだ。そして、ごく稀に異世界人が呼び出されてしまうとのこと。なんとなく理解したが、いきなりこの世界の情報を聞き出すのもなんとなく憚られる。


「わかった、契約しよう」


「えっと、よろしいのですか?クロト様」


「様はいい、ああ、だって元の世界に戻ることもできないんだろ?だったら君の元で情報集めたりした方が賢いってもんだろ」


 そう、なんと、と言うかやはりと言うか、呼び出された異世界人はこの世界に骨を埋めることが確定してしまっているとのことだ。今までも呼び出された異世界人たちは元の世界に戻ろうと試行錯誤していたらしいが、結局その願いは叶わなかったらしい。


「お前もいいだろクソ女」


「ハーフ様と呼べカス」


「あ、あはは、そ、それではクロトさん、ハーフ様お手をお借りいたしますね」


 そう言うとアリスフィアは両手を差し出す。俺とクソ女は一度顔を見合わせると差し出された両手にそれぞれが手を乗せた。それを確認したアリスフィアは目を摘むるとゆっくりと両手から魔力を流し込んでくる。その魔力が全身に巡ると、今度は俺の体内にくすぶっていた魔力がアリスフィアの方へと流れ込んでいく。クソ女の方も同じだったのだろう、奴の体内から俺と同じくらいの魔力がアリスフィアに流れ込んでいく。目をつぶっているが若干行きが荒くなっている二人分の魔力を受けっとっているわけだから相当キツイのだろう。額から玉のような汗が一筋流れた。


 属性を確定させると言う行為はこれをすることで確定するのだろう。本来では精霊から魔力を受け取る、その魔力を自身の体になじませることで属性が精霊と同じになるのだろう。それが異世界人、または俺たちのような存在だとどうなるんだ?


(おいクソ女、これって大丈夫なのか?)


(知るか)


 つっっっっっっっっっかえねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


 徐々に目の前の少女の呼吸が落ち着いてきた。なんとか契約は無事完了したようだ。それと同時にアリスフィアがヘタリ込む。張り詰めていた糸が切れたのだろう。安心と同時に腰が抜けたようだ


「大丈夫か?」


「すいません、腰抜けちゃいました」


 照れてはにかみながらそう言う彼女を見ているとどこか優しい気持ちになれる。これが、萌か


「先に謝っておくぞ」


「へ?ちょちょっと!?クロトさん!?」


 此処一番で大きな声を出したアリスフィア、何が起きたか簡単に説明すると、俺がアリスフィアをお姫様抱っこしたと言うことだ焦ったように身を捩る彼女を見ていると顔が真っ赤になっている。かわいい。とりあえず一番アリスフィアを心配しているような少女の方に向かう、もちろんクソ女は俺の後方について歩いてきている。何故かゴミを見るような視線をしているのが気に食わないがとりあえず無視。


 ひとまず、ここから情報を集めていこう。この世界のこと



「何カッコつけてんだこのカス」


 うん、とりあえず、取り急ぎこのクソ女ぶち殺す方法から探すとしよう


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