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プロローグ


 その日は特になんの予定も入っていなかった。いつもは忙しい仕事も休日ということもあり、本当になんとなく家を出た。雲ひとつない晴天、燦々と輝く太陽の熱を肌に感じつつ、特に目的もなく歩き慣れた道をゆったりと歩いていく。最寄りの駅には特に迷うこともなく、何時もなら混み合っている駅構内に人っ子一人いない、そんな異常な景色すら気にすることもなく俺の足は駅構内を進んでいく。今思えば、この時に周囲の異常な状態に気づくことすらできなかった事が俺自身に異常な事態が起きていたという証拠だろう。今更そんなことを気にしてもおそいと言われればその通りなのだが。


 ホームへと続く階段を一段一段進んでいく。ホームには既に一両だけの電車が止まって扉をあけている。


 これに乗らなくては


 そんな強迫観念が俺の脳内を支配し、足早に一両だけの電車に乗り込む。俺が乗り込んだ瞬間後方で扉が閉まる。電車内には人の気配なんてものはない。運転席には人影のようなものが鎮座しているが人間というにはあまりにも、そう、ありえないほど肩幅が広く、頭部が大きい。その姿を確認したせいだろうか、席に座っていた俺は急に我に返った。


「うん、これどういう状況?」


 この時の俺の心境はまさにこれと言って良いだろう。というか、これとしか言えない。一両編成の電車にたった一人で座っている。電車は既に進んでおり窓から見えるであろう景色なんてものは一切ない。強いていうなら暗闇の中で窓に反射した俺の顔が青ざめていることくらいだろうか。そりゃあ、焦るとも。


「何、君にはこれから裏の世界に来てもらう、ただそれだけだとも我輩の言葉に間違いなどないし、貴様の意見も認めることはないのだが」


 そんな声がすぐ横から聞こえた。慌ててそちらを向いた俺の表情は最初よりも青ざめたことだろう。黒で統一された燕尾服を身に纏い、真っ白な手袋を重ねてステッキに乗せている。探せばもしかしたらいるかもしれない服装。だが、俺が驚いたのはそこではない。


 頭部が孔雀なのだ。そう、孔雀なのだ。体は人間なのに頭部は孔雀、そんな存在を見て驚かない人間はいるのだろうか?いや、いるわけがない。


「何を驚いている……あぁ、表には我のような高貴な存在がいないから驚いているのか。まぁ、無理もあるまい私ほど高貴で美しい存在などどちらの世界を探しても見つかるわけも無いであろうからな」


 そんなことを満足そうに述べると孔雀は口元を釣り上げ、眼を細めて楽しそうな雰囲気を醸し出す。笑って…いるのか?


 と、言うかだ。全くもって状況について行けないんですけど?え?何?なんなの?これ?孔雀?人間?どっち!?俺の頭ではついて行けないんですけど、この電車も何?なんで一車両しかないの?もーわけわかんなーいお家かーえーるー


「聞いているのか?小僧…神無黒斗カミナシクロト


「え、なんで俺の名前知ってんのこの孔雀」


 え、なんなのこの孔雀俺のファン?なんで知っているのかはよくわからないがこんなわけわからん状態なんだもう何が起こっても知らん。


「まぁ、良い。これから貴様にはお前達の世界の裏側、我等側の世界に来て貰う。異論は吐いてもいいが聞かん」


 それ異論いう意味ないじゃん。てか…


「裏側?」


「うむ、君たちの世界と我らの世界はコインの様な関係でな、クロトの世界は科学技術が発展した世界、そして……裏側、僕らの世界は魔法が発展した世界」


 魔法、ねぇ……よくわかんねー


「と言う訳で、頑張れよクロト。僕は、プライドとでも名乗っておこう」


 ニンマリ、そう表現できるであろう程に顔を歪めた孔雀は俺の正面に立つとゆっくりと俺の方に手を伸ばす。そして、軽く押した。


「え?」


 無重力、先ほどまで俺の体を支えていた座席は消え、何もない空間に俺の体は投げ出された。ゆっくりと遠ざかっていく孔雀頭。虚空に浮いて落下していく俺をニヤニヤと見下ろす。

「ざけんなあああああああああああああっっっ!!!!」


 訳のわからない状況、訳のわからない存在。何がどうしてこんな状況になったのかはわからない。ただ、一つ言えることは、これ死ぬんじゃね?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「クロト!!!意識はあるか!?」


 瞼を開けると俺と全く同じ顔の男が焦った表情を浮かべ、俺の体を揺すりながら叫んでいる。違う点といえば頭髪の色が真逆、真っ白な髪と言うところぐらいだろうか。


「シロ、ト?俺…」


「喋るな!!傷が……」


 ああ、さっきのは走馬灯か。シロトの後方ではいまだに戦闘が続いている。俺の他にも数人の仲間が倒れている。軋む体をゆっくりと動かす。立ち上がろうとしたらバランスを崩した。支えにしようとした左腕がない。腹には穴まで空いてる。異常なまでな出血が危険信号をガンガンと鳴らしている。でも


「まて!!立つな、君までやられたら…」


「おい、おい…俺らのリーダーが何弱気なこと言ってんだよ、あのクソをぶち殺さなきゃ、俺たちは死ぬし、人間全員死ぬ。それに…あいつとの約束も守れねーしな」


 俺の視線は周りに倒れている仲間達に向けられる。まだ辛うじて息はある様だ。そして、目の前の同じ顔の神在白斗カミアリシロトの眼を見つめる。


「さっき、ここに来た時のこと思い出してた。あの孔雀頭、似合ってなかったぜプライド」


「それは何回も聞いたよ、全く、こんな状況でも君は…」


 どうやらシロトにも余裕が戻ってきた様だ。さて、やるか。


「いくぞ、相棒」


「あぁ、相棒」


 シロトの肩を借りて立ち上がる。二人の視線の先には彫刻の様な作りの顔、純白の羽が20対直接生えている。ところどころかけているがその彫刻の様な顔の巨大さは異常だ。その彫刻の顔の額にはこの世の存在とは言えないだろう美女が埋め込まれている。


「とりあえず…」


「「あのクソ女神、ぶっ飛ばすっ!!!」」


 神は告げた、お前達は存在してはならないと。悪魔は告げる、贄となれ、と。人間達は窮地に陥っていた。悪魔と天使の戦争に巻き込まれ、永遠に続くかの戦闘に鬱憤が溜まっていた二つの陣営からの八つ当たり、神にもすがる事もできずただ蹂躙される日々。人間達は蛆虫の様に過ごすことしかできなかった。戦火は激しくなっていき、人類は滅ぼされる、そんな時7人の英雄が現れた。

 悪魔からも神、天使からも忌み嫌われた7人は悪魔の中枢を叩き、ついに天界の中枢部に君臨していた女神と対峙する。七日間に及ぶ激しい戦闘の末に7人は女神を追い詰める。が、女神は7人のうちの一人を道連れに次元の狭間へと堕ちていった。仲間を失った6人はそれぞれで世界の復興へと尽力する。それから5000年。物語は動き出す。


「あぁー暇ー」


 黒髪の青年は氷でできた玉座にだらしなく座り込み空を見つめている。彼がいる場所は全てが氷でできている城。城だけではない、大地が、木が、草が、全てが氷でできている。唯一違うとすれば空が蠢いている、ここは次元の狭間に作られた氷の世界。閉ざされた世界には一人の青年と


「死ねぇぇぇぇっ糞虫!!」


「あっぶねえな駄女神」


 振り下ろされた氷のバットを顔をズラすだけで躱す。氷のバットは玉座にぶつかり粉々に砕け散った。


「むっっっっきいいいぃぃぃぃぃ!!!!避けてんじゃないわよこのおたんこなす!!いい加減ぶっ殺されなさいよっ!!」


「いや馬鹿かお前は、馬鹿か。誰が好き好んで殺されにゃーならんのだ」


「こんなとこに閉じ込めておいてっざっけんじゃないわよ!!いい加減私を元の世界に戻しなさいよバーカバーカ」


「馬鹿はお前だクソあま、てかここに引きずり込んだのテメェだろうが頭いかれてんのか」


「うっさい、なんなのよあのクソ虫ども滅ぼしてもう一回世界作り直そうと思ったのに邪魔してくれちゃって、本当!いい迷惑だわ!」


「まぁだそんなこと言ってんの?諦めろよ、てか自分で作った世界が自分の思い通りにならないからって壊すなよ頭おかしいのかお前?おかしいのか」


 ため息をこぼしながら顎に手を当てる。目の前に立つ絶世の美女、かつて戦ったその女神は今ではただの小うるさい奴としか思えなくなってしまった。裏でも表でもないこの狭間に漂ってどのくらいの時がすぎたのだろう。この世界では何も経過しない、何も生まれない。ただ小うるさいだけの女神と二人きりの世界、まさに地獄でしかない。誰か助けろ、このやろう。


「あ?」


 アホ女神から視線を外した時、氷でできた玉座の足元に何かの輝きが見えた。それは広がり幾何学模様を形成する。


「魔法陣?」


 そんな駄女神の言葉とともに魔法陣は眩い光を放つ。


「なんだこれ!?おい!!駄女神!!」


「何コレェえぇ!!??」


 そんな二人の叫びを残し、氷の世界から生命は消失した。そこは狭間を漂う氷の世界。生命の反応はない氷結の地獄。そこの主人は忽然と姿を消した。

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