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第8話

「宝の数は!?」


 街に戻った俺は、すぐに残った宝の数を確認した。

 その数は約800個、思ったほど減ってはいない。


「よかった、まだ宝は残っているんですね。アクアさん、探知スキルで場所が分かりますか?」


「……ああ、見える。宝かどうかわからないが、さっきまでは見えてなかった青い光点が、所々に点在している」


 街の入り口に1つ、民家の前の植木鉢に1つ、壁にも1つ……埋まっているように見える。何はともあれ、あの点を触ってみるか。

 噴水の傍に行って青い点に触れようとすると、水の中にも点が1つ存在するのを確認した。こりゃあ、見つからねえわ。

 とりあえず噴水の前に存在する青い点を掴んでみようと試みる。


「ん? 掴めない……どうなってんだ?」


 青い点は俺の手をすり抜け、その場で微動だにしない。

 よく分からない俺は未知の物に触るかのように、人差し指のみでその青い点に触れてみる。最初はなにも起こらず、もしや俺の考えは間違っていたのかと、不安に包まれようとしていたが、直後にその不安は解消される。


「うおっ!」


 青い点が急に展開し、ウインドウが表示された。

 宝を入手しますか? Yes or no と。


「なるほどね」


「なるほどって、どういうことですか?」


「探知スキルを得ると見える青い点、それを約2秒ってところだな、触り続けると宝を入手できるってことだ。偶然、物凄く運が良ければ見つかりそうだな」


 最初のクリア者、あれはホントに運が良かっただけなんだ。

 指先が青い点に触れていた、だからウインドウが展開された。そう考えるのが自然。運の良い奴がいたもんだなぁ。


「さて、もう1つ展開させるか」


 噴水の中にある青い点、それに触れて点を展開させる。先程と同じように入手するか否かの選択肢が出現する。


「……アクアさんが展開した物でも、私に入手できるんですかね?」


「うーん、どうだろうか。まあやってみるしかないだろ。もしできなかったら、クリスの手を取って青い点を展開させる。それも出来なかったら、探知スキルを取ってもらうしかないな」


 これからさき、どんなスキルが必要になるかはわからない。必要最低限のスキルは俺が取るとして、クリスにはもしもの時のためにスキルポイントを温存しておいてもらいたい。

 ……そうです、俺は限りある道具やポイントは限りなく節約する人種です。

 ドラ〇エのステータスアップの種は最終対決が終わっても残っています。


「じゃあクリス、表示を押して……」


 クリスに宝入手を促した直後、


「ぎゃああああああああああああ!」


 悲鳴が聞こえた。

 いや違う。あれは悲鳴というよりも、断末魔だ。


「な、なんですかあの声は!?」


 驚き、なにも理解できていないクリスは不安そうに俺の肩に手を置く。

 だが俺は、あの悲鳴の正体が分かる。

 それは、最も恐れていた事態。絶望に飲まれ、闇に落ちた人間が出現したのだ。


「……気にするな。早くyesを押すんだ」


「で、でも……」


「早く!」


「はい!」


 大声で促され、クリスは即座にyes表示を押そうとした。

 これで良い。あの悲鳴の主は、もういないだろう。俺たちがすべきは救済ではなく、己の身を守ることだけ。

 この場で最悪の事態が起きる前に、クリアを確定させることだけだ。

 第一、クリアできる数に制限がある以上、見殺しにするという選択肢から逃れようがない。クリスは守ってやる。そう決意し、それが最善の道だと考えたから。

だが名前も知らない誰かを助ける義理などない。

 俺には、全く関係のないことなのだから。

 そう思った直後、視線の先に、ある物を見る。


「う、うぅ……」


 傷ついた人間、死んではいない。だが足はズタズタ、腕には赤い無数の線、他プレイヤーに襲われ、身動きの取れない状態にされたのだろう。

 死ななくとも痛みは現実と同じ。あれだけの傷を受けたのであれば、もう脱落と同義だ。

 残り時間いっぱいまで、死の恐怖に苛まれるのだろう。


「っ……!」


 俺の胸にチクリと刺す何かがあった。この世界が最悪のデスゲームなのだと、頭では理解していた。だがそれは表面的な理解。真に理解などしていなかった。

 それを、やっと今、理解した。


「……くそったれめ」


 忌々し気につぶやき、傷ついたプレイヤーから目を逸らす。

 俺の心には複雑な感情が入り乱れていた。

 とても言葉では言い表せられないほどの膨大な感情が。

 複数の感情の中でも特に膨大な、怒りの感情をこめて、俺は地面に拳を振るう。


 ……だが、その拳は地面に付かなかった。

 この場に広がる光景は、街並みやプレイヤーの姿は、視界から消え去った。

 周りは暗い。だが俺の姿はハッキリと見える。


「あの……アクアさん、これは……?」


 声のした方を向くと、そこにはクリスが不安そうに立っていた。


「……なんだろうな」


 傷ついたプレイヤーを見た。デスゲームを真に理解した。

 心に存在する負の感情に支配された俺は、クリスの言葉に適当に返事をする。


「yes表示を押した直後にここにきたってことは……クリアしたってことですかね?」


「……そうだろうな」


 クリアしたプレイヤーは別の場所に送られるということだろう。

 だとしたら俺はなぜ……ああ、振りかぶった拳が表示を押してしまっていたということか。周りに目がいかないにもほどがあるな。


「あ、アクアさん見てください。あそこ、コングラッチュレーションて出てますよ! やっぱりクリアしたんですよ!」


「そう……か」


 生還に近づいたのに。今この時は安全地帯にいるというのに。

 俺の心には安堵も喜びもない。

 ただただ苦しい。これから待ち受けるデスゲームを想像すると苦しい。

 見捨てたプレイヤーが死んだと思うと苦しい。

 クリスを守り切れないかもしれないと思うと苦しい。

 胸が苦しくて……つらい。


「あ、なんか出てきましたよ。アクアさん、見なくていいんですか?」


「……見るよ」


 無気力に立ち上がり、クリスの指さす方に目を向ける。

 なるほど、煌びやかなデザインのコングラッチュレーションの文字、確かにクリアしたのだろう。一度目のクリアでこの豪華さか、今後のハードルが上がったな。けどこのゲームを作った奴らは天才だ、そんなハードルも易々と飛び越えるだろう。

 ……ああダメだ。現実逃避しようと、意識が別のところに注目してしまう。

 今はそんなことに目を向けてはいけない。集中しないと。


「出てきたのってのは……あれか」


 それは輝く扉。比喩でも何でもなく、扉の形をして輝いている何かがそこにはある。

 不思議と眩しくはない。輝きを直視していても、目を瞑ることはしなくてもいい。


「入ってみるしかないな」


 不安は感じている。だがここには扉しかない。なら入るしかない。


「ドアノブは無いみたいですね。あ、もう開いてる状態なんですか。なんか不思議な気分です」


 俺の力とはいえクリアした興奮からか、クリスは興奮気味に扉の中に入っていった。

 それを追い、俺も中に入る。


「わぁ、すっごいキレイですね、アクアさん」


 目の前に広がる光景は、確かに綺麗な物であった。

 空は暗く、時刻がすでに夜になっているのが分かるほどだ。

 その暗闇を照らす街の灯りが、目を奪われるほどに綺麗……美しい。

 まるで大都会だ。夜でありながら興奮を沸き立たせ、一日の始まりであるかのように錯覚させる輝き。ゲームの中とはとてもではないが思えない。

 俺とクリスが街並みの光景に目を奪われていると、視界を遮るように目の前にウインドウが表示される。


「……ひとまず、休憩ってことか」


 表示された文字を端的に言えば、制限時間になるか、既定の人数のクリア者が現れるまでこの地にいるということだ。

 寝てて良し、遊んで良し、何をしても良し。

 死と隔離されたこの時間を楽しめと、記されてあった。


「クリス、俺はどこかで寝る。お前はどうする?」


「あ、私も一緒に行きます。……何もしていませんですけど、気を張っちゃっていたので、疲れたみたいです」


 何もしてない、か。確かにその通りと言えばその通りだが、それはあくまでも物理的な活躍においてだ。今こうして俺の隣に立っていること、それだけでどれだけ心強いことか。

 もしクリスがいなければ、俺は取り乱して混乱していたことだろう。

 スキルのことにも気づかずに、うろうろと街を無意味に彷徨っていたことだろう。

 生き残るために、誰かを手にかけていたことだろう。

 そして、死んでいただろう。


「今度はきっと、何かのお役に立てるように頑張ります!」


「……ま、出来ることだけやってくれ。それが一番効率が良いからな」


 クリスのような人間には、気を遣った言葉は逆に重荷になるし、非難の声は心を著しく傷つける結果にしかならない。このように適当な感じで接するのがちょうどいい……はず。

 自分の行動に確かな確信を持てぬまま、俺は宿泊施設を探す。

 レベル上げの時にお金は十分に稼げたから、そこそこ高い場所にも泊まれるはずだ。

 こういう時のお約束、男女2人が一つ屋根の下、なんてことにはならないだろう。

 と思って目についた、宿屋というよりも旅館に近い見た目の施設に入り、受付とやり取りを交わすが……。


「あー、現在お部屋は一つしか空いていませんね」


 ……テンプレぇ。

 物語ではありがちの展開が、今まさに目の前にある。

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