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第7話

 街の外、草原が広がる清々しい風景が俺たちの目に映る。駆けだしてしまいそうに広大な風景は俺の心を落ち着かせてくれる。

 まあ、目の前のモンスターの姿がもっと可愛ければ、だが。


「序盤の敵にしては強そうですね」


 目の前の、ヴォルフという名の狼型モンスターを見て、クリスがつぶやく。

 大きさはそれほどでもないが、目に映る鋭利な牙に爪は、俺たちを尻込みさせる。

 だがビビっている場合ではない。さっさとモンスターを倒してレベルを上げ、探知スキルを手に入れなければならない。

 現在モンスターの討伐に乗り出しているプレイヤーは俺たちだけのようだが、いつ他のプレイヤーがこの事実に気付くかわからない。

 もしかしたらほとんどの人間が気付かずに終わるかもしれない。

 もしかしたら今にも大量のプレイヤーがレベル上げに勤しむかもしれない。

 どうなるか分からない以上、迅速な行動が重要なのだ。


「俺が前に出て戦う。クリスは落ち着いたら戦ってくれたらいい」


「で、でも……私もやります。やって見せます!」


「却下。それで死んだらどうするつもりだ?」


「死……! そ、そう……ですね」


 このゲームのプレイヤーは過度なダメージを一度に受ければ、痛みに耐えきれず現実の体が死んでしまう。

 普通のゲームでは痛みなどあまり感じるものではない。ペインフィーラーは限りなく低く設定されており、中には痛みを全く感じない物さえある。

 心臓に不安のある者もプレイする可能性はあるのだ、その配慮は当然。

 そしてその当然の配慮が欠落した今、どんなに弱い相手であっても油断は出来ない。

 ヴォルフが弱いかどうかは知らないがな。


「すみません。意識したら……足が震えて……」


「いや、俺も直接的な表現は避けるべきだったな。悪い、気にするな」


 と言っても、気にするのがクリスという人間だろう。

 このままでは足を震わせながら戦い、致命傷を負う可能性が高くなる。そうなれば俺が大っぴらに戦うことも困難になる。


「死ぬのは怖いです。けど……私も……!」


 決意を持ってナイフを握っているのがよく分かる。気を利かせた言葉では、クリスの気持ちを変えることは出来ない。恐怖を抱えたまま、精彩を欠いた状態で戦ってしまう。

 ここは酷かもしれないが、こう言うしかない。


「そのまま戦われても足手まといだ。自分の命が大切で、俺のこともすくなからず大事に思ってくれるのなら、邪魔するな」


「……!」


 足手まといと、邪魔をするなと、そう言えばクリスは黙るしかない。

 我ながら性格の悪い言い方だとは思うが、今はこうすることが正解のはずだ。

 俺のためにも、クリスのためにも、こうすることが良いはずなんだ。


「そこで見てろ」


 俺は初期装備のナイフを手に持ち、ヴォルフと対面する。

 その頭上には、緑色のゲージが表示されている。俺たちにはHPがないが、モンスターにはあるらしい。それも当然か。モンスターは俺たちのような命を持っていないのだから。


「バウッ!」


 ヴォルフは叫び、俺に向かって直進してきた。

 しかしそのスピードは思ったほどではなく、十分に目で追える速度だ。

 格闘ゲームの世界大会で優勝した俺にとって、対処するのは容易なほどには。


「よっと」


 攻撃を避け、ナイフを構える。狙うはヴォルフの側面、横っ腹だ。

 全力で腕を振り下ろし、ヴォルフの体に深い切り傷を与える。


「もういっちょ!」


 ナイフを裏手に持ち替え、薙ぎ払うように動かして追撃を与える。

 腕を振り切った時には、ヴォルフの体は両断され、直後に霧散していった。


「ん、楽勝」


 モンスターを倒した俺の目の前に、勝利画面が映し出される。獲得経験値とお金、ドロップアイテム、3つを確認した後に、周囲に存在するモンスターに飛び掛かる。

 やはり最序盤のモンスター、驚くほどに弱い。格闘ゲーム世界チャンピオンとはいえ、俺にも死の恐怖は確実に存在している。にもかかわらず、こうして無傷でほとんどの敵を倒せている。


「すごいですアクアさん! そんなにあっさりと倒してしまうなんて!」


 見ると、クリスの目から恐怖の感情が無くなっているように見える。

 俺の強さゆえか、ヴォルフの弱さゆえか、どちらかはわからない。しかし少なくとも今、ここで死ぬことはないという確信を抱けたのだろう。足の震えは止まり、輝きに満ちた目で俺の戦闘を凝視している。

 時間にして1時間が経過したころ、俺のレベルはようやく1上がった。


「ふ~、やっとレベルアップか」


 目の前に現れるレベルアップ画面、そこには確かに獲得スキルポイント3、と書かれている。探知スキルの習得に必要なスキルポイントは2、これで俺とクリスのこの地域での生存はほぼ確定した。


「ステータスは自分で振り分けられるのか。とりあえず、敏捷性重視のステータスと」


 スキルポイントはひとまず保留とし、ステータスアップだけを済ませる。


「あと他は……技能習得ポイントか。これを使って魔法や武器スキルを身につけていく、ってとこだな。クリス、この先なにがあるか分からないから、一応レベル上げを続ける。いいか?」


「はい、もちろんです。私に意見する権利なんかありません!」


 ……自信もって言うなよ。

 クリスのステータスも上がればいいんだが、倒しているのは俺だしなぁ……。


「って、パーティ登録すりゃいんじゃん!」


 MMORPGに当然あるべき機能を忘れていた俺は、慌ててパーティ申請をしようとメニューウインドウを表示させる。


「えーっと……あったあった。そんじゃクリス、申請するから受理してくれ」


「……いいんでしょうか? 何もしてないのに、経験値だけいただいてしまって……」


「いいに決まってんだろ。これから一緒に行動するんだから、実際に戦わないとしても、強くなってもらわないと困る。必要なスキルを2人で活用できるとしたら、それは大きなアドバンテージだし」


「そうですね。そう……分かってるんですけど、やっぱり申し訳ないというか……」


「気にするなって。というかパーティにならない方が迷惑だからな。分かってるか? 受理しないんなら、これからは別行動するぞ」


「や、やりますやります! だから見捨てないでください!」


 やっと受理したか。まったく、めんどくさい性格だ。

 クリスの考えていることも分からんではないが、少しはこっちの都合も考えてほしいものだ。時には寄りかかってくれた方が楽な時もあるんだ。


「そんじゃ俺は引き続きモンスターを狩るから、クリスも覚悟が出来たら戦ってくれ。けど、無茶はするなよ」


「は、はい……!」


 俺の言葉で自分が戦う様子を想像したのか、クリスは再び足を震わせた。

 これは、このゲーム中に戦うことは不可能だな。戦いに本当の死がありえる以上、それは仕方ない。死を意識してしまえば、それを払拭するのは難しい。

 俺も怖いんだ。ゲームの実力がそれほど高くない者は、この恐怖を乗り越えることはほとんど不可能だろう。


「さて、少なくともあと1レベルを上げるとするか」


 地面を蹴り、近くにいるモンスターの元まで移動する。ステータスが上がったおかげだろう。体が軽く、力がみなぎる。

 腕を振る速度も急激に増し、さきほどよりも簡単にこの場所のモンスターを狩り続ける。

 1時間に100体は倒している。1対1体に一切の苦も無く切り捨て、まるで自分がこの世界で最強なのだと錯覚するほどの爽快さだ、

 たとえ最序盤の敵とはいえこれほどまでに無双できるのは楽しい。

 俺は今この場で確かに、ゲームを楽しんでいる。

 そんな時間が3時間ほど経過したころだ。俺のレベルは3になり、再びステータスを更新する。スキルポイントに余裕が出来たこともあり、探知スキルも獲得する。

 すると、俺の脳内に流れ込んでくる情報が、劇的に変わった。


「っ……!」


 突然の眩暈が俺を襲う。だがそれは一瞬のこと、すぐに俺の意識はクリアな物へと変わる。脳に溢れるモンスターの位置情報は驚くほどに俺の脳に収納され、処理する。

 まるで思考の速度が上がったと錯覚するほどの劇的な変化だ。

 あるいは、本当に思考速度が上がっているのかもしれない。

 腐っても天才ゲームクリエイター、ということか。


「さて、できればあと1レベルはあげて……」


「あ、あー!」


 再びモンスターを倒しに向かおうとすると、クリスが慌てた様子で声をあげた。


「ど、どうしたクリス! 誰か来たか!?」


 俺たち以外のプレイヤー、もしくは強そうな敵が現れたかと身構えたが、俺の視界にはもちろん、探知スキルによって流れ込んでくる情報にも誰かを探知した様子はない。


「一体何が……」


「アクアさん、あれ見てください! あれ!」


 クリスが慌てて街の上空を指さす。そこに視線を向けてもあるのは制限時間と宝の数が記されたウインドウだけだ。あとは取り立てて気にするものがあるわけでもない。


「なんだ? なにかおかしな点でもあるか?」


「減ってるんですよ! 宝の数が! さっきまで2400個あったのに、今は1500個を切ってます! というか現在進行形で減ってます!」


「……あ!」


 言われてやっと気づいた。宝の数がどんどん減っていっている。

 1個、10個、20個と、序盤の静けさが嘘のように減少している。


「な、なにが起きて……」


 混濁する思考で、俺は状況を認識しようと試みる。

 俺のように、探知スキルの存在に気付いた? ありえない。

 気付いているのならこの場所にもっとたくさんのプレイヤーが存在するべきだ。クリア者が10や20なら別の場所でレベル上げに勤しんでいるのだろうと理解できる。だが数は1000近くある。俺とクリスがいない場所以外にプレイヤーが偏っているなど、絶対にない。


 なら街でヒントのようなモノが時限式で明かされた? それこそありえない。

 これほど急激にクリア者が出るほどのヒントは、もはやヒントではなく答えだ。

 そんなバカみたいなことを、あのアースがやるはずない。


「いや、考えても仕方ない。行くぞクリス! 今すぐに街に戻って、宝を見つけるんだ!」


「は、はい! 分かりました!」


 何が起きてるかはわからない。なら今すべきことは、俺とクリス、2人分の宝を確保することだ。

 俺は全速力……はクリスが追い付けなくなるから、そこそこのスピードで街まで戻った。

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