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第4話

 驚きも冷めやらぬ中、カルセドニーは俺たちプレイヤーに向けて語り始める。

『この世界の基本ルールを理解してもらったのなら、話を次のステップに移動しよう。これからみなさんにやってもらうのは……』


「待てよ!」


 本題に入りかけたところを、またしても遮る者が現れる。目の前で人が大量に死んだのに……いや、死んだからだろう。こんな状況に耐えきることができないと考えたプレイヤーは、どうにかしてこの状況を何とかしようと模索していた。


「俺たちがお前の言う通りゲームをしなくても、時間が経てばどうせ俺たちは解放される! こんな茶番に付き合う必要なんかないんだよ!」


『どうしてそう思うのかな?』


「お前の言ってることが本当なら、現実世界では大量に死者が出たことになる。そんな大事件が起きたら、警察が黙っちゃいない! 俺たちが付けているブレインコネクターは外されて、このゲームから解放されるんだ!」


 ……残念だが、それは無い。

 周りのプレイヤーは男の言うことに納得しそうになっているが、俺はそれはないと確信する。確信するに足る理由がある。


『残念だが、それはないよ』


「なんだと!?」


『ブレインコネクターは外そうとした場合や分解されそうになった場合、即座にデータが保存されプレイヤーを強制ログアウトするようになっている。これはもともと備わっている機能だ。知っている人も多いんじゃないかな?』


 そう、それが理由の一つ。

 ブレインコネクターの取り外しには最低でも10秒はかかる。さっきの惨劇、目視した限りでは最高でも8秒までしか耐えられていなかった。つまり、普通に外そうとすれば確実に死ぬということだ。

 無理に壊そうとすれば、それはそれで俺たちの生身に危害が加わるかもしれない。


「だとしても、お前たちアースが警察に捕まれば話は別だ! このゲーム自体が終わる!」


 いや違う。確かにアースが捕まれば今ゲームは終わる。

 だけどそれは無い。それは今の状況が証明している。


『それならば大丈夫だ。私たちはこのゲームの運営をちょっと特別な場所でやっていてね、警察に捕まるような間抜けは晒さないよ。それになにより、このゲームが始まり、最初の死者が出てからすでに1時間は経っている。1時間ていうのは結構長い時間だ。それなのに私たちはこうしてゲームの運営を問題なく行えている。まだ説明は必要かな?』


「ぐっ……それでも……時間の問題だろ!? お前らがどれだけ秘密裏に動いてても、こんな大事件だ! 一週間もしないうちに見つかって終わりだ!」


『なるほど、それはあり得るかもしれない。長い時間をかければ私たちを捕らえるかもしれない。だけど、それも心配ない。このゲームは最長でも1週間までだ。それぐらいなら見つかりはしない』


「1週間……」


 自分たちがこの死もあり得るデスゲームに参加することが確定したことに、プレイヤーは絶望する。死にたくないと嘆く者、人を知らぬ間に殺してしまっていたことに罪悪感を抱く者、十人十色の反応を見せている。


『わかってくれたようでなによりだ。それじゃあ説明を始めよう。君たちの運命を左右する、重要なゲーム説明をね』


 表情は見えない。だがうすら笑っていることが明確に分かる口調で、カルセドニーは語る。腹の立つことだが、俺たちの運命はこいつの手のひらの上にある。

 生きるか死ぬか、そのすべてが他人の手のひらの上。

 胸が締め付けられるような思いだ。

 だけど、冷静にならなければいけない。これから行われるゲーム、それをクリアできるかどうかは俺たちの腕次第。生き残りたければ、この加速する心臓の鼓動を静めなければいけない。


『君たちにはこれから、複数の地域でこのデスティニー・オンラインをプレイしてもらう。地域ごとには課題があり、それをクリアすることでステージクリアすることが出来る。よろしいかな?』


 俺はカルセドニーの事実確認に無言でうなずく。

 この場にいる何人が、その呼びかけに反応できただろうか。


『反応が乏しいな。だけど、説明を続けさせてもらおう。といっても、これからの説明はゲーム全体についての説明ではなく、最初の地域での課題の説明になる。心して聞くといいよ』


 プレイヤーたちは固唾をのむ。いつまでも絶望してられないと、絶望に染まる眼をカルセドニーに向ける。


『最初の地域での課題は……宝探しだ』


 ……宝探し?

 この場には不釣り合いな子供の遊びみたいな課題が、俺たちプレイヤーに少しの安堵を与えた。しかしそれはつかの間の安堵、直後の言葉に再び絶望に叩き込まれる、


『これから君たちはこの世界の北にあるアレフ地域に移動される。そこで私たちが用意した宝を探し手に入れること、それがクリア条件です。ただし、宝の数は今ここにいる人数の4分の1しか存在しない』


 4分の……1?

 てことは、生き残っている人間が5万人、そのうちの3万7千5百が死ぬ?

 途方もない死者の数に、プレイヤーの中に存在していた奮起の感情が、急速に凍てついて行く。自分なんか生き残れないと、そう絶望する。

 その中で俺は、別の部分に恐怖していた。

 宝探し。言葉だけ聞けば何とも和やかな雰囲気の物。チュートリアルの時のように人を殺す必要のないゲーム。だけど、俺は予想してしまった。

 これから起こるかもしれない光景を……。


『絶望してるね。それも無理はないか。宝の数はプレイヤーの4分の1しかない。生き残れるかどうか、微妙だものね』


 微妙どころの話ではない。確率75%で死ぬ、それがどれほどの絶望か。


『みなさん、とても悲しそうな顔をしてますね。そんな顔しないで、是非このゲームを楽しんでもらいたいものなんですけどね。結構な自信作なので』


「ふざけるな! 死ぬ確率が75%もあって、楽しめるか!」


『……まあ、このゲームを楽しむかは自由です。このデスティニー・オンラインをゲームとしてプレイしてもらいたいし、あなた方もゲームのプレイヤーなのでそうした方がよろしいと思いますが、仕方ありませんね。宝探しに必死になってください』


「言われなくてもそうするに決まってんだろ!」


 カルセドニーの高みにいるが故の発言はプレイヤーにとって非常に腹立たしい。死の恐怖に包まれた人間がゲームを楽しめるわけがない。自然と必死になる。

 血眼になり宝を探す。本来のMMORPGとして楽しむやつなど、絶対にいない。

 どれだけ口を酸っぱくして、しつこいぐらいにゲームを楽しめと言っても、誰もこのゲームを楽しまないだろう。

 それどころか、周りにいる人間はすべてが敵、一瞬たりとも気の抜けない生存競争が始まるのだ。楽しむなんて感情、入る余地がない。


『それでは、何かご質問のある方は挙手を』


 カルセドニーがそう促し、一人のプレイヤーが手を挙げた。


「地域の総数は?」


『それについては答えられません。あくまでも最初の課題の質問に限定します』


 質問を一蹴して、再びプレイヤーに視線を落とすカルセドニー。誰か挙手をしないか広場をぐるりと見まわしている。


『質問はありませんか? 生き残る確率を上げるために、少しでも疑問は解決した方がいいと思うけど?』


 言われても、手をあげる者は誰もいない。情報が少なすぎる今、疑問点そのものが思い浮かばないのだ。

 だがカルセドニーの言う通り、生き残る確率を上げるためには、どんな些細な質問でもぶつけてみるべきだ。そう思い、俺は意を決して手を上げる。


『お、さっきログアウトするなって叫んだ人だね。それじゃ質問どうぞ』


「クリア条件を達成できなかったら、絶対に死ぬのか?」


 縋るような気持ちで俺は聞く。

 カルセドニーはクリアできなかったらログアウトとは言っていなかった。言うまでもないことだったから言わないのかもしれないが、それでも俺は一抹の期待を込めて聞く。


『もちろんさ。ペナルティのないゲームなんてつまらないからね。クリアできなかった者はログアウト、それは決定事項だ。そうプログラミングしているから、私たちでさえそのルールは覆せない。あ、ゲームをクリアしたらプログラムは自動で初期化されることになってるから、クリアしたら安全にログアウトできるよ』


「……じゃあ、宝を見つけられなかったら即死か?」


『まあ基本的にはそうだね。宝探しなんだし。それがいやならこのデスティニー・オンラインを真剣にプレイすることだ。自分達にできることを考え、実践すること。あ、今のは私なりのアドバイスだからね?』


 それを最後に、俺の質問は終わった。周囲からは何をいまさらと言った質問だったかもしれない。中には往生際が悪いと思う人間もいただろう。

 それでも、俺は希望を持ちたかった。この場にいる全員が生き残る希望を。


『それじゃあ質問タイムはこれで終わり。今から君らをさっき言ったアレフ地域に転送する。ちなみに人数は今ここにいるだけ、5グループに分割して行う。それと……』


 その時、カルセドニーの顔がほくそ笑んだかのように見えた。


『この世界では君たちを完全に再現している。過激な行動は控えることだね』


 ……なに?

 カルセドニーの言葉にプレイヤーたちはざわめき、だが質問をする間もなく俺たちの体が光に包まれ始める。転送が開始した、ということか。


『それじゃあ、みんな仲良くプレイしてね』


 到底無理なことを最後に発し、カルセドニーは俺たちを見送った。

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