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第24話

 2人を見捨てる選択肢が頭の中によぎったことは認めよう。

 カルセドニーの甘言に惑わされたことは認めよう。

 だが俺は断った。

 命の保障をされたラスボスの座を断り、この場に舞い降りた。


 あの時の、カルセドニーの暖かな顔が俺に気付かせてくれた。

 迷い、苦しみ、どうすればいいか分からない時、差し伸べられた光がどれほど輝いているかを、あの悪魔が気付かせてくれたんだ。

 クリスとカイヤに思うところはある。俺の感じた罪悪感を抱いていないことに、何かを感じたことは認める。

 けど2人にとって俺は、光なんだということが分かった。


 罪悪感を感じていないからなんだ。あの2人は死ぬかもしれないという恐怖を肌で味わっている。絶望している。

 その絶望の果て、俺という救いを得た2人の喜びは、どれほどだっただろうか。

 それを知ったからこそ、俺は2人を見捨てることだけは出来ない。


 2人を助けることこそが、このゲームで俺のすべきことだと分かったから。

 2人が死ぬことが俺にとって最大の苦しみだと気づいたから。

 俺は、このゲームの中だけであろうとも、2人の光であり続けようと心に決めた。


「2人とも、後は任せとけ」


 見ていたよ、クリス。

 お前が苦しみながら戦う姿を。

 クリスを見て気付いたよカイヤ。

 お前が魔法を使って、クリスを引っ張ってきてくれたことを。

 これからさきは、俺の役目だ。


「レッドドラゴン、お前を倒す」


 そこから先は、早かった。

 そもそもの話、このゲームのラスボスであるエンペラー・オーガを打ち倒した俺に倒せないモンスターなど存在するはずがない。どのようなモンスターが相手であっても、俺は負けない。

 自信に満ち溢れ……いや、正直怖かった。足は震えてたし、涙だって流しそうになった。

 それでも、俺は戦った。


 俺の後ろには、傷つけてはいけない人たちがいるから。

 決して譲れない物を背負っているから。

 だから、どんな強敵にだって立ち向かえる。

 どれだけ怖くても、守るためなら俺はなんだってできると信じ、ナイフを振るう。


 時間的には10分も経っていないだろう、スキルを駆使してレッドドラゴンを倒す。

 目の前に輝くコングラッチュレーションの文字。

 俺はそれを見向きもせずに2人に向き直り、言いたかった言葉を口にする。


「2人とも……悪かったな。ごめん」


 そう言うと、2人はキョトンとした顔つきになった。

 3秒ほどの沈黙の後に、まずはカイヤが口を開く。


「ごめんってなんすか? 謝らなきゃいけないのは、頼りっきりだった自分たちの方で……」


 それに続いて、クリスは激しく頭を下げた。


「私の方こそすいませんでした! いつもアクアさんに頼って、苦しい思いをさせて!」


「い、いや俺が悪かったんだって。モルガに金を奪われた後、ひどいこと言っちまっただろ? さすがに言い過ぎたって……」


「何言ってるんですか、自分たちが悪いに決まってるっす! 何もしないくせにアクアさんにどうにかしてもらおうなんて都合の良い事ばっか考えて、マジ最低っす!」


「カイヤちゃんはまだ支援魔法で頑張っていたじゃない! 私なんか、本当に何もしていない、クズみたいなものです! だからアクアさんが謝らないでください!」


「俺が悪いんだよ!」

「私が悪いんです!」

「自分が悪いっす!」


 終わることのない無限ループ、誰一人として他人が悪いと思ってはいない。

 俺は本当に俺が悪いと思うし、クリスたちもたぶん、本当に自分が悪いと思っている。

 やがて30回ぐらい謝罪を繰り返した俺たちは沈黙し、互いに顔を見合わせる。


「…………もう、やめよう」


「そう、ですね」


「……すんませんっす」


「だから謝るなって! もう終わり、誰も悪い人はいない。以上!」


 無理やりこの話を中断させる。もうこのわけわからない謝罪大会に意味はない。

 互いが自分を悪いと思って、心の底から謝罪をしているのならそれ以上言うことはない。


「……そういえば、いつまでこの場にいるんですかね?」


 ボスを倒したのにその後なにも起こらないことに、クリスが首をかしげる。


「そっすね。前ならわけわかんないとこに飛ばされたり、休息の街に移動する選択肢が出現してたっすけど、今は何ともないっすね」


 当然の疑問だな。もしかしたら他にもボスがいるのかもしれない、そう思わせる空白の時間だ。だが俺は知っている。

 この空白の理由を、そして今後のゲームを。


「安心しろ2人とも、デスゲームは終わりだ」


「「え?」」


 素っ頓狂な声をあげる2人に状況を説明しようとしたが、その間もないほどの速さで爆音のファンファーレが鳴り響いた。


「な、なんすかこれ!?」


「……終わりの合図だ。見てみろ、空を」


 いつの間にか開けていた空を見上げ、クリスとカイヤが声をあげる。


「……きれい」


「わぁ……花火って、こんなにきれいなんすね」


 空中で咲く満開の花火に目を奪われる2人。

 俺はその様子を、満足げな表情で見つめていた。


「……守れて、よかった」


 花火の音とファンファーレにかき消された俺の声、2人に届くことはない。

 特に伝えるつもりで放った言葉ではないし、何気なく言ってしまったに過ぎない言葉だ。

 誰の耳に届かなくてもいい。これは他でもない、俺が満足した出来事なのだから。


「2人とも」


 今度はかき消されない声で、俺は2人の耳元で声を発した。

 振り返る2人の目を見て、心の底から良かったと思える。

 だから、謝罪でもなく恨み言でもなく、俺はありのままの気持ちを伝える。

 転送される準備が出来たのか、光に包まれながら俺は笑顔でこう言う。


「ありがとう」


 その言葉を聞いたクリスは、カイヤは、驚いた顔でログアウトしていった。

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