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第21話

「……ここは?」


 顔を上げて周囲を見回すと、俺は見知らぬダンジョンの中にいた。

 無骨な岩が並び立ち、所々に火の照明がついている。

 キョロキョロと見まわしていると、後ろに二つの影があることに気づく。


「あ、アクアさん……」


「こ、こんちはっす」


 気まずそうに、クリスとカイヤが声をあげた。

 目線を小刻みに揺らしながら、俺を見ようか見まいか悩んでいる様子だ。


「2人とも」


「……!」


 俺が話しかけると、2人はビクッと体を震わせた。

 その反応は俺に自己嫌悪をさせ、胸の内の罪悪感を膨れ上がらせる。

 せめてもと、謝罪の言葉を口にしようとする。しかし、発そうとした俺の言葉は、遮られる。


『やあみなさん課題クリアおめでとうございます! 早速ですがこのタイミングで、エクストラステージに行ってみましょう!』


「……エクストラステージ?」


 俺たちは3人が首をかしげた。


『このステージではみんなにグループ分けしてもらいます。グループの分け方は私の独断と偏見で決定するので、苦情は一切受け付けません!』


 グループ分け? まさかそれって、クリスたちと分けられるのでは……。


『ちなみにグループは2つに分ける。出来る人間と、出来ない人間だ!』


 ……は?

 その分け方って、もしかしなくも、俺たちを分断させるものだ。というか、それはパーティの足手まといをゲームマスター側が勝手に排除するということ。


『それじゃあグループ分けの結果を伝えよう』


 カルセドニーが言葉を発し、突如として俺と、クリスとカイヤの間に赤い壁が出現する。


『分かったかな、自分がどっちのグループに属したかは? 課題クリアの条件はただ一つ、そのダンジョンをクリアすることだけだ。君たちにとっては朗報だね。宝探しやお金稼ぎと違って、限りある資源の奪い合いじゃないんだからね』


 朗報だと? ふざけるな。

 そんなもの、絶望以外の何者でもない。俺や、パーティ内で率先して動いてきたプレイヤーにとっては朗報かもしれない。足手まといがいない状況は、のびのびとプレイできることだろう。

 だがクリスたちはどうだ? 実力もないのにダンジョンを踏破しろと、いきなりそう言われたのだ。雑魚モンスターとすら戦えない2人にとって、絶望的なルールだ。


『ちなみに、パーティに所属してないプレイヤーは自動的にできる人間たちと同じグループに所属する。まあ、ダンジョンの難易度に変わりはないから、いらぬ振りわけだけどね。制限時間は12時間、健闘を祈るよ』


 それで、カルセドニーの説明は終わった。

 俺は頭を抱えようとしたが、視界に移るクリスとカイヤを見て、なんとか冷静さを取り戻そうとする。


「お前たちに言いたいことが色々あったが、それは後だ。俺の話を聞け」


「は、はい!」


「はいっす!」


 自らの命がかかっているからか、いつになく2人の表情が真剣だ。

 俺からはっきりと足手まといと言われたことなど、この時には吹き飛んでいる。


「いいか、まずは探知スキルをどっちかが獲得しろ。罠の可能性を考えたら、探知スキルは絶対必要だ」


「わ、分かりました。それじゃあスキルポイントに余裕がありますし、私が取ります」


「それとクリス……お前が前に出て戦うんだ」


「私が……ですか?」


「カイヤは獲得している魔法や道具は支援タイプだ。だけどお前の装備は、近接戦闘でその真価を発揮する。お前が……お前の手で、道を切り開くんだ」


 我ながら、酷なことを言っている。状況的に仕方ないとはいえ、足を震わせている女性に対して前に出て戦えと、死の恐怖と戦えと言っている。


「それとカイヤ!」


「な、なんすか!?」


「これからは攻撃魔法も使え。だがクリスが戦っている時じゃない。基本戦闘は、お前がまず魔法を使ってからだ。カイヤの攻撃後に、クリスがとどめを刺す、それが今のお前達にできる最善の戦い方だ」


 今は、これしかない。

 これが、今の段階で出来る最善手のはずだ。

 問題は敵の強さだ。もしもモンスターの強さがカイヤの魔法でHPの半分以上を削り取れるものなら、希望は十分にある。死の恐怖、それに抗いながら、恐怖しながらも戦えるはずだ。

 だがもしも、魔法に完全な耐性を持つ奴がいたら、その時は近接戦闘しかない。

 死の恐怖から、真っ向から立ち向かうしかない。

 果たして、こいつらにそれが出来るであろうか?


「アクアさんも……頑張ってください」


「……俺の心配はいらない。お前たちは精一杯、自分が生きることだけを考えろ」


 ダンジョンの難易度が同じなら、クリスの心配はいらぬものだ。

 もしも俺が死ぬようなことがあれば、それは傲慢でも何でもなく、誰一人としてクリアできないダンジョンということだ。


「時間制限がある。そろそろ行くぞ」


「……はい。また、会いましょう」


「頑張るっす。自分、アクアさんに言わなきゃいけないことがあるんす」


「それは私もです」


「……俺も、ある。今言っといてもいいんだが……それは、お前らのクリアを信じてないようなモノ、だよな?」


「アクアさん……」


「だから、生きてまた会おう! その時は俺に……」


 謝らせてくれ。

 最後の言葉だけを飲み込み、俺は背を向ける。

 2人が生き残ることを信じるしか、俺にできることはない。どれだけ足掻いたところで、ゲームシステムそのものを覆すなんてことはプレイヤーの一人に過ぎない俺にできるわけがない。


「アクアさん、お気をつけてっす!」


「死なないでくださいね!」


 誰が誰に向かって言っているのか。

 雑魚モンスター1体にすらてこずる奴らが、世界王者を心配なんてな。

 俺はうっすらと笑みを浮かべながら、未知なるダンジョンを駆け抜けて行った。

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