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第18話

「よし、あと少しで目標金額に到達だな」


 第二の地域に飛ばされ35時間が経過したころ、俺たちの所持金はすでに25万を超えた。

 あと数時間もすれば目標の30万に手が届くだろう。


「それにしても、あんまり人が来ないのが驚きっすね。あのモルガってプレイヤー、どうしたんすかね?」


 カイヤが順調すぎるこの状況に、疑問を呈した。

 それもそのはず、このダンジョンには誰1人としてやってこない。別の場所にもダンジョンがあると考えればプレイヤーが分散しているとも考えられるが、にしてもおかしい。

 少なくともモルガ達は、このダンジョンに来るべきだ。他のダンジョンを探すよりも、その方がずっと効率的なんだから。

 そのことに気づかない奴が、このダンジョンを見つけることなどできないはずだ。


「気にすることはないんじゃないかな? アクアさんのプレイを邪魔する人が誰もいなくて、むしろ好都合だと思うよ」


「それもそうっすね。アクアさん、その調子でバンバンお金稼いでくださいっす。支援魔法もバンバン使うっすから」


 カイヤはレベルアップで習得した支援魔法をふんだんに使い、俺のステータスをこれでもかと上昇させた。

 速度に筋力、それらを極限まで強化した俺にとってもはやメイルソルジャーなど赤子の手をひねる同然に容易く倒すことが出来る。一体に10秒も費やすことなどなく、まさに瞬殺だ。

 そう、全てが順調に進んでいたのだ。

 だが、希望の真っただ中にいる俺たちを、絶望に叩き落とすプレイヤーの影が迫っている。


「……2人とも、隠れてろ」


「え? どうしたんですか?」


「なにか……あったっすか?」


「いいから隠れてろ。そこの岩陰に、見つからないようにだ」


 クリスたちを無理やり岩陰に押し込み、俺は迫りくるプレイヤーたちに意識を集中させる。探知スキルにより、俺は感じたのだ。

 50名ものプレイヤーが、一斉にこのダンジョンに入り込んできたのを。そしてそいつらは、もう俺たちと目と鼻の先にいる。

 クリアも目前という段階というこの状況、不安が広がる。


「お、いたいた。アクアだっけ? 久しぶり」


 俺の前に現れたプレイヤーは、以前ここで出会ったモルガだった。

 ゾロゾロとプレイヤーたちを引き連れ、飄々と俺に手を振っている。


「なんだその大人数。ボスにでも挑もうって言うのか?」


「いやいや、今回の目的はボスじゃない。俺たちはあくまでも安全に、傷つくことなく金を稼ぎたいんだ」


「……同感だ。ならさっさと奥に行け。このあたりの敵は今倒したばかりで、再出現には時間がかかるだろう」


 道を明け渡し、モルガ達を奥にいざなう。

 俺たちの狩り効率は下がってしまうが、それはもう仕方がない。あと5万、別の場所で地道に稼ごう。

 そう思っていたが、モルガの言葉で俺の体は凍り付く、


「いやぁ、モンスターの再出現を待たなくっても、別にいいんだ」


「なんだと?」


「だって目の前に、大量の金を持った敵がいるんだからよ!」


「……!」


 瞬間、モルガ達50名のプレイヤーは武器を構えた。

 剣に槍に短剣に……中には宝と思しき煌びやかな武器を携えている。


「何の冗談だ?」


「冗談なんかじゃないさ。ただな、お前みたいな強いプレイヤー、仲間にならないんなら潰しておこうと思ってさ。強敵がいなくなってお金も稼げて一石二鳥、って感じ?」


 まるでなんでもないことかのように、モルガは笑いながら俺ににじり寄る。

 いや、モルガだけではない。取り巻きのプレイヤーたちも全員、歪な笑みを浮かべながら俺へと歩みを進める。


「……そんなに、金に切羽詰まっているのか?」


「俺たちの所持金はすでにボーダーラインを超えている。これは単なる、保険だ」


「ふざけるなよ。保険で人の命を散らそうってのか?」


「俺たちはすでに人の命を奪っている。1人も2人も同じさ」


「同じなわけないだろ! チュートリアルの時は不可抗力だった! そうとは知らずにやってしまった、しょうがないことなんだ! だが今のお前らはどうだ? この世界の死が現実の死と知りながら俺から金を巻き上げようと……殺そうとしてる!」


「生き残るためだ」


「こんなことしなくてもお前らは生き残れるだろ!」


「お前みたいな奴が生きてると、生き残る確率が減る。分かるだろ?」


 分かる、分かるさその理屈は。

 この金稼ぎも、宝探しも、限りある資源の奪い合いだった。

 有力なプレイヤーの排除が自分たちの生存確率を上げることだってのは、重々承知している。


 けど! それは絶対に踏み越えてはいけない一線なんだ。人としての在り方を根底から捻じ曲げる、最悪の行いなんだ。


「さ、問答はここまでだ。どうせ殺さないと高を括られて金を出すのを渋られるのは面倒だし、少しグサリと行かせてもらうぜ。お前ら、やるぞ」


『おおおおおおおおお!』


 雄叫びとともに、複数のプレイヤーがなだれ込んできた。

 俺は手に持つ剣を力強く握りしめ…………手放した。


「ふん、諦めたか。だが、一太刀くらいはくらいな!」


 名も知らぬ男の攻撃、喰らえば大ダメージは必定。

 きっと、傍らで見ているクリスたちは恐れ戦いていることだろう。

 だが所詮、弱者の攻撃だ


「ドシロートが」


 迫りくる凶刃を難なく避け、俺は男の腹部に拳をめり込ませる。


「ぐっ……はっ……!」


 敏捷型とはいえ、レベルを格段に上げた俺の一撃は、悶絶させるには十分な威力だった。

 一人を倒してすぐに、別の男が槍を突く。


「殺す度胸はあっても、実力は比例してないみたいだな」


 無数の攻撃、俺はそのすべてを紙一重でかわし続ける。

 避け、攻撃し、避け、攻撃し……それらを繰り返し3分ほど、敵の人数は30人ほどまでに減っていた。


「ふーん、こいつらじゃ手も足も出ないか。こりゃあ、俺らがやるしかないかな」


「お前らがやっても同じだ。俺は、誰の攻撃も喰らわない」


 そう宣言して、立ち去ってもらいたかった。割に合わない戦いと、そう判断してくれることが俺にとって最高の展開だ。

 しかし、直後に俺にとって最悪の展開は訪れる。


「きゃあ!」


 俺の背後で、女性の悲鳴が響き渡る。

 見ると、2人の女性プレイヤーが、クリスとカイヤの喉元にナイフを突きつけていた。


「てめえら! なにしてやがる!」


「おっと、動くなよアクア。動けば、俺の合図であいつらの顔面に赤い線が刻まれるぜ」


「くっ……!」


 どこまで外道なんだ。

 俺を殺すという選択肢を取り、正面から殺そうとしてくるかもと思えば、人質を取って俺を脅す。

 卑怯卑劣、人として地に落ちすぎている。


「ア、アクアさん……」


 縋るような2人の目、俺は力強く握った拳を、力なく開いた。


「決まりか。さ、お金をくれよ」


 促され、俺はすべての所持金をモルガに明け渡した。

 これで俺の所持金は0、制限時間は残り10時間ほど。

 3人で生還することは、不可能になった。


「あ、それと持ってる武器もくれよ。宝はもらえないから、別にいいけどよ」


「くっ……!」


 何もかも、モルガは奪う。

 金も、金を稼ぐ手段すらも。

 俺から、命を奪い去る。


「ハッハッハ! 一人しか戦わないのにこれだけ稼ぐって、お前はすごいな! じゃあな、また会おうぜ」


 高らかに笑いながら、モルガたちは去って行った。

 それを、憎々しげに俺は見送る。


「な、なんであいつらは、こんな場所にまで来て、自分たちを襲うんっすか!?」


 モルガが立ち去った後、カイヤが涙交じりに叫ぶ。

 俺はそれに、冷静に答える。


「狩りをするなら、小さいネギよりデカいネギを背負ったカモを狙うものだ」


「そ、そんな……じゃあ、自分たちは最初から狙われてたんすか?」


 俺は無言でうなずく。

 モルガ達に目を付けられた時点で、俺たちの今の状況は運命として決まっていたと。

 クリスとカイヤは、絶望を宿しながらも、俺という存在に希望を見出し話しかける。


「あ、あの……これから、どうしたら……」


 2人にとって、今が最大の窮地だ。

 残り時間はあと10時間ほど、俺一人ならば生き残れる時間だ。

 見捨てられたくない、死にたくないと、涙を浮かべて俺を見る。


「……3人じゃ、生き残れない」


 クリスたちの気持ちは分かる。死にたくないと嘆く気持ちを理解できなくて、何が人間か。今のこいつらは、絶望の淵に立っているも同義。

 それでも、俺は断言する。

 3人では生き残れないと。


「じ、自分たちも頑張るっす! なんとかモンスターを倒して、お金を稼ぐっす!」


 見捨てられないように、出来るかどうかもわからないこと……いや、出来ないことをカイヤは口にする。


「んなの、出来るわけ無いだろ」


「や、やって見せます!」


「出来ないって言ってんだよ!」


 2人の決意を、俺は粉々に砕く。


「今まで静観していた奴が、いきなりモンスターと戦いだして何が出来る? 右往左往して首を刎ねられるのがオチだ! お前らは、どんな敵にも立ち向かえねえんだよ!」


 2人の震える足で何が出来よう。結局は俺の足を引っ張るだけで、余計に効率が落ちるだけだ。2人が頑張ったところで、悪化することはあっても好転することはない。


「じゃ、じゃあ……自分たちは、どうすれば……」


「奪われたのは俺のアイテムだけだ。お前たちのアイテムを売って金にして、カジノにでも行け。そうすれば助かるかもしれねえよ」


 完全に2人を見放す発言。

 クリスとカイヤは互いを見合い、涙を浮かべ、よろよろと歩き始めた。


「……その……」


「早く行け! 足手まといが!」


「「!?」」


 怯えた2人は、そそくさとこのダンジョンから出て行った。

 その様子を見て、俺は呟く。


「……ここで見捨てるんなら、さっき見捨ててるだろ」


 人質としての価値がある段階で、見捨てるという行為が度外視されているのだ。

 動揺する2人はそれに気付かない。本当に愛想を尽かされたのだと誤解し、唯一の生き残る道、カジノへと向かう。

 これで……いい。

 あいつらに放った言葉は、すべて真実だ。

 3人では生き残れない。俺一人なら、生き残れる。


「俺一人なら……足手まといがいなければ……ボスに勝てる!」


 まともに金を稼げば、俺一人の救済は約束されている。

 それでもなお、俺は全員で生き残るという道を諦めない。

 たった一人で、強大なボスへと立ち向かうことを決めた。

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