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第17話

「この宿屋でいいだろ」


 街に着いた俺たちは、さっそく宿屋で今夜の寝床を確保する。

 ボロすぎず、だが決して豪華ではない普通の宿。お金を節約するべき時、そして疲れをちゃんと取る時、二つのバランスが絶妙な感じの宿だ。


「とりあえず部屋は3人分取るか」


 各々がきちんと休息できるよう、俺は気を利かせたつもりで言った。

 しかし、2人はそれは良くないと声を荒げる。


「ダメですよ、お金は節約しないと。みんな一緒のお部屋にしましょう」


「そっすよ。1ギルでも多く集めなきゃいけないんすから」


 お金を稼いでいない2人は、少しでも役に立とうとしているんだろう。自分たちは限りなく節約して、それで貢献しようと。

 その心意気は良しだ。


「じゃあ部屋は2つ取る。いいな?」


 顔を近づけ、圧をかけるように俺は2人に言った。


「……私は別に、一緒のお部屋でもいいんですけど」


「自分も、みんな一緒の方が楽しいっす」


「ダメだ。男と女が同じ屋根の下で寝るなんて許さない。分かったか?」


「……分かりました」


「分かったっす。じゃあクリスさん、自分と同じ部屋でいいっすか?」


 当然のように、カイヤはクリスと同じ部屋に泊まることをお願いした。

 おもわず自分の耳を疑ったが、クリスを見てカイヤが言っていることを考えて、聞き間違いではないようだ。


「えっと……カイヤ? 俺の話を聞いてたか?」


「はいっす。男と女が同じ部屋に泊まっちゃいけないんすよね? だから自分、クリスさんと2人で泊まろうかと……」


 そこまで言った時点で、カイヤは俺の意図を察した。

 ついでに目を見開いているクリスを見て、声を荒げた。


「あー! もしかしてお2人とも、自分のこと男だと思ってたっすか!? ひどいっす! 自分ちゃんと女っすよ! 君呼びで怪しいなとは思っていたっすけど!」


 憤慨しながら、俺とクリスの顔を交互に見て怒号を飛ばす。

 うん、確かに怒っていい案件だ。女を男と勘違いするなど、失礼にもほどがある。

 けど……カイヤが女だったか。

 確かに、顔立ちは少年ぽさもあるが、少女って感じもある。

 声も少し甲高い感じで、声変わりしている男子にしては女の子っぽい気もする。


「ふんだ。どうせ自分、チビでペチャパイで女としての魅力0っすよ。クリスさんみたいに美人てわけでもないし」


 不貞腐れたようにそっぽを向くカイヤ。

 それを見て、クリスはフォローを入れる。


「そ、そんなこと、カイヤ君……カイヤちゃん、可愛いわよ? その……ショタコン? そういう人たちの受けはいいと思うよ?」


「クリス、それを言うならロリコンだ。というかそのフォローはどうかと思うぞ」


「いっすよもう! 変に気を遣われて、自分の心臓グサリッっす! どうせ自分は少年趣味の変態にしか好かれないんすよ!」


 クリスの言葉は止めの一撃になったようで、そっぽを向いてそれ以上なにも言うことはなかった。

 これ以上フォローしようとしても、なんて言ったらいいか分からない。正直、少女よりも少年に見えるし、気の利いた言葉を言えるほど内面がイケメンではないし。

 こういう時はそっとしておく方が良い。


「それじゃ、カイヤとクリスは一緒の部屋で良いな?」


「は、はい。大丈夫です」


「……なんでもいっす」


 気まずい状況になったな。クリスには悪いが、あとのことはすべて任せてしまおう。

 俺はお金を払い、自分の部屋までそそくさと歩いて行った。

 簡単な食事を済ませ、今日のレベルアップで得たポイントと習得できるスキルや魔法を一通り確認し終え、就寝についた。


     *


「ふふふ、面白くなってきたね。どうなるか見物だよ」


 プレイヤーたちの様子を、余裕の笑みを浮かべながら見る者がいる。

 このゲームのゲームマスター、カルセドニーだ。

 街周辺で益にならないモンスターを狩る者の動向は早々に見ることをやめ、ダンジョンを発見した者たちを常に監視下に置いている。

 アクアたちやモルガたち、その他100人ほどのプレイヤーの情報は、すでにカルセドニーの頭の中に収納済みだ。

 その中でも特に、カルセドニーはアクアのことを気に入っているみたいだ。


「その少年が、どうかしたのか?」


 ゲーム制作者の一人が、笑いながらプレイヤーを見るカルセドニーに疑問の声をあげた。


「いやさ、面白いことになったなぁと思って」


「面白いこと?」


「うん。このアクア君ってさ、波長を見るにプレイヤーの中で一番罪悪感を抱いているみたいなんだ」


「……それも、余裕のなせる業だな」


「確かにね。彼にとってこのゲームは、少々難易度が低かったみたいだ。余計なことを考えるぐらいの余裕を持てるぐらいにね」


「それで、何が面白いんだ? まさか苦しんでいる人間を見て楽しむ趣味なんてないだろ?」


「もちろんさ。僕はゲームを楽しんでいる顔を見るのが一番好きなんだからね。けど、彼の環境は笑っちゃうよ」


「見たところ、特に変わりはないが?」


「見た目はね。けど、彼の仲間になったクリスちゃんにカイヤちゃん、この2人はたった二人だけの例外なんだ。覚えているだろ?」


「……ああ。チュートリアルの相手が、ブレインコネクターを外されてログアウトした子たちだな。なるほど、人一倍罪悪感を抱く彼の仲間が、まさかこのゲームで2人しかいない、誰も殺したことのないプレイヤーとはな。皮肉というか、なんというか」


「ホントに、彼って運がないよねぇ」


「しかし、それを面白いとは相当に趣味が悪いぞ。私たちは別に、彼らを貶めるためにこのゲームをしているわけではない。人類を生かすためにやっていることだ」


「ま、彼らはただの実験台に変わりないけどね」


「……否定はしない」


「よし、不憫なアクア君に一つ、罠を用意しておいてあげよう」


「おい、普通逆じゃないのか?。不憫と思うなら、難易度を下げるべきだろう?」


「彼はおそらくこの世界で一番強い存在だ。そんなことをしたらクリアは確実、そんなのゲームマスターとしてやりたくはないね」


「可哀想に。で、どんな罠なんだ?」


「普通にプレイしていたらかかることのない罠だよ。相当に切羽詰まった状況にならなきゃ作動しないけど、見た感じ、彼は普通にクリアしそうだから無駄な罠になるだろうね。僕の予想が正しければ、使うことになるけど」


「彼に接触した、モルガというプレイヤーか」


「その通り。アクア君は優しいから、きっと切羽詰まるよ」


「……喜々として語るな。ゲームマスターとは、公平であるべきじゃないのか?」


「まあいいじゃないか。彼には、とっておきのステージを用意しているんだよ」


「とっておき? まったく、特別扱いも程々にしておけ」


「ゲームを盛り上げるためさ。彼にとっては、苦痛そのものだろうけどね」


 アクアにとって、最悪な舞台が用意されていると。

 ただゲームを盛り上げるためだけに、1人のプレイヤーのこれからを操ろうと。

 カルセドニーの言葉は、アクアにとって悪魔の言葉でしかなかった。

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