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第14話

「いいか2人とも、これからは俺の後ろをピッタリついて歩け。罠があればすぐに言うから、勝手な行動は絶対にするな」


「はいっす! わかりました!」


「同じ過ちは繰り返しません!」


 親のように言い聞かせる俺と、力強く返事をするクリスとカイヤ。

 この場にはすでに、俺たちしかいない。30体もいたメイルソルジャーはすでに姿を消し、俺たちの成長の糧へとなっていった。


「あれだけ倒して、いくらぐらい稼げたっすか?」


「5000ギル」


「……へ?」


 聞き間違いだったのかと、カイヤは耳に指を突っ込んで、耳垢でもほじくり返す様子を見せた。そして改めて、俺に先程の戦闘で得たお金を聞いてきた。


「いくら稼げたっすか?」


「5000ギル。一体あたり170ギル稼げるみたいだな。落とした素材を売れるとしたら、多分5500ギルってところか」


「まだ30分も経ってないっすよ!」


 カイヤは大声を上げて驚いた。それも無理はない。

 今の戦闘時間は30分にも満たない。それで5000ギルということは、単純計算で一時間に10000ぎる稼げるということだ。

 1時間で10000ギル、目標の300000ギルを稼ぐには30時間かかるということだ。

 少し時間がかかってしまう、そんな風に見えるかもしれないが、制限時間に十分な余裕を持ってクリアできることを考えれば、カイヤの驚きは当然のものだ。


「休息の時間を考えればもっと時間がかかるかもだが、俺たちのクリアは確実なものと見ていいだろう」


「も、もうクリア確定ですか?」


 あまりにもあっけないセーフティゾーン獲得に、クリスもカイヤも驚きを隠せない。

 喜びよりもまず、処理できない情報に困惑している。

 しかし数秒後、2人の顔は非常にだらしないと言えるほどに崩れたものになり、隠しきれない喜びに包まれている。


「お前たち、油断はするなよ? 何があるかはわからないんだから」


「わかってるっすよ~。自分たち、そこまで油断しきってないっすよ~。ね、クリスさん?」


「はい、もちろんです。勝って兜の緒を締めよって言いますし、たとえ勝利が決まっても油断なんかしませよ」


 それを油断してるって言うんだよ。

 勝って兜の、なんて勝ちを確定している言い方こそ、油断している証拠だ。

 そういうやつは大抵、今の状況を危険だとは認識していない。


「言っとくが、バカな行動をする奴は速攻でパーティから外れてもらうからな」


 俺がそう言うと、2人の顔つきが変わった。弛緩しきった顔から神妙な顔に変わる。


「ま、勝手なことさえしなければそんなことはしない。いいか? 勝手なことさえしなければだ」


「は、はいっす……」


「わかりました……」


 罠に不用意にかかることは、出来る限りしてほしくない。さっきの罠は序盤ということもあり、あまり強い敵ではなかった。正直弱い。俺以外のプレイヤーでも、冷静に対処すればきっと問題なく切り抜けられたはずだ。

 ……生き残った中で、冷静でいられる人間がいれば、だがな。


「さ、先に進むぞ」


 青く光る洞窟の中、俺たちは歩みを進める。

 見れば、罠の数はそれほどまでに多くない。一番最初の場所に、かかりやすい場所に設置、このダンジョンを設計した奴は絶対に性格が悪い。

 と、俺は周囲に気を配りながらダンジョン内を見回していると、不意にカイヤが口を開いた。


「あ、そういえば自分、さっきのでレベルが上がったっす」


「……そういうのは早く言え」


「す、すんませんっす。えーっと、スキルとか魔法とか、色々と覚えられるみたいっすね」


 カイヤは足を止め、ウインドウに目を落とす。もしも魔法を覚えてくれるのなら、それはかなり心強い戦力の誕生だ。

 攻撃魔法でも支援魔法でも、遠距離からの戦闘の参加ならそれだけで俺の負担が減るし、モンスターを狩る効率も爆発的に飛躍する。


「お、これなんかいっすね。アムレイズ、攻撃力が向上する魔法みたいっす」


 ステータス、特に攻撃力を上げる魔法か。それは俺にとって、非常に相性のいいものだ。

 俺のステータスは敏捷型、手数は多いが決定力に欠ける構成、それに攻撃力が加わるのならまさに鬼に金棒、怖いものなしだ。


「あ、でもこれがいっす。サンダーで」


 誰の意見も聞かず、カイヤは勝手に習得する魔法を選んでしまった。


「いやー、やっぱ攻撃魔法がいっすね。自分、雷系の魔法が好きなんす」


 ま、別にいいけどよ。効率だなんだと言うが、結局は自分にとって最も扱いやすい能力の方がいいに決まっている。その方がモチベが上がり、パフォーマンスも向上する。

 それに、支援でも攻撃でも、どっちでも戦闘には参加できるし。


「ステータスは……アクアさんみたいな敏捷型っすかね。いざという時に逃げるために」


「逃げ前提か。ま、それもいいだろう」


 カイヤの魔法習得、ステータス振り分けを済ますと、ちょうど実験してくださいとばかりに2体のメイルソルジャーが現れた。


「そんじゃ、さっそく魔法を試そうか。カイヤ、準備はいいか?」


「もちっす! 任せてくださいっす!」


「カイヤ君、頑張って!」


 どうもこの2人は、俺という安心感の所為なのか普通のゲーム感覚でいる気がする。

 肩の力が抜けているのはいいが、いざという時に混乱して戦えない類の人間だ。基本的に前に出て戦うのが俺とはいえ、少しくらいの心構えはしてほしいもんだ。


「俺が敵を引き付けるから、隙を見て魔法を放て」


 メイルソルジャーの前に立つ。しかし今回は倒すためではない。カイヤの得た力、魔法を試すいわばテストだ。魔法のダメージ次第では、俺が前に出て戦う必要する無くなる。

 MPが無限に湧いてくるカイヤに魔法を打たせ続ければいいのだから。


「ぉぉぉぉ」


 うめき声をあげるメイルソルジャーは、ゆっくりと俺の方に向かってきて、手に持つ剣を振りかぶる。おろされた剣を俺は難なく避け、後ろに回り込む。

 我ながら上出来すぎるほどの誘導だ。敵の攻撃を避けつつも、カイヤが攻撃するにはベストの位置関係、これで外すようならカイヤに期待することは何もない。


「よーし、いくっすよー!」


 手を前にかざし、カイヤは力を集中させる。さっさと打てと言いたいところだが、きっと魔法を打つのにも何かしらの手順が必要なのだろう。

 タイムラグなしの魔法ほど使い勝手の良すぎるものはない。


 そしてカイヤが力をためている時に、メイルソルジャーはターゲットを視界から外れた俺から、クリスたちに移動させた。

 これはまずいと、俺が敵の前に体を動かした瞬間、


「サンダー!」


 煌めく光が、俺の背中を襲った。


「あっつ!」


 例えようのないほど熱が、俺の背中を襲った。一瞬、意識が飛んでしまいそうなほどの熱だった。まるで地につく足が浮いてしまったかのような浮遊感、そして背中を駆け巡る電熱。

 少しだけ、死を覚悟した。


「すんませんっす!」


 カイヤの謝罪がダンジョン内に鳴り響き、メイルソルジャーの凶刃は俺を襲う。


「ぐっ……!」


 激痛がある。だがそれを歯を食いしばって抑え込み、出来る限り早く剣を突く。

 超速で動かされた俺の剣は敵の攻撃よりも数段速く、先に体を貫いた。


「ぉぉぉ……!」


 一体を倒した直後、もう一体が俺めがけて剣を振るう。

 ヤバイ、これは避けられない。

 力の限りに攻撃した直後を狙われ、俺は攻撃を喰らうことを覚悟した。体で受けないように、右腕を前にだして受け切ろうと。

 一撃や二撃、それならば耐えられる。死ぬことはない。

 体中に全身全霊の力を込め、刃を受けようとしたとき、


「サンダー!」


 カイヤの魔法が、メイルソルジャーを襲った。


「ぉぉぉぉ……」


 弱々しいうめき声を上げながら、振り上げた剣をゆっくりと地に下ろす。敵の体力を見る限り倒しきれていないが、動きが極端に遅くなっている。

 雷系魔法の追加効果かなんなのか分からない。が、躊躇っている時ではない。

 俺は痛む体に鞭を打ち、渾身の攻撃を食らわせる。


「ウオリャッ!」


 横一閃、敵の体は綺麗に分断された。

 これはこのゲームの特徴の一つだ。ラストアタックでは今までの攻撃と違い、赤い線が出現するのではなく完全に両断される。

 この演出が起きれば、戦闘終了ということだ。


「……カイヤ、俺の言いたいこと、分かるな?」


 戦いを終えた俺は、痛みで膝を地につけながらも、確かな意思を持ってカイヤに視線を移す。こいつには一言、言ってやらなければ気が済まない。


「そうだクリスさん、その篭手、回復効果があるんすよね!?」


 話を逸らそうと、カイヤはクリスに向き直った。その時の表情は俺には見えなかったが、クリスの顔を見て、涙目で助けを乞うような顔をしているのだろうと推測できる。


「カイヤ、もう一度聞くぞ? 俺の言いたいこと、分かるな?」


「……!」


 体をびくつかせるカイヤ。恐る恐る振り返る、俺の顔色を窺っている。

 俺は一体、どんな顔をしているのだろうか。悲しみか、怒りか、安堵か。

 ……ああ、カイヤの顔で、よーく理解した。

 今の俺は紛れもなく、怒っている。


「ごめんなさいっす! この通りっす許してください!」


 とてもきれいな姿勢の土下座が、目の前で展開された。

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