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第13話

「……見つけた」


 歩き始めて1時間、目の前に扉のようなモノが存在している。

 割とあっけなく見つかったものだ。歩けば歩くほどモンスターの出現頻度は少なくなり、ここ10分は一切のモンスターが見つからずに不安になりもしたが、俺の推測は間違っていなかったようだ。


「すごいっすアクアさん! 本当にありましたよ!」


「早速入りましょう!」


 クリアへの最短ルート、かもしれない物を見つけたからか、2人のテンションが異様に高い。まだここが攻略に最も適しているかは分からないのだが、よくもここまではしゃげるものだ。

 俺なんかまだ不安を感じているというのに。


「んじゃ、開けるぞ」


 扉に手をかけると、ウインドウが表示された。


『青の迷宮』


 そう記され、大まかな説明もある。

 出現されるモンスターは?と表記されており分からず、この情報は散策しながら埋めて行く物なのだろう。何はともあれ、入ってみなければ始まらない。


「準備は出来てるな?」


「はい! 篭手も盾もちゃんと装備してます!」


「自分も、お二人にもらった盾を装備してます! レベル1で魔法を覚えておらず使い物にならないっすけど、このイヤリングも!」


 意気揚々と、戦いもしないのに臨戦態勢はばっちりだ。

 その様を見て、俺はダンジョンへと足を踏み入れる。


 入ると、景色は一変した。

 青光りする水晶が所々に点在し、天然の照明となっている。火の類は見当たらないが、俺たちの視界は常に明るい。


「わぁ、綺麗ですねえ」


「そっすねぇ。この水晶、売れないっすかね?」


 地面に生えている水晶をつんつんと突いているが、それを入手できているようには見えない。これは単なるオブジェクト、ということだ。


「2人とも、気を抜くなよ。探知スキルのおかげか、罠も見える」


「わ、罠ですか? どこらへんに……?」


 キョロキョロと視線を動かし、その場で足踏みをするクリス。


「おい、そんなにあまり動くな。あ、クリスの足元、赤い点が……」


「へ?」


 言い終わる前に、クリスは俺にだけ見える赤い点を見事に踏み抜いた。

 瞬間、警報のようなモノがこのダンジョンに鳴り響いた。


「わ、わ、何が起こるんっすか?」


 怯えたからか、カイヤは壁を支えに身を縮こまらせる。


「あ、バカ、壁にも赤い点が……!」


 警告もむなしく、カイヤもきちんと赤い点に触れてしまいました。

 警報の音量はさらに大きくなり、思わず耳を塞ぐほどの大音量だ。


「「すいません!」」


 警報に負けず劣らずの大音量の謝罪を2人がして、涙目で俺に近づく。

 服を掴み、辺りを見て、いつ来るか分からない未知の恐怖に体を震えさせる。


「落ち着け。助かりたいんなら、俺が動きやすいようにしろ」


 とはいっても、気が動転している二人は俺から離れたりはしない。


「ここ、怖いっす!」


「アクアさん……!」


 ……諦めるしかない。

 まだ何があるのかもわからないんだ。事象を理解し、それを2人にも見せることで、最善の行動をさせるしかない。

 何もかもが分からないこの状況、2人が傍に居る方が好都合と考えよう。

 そして、警報が鳴ってから20秒後、俺たちの目の前にゾロゾロと鎧を着た何かが迫ってきた。


「どうやら、モンスターをここにおびき寄せるスイッチらしいな」


「な、なんすかあの数! 30はいるっすよ!」


「スイッチ1個で15匹でてくるのか」


「れ、冷静に判断している場合ですか!? すぐに逃げましょうここは入り口なんですから逃げられるはずです!」


「説明を見てなかったのか? 入り口は出口とはならない。フロアの最終地点に帰還ポイントがあるんだ」


「そ、そんな……じゃあ、あれを倒すしかないんですか?」


「そうなるな」


 2人の目に、絶望が宿るのが見て取れる。いくらチート級の装備を持っていると言っても、それは直接戦闘には向かない代物。特に2人はここに来るまでろくに戦闘をしていないのだから、この数には心底恐怖しているだろう。


 だが俺は、不思議と冷静だった。

 幾度となく戦いを経験したからか。別のゲームとはいえ世界王者になったことによる自信なのか。目の前の敵が、あまり強そうには見えない。

 ナイフよりも一際大きい片手剣を握り直し、俺は右足を前に進める。


「2人とも、死にたくなかったら離れてろ。絶対に邪魔をするな」


「は、はい……」


 俺の戦闘を見た事のあるクリスは、まだ希望を持てている。しかしカイヤは、たった一人では絶対に勝てないだろうと考え、足を震わせながら俺から離れてくれない。


「む、無理っす。こんな数、1人で何で倒せるわけがないっす」


「退路はなく、前も塞がれている。戦う以外に選択肢はあるか?」


「な、ないっすけど……」


「なら覚悟を決めろ。それが無理なら、せめて俺の邪魔だけはするな。それが助かるための最善だ」


「……はいっす」


 諦め、俺から離れるカイヤ。この状況になってまで戦うという選択肢が出てこない辺り、カイヤもこのゲーム中、戦闘に参加することは無理だろう。

 この恐怖を、初めての戦闘で感じてしまえば拭うことはほぼ不可能だ。

 よっぽど切羽詰まった状況じゃなければ、決して剣を振るうことは出来ない。


「さて……2人とも、勝てるように祈っててくれ」


 一歩、また一歩と踏み出し、敵との距離を詰める。

 見えたHPバーと、その左上にある文字を見て、モンスターの名前を確認する。

 メイルソルジャー、それが俺たちを追い詰めるモンスターの名前だ。

 鎧の兵士、見たまんまの名前だ。おそらくはあの中は空洞、何もないだろう。

 しかしガチャガチャと音を鳴らしながら迫る様子を見て、スピードはそれほどでもないと予測する。防御力に特化したモンスター、かもしれない。


「どんな能力にせよ、後ろに通すわけにはいかないハードモードなんだけどな」


 一体でも後ろに通せば、カイヤとクリスはパニックでどうにかなってしまうだろう。そうなれば必然、俺は迫りくるメイルソルジャーに背を向けながら、クリスたちに襲うモンスターと戦う羽目になり、死は免れない。


「思い出せ。VR無双系ゲーム、そのエキスパートモードを」


 今の状況に酷似したゲームを思い出す。無双系とRPGでは決定的な部分で違うが、今の見た目は無双系のそれと変わりない。多対1、やることは無双と同じだ。


「強い敵大勢と戦う場合の心得、後ろを取らせない」


 メイルソルジャーとの距離を、絶妙な位置関係にする。俺の攻撃、剣先が振れるか触れないかぐらいの距離を保ち、剣を持つ手に力を入れる。

 敵の攻撃範囲は腕部分の鎧の長さと武器の長さを考えれば、俺よりも少し短いくらい。

 この距離ならば当たらない。

 さあ始まる。一手もミスの出来ない死闘が。


「喰らえ!」


 俺の一振りで、戦いが始まった。

 まず一太刀、メイルソルジャーの体に赤い線が引かれる。HPを確認すると、4分の1ほど削ることが出来た。つまり、最低でも4回の攻撃を与えなければこのモンスターを倒せないということ。数が30なのだから、大体120回の攻撃が必要なわけだ。

 絶望的ともとれる数字、しかし俺は、そんなことは気にもせずに再び剣戟をメイルソルジャーに喰らわせる。


「オラオラオラ!」


 この世界の戦闘に慣れてきたからか、剣の動かし方は最初に比べある程度分かってきた。どのようにすれば効率よく、力を押さえて振りぬくことが出来るのか。

 無駄なく連続的な攻撃をすることが可能なのか、それらを把握した。

 振り下ろした直後に腕を捻り、剣を振り上げる。薙ぎ払った瞬間に状態を逸らし、流れに逆らわないようにし、弧を描くように剣を再び振りぬく。

 華麗に流麗に、俺の攻撃は一度も躱されることもなく、全てがメイルソルジャーに直撃する。


「ぉぉぉぉ」


 声にならないメイルソルジャーの声、それは己を鼓舞する激励か、もしくは俺への畏怖か。だが間違いなく、この敵は俺を強者を認識している。

 何度か攻撃を繰り返したのち、ついに俺の体はメイルソルジャーの射程圏内に突入する。

 これ以上の後退はカイヤたちにいらぬ心労をかけてしまう。

 そう考えた俺は足を止め、メイルソルジャーの攻撃範囲に滞在し続ける。

 振り下ろされる敵の腕、喰らえば死ぬほどの痛みを味わうことは必至だ。


 本当に理不尽なゲームだ。敵は攻撃を喰らってもHPを減らすだけ、一定のダメージしか与えられない。なのに俺たちは、攻撃を喰らえば尋常じゃない痛みを味わう。

 しかも敵が刃物を持っているのなら、一撃一撃が必殺になりえる理不尽な仕様。

 これだけでゲームバランスはおかしい。


 普通なら、剣を前に構えるだろう。盾を構え、防御に専念するだろう。

 誰だって痛いのはいやだ。それが死ぬほどの痛みならなおさらだ。

 だが俺は、防御の姿勢を取らない。

 迫りくる凶刃から目を逸らすことはなく、瞬き一つすらしない。

 そうして攻撃を引き付けるだけ引き付け、まさに当たる寸前で、


「遅いよ」


 右足を軸に体を回転させ、避けると同時に回転の勢いを利用し、メイルソルジャーへと渾身の一撃を食らわせる。


「……すご」


 俺の戦いを見るカイヤが、不意につぶやいた。

 そしてそのつぶやきは時間とともに称賛へと変わっていき、その目にはすでに絶望は消え失せていた。


「すごいっすアクアさん! マジ強いっす!」


 興奮して叫ぶカイヤ。対してクリスは、俺の戦いざまを見て心底ほっとしている様子だ。

 まだ戦い始めて2分、敵も5体しか倒していない。しかしこの2人にはすでに、勝利の二文字が見えている。

 この程度のモンスターに負けるはずがない。そんな自信が、2人の目には宿っていた。

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