第12話
「そういえば、カイヤ君の宝ってどんなの?」
宝の値段を知るために武器屋に向かう途中、クリスがカイヤに聞いた。
「あ、忘れていたっす。お二人を遠目で見つけてダッシュできたから、宝のことなんか頭から飛んでいたっす。えっと、宝って装備欄にあるんすかね?」
「プレゼントの欄にあるはずだよ」
言われ、カイヤはウインドウを表示し、腕をいそいそと動かす。
すると、カイヤの耳に黒色のイヤリングが出現した。
「これが自分の宝みたいっす。名前は魔王のイヤリングって言って。MPが減ると即座に回復するみたいっす」
「チートもんだな」
RPGにおいて、MPが無尽蔵に湧いてくるなどチートもいいとこだ。ようはRPGのラスボス御用達、毎ターン超絶魔法をプレイヤーが放つことも楽勝、ということになる。
まあ装備の効果がMPの回復ということは、自分の最大MPを消費MPが上回る魔法は放てないということだから、短期決戦のこのゲームでどれだけ役に立つか。
「お二人の宝はどんなやつっすか?」
……当然の疑問を、カイヤがぶつけてきた。
自分にチート級のアイテムが与えられたのだから、同じく宝の名を持つ武具防具がどれだけの物なのか気になるのはゲーマーなら必定、聞いてしかるべきだ。
まして仲間の強さは生き残るために最重要な要因、聞かない奴は馬鹿だな。
「……どうしました?」
即答しない俺たちを、カイヤは不思議そうに見つめる。
沈黙しても仕方ないと、クリスは俺の方を一瞬、申し訳なさそうに見てから自分の宝について答える。
「えっと、私の宝はこの女神の篭手って言って……」
「おぉ、やっぱりそれって宝だったんすね! いやー、その防具、見た目が最高にクールっすね! ですけどカッコよさの中にもどこか気品のある感じ、自分の黒々としたイヤリングと違って、まさに女神って感じっす! 美人のクリスさんにすごいお似合いっす!
「あ、ありがとう。それで効果はね、物理と魔法攻撃を無効化して、それと回復効果もあるの。手をかざした箇所の傷を癒せるって書いてあって……」
「回復いらずっすか! しかも片腕だけとはいえ完全防御! めっちゃつよいっす!」
目を輝かせるカイヤを見て俺は思う。この子はきっと、ゲームをするよりも見ることの方が好きなタイプのプレイヤーだ。装備品のカッコよさやグラフィックの美麗さ、そしてど派手なアクション。
俺はそれらを肌で感じることが何より楽しいが、カイヤは俯瞰的に見ることに喜びを感じる人種なのだろう。
全部が全部そうとは言わないが、そういうタイプのプレイヤーはそこまで強くはない、というのが俺の見解だ。己の腕を磨くよりも磨かれた腕を見ることに喜びを得るのだから、それも無理からぬ話。
中には強者を見続けたことにより力を付けたプレイヤーもいるにはいるが、カイヤはおそらく弱いタイプだ。今後の戦闘には期待しないでおこう。
魔法を使ったサポートが出来る程度の認識、俺が前線で戦うことに変わりはない。
「それで、アクアさんの宝はどんなやつっすか? 見たところ、装備してないみたいっすけど」
クリスの武器の感想を言い終えたカイヤは、俺の体を嘗め回すように見つめる。
腕や足、顔や胴体、果ては服をペロッと捲ろうとまで。
「俺は宝を持ってないよ。だから探すな、うっとうしい」
「……え? 宝を持ってない? じゃあ、どうして死んでないんすか? もしかしてなんかの裏技っすか!?」
「裏技なんて大層な物じゃない。第一の地域での課題は宝を見つけることだけど、それは個人でじゃなくて、パーティ単位でだったんだよ」
「パーティ単位……ってことは、全員が生き残る可能性があったってことっすか?」
「だろうな。実際、クリア者の数は宝の総数を上回っていた」
「このゲームマスター、相当に性格悪いっすね」
「だな。まあだから、クリスとパーティ組んでた俺は、クリスが宝を手に入れたから宝を持ってないんだ」
「……すいません。これはアクアさんが持つべきでした」
しまった、今の言い方だとクリスが宝を手に入れたことが間違いみたいだったか。
俺は防具なんて好みじゃないし、クリスに自衛の手段がある方が気楽だから、むしろ正解だったかもしれない。
「じゃあ、自分たちの宝をアクアさんにあげるってのはどうっすか?」
何気なく、カイヤは何でもないように提案した。
それにクリスも賛同する。
「それはいいですね!」
「おまえら……戦いたくないだけだろ? 強い装備品を持ってたら戦わないとって思うから、俺にそれを押し付けようとしてんだろ?」
「そんなことはないですよ、出来る限りのことはします。近接戦闘はしたくありませんけど、サポートなら任せてくださいね」
「そうっすよ! アクアさんにだけ戦わせるなんてマネしません! お金を稼がないと自分たちも死ぬんすから、やらざる負えません! けど前線には立ちたくないかなって思ってるのも事実っす! あれ? そう考えると、サポート向きの自分の宝は渡さない方がいっすかね?」
「正直にどうも」
変に罪悪感を持たれるよりも随分と気が楽だが、よくもまあ正直に言えるもんだ。特にカイヤは正直すぎる。
普通はクリスのように声が小さくなってるもんだが。
「カイヤ君のアクセはサポート用だから持ってた方がいいかもだけど、私のは防御用だからアクアさんには必要ですよね? すぐに渡します」
「別にいいって。つーか、クリスには身を守る手段を持ってもらわないと困るんだが」
「アクアさんにこそ生きててもらわないと困るんです。何と言おうと貰ってもらい……あれ?」
「どうした?」
「この装備、渡すことが出来ません。さっきの街で買った装備品や素材なんかは譲渡できるみたいですけど、この篭手だけは渡せないみたいです」
「……特別なアイテムってことか。なら、売るのも無理かもな」
まあ売った金で課題クリア、なんてのは宝を見つけるのと比べれば簡単すぎるから、なんも期待してなかったがな。
売れたとしても二束三文、そんなとこだろ。
「んじゃ、武器屋は後回しだ。外に出て金を稼ぎに行くぞ」
Uターンして、街の外に足を向ける。
「モンスターを狩るんですね? 頑張りましょう」
「頑張ってください!」
頑張りましょうと言うクリスと、頑張ってくださいと言うカイヤ。
果たしてどちらが正しいのだろうか。
戦わないのに頑張りましょうと、あたかも一緒に戦うかのように言うクリスはある意味では普通だ。人間として正しく普通の卑怯さだ。
対してカイヤは、なにも悪びれもせずに頑張ってくださいと言う。これもある意味では清々しく、人によっては好感を持つ者もいるだろう。
だがのっけから危険なことは任せるということは、それはそれで問題はある。
元々は俺一人で戦うつもりだったから問題ないけどさ。
「それで、どのへんで戦うんですか? 街の付近はもうプレイヤーがたくさんいますけど、そこで戦うんですか?」
「いや、限りあるモンスターを大勢で狩るのは効率が悪い。少人数で大勢のモンスターがいる場所、それが理想的だ」
MMORPG、特にこんなに人がいるゲームではモンスターの横取りなんて日常茶飯事として行われるはずだ。しかも自分の命がかかっている状況、ちょっとやそっとのマナー違反など、確実に発生するに決まっている。
だから、人がいない場所こそがレベリング、金稼ぎにはもってこいなのだ。
一つ問題があるとすれば、
「そんな場所、あるんですかね?」
そう、そこが問題だ。
そんな穴場みたいな場所がそう都合よくあるなんて考えづらい。
だが俺は、あると踏んでいる。
「カルセドニーが言っていたことは覚えているか?」
「言っていたことっすか? えっと……なんか特別なことを言っていたっすか?」
「私の感じでは、カジノには行くなって念押ししてたイメージです。けど、やるなって明確に言ってたし、ヒントとは考えづらいですけど」
カイヤはともかく、クリスまでもか。
カルセドニーの言葉は深読みすべきだと学んだはずなのに……いや、元々が正直な奴なんだ。人の言葉を疑わず、善性を信じるれっきとした善人。
それは非難などしてはいけない。
「目の前の利益だけに目を囚われず、もっと広い目を持って行動すること、俺はそこに着目した」
「……何かおかしいっすか? カジノなんかで楽して稼ぐより、周りをよく見て、苦労することを認識して稼げ、ってことじゃないっすか?」
「確かに言葉通りかもしれない。俺が深読みしすぎているだけで、なんのヒントでもなかったのかもしれないな。けど、行動する価値はある」
「価値……ですか?」
「目の前の利益ってのは、カジノみたいな分かりやすく金を稼げる場所のことじゃなく、この街周辺にいるモンスターのことだと思ったんだ。つまり、街周辺が目の前のことで、それよりも遠い場所が金を稼ぐのに適している、ってことだ。もしかしたらダンジョンとかがあるのかもしれないな。なにもないかもしれないが」
「……いえ、いえ! すごいです、そこまで考えられるなんて! 行く価値は十分すぎるほどにありますよ!」
「そっすよ! いやマジでそこまで頭が回るなんて、尊敬っす!」
2人は俺のことを真に褒めているのが分かる。
クリスもカイヤも、2人の言葉には嘘が無い。カイヤは正直すぎるし、クリスもバツが悪いとこには少し口が濁るが、嘘をつくことはない。
だからこそ、2人の称賛がこそばゆい。
「いいから急ぐぞ。徒労に終わる可能性もあるんだから」
照れ隠しのために、俺は早歩きで街から離れる。




