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第11話

「さあクリス、街の外に出るぞ」


「もうですか!?」


 転送直後の移動の提案に、クリスは驚き目を見開いた。


「ま、まずは情報収集とか、宝の確認とか、やることがあるんじゃ……」


「宝なんて、どうせ武器か何かだろ? 武器はさっきの街で調達して……いや、いくらで売れるかを確認するかもありか」


「売る前提ですか。まあ課題が課題だけに、それもありですけど……」


「つーわけで、確認するぞ。オープン」


 ウインドウを表示し、宝を確認する。


 …………どこだ?


 武器の欄、アイテムの欄、ステータスの欄を見ても、宝と思しきものが見当たらない。

 色々と操作して探しているうちに、クリスが声をあげる。


「すごいですねこれ、宝というだけのことはありますよ」


 興奮気味にはしゃぐクリスの声を聞き、俺は目を向ける。するとクリスの右腕に、見慣れない防具が装着されていた。


「そ、その腕は……?」


「女神の篭手って言うらしいです。説明欄によると、あらゆる物理、魔法攻撃を無効化するみたいで、追加効果で手をかざした箇所の回復も出来るそうですよ。しかも無制限に使えて、これで回復魔法なんかいりませんね!」


 なるほど、確かに強力な防具だ。右腕だけとはいえすべての攻撃を無効化し、あまつさえ回復効果もあるなど、普通のRPGならば最強レベルの防具と言える。

 だがそれ以前に、宝がちゃんと存在することそのものに俺は驚いている。


「どこにあった? 見当たらないんだが」


「え? 普通にプレゼントの欄にありますよ? ほら、最初のチュートリアルでナイフを手に入れた時の」


「……やっぱないぞ。押しても、贈り物は存在しませんって出るだけで、宝のたの字も見当たらない」


「そ、そんなありえませんよ。よく見てください。プレゼントの箇所にNって表示されているはずですよ」


「N……newの略か。……やっぱない」


 どういうことだ? もしやバグか何か……

 いや、その可能性は薄い。見れば、周りのプレイヤーのほとんどは新たな装備を手に入れ、それを装着している。俺だけに与えられていないなど、ありえない。


 だとすると…………俺は宝を手に入れていない?

 そもそも宝をゲットしていないから、俺のウインドウには宝が存在しない。

 そう考えるのが自然だが、なら第一の地域のクリア条件を満たしていないことになり、俺は死んでいないとおかしい。

 カルセドニーだって言っていたじゃないか。もしも宝を手に入れることが出来なければ、基本的に死ぬと…………基本的に?


 そうだよ、基本に当てはまらなければ、死なずに済むんだ。だから、宝の数が2412個でありながら、2476人のプレイヤーが生き残ることが出来たんだ。

 俺が宝を手に入れてないこと、そして基本的には死に、それに当てはまらなければ生き残れること、これらを考えれば……


「あ、アクアさん? 急に黙っちゃって、何かあったんですか?」


「……俺は、俺たちは、基本から外れている」


「基本から? むしろ逆なんじゃないですか? 私たち……というかアクアさんはモンスターを狩って、レベルを上げてお金を稼いで、パーティも組んだりして、RPGの基本に則っていると思いますが……」


「違う、違うんだ。それが基本から外れてるんだ! くそったれが!」


 気づいた事実に、俺は憤慨する。地面を思いっきり蹴り、怒りをぶつける。


「くそくそくそ! クソ野郎が!」


「ど、どうしたんですか!? 一体なににそんなに怒ってるんですか!?」


「何が仲良くだ、ふざけやがって! そんな大事なことは、もっと具体的に言いやがれ!」


「アクアさん、落ち着いてください!」


 怒りを露わにする俺の体に、クリスが抱き着いて制止する。

 まだ暴れていたい衝動を抑えて、俺は地面を蹴る行為をやめた。


「ハァッ……ハァッ……ハー……」


 気持ちを落ち着けようと、深い呼吸を繰り返す。徐々に息が整っていき、怯えた目をしているクリスに目を向ける。


「……悪い、取り乱した」


「い、いえ……なにがあったんですか?」


 不安な目を向けるクリスに、俺は気付いた事実を説明する。

 このゲームで、第一の地域で、全員が生き残れたはずの事実を。


「最初の宝探しのクリア条件は、一人につき一つの宝を見つけることじゃなかったんだ」


「え? そ、そんなわけないじゃないですか。だって現に、私は宝を見つけたからクリアできたんですよ? 周りの人たちも同じみたいですし……宝を見つけることがクリア条件に間違いがあるはずありません。だってそれが違うのなら、ゲームそのものが成り立ちません」


「ああ、それは間違いない。宝を見つけること、それ自体がクリア条件なのは間違いない」


「ど、どういうことですか? さっぱり意味が分からないんですけど」


「ただしそれは、一人につき一つじゃなくて、一つのパーティにつき一つ、だったんだ」


「……あっ! だからアクアさんには宝が無いんですね!?」


「そうだよ。それで、そのせいで……!」


 俺は助けられる人間を、殺したんだ。

 クリア直後に見たプレイヤーを、パーティが一緒なら一つの宝でクリアできると理解していたなら、見殺しにしないでも済んだんだ。

 誰一人として犠牲にすることなどなく、平和的にクリアできたんだ。


「そのせいで……なんですか?」


「いや……死んでいった人間も、助けられたのにな」


「……そうですね。でもそれは、アクアさんが気にすることじゃありません。この場にいる誰にも責任があって、誰にも責任のないことです」


 分かってる。そんなことは分かってるさ、俺だって。

 プレイヤーには誰一人として悪はいない。断罪すべき悪は、アースのみ。

 そんなことはわかってるんだ。

 だけど……どうしても、心が苦しい。

 もはや心が折れかけ、ひざを折ろうとした瞬間、


「そこの人!」


 声をかける存在が、ギリギリで支えてくれた。

 クリスではない。見ると、俺やクリスよりも小さな、小柄な少年が立っていた。


「君は?」


「自分、カイヤって言うっす! あなた方に命を救ってもらったのであります!」


「……命を?」


 なんだろう、すごい既視感がある。デジャヴっていうやつだ。

 この感覚は……ああそうだ。クリスの時と同じだ。助けた記憶などないのに、命の恩人と言われたあの時と。


「あーっと、カイヤ……くん? 一応聞くけど、俺が何したの?」


「命を助けてもらったっす!」


「どこでいつどうやって俺が君を助けたんだ?」


「第一の地域でたくさん宝が無くなっていって絶望してた時、あなたの出現させた宝が自分を救ってくれたんです!」


 ……ああ、そういうこと。

 あの時、俺は宝を2つ出現させていた。クリスと俺の分、2人のための物だ。

 だが俺はクリスが宝を入手した時点でクリアした身、宝が一つ余ったんだ。

 それを偶然、このカイヤという少年が手に入れた、ということだな。

 何だこの偶然。助けたつもりもないのに助けた扱いになってものすごい感謝される。

 状況的にあり得ることだが、こんなことがクリスに次いで2度も起こるなんて。

 あ、なんか予想できた。次にこの子が言うセリフが。


「あの、これも何かの縁ってことで、自分をあなたたちの仲間に入れてもらえませんか!?」


 やっぱり!


「わぁ、仲間が増えて心強いです。よろしくね、カイヤ君」


 俺の意思を聞かずに、クリスはカイヤの加入を勝手に承諾した。

 ……まあ、別にいい。カイヤは俺に救われたという。だが、俺の方こそ救われた。

 俺がプレイヤーを見殺しにした時、この子を救えていたという事実が、どうしようもないほどに俺の心を包み込んでくれている。

 意図せぬ救済は、折れかかっていた俺の心を立て直してくれた。


「よろしくっす! お二人のお名前はなんていうんですか?」


「私はクリス」


「俺はアクア、よろしくな」


 新たな仲間、カイヤと握手を交わし、パーティ登録を済ませた。

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