プロローグ
ゲームは進化した。
ドット絵やポリゴン、3Dグラフィック、現実と見紛うほどのクオリティを持つ背景。
さらには操作性。初期と比べれば圧倒的なまでに快適な操作性はプレイヤーを不快にさせることは一切ない。
そんな進化したゲームにおいて、現代のゲームはゲーム技術にあまり詳しくない素人に、究極の地点に到達していると思わせた。
『フルダイブ型VR』
早い話が、意識を電脳空間にプレイヤーとして具現化し遊ぶというものだ。
コントローラを用いて目に見えているキャラクターを動かし、自身を投影するのではない。プレイヤー自身がキャラクターとなり、手足を自在に動かすことが可能なのだ。
ゲーム素人でなくとも、このフルダイブ型VRがどれほど優れた物かは、想像に難くはないだろう。
そしてゲームソフトもまた、爆発的なヒットとなった。
格闘ゲームやレースゲーム、シミュレーションゲーム、シューティングゲーム。数多のジャンルのゲームはまるで本物と錯覚するほどの臨場感があり、自宅に引きこもりながらであろうとも、体を動かす爽快感が味わえるのだ。
そんな数多のゲームがひしめく中、このVRで最も人気を博しているジャンルこそが、ロールプレイングゲーム、RPGだ。
今までのRPGはキャラクターを操作してモンスターと戦う。主人公を自分で操作していながら、プレイヤーの生き写しというわけではない。
つまり、他人ということだ。
たとえそれがキャラメイクして作ったキャラだとしても、物語の枠組みに存在し、プレイヤーが画面内に入り込めない以上、同一人物とは考えられない。
しかし、VRは違う。
VRではプレイヤー自身がそのままキャラクターとなる。自分の姿そのままでプレイすることも出来、自分の体のように動かすことが出来る。
現実では冴えない人間だとしても、ゲームの世界では魔王を滅ぼす勇者になれるのだ。
さらに、ゲームをやっている者なら知っているだろう。RPGには、オフラインとオンラインがあることを。
さすがに個人情報やらなにやらあるこのご時世、自分の姿そのままでプレイするものはいないが、それでも自分の意識を持ったプレイヤーと一心同体とも言えるキャラクターを操作できることから、圧倒的なリアリティを誇っている。
他プレイヤーとの関わりはリアルの友人と会話をするような一般的な物から、互いに背中を預け戦う、戦友のような関係を築くことが出来る。
西暦2100年現在、フルダイブ型VRを用いたMMORPGこそ、最も人気のゲームなのだ。
そして、このフルダイブ型VRの技術を確固たるものにした存在が、アースというゲーム会社だ。天才ゲームクリエイターを多数抱え、世に送り出したゲームはほとんどが大ヒット、もはや現代にアースを超えるゲーム会社は存在しないとさえ言われている。
それほどまで、フルダイブ型ゲームは革新的であった。
そんなアースが今年の年末、あるゲームの発表をした。
ゲームの名は、デスティニー・オンライン。フルダイブ技術を用いたMMORPGだ。
この発表に世のゲーマーたちは歓喜し、ゲームにあまり興味のない人間たちも、このデスティニー・オンラインには興味を惹かれた。
事前に明かされた情報では初期の出荷本数はわずか十万、現在の世界の総ゲーム人口が一千万を余裕で超えることを考えれば、この数は少なすぎる。
その9割が日本で発売されるとのことで、今現在、日本では人が溢れかえっている。
もちろんプレイヤーの数は月日とともに増えていくことは必至だ。一年もすれば、一千万など優に超えると予想されている。
もしかしたら、一億に届くかもしれないという声すらあるほどだ。
大ヒットが予想される……否、人々の中で確信されているゲームソフト、デスティニー・オンライン。
本来なら手に入る倍率は百倍近くあり、よほど運の良い人間でなければこのゲームを最初に手に入れることは難しいだろう。
だが、この少年は違った。
「デスティニー・オンライン、楽しみすぎるぜ!」
彼だけはこのゲームをプレイできる喜びをすでに感じていた。まるで、このゲームが手に入ることが決まっているかのように。