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【シーカーキャット】の項

【『ケイオス』】

…古来より人間は他の生物と共に狩りを続けてきた。

人間では手に余る作業や行動を、我々のパートナーは忠実に行う事が出来る。


人間には辿れない臭いの追跡、

人間には行えない偵察活動、

人間には出来ない意思の伝達、

そして…

人間には到底真似できない

複雑な狩りの方法を知っている。


我々が彼らに協力するのか、彼らが我々に協力してくれるのか。

それらが一方的な物であると、

我々は随分前から錯覚しているようだ。

【一番上に「マーカス」とあり、大変汚い字で書かれたノートの切れ端がある。

これは一度通常の炎で燃やされた後、

高位の修復魔法で修繕された】


見たんだ!俺は見たんだ!

あのイカした猫共

俺の事に気づいたのか?

早く逃げねぇと!


場所はイオラムド王国首都、シウスの東部外壁居住地にある安い宿だ。

看板には『トーラスの宿』だったかって書いてたような気がするぜ…

ともかく、そこの二階の宿部屋の突き当たって左の扉。あぁ右は開けるなよ。

俺の部屋だからな。もし覗きやがったらイオラムド王国首都のシウスって町がどこにあるのか分かんねえ体にしてやる。


その左の扉の持ち主だが…真っ赤に染まったベッドにうつぶせに突っ伏してるんだ。ありゃあもう死んでるな。

…細かく確認はしてないが。

そして異常な事に黒猫が…

黒い猫だ。そこかしこにいやがった。

おっさんが寝てるベッドの上、絨毯、洗面台、本棚、窓枠、ソファー、etc…

あの感じだとトイレにも座ってたんじゃねぇかな?フ○ック!

血の臭いが充満してた…まさか猫にあのおっさんは殺られちまったのか?

しかも猫はどれも偶然部屋を間違えてその場に居合わせちまった俺を見てやがった。どの猫も…光る赤い目で。

鳴き声を発する奴は居なかった。


…それで俺は本能的に分かったよ。

あれは「訓練」されている…

おっさんは誰かの恨みを買って暗殺されちまったんだろうよ。

全ての猫には青い金属製の首輪がしてた。多分、持ち主は相当猫が好きなんだな。

あ?…俺か?好きだと思うのかよ…

あんな毛むくじゃらの××なんざ

【解読不能】!!


…なあ、誰か助けてくれよ。

こんな凄惨な現場の向かい側の部屋を前金で借りちまった俺はどうすりゃいい?

このメモをなんとなくフロントに置いて、戻ってマリー・ヒュラセイントを使った紅茶でもすすりながらシュガーナッツの入ったヒメノキリンゴのアップルパイでも食ってろって言うのかよ!?…素敵なティータイムを満喫出来るな、吐き気がするぜ。

あのベッドの染みがリンゴとクラフトベリーのソースで、向かい側に越してきた俺に体張ったドッキリを仕掛けてたんなら笑いながら食えるぜ?

…そうであって欲しいがな。

だが、現に部屋と猫には血の臭いがしてるし、何度もこういった現場に居合わせたから経験で分かる。

あれは、殺しだよ。

間違いねぇ。命を賭けたっていい。…まぁこんなの見ちまった以上、俺の命は勝手に盤上にMAXBETされてそうだがな。

冗談じゃねぇよ、ダウト!

…さて猫を撒かねえとな。しばらくはキングマトンのローストは食えそうにない。

あぁ畜生、俺は世界で一番

【解読不能】に違いない…!

××××★××××

【暗号名『デルタエッジ』

任務Bー3の報告】

殺害完了。

しかし目撃者が一人いる。

不思議な事に猫が反応しない。

普通は仕事後に誰かに見られたら速やかに逃げるようしつけてあるんだが…

向かいの部屋の住人らしいから部屋を調べていたんだが、部屋は何も触られている痕跡がない。匂いすら分からない。


フロントに置いてあった目撃者の文章は処分しておいた。宿の店主も誘拐して仲間に店番を任せている。

抜かりは無い。目撃者を追跡する必要があるから、後は店主に扮した『トラッシュ』に後片付けを任せようと思ってる。


【この文章は東部外壁居住地、検問所の側で黒焦げになっていた死体から衛兵が入手した。…文章には数行下に以下の文句が汚い走り書きで書き加えられている】

この××××野郎がっ!

人の親切心を燃やすとはいい度胸だ。

お前も同じ目に遭わせてやる!

あーあ、やっぱりとは思ってたんだよ。

本当に面倒な話…またアレを書かなきゃいけないのか?いやもうあれはいいか。

どうせ片付けは済んでるだろうしな。

フ○ック!

そうだ…せっかくの現場を片付けやがった×××野郎も片付けてやるか。もうこれは腹の虫が収まりそうもねぇからな。

クソが…今日の晩飯は絶対にキングマトンのローストを食ってやるんだ!

こいつは焦げて失敗しちまったが、次は旨そうに手早く焼かねえとな。

待ってろ豚野郎!


…さて、親切なマーカス様が

これを拾ってくれた心優しい君に

忠告をしてやろう。

いいか。青い金属製の首輪をつけた黒猫がもし視界の中に入ったんなら、今一度自分の人生を振り返ってみた方がいいぞ。

人はどこで恨みを買ってるか

分からないんだからな。

ズルせず誠実に生きろ…いいな。

××××★××××

【暗号名『シーカー』

状況報告…事案Cー27】

…ありえない。

結論から言うと、『デルタエッジ』と

『トラッシュ』がやられた。

二人共持ち物や服ではなく、直接身体を焼かれて死んでいたわ。

敵は人の霊力や魔力に直接干渉出来る符術師【エンチャンター】の可能性があるけれど、はっきり言って異常よ。

まず始めに普段人の周りを覆っている【個体霊力】を熱エネルギーに変換して対象者を焼く【リ・ブレイズ】はじわじわと肌を焼く拷問魔法の筈だけれど…

あれは一瞬にして身体を焼き尽くされている。周りの地面に魔法痕跡が無かったから【リ・ブレイズ】以外には考えられないわ。でもあれだけ一瞬で魔力を変換したら、術者にも相当な負荷がかかるはず。

敵はそれを平然と二人分こなしてるわ。

…勿論複数人いる可能性もあるけど。


次に、私の猫が追跡出来ない点よ。

私の猫は目撃者の顔を覚え、伝達し、自動的に散開して獲物を追うよう訓練しておいたのに…!

帰ってきた猫達の動きを確かめても、別段おかしい場所は無かった。どうして皆あの目撃者の顔を見てないの…?

マーカスって誰なの…?

次は…私が標的にされるのかしら。

ねぇ、この街には長居したく無いわ。

任務も完了したし、早く迎えを送って。

なるべく急いで、お願い。


【暗号名…『マーカー』

返信…『シーカー』へ】

現在、ソリアフィーヌ方面の街道沿いの冒険者のキャンプ群が【浄化同盟】の奴らに襲撃されている。

この戦いに付近のエージェントが参戦しているために回収に向かえない。

現場に急行してくれ。一段落ついたら俺達の部隊と共に帰投しよう。

××××★××××

【冒険者クロイツ=バンガードによる

『青い首輪の猫』に関する文章。

情報が足りない為に出回っていない】


〜始めに〜

まだこの文章は情報不足だ。

なのでまず青い首輪の猫の外見から

説明を開始し、遭遇したときの

対処方法について書いていく。


〜外見〜

黒い。ソリアフィーヌ北のフレメウ森林に生息しているフレメウモリネコのような、少し大きめの猫といった所か。

目だけは赤く、大きい。

共通して青い金属製の首輪を装備している…この点からこの黒猫は何者かによって飼われ、管理されていると考えられる。


群れで行動することが多く、一匹に遭遇したのなら他に少なくとも四匹はいるものだと考えた方が良いだろう。

筆者は遭遇し、仲間を一人失ったが、うまく立ち回り生き残る事ができた。

以下はその時の記憶を頼りに書いた対処方法という名の、彼らの分析である。


〜対処方法〜

遭遇したらまず重要なのは、【絶対に背後を取られないこと】だ。

猫には細かく【陽動】【支援】【攻撃】【防御】【暗殺】と言ったふうに少なくとも五匹がこのように役割分担されている。


遭遇時にはこのうち【陽動】の猫が分かりやすいようにジグザグ移動をしながら敵に近づき、【支援】の猫が鳴き始める。

視線は完全にそちらを向いてしまいそうだが、向いてはならない!

次に、【攻撃】と【防御】の猫が右から左、左から右のように側面から襲いかかってくる。場合によっては【支援】の猫が正面から襲ってくることもある。

勿論戦わない方が良いだろう。

避けることに専念し、後ろに気を配れ。

…彼らに取っては次が本命なのだ。

猫の中でも一回り大きく、爪と牙が極端に長いものがいる。

これが【暗殺】の役割を担った猫だ。

そう、【陽動】や【支援】の猫を注視したり、【攻撃】【防御】【支援】の三匹からなる波状攻撃に気を向けてしまった瞬間…背後を取った【暗殺】の役割の猫が素早く飛びかかり、相手の重要神経系を目掛け牙や爪を降り下ろす。…それを合図に猫の一斉攻撃が始まるのだ。


対処方法はどれかの猫に怪我を負わせて四匹以下にすることだ。

作戦が続行不能になった時に彼らは退却する。まるでそう命令された自律人形【オートマタ】のように。ただし【暗殺】の猫には絶対に背を向けてはならない。


以上が私の経験談だ。

情報があまりにも足りないため、まだエネミーレポートとしては出さない。

情報を集めなければ。

『××年夏、ドリアードの週』

ーENDー


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