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【穢れの一角獣】の項

【『マーカス』と書かれたメモが

高原に生えている針葉樹の幹に

矢で留められて放置されている】

見たんだよ!俺は見たんだよ!

真っ黒で頭に赤い鋸を付けた恐ろしい四足歩行の生物が、頑丈なプレートアーマーを身につけた騎士をズタズタに引き裂いて立ち去っていくのを!

あのイカレ野郎俺には気付いてないな…

さっさと逃げねぇと!


【冒険者クロイツ=バンガードによる

穢れの一角獣のエネミーレポート。

これらは複写され、冒険者の間で

「情報」として安値で取引される】


〜基本的な情報〜


まず始めに読者に問いたい。

聖なる一角獣といえば何を想像する?

そう、ユニコーンだ。

見も心も純潔な乙女の前にしか姿を現さない角を持った神々しい白馬。

その角はあらゆる万病の薬となる。

基本的にユニコーンは生命の豊富な森の深部に生息していると言われている。

さて…本題に戻ろう。

穢れの一角獣は真逆で、植物の育ちにくい過酷な高原に生息している。

そして基本的に【心の汚れた】者の目の前に現れると言われている。

だからたまには賞金次第で後ろ暗いことをしてる俺達には見えるんだ。

見た目は漆黒で、目だけが爛々と真っ赤に光っている。全身はユニコーンに酷似しているが、足と体毛が長く、背骨のような物が背中から飛び出ている…ユニコーンが【溶解した】ような見た目だ。角はユニコーンと違い細長く、鋸状になっているため生半可な装甲は瞬時に破壊されるだろう。

…同時に、刺されたら助からない。


動きは異常なまでに俊敏で、リーチの長い角の攻撃を捌けないようならその場で死ぬしかない。

特殊な標的意識を持っているため、間違っても攻撃目標にされた者は狙われなくなるまでは町の門をくぐらないように。


〜討伐にあたって〜


気が進まないだろうが多人数であたる場合には、出来るだけ自己中心的で悪いことをやってそうな素早い盗賊や堅牢な装備を持った騎士を同伴する事をおすすめする。

間違いなくそいつは穢れの一角獣の標的にされるからな。善人ばかりなら姿を確認することすら出来ないだろう。

討伐方法は比較的簡単だ。

狙った者を死ぬまで追撃するという習性を利用して背後から後ろ足を狙って攻撃を続ける必要がある。

狙われた者は何としても生き抜け。

もし倒れれば、残った者の誰かがそのターゲットになり…もし一人になってしまったのなら、魔法や正面から背後に攻撃出来る方法がない限り討伐は不可能になる。

単騎であたる場合はそこを留意して向かうこと。この敵を相手に退却が不可能だと言うことも重ねて覚えておくように。


〜報酬〜


基本的にこの魔物は懸賞金が掛けられている訳ではない。

しかし…その角は頑丈で、武器の刃として使用が出来る。

ただ、それを使った時点で世界中全ての穢れの一角獣の標的になるので、その者は高原に近づいた時点で、少なくとも一匹以上の穢れの一角獣と交戦する事が出来る実力と覚悟を持った者に限られる。

毛皮は重いが耐久性に優れ、水を弾く。

加工は難しく、マントにすることで身に付けられるそうだが…

何とこれを身に付けることで獣の一角獣の標的にされなかったという情報がある。

ただ革製の軽鎧一式相当の重さがあるので、そこは注意すること。

骨格は頑丈で、骨材を使う武器の耐久性をかなり底上げすることが可能だ。内臓は精神汚染を引き起こす毒の材料になる。

採取にあたっては、魔法を扱う者や精神を病みやすい者は随伴しないように。


〜私的な考察〜

様々な説があるが、最も有力な説と私自身の考えをここで述べよう。

聖なる一角獣…ユニコーンの素材はとても素晴らしい聖の力を有していて需要がある。故に彼らは密猟者に襲われ、角を奪われて命を亡くしてしまうことが多い。

この乙女を囮に使ったユニコーンの密猟は、今日まで続いている。可哀想だがそのお陰で死の淵から戻ってきた人が沢山いるというのは…とても皮肉な話だ。


この密猟を生き延びた個体が森を離れ、人間への憎悪から正反対の形質を持った個体に適応進化したという説が一番有力だ。

不思議な事だが、基本的に高原において彼らは他の動物達と共存している。

辺りの自然と共存し、それらに危険が降りかかった時に現れて脅威を撃退する行動は、従来のユニコーンと同じである。

この行動から元は同一個体であるという考えが多く、人の欲望が生んだ災厄として、彼らを不用意に刺激しないよう、冒険者組合では注意を呼び掛けている。

…一部の地域では、穢れの一角獣を【高原の調停者】として崇めている村落もあるという情報もあるそうだ。


〜最後に〜


ここまで書いてきたが、読者に1つだけ伝えたい事がある。

彼ら穢れの一角獣は人間への憎悪を持ちながらも、自然と共存して暮らしている。

つまり、こちらが何か自然のバランスを著しく崩すような事をしなければ、不意に襲われるような事は無いのだ。

だから決して彼らを

「無意味に大量に狩る」

ような事があってはいけない。

より具体的に言うならば

「先制攻撃」をしてはならない。

穢れの一角獣と鉢合わせ、狙われかけた私の冒険者仲間によれば、攻撃する前にこちらが武器を捨てて投降すれば、軽く角でコツンと頭を叩かれるだけで済むらしい。

彼らには人間への憎悪と相反する自然の流れを尊重する感情がある。

彼らからしてみれば、人こそが自分をこんな目に遭わせている異物なのだから。

…もしも貴方がこれを読んで、穢れの一角獣に立ち向かう気を無くしてくれたのならば、彼らにとってこれほど嬉しいことは無いだろう。

××××★××××

【イオラムドの首都、シウスの酒場、

「クラーケンファイア!」に現れ、

禍々しい漆黒の毛皮に身を包んだ

『サー・プロミネンス』と名乗る男】

…甘えるなよ、なぁ?

俺達は冒険者だ。

日々己を磨き、人に仇なす脅威から非戦闘民を守るという使命がある。

紛争地域の戦闘を沈める為、脅威を安全に排除するため、時には戦わずして勝利を手に入れる為に…【力】を目に見える形で示す必要がある。

そういった意味では穢れの一角獣の装備は見た者の心を震わせ、戦意を喪失させることが可能な素晴らしいものだ。

それがどんなに自然の摂理から逸脱した行為であろうと、俺は【人の味方】であり、【自然の味方】ではない。

これで救われる命があるのなら、高原だって何だって焼き払ってやる。

少なくとも、俺はそう思っている。

その為ならどんな手段もいとわない。

お前達もそう思うのなら立ち上がれ。

ヤツらを…高原から消してやる!

××××★××××

【『ケイオス』】

愚かな事だが、この一騒ぎの後でファエンド高原に100を超える冒険者の部隊が突撃し、合計約50匹の穢れの一角獣に返り討ちにされたという。

サー・プロミネンスはこの後別の事件に関わる事になるが…それはまた別の項で紹介するとしようか。

私は誰か?

そうだな…ここでは単に記録者だと思ってくれて構わない。

私は確かにこの世界に存在し、あらゆる記録を集めているが…無論神ではない。

自身の好奇心のためにあらゆる情報を入手し、ここにまとめていく。

それに意味など求めていないし、

欲しいとも思わない。

ただ…記録を集める。

人が生きた記録を…世界の記録を…

それだけだ。

ーENDー


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