六
土御門正春
土御門家当主。日向と菊里の父。普段は霊媒師として、地縛霊や怨霊のお祓いをしている……が、霊達の保護と称して家に勝手に霊を住まわせている。
とってもマイペース。
☆
「ほんと、他人事みたいですね……」
楽しむような声音の弥生に、正春はつくづく呆れる。彼女も、爺も、何の不安も心配も抱いていないように見える。実際、大事な事を電話だけで済まそうとする辺り、緊張感の欠片もないのは確かだ。
「なんでい、いっぱしの陰陽師がそんな顔するもんじゃねぇよ。あの二人の出会いは遅かれ早かれ、そうなる運命、そうなる因果だったんだよ。今更どうこう言っても始まるまい?」
「いっぱしの陰陽師だから、余計心配なんですよ。日向は、何も知らない。知らせてませんでしたから」
「もっと色々教えておくべきだったと思うか?」
「さぁ……そうとも思いませんが」
「やめておけやめておけ。今更後悔したって仕方ねぇ。どう育てるのが正解か、なんてのは、後になってみねぇと分からねぇもんよ」
清明の言葉に、正春はむっとする。彼をどう育てるか……それで散々悩ませた張本人がなにを偉そうに言えたものだと。
「そうね……星月夜には幼いころから色々――教えてきたわ。それが正しかったかどうか。おかげであの子はすっかり陰陽師の霊術ばかり学習するようになって――」と、やや冗長に語尾を伸ばし、
「おかげで、一般常識が少しばかり欠けて、周りの子は不気味がって近づかないわ、人の反応にびくつくようになって、メンタルが豆腐みたいに柔になって――嗚呼」
一気に本音をまくしたて、清明を睨んだ。清明はがっはははと母親の悩みに笑って答えた。
「まぁ、親御さんにはそれぞれ悩みがあるってこったな!」
本当に分かってんのかこの野郎と『親御さん』二人は今にも首を絞めに掛からんばかりに、睨み付ける。
「……ま、そんなわけで、私も不安が無いわけじゃないわ。開き直っているだけ。あぁ、不安が無くてお気楽なのは当主様だけね」
「がっはは! 俺が不安で慌てふためいてたら、締まらないだろうが!」
「あんたはもっと慌てふためいて欲しいというのが、ボクの願いです……んで、本題に戻しましょうか。あの二人を今この時に会せたということは」
「うむ、また卦が出た。それもこの時期に最悪の丑寅。鬼門が開こうとしているのよ」
鬼門という言葉がある。それは陰陽師の間では、悪鬼――すなわち物の怪の出る方角とされる。
十二支を時計周りに並べた内の丑寅と呼ばれる方角がそれにあたる。
「急がねばなるまいと、思ってなぁ」
「案外、当主様も焦ってるわけですね……丑寅の卦なんて、今までにも何度か出てきた。既存の陰陽師で対処出来たでしょう」
「あぁ、できたなぁ。そして今回も今まで通りに対処できたと思う。だがなぁ、問題はそこじゃねぇ。この鬼門、かなりでかいと、卦では出ている。この時期に、だ」
この時期という言葉を清明は強調する。正春は溜息と共に、自分の息子の運命を改めて確認する。
――何事も無く、何気ない日常を……願っていたんだけどな。
「えぇ、分かっていますよ。これでも陰陽師の端くれだ。避ける事は出来ない、そういう因果なんだってことはね。でも、それでも、精一杯足掻かせて貰いますよ。息子達を失いたくはないですからね」
――せめて、この身を挺して彼らを。