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何度でも出会う

作者: 全自動豆太郎

むかしむかしあるところに一人の男が住んでいた。男は体が大きく、力も強いので、村に出る悪い魔物や畑を荒らす動物を退治しては村のみんなに感謝されていた。男はそのことをとても自慢に思っていた。


ある日、男は村に来た旅人にこんな話を聞かされる。

村のある山を降りて町を越え、さらにその先にある山を3つ越え、大きな湖をぐるりと回ったさらに次の山のてっぺんに、大きな大きな、何千年と生き続けている不死の竜が住んでいる。その竜の心臓を裂いて血を浴びると、浴びたものも不老不死になれるという。


男はさっそく旅立った。山を降りて町を越え、さらにその先にある山を3つ越え、大きな湖をぐるりと回った。湖の反対側のほとりには小さな村があり、男はそこに立ち寄った。村一番の年寄りにたずねると、確かに村を越えた先の山のてっぺんには、大きな大きな竜がいるという。竜は、旅人と話し、山の獣を見守り、村の人が訪ねることを喜ぶが、時折、一人で涙を流すという。その涙がたまって湖ができたらしい。


男は山を登った。男が住む村のある山よりも、越えて来た3つの山よりもずっと大きな山のてっぺんを目指して。


男が登りきった時、目の前には、天にまで届くほどの大きな大きな竜がいた。


竜は静かに眠っていたが、男は構わず声をかけた。

「おい、竜よ。」

「なんだ、人の子よ。」竜は目を覚まして答えた。

「お前の心臓を裂いて血を浴びれば、不老不死になれるというのは本当か。」

「本当だとも、人の子よ。」

「ならば、おれはお前の心臓を裂こう。」

「構わん。やってみせろ、人の子よ。」

男は怪訝な顔をした。

「おい、竜よ。」

「なんだ、人の子よ。」

「お前は心臓を裂かれることが怖くないのか。」

「怖いものか。裂かれたところで死にはしない。」

「ならば、お前はどうやって死ぬ?」

「死のうと思えば、いつだって。」

竜は目を細めながら答えた。

その穏やかな顔を見て、男は1度気合いを入れると、一思いに竜の胸に剣を突き立て、その血を浴びた。


不老不死になった男は、自分の村に帰って家庭をもった。いつまでも若く強い男は、村に出る悪い魔物や畑を荒らす動物を退治して、妻や子どもを守り続けた。

しかし、若く強いままの男をおいて、はじめに父が死んだ。次に母が、年をとった妻が先立った。次に1番上の子どもが老いて死に、2番目の子も死んだ。男の孫も老いて、ひ孫も死んだ時、男はふらりと旅立った。


山を降りて町を越え、さらにその先にある山を3つ越えた。昔見た大きな湖は、いくぶん小さくなっていた。男はその湖を回り、また山を登った。山のてっぺんには、やはり天にまで届くほどの、大きな大きな竜がいた。


竜は相変わらず眠っていたが、男は構わず声をかけた。

「おい、竜よ。」

「なんだ、人の子よ。」竜は目を覚まして答えた。

「お前はなぜ生き続けている。」

「…」竜は何かを思い出すように目をつぶった。

「おれは、妻にも、子にも先立たれた。孫も死に、ひ孫も老いて死んだ。竜よ、生き続ける理由を教えてくれ。あれだけうらやましいと思った不死の体が、今はうとましくて仕方がないんだ。お前は、なんのために生きる。」

「出会うために。」竜は静かに答えた。

「竜よ。お前は別れが辛くないのか。」

「辛いとも、涙を流すほどに辛い。」

「では、なぜ出会う。」

「別れる辛さよりも、出会う喜びは大きいのさ。長く生きれば、別れる数は多くなる。わたしが1度眠る度、山の獣が死んで、ふもとの村では人が死ぬ。同じ時に、山の獣が子をうんで、村の人が子を育てる。その営みが何よりも愛しく、触れあえることが何よりも嬉しい。」

男は静かに話を聞いていたが、ゆっくりとその場に腰をおろした。

「竜よ。おれも出会う喜びを、ここで感じてもいいだろうか。」

「もちろんだ。歓迎しよう、友よ。」

「ありがとう、友よ。」


それから、男と竜は、いろんな出会いをした。旅人と話し、獣が子を育てる姿を見守り、村の子どもが増えるたびに喜んだ。同じ数だけ、別れがあった。男も竜も涙を流すほど悲しんだが、それでも出会うことを止めなかった。男もいつしか、出会うことの喜びを何よりも大切に思えるようになった。


男と竜が山のてっぺんで生き続けて、千年もの時が過ぎた。

男が静かに口を開いた。

「なぁ、友よ。」

「なんだ、友よ。」竜は穏やかに答えた。

「おれは長く生き、実に多くの喜びを得た。これほどに喜びを得られたのは、お前のおかげだ。おれもお前に、何か渡したい。」

「お前という友を得られたことは、わたしにとっての最上の喜びであった。ほかに望むものはないな。」

竜にとっての本心であった。しかし、同時に悟っていることもあった。

竜の答えに、考え込むように上を向いて目を閉じている男に、竜は言った。

「しかし。叶うならば、友よ。お前ともう一度出会いたい。」

男はパッと目を見開いた。竜が目を細めながらこちらを見ていた。

はじめから永遠を生きられる竜とちがい、男は人の子として生まれ落ちた。百余年ほどしか生きられぬ人の子の精神では、千年の時は長すぎた。竜がゆっくりと頷いた。男も悟った。別れの時だ。

「おれとお前の再びの出会いを、待っていてくれるのか、友よ。」

「待つことには慣れている。お前という友とまた出会えるなど、これほどの喜びはない。いつまでだって待てるだろうさ。」

「ならば、おれも安心してこう言える。また会おう、友よ。」

「ああ、また会おう、友よ。」

それきり、男は目をつぶり、動かなくなった。竜は、別れの辛さに涙を流した。泣いて泣いて、流した涙がたまり、山のふもとの湖は、また元の大きさに戻った。


それからも竜は、旅人と話し、山の獣を見守り、村の人が訪ねることを喜び、時折、一人で涙を流した。


百年経ち、二百年経ち、とうとう千年が経つ頃、眠る竜に、一人の男が声をかけた。

「おい、竜よ。」

「なんだ、人の子よ。」竜は目を覚まして答えた。


男が生まれ変わるのははじめてではなく、竜は何度も男を見送り、友になる。長く生きる楽しみって、出会いの数が多いことかなと思ったのと、不老不死なら、友だちの転生した姿も見れそうだなっていう考えから。

もうちょっと練らないと面白くないんでしょうけど、息抜きに投稿してみました。

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