鍋と魔法
すっかり寒い冬になった12月。冷たい風がビューっと吹いている。
いつものメンバーで鍋をすることになった。
相も変わらず、貴史の家が会場だ。
まあ、貴史の家は休日も昼間は両親がいないので、集まりやすい、というのもある。もっとも、当然姉はいるのだが。
今回はその姉、宏美も参加することになっている。
宏美には闇鍋を提案されたが、貴史が却下。ただでさえ上手くない宏美の料理だ、どんなことになるかわからない・・・というのが、貴史の言い分だった。
もっとも、これには玲奈は、
「待って、闇鍋、面白そうなのに何でやめるのよ」
と不満げだったのだから、それを抑えるのも一苦労だったのだが。
結局、寄せ鍋にすることに落ち着いた。
「おじゃましまーす」
威勢のいい玲奈の声が玄関に響く。
「いらっしゃい」
宏美が出迎えてくれた。
玲奈はキャメルの、千尋はネイビーのダッフル・コートを着ていて、制服のスカートが下からチラリと出ていた。
「なんで休日なのに制服なんだ」
とは貴史。玲奈がその疑問に答える。
「今日は家から飛んできたのよ」
私も、という表情で、千尋が頷く。
全く、便利なもんだ。ちょっとだけ貴史は羨ましくなった。
鍋作りが始まった。
貴史があらかじめ用意しておいた、寄せ鍋の素スープと、まともな具材、肉や魚、野菜などが揃っていた。
あとはそれを煮るだけだ。そのくらいなら、貴史もできた。むしろ、宏美に任せるよりも、安心だった。
「ちょっとトイレ行ってくるから、火を見てて」
貴史は、後の三人に任せて、リビングを出た。
その時だった。
「待って、へへ、普通の鍋じゃつまんないものね!」
玲奈が悪だくむ。
なんと、かぼちゃ、はともかく、ミントの葉と麦チョコまで取り出した。
「うわー、面白そうねえ」
宏美も乗ってきた。千尋はただ、ジッと見守るだけ。
あえなく、それらは鍋にドカッと投入された。
まもなく、貴史がリビングに戻ってきた。徐々に、臭いの異変に気付く。
「う…なんだこの臭いは」
「うふふ、内緒よ。さあ食べましょ」
玲奈は得意げに、リビングのソファに深々と座る。薄手の黒タイツを履いた、柔らかそうな太ももが露わになる。さらに、玲奈はその脚を組んだ。一瞬スカートの中が見えそうになる。それに貴史は一瞬目を奪われた。
そして、千尋も、横に座った。彼女も黒タイツだ。しなやかな脚が開きっぱなしになっている。これだと、正面に貴史が座ったら、スカートの中が視界に飛び込んでしまうだろう。貴史が内心慌てていると、
「せっかくだから、並び方変えましょ」
宏美が提案した。
千尋の隣に貴史、その正面に宏美、その隣に玲奈が座ることになった。
宏美は、黄色のホット・パンツに厚手の赤いタイツを履いている。これなら一安心だ。貴史は落ち着いた。
「おっと」
ようやく火に気がついて、止めた。
果たして、一同が口に入れた鍋の味は、なかなかのものだった。
寄せ鍋の素の塩味とチョコレートのデロッと甘ったるい味との融合。かぼちゃが甘さをさらに付け加えている。そこにミントの匂い。それらが、肉や魚や野菜に絡みついて。
「ぐえっ、なんだこの味は」
やはり不味かった。
「うーん、さすがにダメだったか」
玲奈も反省の色を見せる。
千尋は無言だが、箸が進んでいない。まあ、同意見なのだろう。
一同は固まってしまった。
貴史はさすがに怒りを隠せないようだが。
「さて、しょうがないか」
宏美は呟き、ヘア・ゴムで長い髪をまとめた。
そして次の瞬間、鍋に両手をかざし、精神を集中していた。
「姉さん・・・?」
貴史はその行動に怪訝な表情を浮かべる。
程なくして、宏美が、
「さ、食べてみて」
と言った。
貴史と玲奈が気が進まずにいると、先にスッと箸をつけたのは千尋だった。
「美味しい」
「マジで?」
貴史は疑ったが、
「待って、美味しい」
玲奈も驚きを隠さない。貴史も味わってみる。
「・・・美味い」
宏美は鍋に何をしたというのか。まるで魔法だ。魔法だ…
「待って、まさか、お姉さんって、魔法使えるんですか!?」
素っ頓狂な声を玲奈があげた。
「ばれちゃったわね」
宏美はテヘペロした。
「何テヘペロしてんだよ!てかそんなこと僕に言わなかったじゃないか!」
「調理魔法といえば、確か魔法技能検定の二級」
千尋も、珍しく驚いた表情をしていた。
「そうね。実は、神戸の高校行ってた時、二級取ったのよ」
「すごーい!」
玲奈は目をキラキラと輝かせた。二級って、そんなにすごいことなのか。
「だったら何で、今まで料理に使ってくれなかったんだよ」
「魔法、使いたくなかっただけよ。面倒くさいし」
「でも、何で制服じゃないのに魔法使えるんですか」
玲奈は、宏美を羨望の眼差しでジッと見ながら質問する。
「このヘア・ゴムね、魔法を発動するのに使えるのよ。二級以上はね」
宏美は体をひねり、自分の髪をまとめている赤いヘアゴムを、横にいる玲奈に見せた。
「ちょっと、見せてもらってもいいですか」
「いいわよ」
宏美がヘア・ゴムをほどくと、赤い髪がパサッと広がった。
見た目は、なんの変哲も無いヘア・ゴムだった。だが、二級以上だと、魔法発動のためのウェアラブル・デバイスになるという。
「ちょっと、つけてみていいですか」
玲奈がそう言うと、宏美は頷いて、ヘア・ゴムをスッと手渡した。
玲奈は、ヘア・ゴムで黒髪をポニー・テールにしてみる。そして、精神を集中した。
しかし、何も起こらなかった。ただ、玲奈の首筋に、ピリッとした感触が走っただけだった。
「やっぱり無理かあ」
玲奈は少しがっかりした。
「そりゃそうね。でも、三級くらいだったら、教えられなくもないけど」
宏美がうーん、という顔でそう言うと、
「ホントですか!?お願いします!」
玲奈は真剣な眼差しで、そう叫んだ。




