魔法のキャス
秋も深まってきた頃。
由美はキャスを通じて、着実にアイドル的な人気を得ていた。
「そもそもキャスって何だよ、また魔法か」
貴史は、一緒に貴史の部屋にいる、玲奈と千尋に問うた。
答えたのは玲奈。
「待って、そんなことも知らないの。キャスは、スマホやパソコンから、他のスマホやパソコンに映像を送るのよ。つまり、ええと」
「ネット配信。それ自体は魔法とは関係ない」
千尋が補足した。
「それ自体は、ってことは、結局魔法も出てくるのか」
「そうよ。キャスに乗せて魔法を使って、ファンになってもらうの」
玲奈は何故か得意げにそう言った。
「それを、由美ちゃん…いや、柏原がやってるって言うのか」
玲奈がキッと睨んできたので、貴史は思わず由美の呼び方を言い換えた。
「そう。それを今から観るの。どんなことやってやがるのか、参考にしてやろうと思って」
玲奈が悪意に満ちた言い回しをした。
貴史はそれには突っ込まないことにして、
「じゃあ、観るけど。このアドレスを開けばいいんだね」
タブレット端末を操作した。
「こんにちわー、由美のキャスです♡観てね♡」
端末の画面いっぱいに、ドーンと由美の顔が映し出された。それと同時に、視聴者のコメントらしきものも流れ始める。画面端に表示されている視聴者数は、五十前後だった。
「なーにが、由美のキャスです♡、よ」
玲奈は早くも不機嫌になる。
由美は、公園からキャスしているようだった。
なぜか、公園で逆上がりを始めた。制服姿で。
それだけなのだが、一部マニアには、たまらないものがあり、人気が出てしまうのだろう。由美がくるっと回ると、当然、スカートの中身も見えた。しかし、見えても良いものを履いているようだった。アイドルが、よくスカートの下に履いているものだ。
もはや、魔法は関係ない気がしてきた。一同は、アホらしくなった。
ただ、視聴者のコメントは、伸びている。「うはwwww」「見えた」など、一部マニアの男子が書き込んでいるのだろう。視聴者数は、たちまち、三桁になった。
「何よこれ」
玲奈は呆れ顔をした。
しばらくすると、
「次は、家からキャスします、後でね♡」
家に移動するようだった。
「もう、見るのやめようか」
玲奈が不機嫌そうに言った。
ほどなくして、またキャスが始まった。
由美は、自分の部屋に移動したようだった。
「今から、”踊ってみた”、やります♡」
“踊ってみた”は、数年前から流行っている。アイドル・ソングなどを流し、それに合わせてダンスを披露するものだ。
あの人気アイドル・グループのミリオン・ヒット曲が流れると、由美は、テキパキと踊り出した。
その瞬間からだった。
コメントが、ものすごい勢いで流れ出したのだ。さらに、視聴者数を見ると、四桁に行き、まだまだ増える。
「魔法」
千尋が呟いた。
画面をよく見ると、踊っている由美の手足の先、また翻る制服のプリーツ・スカートから、キラキラしたものが出ている。魔法が発動しているというのか。
「魔法の力で、視聴者を引き寄せている」
千尋は付け加えた。
「キャスで魔法を使うのって、魔検三級がないとできないのよね。悔しい!」
玲奈は、そう叫ぶと、黙り込んでしまった。
あれ、涙?貴史は驚いた。
そこまで玲奈が悔しがるとは、予想外だったのだ。
「・・・おい、泣くなよ」
「泣いてない!」
と、玲奈は、でも明らかに、必死に涙をこらえている。目も顔も真っ赤だ。
「次の試験、頑張ればいいじゃないか」
貴史はいたたまれなくなって、というか雰囲気に流されて、慰めようとした。
「こうなるとどうしようもない」
千尋もあきらめ顔だった。
その言葉通り、玲奈は当分泣き止まなそうだ。
「だって、実技試験どうしてよいかわからない」
貴史が初めて見る、玲奈の弱気な面だった。




