魔検の勉強
貴史たちが家に帰ると、宏美は、きちんとした格好をして玲奈と千尋を出迎えた。
と言っても、古臭いコン・サバな女子大生の格好だが。貴史の母親と宏美の父親が再婚する前は神戸に住んでいた、自称神戸っ子の宏美によると、神戸で1975年頃から十年くらい(?)流行った、”ニュー・トラ”というファッションらしい。何十年前のだよ。
派手なシャツに、赤いセミ・タイトの膝上スカートを履いて、ブランド物の細いベルトなんかしてやがる。
「姉の宏美です。どうぞよろしく」
と、二階の貴史の部屋にコンコンとノックをして入ってくると、お茶とお菓子を出してきた。あらかじめ、貴史から宏美にテキスト・チャットを送っておいたので、ことのほかスムーズな対応をしてくれている。その点には、貴史は感謝した。
「ありがとう」
「ありがとうございまーす!」
「ありがとう、ございます」
宏美はにっこり笑って、部屋の扉をカチャッと閉めた。
「で、うちの部屋で何するつもりだ」
「待って、部屋で何するつもりとか、やらしいわね」
と、玲奈は貴史をキッと睨みつけた。
「な、何もやらしいことなんか、ないじゃないか」
と言いつつ、貴史は少しうろたえる。
「勉強に決まってるじゃない」
と、玲奈は表情をくるっと変え、笑顔で答えた。
「勉強って、何の勉強だよ」
「またしてもやらしい」
玲奈はイヒヒとやらしい笑みを浮かべる。
「何言ってんだ」
さすがに貴史は呆れるしかなかった。
それに気づいてか、玲奈は、
「魔検の勉強に決まってるじゃない」
と、真顔で答えた。最初からそう言えよ。
「魔検って、座学もあるのか」
と貴史が問うと、
「そうよ。筆記試験。魔法の種類とか、ルールとか。まあ色々ね。夏休み明けのテストにも出るし」
「そうなのか。そういえば、あの、柏原って言ったけ、あの子は何級なんだろう」
「何、興味持っちゃってるのよ、あの子に」
「そんなんじゃないって」
貴史は、そうは言ったものの、実は内心慌てた。ちょっとはそんな気持ちも芽生えていたのは事実なのだ。僕だって、男子高校生ですから。
「あの子は三級よ」
玲奈はボソッと険しい顔で言った。なるほど、玲奈も由美を結構ライバル視しているらしい。
「三級というと、君たちの一つ上か」
「そうね」
この話題はおしまい、とばかりに、玲奈は視線をスッとそらす。
「僕は、何をやってればいいんだよ。魔法なんてわかんないし」
「適当に、夏休みの課題でもやってたら」
「はいはい、そうさせてもらうよ」
そう言うと、貴史は夏休みの英語の宿題にとりかかった。
貴史の部屋には、時折、玲奈と千尋の相談しあう声が響いていた。
その魔法を使っていいのは、どういうときだっけ、とか、この魔法区分は何と何があったっけ、とか・・・。
ほとんど、尋ねてるのは玲奈から千尋へのようだが。
二時間くらいたった頃だろうか。もう飽きてきたのか、玲奈が口を開いた。
「それにしても、麦チョコを出してくるなんて、あんたのお姉さんも気がきくわね」
「まさか。偶然だと思うよ」
貴史は伸びをして、答える。
「そうなの。まあいいわ。そろそろ帰ろうかな」
玲奈はあくびをして答えた。
そんな日々が夏休み中、続いた。
☆三☆三☆三
夏休み明け。
玲奈と千尋は、校内の、魔法テストに臨んだ。
まず、飛行テスト。これは練習の甲斐あってか、無事、二人とも合格。合格とは、魔法が安定していること、スカートも当然ヒラヒラしないこと、だった。これができないと、女子としてのたしなみができていないということにもなり、落第となってしまうのだ。
もっとも、これには他の女子生徒も続々合格していたので、これから登下校の時間帯には、フワフワと空を舞うJMが嫌でも見られることになるのだろう。
問題は、筆記テストの方だった。
千尋は、元々勉強がそこそこできる方で、難なく合格点をクリア。
しかし、玲奈は、赤点ギリギリとなってしまったのだ。夏休み勉強したのに、と玲奈はズーンと落ち込むが、そもそも玲奈は勉強が苦手かつ本能的なタイプ。結局のところ、夏休み中は範囲を覚えきれず、ヤマ勘に頼るしかなくなってしまったのだ。
とはいえ補習はどうにか免れたので結果オーライ、と玲奈は思う。
☆三☆三☆三
10月。
玲奈は、一人で、魔法技能検定の三級を受けに来ていた。
午前中は筆記試験、午後は、実技試験だった。
午前中はなんとかなりそう。でも、実技試験は自信がなかった。
玲奈は、そんな中試験に臨み、1日のスケジュールを終えた。
不合格。
後日、玲奈に届いたハガキには、そう記されていた。
筆記試験は合格だったが、実技試験で落ちていたのだ。
やっぱり・・・玲奈は、どうして良いか分からず、絶望的な気持ちに苛まれた。




