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彼にとっての譲れぬ一線

 いつまでも鳴り止まない男の悲鳴から逃げるように、ひたすら真っ直ぐ進んでいくと通路が少しずつ明るくなりはじめた。心なしか風も吹いている。


 (出口が近いのか?)


 逸る気持ちを抑えながら慎重に進んでいくと、一際明るい光が射している出入り口を見つけた。


 やっと出られる。そう思い、駆け込んだ。ここまでの移動距離は大したことがないはずなのだが、怪我や緊張から疲労が凄まじい。


 そこには


 天井をくり抜いて覗く曇り空。

 そして部屋の奥には祭壇さいだんのような場所。何やら小さなものが壁に磔にされている。


 「何だアレ……」


 ふらふらと導かれるように、祭壇へ近づいていく。アレには何かある。そんな確信があった。


 そんな俺を遮るように、天井から2匹の大百足が降ってきた。


 「っ!」


 我に返った俺は、自分の迂闊うかつさを呪った。


 (何とかして逃げないと……でもあと少しで)


 慌てて踵を返そうとしたが、どうしても祭壇が気になる。無謀と知りつつも、もう少し前へ踏み込んだ。

 その判断は間違いではなかった。


 「あ、あぁぁ、あああああぁぁぁぁ」


 磔にされているのが何か理解した時、忘れもしない。あの光景が蘇った。




 燃え盛る炎。散らばった瓦礫。へし折れた桜。そして




 黒い、黒い身体の中に、咄嗟とっさに手で庇ったのか唯一焼けずに残った目。




 まぶしかったのかな…いたかったのかな…ないてたのかな……たすけて…ほしかったよね。




 最後の日、みんなのお墓の前で誓ったこと。


 「もし来世、こんなことがあったら俺は……」


 幸せを掴みたかった。

 自分が得られなかった幸せは、子どもたちの中で見つかった。

 見ているだけで、ほんのそれを少し支えるだけでよかった。

 でもそれすら許されなかった。

 死にたくなった。

 でもなぜか死ねなかった。

 やっぱり生きたかった。


 なら、生きてるってどういうことなんだ…


 ちらりと前を見る。理性では目の前にいる大百足を相手にすれば、死ぬことは重々わかっている。利き手もない。まともな武器もない。

 今ここから逃げ出せば、一時の安全は得られるかもしれない。


 でも…そんなことをして俺は、みんなに胸を張って今後生きていけるのだろうか。

 そんなはずはない。

 ここで退くわけにはいかない。これだけは見逃す訳にはいかない。


 あの誓いを守るのは、今なんだ!


 俺の目に飛び込んできたのは、四肢を喰いちぎられ、祭壇に磔にされた小さな女の子。

 胸に突き刺さった剣で、赤い水晶と一緒に壁に縫い付けられている。


 俺の命一つで、今度こそ助けてみせる。自殺しようとした時とは根本的に違う、新たな決意をもって一歩踏み出した。

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