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装魔師の力

あのお方再登場

 集中するように目を閉じたルナは、石と女王の残骸に手を向ける。すると、その両手が光り始めた。


 「何が起きるんだ…」


 手の代わりができるとだけ伝えられていたが、どうなるのだろう。

 石が動き、残骸へと向かった。

 ルナの両手は一層輝きを増し、残骸の形を変えていく。


 「修、ルナの手の前に失った腕を出せ!」

 「わ、わかった」


 状況は分からないが指示に従う。ルナに向かって腕を差し出した時、変化は起こった。


 「修、耐えろよ」

 「えっ?」


 その言葉を最後に、視界は暗転した。



***



 「ッ!どこだここ?」


 気がつくと真っ暗闇の中に一人でいた。


 「ルナ!ベリル!」


 俺の声に返事はなく、闇の中に声が呑み込まれるだけ。空間がどこまで続いているのか、想像もつかない。


 「誰もいない…え?」


 見えはしないが、確かに感じる右手。無くなったはずのものが、そこにある。


 「どうして…食われたはずじゃ…」


 違和感なく動く手。その疑問に応えるように、暗闇が晴れた。だがそこにいたのは、


 「何で…死んだハズ…だろ」


 目の前にいたのは、この手で殺したはずの女王。


 「くそっ、やるしかないのか」


 手の中に六角柱を思い描き、魔力を込め握り締める。しかし…


 「魔力を感じない…それに身体が!」


 女王と戦うどころか、金縛りにあったように身体が動かなくなった。そんな俺を嘲笑うように、ゆっくり女王が近付いてくる。


 「どうしたんだ、動け、動け!」


 必死に身体を動かそうとするが、びくともしない。そうしている間に女王の頭が目の前に。息のかかる距離で女王は俺を見つめる。動けない俺は、目と鼻の先にある女王をひたすらにらみ続けた。心だけは決して負けない。


 「妾ヲ前ニ恐レヌカ」

 「え?」


 女王がしゃべった…どうもあの時とは様子が違うようだ。背筋が凍るような重圧を感じない。


 「チカラヲクレテヤル。対価ハソノ右腕」

 「これか?」


 失ったハズの右腕。それを対価として渡せと言う。


 「これを渡せば力を貸してくれるのか?」

 「ソウ言ッテイル。タダシ二度ト元ニハ戻ラヌ」


 俺の弱さがルナを殺す。なら、なくした右腕程度くれてやっても惜しくない。


 「分かった。持って行け」

 「ナラバ契約ノ証ダ」


 そう言うと女王は、右手から体内に入り込んできた。


 「えっ?がああああああああああぁぁぁ!!!!!」


 強烈な違和感と焼けるような痛みが、腕に襲いかかる。筋肉の隙間に潜り込み、血管をかき分け、神経に侵入される。目眩の起こるような気持ち悪さが右腕をさいなみ続けた。その間に腕は変色を始め、真っ黒に染まっていく。永遠とも思える時間苦しみ続けた末、突如として解放された。


 「契約ハ成ッタ」


 そして再び俺の視界は暗転した。



***



 「戻ったか」


 聞こえてきたのはベリルの声。


 「ッ!!どうなったんだ…」


 辺りを見ると、あったはずの女王の下半身は消えていた。そして、ルナは膝の上で倒れている。


 「ルナ!」


 外傷こそ見当たらなかったが、見落としがあったのかもしれない。そういえば失血もしていた。


 「修、起こしてくれるなよ。一時的な魔力の欠乏だ。安静にしていれば治る」


 確かによく見ると規則的に背中は上下している。


 「よかった…」

 「この子には悪いが、女王で装魔を創り出すには今しかなかった。」

 「ありがとうな、ルナ…それでベリル、何が起きたんだ?」

 「お前が受けたのは契約者選定の儀。装魔の元となる魔物は主を試す。先に話してしまえば、身構えて悪い結果を招く場合が多い」

 「そうだったのか…」


 なら先程見たのは幻ではなく女王そのもの。契約者としては認められたのか。


 「右腕を見ろ。それが装魔だ」

 「え!」


 慌てて右を見ると、なくした腕がそこにはあった。ただし黒一色の。


 「本当に…腕がある……」


 手を確認するように握ったり、閉じたり。何の問題もなく動く。左手で腕を触ると、見た目に反して柔らかい。温かさすらある。女王の体で出来ているとは思えないほど、普通の腕だ。


 「手のひらに核が埋まっているだろう」

 「核?」


 腕を返すと確かに手のひらに、あの核が埋まっている。


 「これが…装魔…」

 「魔物の核と肉体を使い、武器へと変える。それこそが変異の…装魔の力だ。ただし修、覚えておけ。装魔は魔に連なる諸刃の力。与えておいてなんだが、安易に頼りすぎれば契約した魔物に魅入られ取り込まれる」


 確かにあれほどの殺意をもって襲ってきた女王が、素直に従うとは思えない。


 「慣れぬ内はどうしても、元になった魔物に心が引き摺られる。本来は共に長い時間を過ごした従魔と死別した後に契約するのだが、選ぶ余地がなかった。それでも相性自体は悪くないはずだ。あれは母親、子を守るためなら応えてくれるだろう。それに歪魔…いや創造神の結界に正面から対抗するには、この装魔を使うより他ない」

 「結界?」

 「お前も見たはずだ。最後の瞬間、女王が纏った膜を」


 確かに見た。薄く濁った膜。あれに結晶が触れた瞬間に、あたかも何も無かったかのように消えてしまった。


 「そうだ。あれが創造神の結界。あらゆる魔術を全て消し去る、凶神まがつかみの加護だ」

 「それでなのか…」

 「たった一度限りだが、その恐ろしさは身を以て知っただろう」

 「ああ」


 確かにあれは危険極まりないものだ。どれほど相手を追い詰めようと、あの結界であっさりと形勢逆転されかねない。

 それに歪魔はそもそもが強力な魔物。あの状況からよく勝てたなと、改めて考え背筋が凍った。


 「どうしてこの装魔なら対抗出来るんだ?」


 あらゆる魔術を消し去るなら、この右腕も例外では無いはず。


 「目には目をというやつだ。その核から結界に干渉し、相殺する。力の根元が同じだから出来る力技だ。ただし魔力を大量に消費する上、戦闘後に装魔師による調律を必要とする」

 「それでも、今の俺には必要な力だ。装魔も結晶術も使いこなしてみせる」


 守る覚悟を問う、変幻自在の結晶術


 女王という不安要素のある装魔


 そのどちらも心の在り方を試される。この子を守るために、二度とくじけるわけにはいかない。

ただの黒い腕…?呪い付きアイテムは外せない。

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