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歪魔の核

 「しゅーは、べりる?」

 「ん?どういうことだ?」

 『恐らくルナリアは、お前の中にいる我の気配を敏感に感じ取っているのだろう』

 「そういうことか…」


 初対面で人見知りされてもおかしくないはずなのに、なついてくれているのはベリルのおかげだろう。


 (どうすればいい?)

 『今はこうだが、本来はとてもさとい子だ。いずれ気付く』

 (なら…)

 『修、何でもいい、結晶で生き物を作ってくれ』

 (え?)

 『いいな、手のひらに乗る程度の大きさで生き物だ』


 訳は分からないが、きっと理由があるのだろう。俺は急いでイメージを固めていく。


 手のひら…生き物……これか?


 集中し、左手を握り締める。少し不思議そうに、ルナは俺の行動を見つめていた。

 握った手から現れたのは、透明な折り鶴。これなら作り方もよく知っているし、細部まで想像がしやすかった。


 (これでいいのか?)


 『あぁ上出来だ。後はこちらでやる』


 すると折り鶴が、羽から少しずつ赤に染まっていく。


 「とりさん?……べりる???」

 「鋭いな、ルナリアは」

 「っ!べりる!!!」


 ルナは折り鶴からベリルの声がした途端に、勢いよく俺の左手にすがりついた。


 「おっと!ルナリア、我が落ちてしまう。ゆっくりだ」

 「あ…ごめん…なさい」

 「分かればよい。大事ないか?」

 「うん!」

 「そうか……」


 ベリルの噛み締めるように呟いた言葉には、安堵や慈愛を含む万感の想いが込められていた。

 手の上の鶴をそっとルナに渡す。


 「いいの?」

 「ああ。傍に居たいだろ?」

 「うん!」


 ―――グッ


 「え?あ、ああ」


 どうやらベリルに気を取られているうちにいなくなるのでは、と思ったらしい。しっかりと片手で服を握りしめている。

 そして、それは当たっている。ベリルに相手をしてもらっているうちに、核を探そうかなと考えていた。ルナの方が一枚上手(うわて)


 「ルナリア、今はあまり時間がない。よーく聞いてくれ」

 「う、うん」


 時間がないというのを聞いて、少しルナは悲しそうな顔をした。


 「誰にも見せてはいけないと、前に約束したことを覚えているか?」

 「うん」


 手の代わりに、耳をぴんっと立たせながらルナは答えた。


 「それを修に見せてやってくれるか」

 「いいの?」

 「ああ、ただし修だけにだ。また約束出来るか?」

 「うん」

 「そうか。やはりルナリアは賢いな」

 「えへへっ」


 視界の端でせわしなくしっぽが動いている。


 「修、ルナリアと共に核を探せ」

 「分かった。ルナ、だっこしようか」

 「うん!」


 治ったばかりのルナの足には当然靴はない。剥き出しの地面は所々尖っているので、歩けば怪我は免れないだろう。それに先ほどからどうも足が動く様子がない。もしかして……嫌な予感を振り払うように、左手で抱え上げる。


 (やっぱり軽い…)


 今まで抱え上げてきた同じ年くらいの子供に比べて、不安になるくらいに軽い。少し痩せすぎかもしれない。銀の髪や白い肌の色艶はしっかりしているが心配だ。


 「そういえばルナはいくつなんだ?」

 「みっつ。んー?よっ…つ?」


 途中からわからなくなってしまったらしい。そんなルナを見かねたのかベリルが


 「ルナリアが4歳になってすぐにあれが起きた。4歳を過ぎているのは間違いない」

 「そうなのか?」

 「ああ。だからルナリアはもう4歳だ」

 「しゅー、ルナ、よっつ」

 「そっか。教えてくれて、ありがとうルナ」

 「うん!」


 4歳か…確かにルナはこちらの話はしっかりと理解しているのに、言い回しが少し幼い。だがこの年頃なら成長に個人差があるのは普通のことだ。これは特に問題はない。

 二人と話ながら部屋の出口までたどり着く。ここから先はあまりルナに見せたくはない景色だ。


 「そうだな…ルナ、少し遊ぼうか」

 「???」


 こちらを見つめ、ルナは首をこてんとかしげる。


 「数をかぞえている間、ルナは目を開けてはいけない。わかるか?」

 「うん」

 「歩くけど我慢するんだぞ?じゃあ、はじめ!いーち、にー、さーん……」

 「うー」


 ルナは一生懸命目を閉じているらしい。声から力の入りようがわかる。あまり揺らさないように、ゆっくりと通路へと足を踏み入れた。


 「ろーく、なーな…」


 のんびりとした声が響くなか、女王の破片を確認していく。以前見た石の大きさから、壁に張り付いた肉片は気にしなくてもいいはずだ。


 「にーじゅう、にーじゅういち……」


 下に落ちている塊を踏みつけて確認する。ぐじゅりという音とともに、足が沈む。


 「これじゃない…次は」


 数歩進むと女王の頭を粉砕した場所だ。こんなところに残っているのだろうか。


 「よんじゅういち、よんじゅうに…」


 散らばる顎の欠片を踏み砕き進むと、壁際に鈍い光が。


 「これか…大きい?」


 以前拾ったものは小石程度。今回は拳大はある。


 「見つけたな。ならばルナリア、次はそのまま修の首にぶら下がりだ」

 「うん!」


 ルナを支えていた手を離し、一時自由になった手で石を拾い上げる。それを急いでポケットにしまった。すこし歩きにくい。


 「ルナリア、次は駆け足だ!落ちるなよ?修、戻れ」

 「いくよ、ルナ」


 ルナを支え直し、ベリルの声に合わせ一気に駆ける。走ればすぐだ。


 「はい!到着」

 「たのしかった…」


 ぽつりとつぶやくように出た感想。少しは気がまぎれたかな?


 「そうか…勝負はルナの勝ちだぞ」

 「うん!」


 ルナを抱えたままゆっくりその場に腰を下ろす。


 「さて、ルナ。お前の力を修に見せてやれ」


 一体この子が何をするのか…少し不安になりながらも、俺は見守ることしか出来なかった。

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