最後の一撃
「―――ぐっは!!!」
とっさに前に出した槍で、突進の直撃だけは防いだが、柄が真っ二つに割れてしまった。
(また守れないのか…)
通路へと吹き飛ばされ、景色が流れていく中そんな考えがよぎった。目の前で砕けた結晶と同じように、心も……
いや、そうじゃない、今度こそ守ると決めたんだ!
その覚悟に応えるように、右腕を包んでいた赤い結晶が輝く。
『唱えろ、修!』
頭のなかに流れ込んできた言葉を叫ぶ!
「我、”不退転”の理を此処に示す!」
現れたのはベリルが使おうとしていた、奇妙な模様の円形盾だ。
「咲け、刃の車!」
盾の模様が動き、その形状を変える。
模様だと思っていたのは、横向きに折り畳まれた赤い花びら。
その正体は結晶で作られた6本の湾曲剣、三日月の如き異形の両刃剣。
六方向に突き出した剣が女王に襲いかかる。
全方位から向かってくる刃に、女王は体を挟み込まれた。振り解こうとしても、その巨体には狭い通路。行く先全てが刃、決して逃がしはしない。
「終わりだ、廻れ!」
女王を捕らえたまま、赤き花は回転を始める。
「キュアアァァァアアアアアアアアアア!!!」
挟み込んだ場所から下が、捻り斬られ落ちる。それでもまだ刃の車は、捕らえた獲物を離しはしない。
女王を刃の内側へ引きずり込み、更に体を細かく寸断していく。
「ギュガアアアァァァアアッ!!!!―――」
刃が動きを止めたころには、壁や床中に大量の肉片が飛び散っていた。胴体から頭の先まで粉砕された女王は、とっくに息絶えている。
「とんでもない威力だな……」
目の近くに飛んだ血を拭いながら、目の前を見つめる。3mはあった女王の半身は、最早見る影もなかった。
『相手の零距離でしか使えぬ特化術式。このくらいは出来て当然だ』
「最後、何が起きたんだ?」
『あれは魔術消滅の創造神の結界。あの土壇場でなりかけから歪魔に至ったのだ。だが今はそんなことよりも、ルナリアを』
そうだった。余りにも衝撃的な惨状に立ち尽くしている場合ではない。部屋へと戻り、入り口で辺りを見回す。急ぎたいが、彼を置いては行けない。
「いた!大丈夫か?生きてるよな?」
シュナは壁に背中を預けるように倒れていた。全身がひび割れ、今にも砕けそうな彼をすくい上げる。見るからに重傷だ。
「ありがとう。シュナのおかげで勝てたよ。こんなになるまで守ってくれてありがとう」
恐らく彼が限界まで粘ってくれたからこそ、あの程度の衝撃で済んだのだ。
『修、送還しろ。魔法生物ゆえ死にはしないが、数日は動くことも出来ないだろう』
「そんなになるまで……本当にありがとう」
手順に従いシュナを送還する。ねずみから結晶に戻り、手の中の六角柱は霞のように消えていった。
「行こう!」
改めて奥を目指し進む。部屋の中を少し行くと、大きな塊が落ちていた。
「流石に動かない…よな」
『既に魔力の流れは途絶えている。我が魔術の気配はその下半身からだ。間違いなくそこにいる。切り裂け!』
「分かった」
落ちていた半壊の槍を拾い上げ、再構築。それを女王の身体に突き立てる。
ビリッ、バリバリ、バリッ!!
剥き出しになった体内から穂先を突っ込むと、いともたやすく肉が裂けていく。中程まで進んだ時、それは現れた。
「いたっ!」
内臓の中で咲く花。球状のその中には、うっすらと人影が見える。
『はっきりと魔力の流れが見える。無事だ』
まだ生暖かい体内から、結晶ごと彼女を取り出す。緑の血に汚れてもなお美しい赤き結晶。抱きかかえたソレを持って数歩下がる。
「ベリル、どうすればいい?」
『花に魔力を通せ、結晶術士ならそれは簡単に砕ける』
指示通り花に手を翳す。
パリンッ!
魔力を流した瞬間、いともたやすく全ての花が砕け散った。
「おっと……!」
女の子を落とさないよう抱き抱える。
流血の影響か、彼女の身体は驚くほど冷たい。自分の体温を分け与えるように、傷を避けながらしっかりと抱き締める。
「良かった、本当によかった……」
おそらく4歳くらいだと思うのだが、抱えた身体は驚くほど軽い。こんなに小さな身体でよく耐えてくれた……
血を失って冷たい体を、上着で体を包み彼女の目覚めの時を待つ。
「―――んっ……」
「気がついたか?」
驚かさないように、そっと声を掛ける。
澄んだ湖面のような青い瞳が、俺を映した。
「分かるか?辛くないか?」
「ん…」
「そうか……」
かなりの大怪我のはずだが、少なくともその表情に苦痛の色は見えない。
「とにかく治療をしないと…ベリル、出口は分かるか?」
『その必要はない』
「どういう意味だ?」
その時だった。腕の中から異様な気配を感じ、慌てて視線を向けると目の前に青い瞳が。
見とれるような透き通る青に、一滴の妖しさが零れ落ちた。湖面を満たす青色に、じわじわと紫が溶けていく。突然起きた現象に驚き、一度視線を切ってしまった。再び視線を戻した時、既に彼女の瞳はそこから消えて
「―――えっ?」
突然首元に重みを感じた。何が起きたのか確かめる前に
「……うぐっ!」
首筋に痛みが走り、温かいものが伝い落ちた……
ひとつだけネタバレを。あの子は吸血鬼ではありません!(きっぱり)
あまりお待たせしないつもりですが、少しの間お別れです。また会いに来て下さると嬉しく思います。ではでは~。
あ、ちなみに私は○ンドロック派ではなく、ヘビー○ームズ派です。




