心の在り方、応える力
ちょっとした癒やし登場。あなたのなかではどんな子ですか?
「先ほど言った通り、結晶術は守護の魔術。自分の身から、果ては国一つ守ることのできる自在の盾。勿論その分、維持に莫大な魔力を消費するが」
あの結晶で国一つを覆えるというのか……とんでもない話だ。しかし、莫大な魔力とはどの程度のものなのだろう?
「ちなみに国一つ覆うなら、どの程度の力が必要なんだ?」
「ふむ……あまり考えたことは無かったが…村一つ?…いや街一つの命が必要……まだ足りぬな。全員が魔術士としても……」
「いや、もういい。何となく分かった(きっとまともな人間では、再現すら困難なんだ)」
「そうか?まぁ今は関係のない話か」
何とか話を変えられた。きっとこの人…いや、この竜は本来桁違いに強い生き物なのだろう。だから人の単位で説明しろといっても、竜の思う単位に差があり過ぎて、結果途方もない数字になってしまうのだ。
「そして守りの硬さは、裏を返せば強固な武器になる。叩きつければ槌、突き出せば槍、振り下ろせば剣。自在に形状を変える武器。訓練次第で攻防を兼ねることも可能となる」
確かにベリルは盾にも槍にも使っていた。攻防自在、変幻自在の便利な魔法。確かにこれならば、あの百足を倒せるかもしれない。
「だが当然扱いは困難を極める。大きさ、形状、数のコントロールに加え、硬さの程度やそれの維持。さらにはその動作全てに魔力を消費する」
「あれはとんでもない戦いをしていたんだな…」
こちらを守りながら百足全体を睨み、その上で大量の結晶をコントロールしていた。今の俺とどれほどの力量差があるのか想像もつかない。
「あれでも一種類の結晶術しか使っておらぬ。究めればもっと奥が深い」
ベリルの説明を聞けば聞くほどに、自信がなくなってきた。俺は結晶術士をやれるのだろうか?
「修、他の者ならばその可能性は無いが、お前ならばいずれ使いこなせるようになる」
「下手な慰めはやめてくれ。余計に惨めだ……」
「そういうことではない。お前は一つ、常人を遥かに上回っていることがある。何か分かるか?」
何だろう?確かさっき俺に対して言っていたような……
「もう忘れたか?最大魔力の貯蔵量だ」
「あ!」
そうだ。確かにそんなことを言っていた。元の世界の人間は、魔法を使えないが魔力の器がとんでもないと。今はほとんど空だが、ベリルのいずれという言葉はあながち間違っていない。
だが待てよ…それならこちらの人間なら、誰でもよかったのではないのだろうか?
「なあ?なんで俺だったんだ?適当に召喚したら俺だったのか?」
「そうではない。残された貴重な魔力を使っての召喚。誰でもよい筈がない」
「なら何で?」
別に運動が得意とか、この状況が打開できるほど賢いとかではまるでない。本当にただの元保育士だ。
「我が解放される為には、ルナリアを見てどう思うかが重要であった」
「ッ!?」
そう言われて、磔にされていた女の子の姿を思い出した。今でもなぜ小さな子供が、あんな事にならなくちゃいけなかったのか。そのことに対して、燃え上がるような怒りを覚えた。
「それだ、その心を探していた」
玉座から立ち上がり、ベリルがこちらを指差す。
「強い弱いなど関係ない。どうせそちら側の人間がくれば、どんな奴でも心がへし折られる。だがそれでもあの子を見て、もう一度立ち上がれる者を探していた。現に修、お前は想像以上によくやってくれた」
「そう、だったのか…」
まんまとベリルの思った通りに動いてしまったというわけか……あの子達を利用されたようで気分は悪いが、ベリルも同じような目に遭っている。軽い気持ちでやったのではないだろう。そう…信じたい。
「それにその心は、結晶術を操る上で最も必要なものだ」
「心が必要?」
「守りたいという意志、戦う覚悟。それが無ければ、結晶術は応えはしない。その証拠がそこにあるゴシュナイトだ」
ベリルは俺の前にある画面を指差した。
「ゴシュナイトはお前に使われることを望んでいる。そうだな……頭の中に、結晶で出来た六角柱を思い浮かべてみろ」
「?」
「細かいことは気にするな。試してみろ」
そう言われて、目を閉じ集中してみる。
(六角柱?六角柱、六角柱…)
形をしっかりとイメージ出来た時、スッと何かが吸い上げられた気がした。すると…手の中に何かある。
「えっ?」
「やはりな…開いてみろ」
握った手を目の前に持ってくる。恐る恐る開くと―――
「あった…六角柱」
手のひらの中には小さな六角柱。後ろが透けて見えるほど透明なそれは、確かな質量を伝えてくる。
「一度で成功とは…余程そやつに好かれているようだな。そうだろ?」
そんなことをベリルが言った瞬間、六角柱が輝き始めた。明滅するそれは、少しずつ輝きを増しやがて一際大きく輝いた。
「うぅっ!!」
光が収まりそこに現れたのは、丸い耳に丸い体。そこから伸びる細く長いシッポ。気が付いた時には、つぶらな瞳がこちらを見上げていた。
「ねずみ?」
俺の手のひらにちょこんと座ったねずみが、こくりと頷く。重さを感じないほど軽く、冷たいのにふわふわしていて不思議な感触だ。ねずみは結晶で出来ていると思えないような滑らかさで、手首を登り肩まで上がってきた。
「ははははっ!修、人見知りのそやつが初対面で懐くのは、珍しいぞ」
「人見知り?懐く?……まさか、こいつ意思があるのか?」
こちらを気にすることもなく、俺の肩で顔を洗う仕草はあまりにも自然。向こうが透けて見える透明さ以外は、普通の生物としか思えない。
「あぁ、あるぞ。我のサポート役として、独自に判断ができるように創りだした。いつの間にかそれが個性にまで成長していたのだが、まぁそれはいずれな。シュナ!」
名前を呼ばれたねずみは、2本足で器用に立ち上がり、鼻をひくひくさせた。
「修の力となってやれ、この戦いお前の忠義が必要だ」
「よ、よろしく…」
ねずみはこくりと頷くと、肩からすっと消えていった。
「やはりシュナは余程お前がお気に召したようだな。アレが終わった後に呼び出すと良い。あのような形だが、必ず役に立つ」
手のひらサイズのシュナに何ができるのかわからないが、ベリルの自信満々の表情に信じてみる気になった。
***
「よいか?最大の問題は乗り越えられるかだ。それさえ果たせれば、女王を倒しルナリアを取り返すことも可能となる」
簡単な結晶術の基礎と動かし方を学んだ俺は、再戦の為外に向かう。最後までベリルに気遣われながら、玉座の間から外に出た。彼女が言うには、部屋を出るだけで精神が元の場所へと戻れるらしい。
「死にたくなければ……覚悟を示せ」
広間に相応しい威厳を放つ扉を押し開けると
「―――うっ!」
再び目を開いていられないような眩しさが、襲いかかってきた。
ねずみさんは大黒様の使いらしいですよ。ちゅうと鳴くのも忠義の「忠」。お供としてはちょうどいいんじゃないかな?
ちなみに私はアナフェラキシー持ちで、ねずみさんには二度と触れません。噛まれると本当に死にます。
さあ次回私がどうしてもやりたかったシーンが出ます。あくまでもダークファンタジーですからね……
 




