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守護の魔術

 「俺が結晶…術士?」

 「そうだ」


 結晶術…恐らく百足達と戦った時に見せた魔法のことだろう。あれがもし使えるのならば、どれほど心強いことだろう。だが……


 「俺は魔法なんてとてもじゃないが、使えないぞ!」


 突然降って湧いた話に、これまで以上に混乱してきた。そんな頭でも、理解出来ることがある。魔法なんて使ったこともなければ、これまで見たこともない。そんな俺が結晶術士なんて、出来るハズもない。


 「今、我とこの空間にいることが、既に継承者の証だ。ソレ以外の者に、ここに入る権利はない。それに気付いてないかもしれないが修、お前は既に魔力を得ている」


 ベリルからまたしても驚きの言葉が飛び出してきた。もうそろそろ話についていく自信がない。


 「は……?一体いつ?どうやって?」

 「とにかく一度落ちつけ。我々のいたあの部屋に来るまでに、何か殺しただろう?」

 「あぁ、小さな百足を一匹」


 驚き疲れてきたのもあるが、あれを小さいと言っている時点で、俺の感覚は既に狂っている。


 「元々そちら側の人間は、魔力を貯めるのに適した器を持っている。しかし自身で魔力生成することが出来ないせいで、折角の大きな器も無用の長物」

 「そちら側?」

 「あぁ、そうだったな……そこから説明しておかねばならんか。なんとなくは理解していると思うが、ここは修、お前のいた世界とは違う世界だ」

 「……やっぱり、そうだったのか……」


 保育園の跡地から突然知らない場所にいたこともそうだが、人類誕生以前にしかいなかったはずのあんな馬鹿でかい虫、ベリルの使った魔法、色々とそうでなければ説明のつかないことが、山のようにあった。信じられないことだが、起きたことは納得するしかない。

 どうやってこっちに来たのかなど疑問は多々あるが、今説明されても理解できないだろう。俺はうなずいて、ベリルに先を促した。


 「お前は百足を殺した事によって、力を得た。それにより体内で魔力の生成が可能となり、今も少しずつだが器に注がれ続けている」


 実感はまるでないが、ベリルが言うには強くなっているらしい。あれだけ血を流しても死ななかったのはその恩恵らしい。


 「だがまだ足りぬ。今のお前では恐らく女王の体当たりで即死。このままでは、勝つ見込みは万に一つもない」

 「…その言い方だと、何か解決方法があるんだよな?」

 「簡単な話だ、それは…」




○●○




 説明されたことはあまりに衝撃的で、思考が止まってしまった。


 「一旦それは置いておけ。他にも聞きたいことはあるだろう?」


 ベリルの言葉で我に返った俺は、先程の話は一旦忘れて質問をつづけていく。


 「さっき話した結晶…術士?になるにはどうすればいい?」

 「われが力を譲渡じょうとした時点で、結晶術を使う資格が与えられた。お前は既に結晶術士になっている」

 「ならベリルのように結晶を使って戦えるのか?」


 俺にも巨大な赤い結晶や、結晶の檻のような魔法が使えるのだろうか……


 「それは無理だな。今の修では千変万華の領域までは、どう足掻あがいても届かぬ。魔力もそうだが、魔術への理解、そして最も大切な覚悟がまだ足りぬ」

 「覚悟…?」


 魔法を使うのに、どうして覚悟が必要なのだろうか?何か使うだけで危険だったりするのか?


 「そうだ。我が結晶術の根幹は守護。大切な何か、誰か、場所、全てをこの手で守り抜くという覚悟が、何よりも必要となる」

 「守り抜く…覚悟…」


 その時、またあの光景が蘇よみがえった。

 守ることが出来なかった子供達。何度も何か出来なかったのかと後悔し、涙した。だが今度は、その想いこそが力となるのだと言う。


 「修、お前も一度失った。だからこそ、お前なら結晶術を使いこなせる可能性がある」


 お前も…?


 「ベリル、お前…もしかしてあの風景は…」

 「知らんな…」


 ベリルの言葉には、どこか俺を納得させる重みがあった。もしさっき見たあれがベリルの視点だったのだとしたら、なんてことを言ってしまったんだ。

 誰よりもあの子を助けたかったのは、目の前にいるこの女性ではないか!


 「もう一度謝らせてくれ、すまなかった。この通りだ」


 俺は浅はかだった自身を恥じ、ベリルに深く頭を下げた。


 「もうよい。先程構わぬと言ったはずだ」


 俺がもう一度頭を下げると、ベリルはどこから取り出したのか木の扇子で口許を隠した。


 「多少の時間はあるとはいえ、いつまでも無駄には出来ん。今お前の使える唯一の結晶術は無色の結晶ゴシュナイトのみ」


 ゴシュナイト?聞き覚えのまるで無い単語は一体何なのだろう。


 「ベリル、お前の結晶とそれは、何が違うんだ?」

 「ゴシュナイトは最初の結晶術。直接的攻撃能力は低いが、代わりに軽く、操作がし易い」

 「つまり初心者用の入門魔法と言うことか?」


 いくらベリルとの戦いで手負いだといっても、百足とは圧倒的な力の差がある。それを初心者用の魔法で何とか出来るのだろうか?


 「その無色の結晶ゴシュナイトであっても、勝てる見込みが充分にある」

 「教えてくれ…俺はどうすればいい?」


 俺はすがるような気持ちで、ベリルに問い掛けた。


 「まずは魔力のコントロールを覚えよ。今いるこの空間ならば、魔力が減ることはない。幾らでも練習が出来る」


 ベリルが言うには、ここにいる俺は精神のみで時間の流れも外とは違うらしい。

 なら身体は?と聞くと、危険はないが雨晒しになっているそうだ。そのせいで出来る限り早く結晶術を会得しなければ、病に冒されるぞと脅された。


 「改めてよろしく頼む、レッドベリル」


 俺は教えを請う者として、もう一度しっかりと頭を下げた。

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