表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

篭の鳥

 「キュオオオオオォオォォォ!」


 硝子をすり合わせたような不快な声が、部屋中に響き渡った。それに応じるように黒い百足の濁流が、通路から雪崩れ込んでくる。


 「ちっ!…狂イ咲ケ、赤薔薇の飛剣(ブルーメンブラット)


 役目を終えた花が砕け散り、新たな蕾が周辺にいくつも現れた。仄暗い広間には似つかわしくない、華やかな光景が広がる。


 「散れ!」


 先ほどの攻撃と違い、曲線を描くように花弁が大群の中に飛び込んでいった。濁流を切り裂くように突き進み、またしても数多くの百足が犠牲になる。

 だが広間に入ってくる数の方が、あまりにも多い。遂には百足の波に飲み込まれ、花びらは砕け散った。


 (さばききれぬか!)


 目の前まで迫る大百足に、少しづつ数を減らす飛剣。攻撃だけでは最早、後ろを守り切ることが難しくなってきた。

 後ろに跳び、距離を開けながら思考を続ける。魔力の余力がないせいで、打てる手は限りなく少ない。

 ベリルは舞う飛剣を巧みに操りながらも、同時に新たな魔術を構築しにかかる。


 【覆イ隠セ、星盾団ペンタス


 星形の結晶花が祭壇側を守るように、半球状に乱れ咲いた。

 そこに鈍い音を響かせ、大百足達がぶつかっていく。 先頭の百足を押し潰しながらも進む捨て身の突撃に、盾はひび割れ数枚が砕けた。


 「ぬうぅっっ!!!」


 そのままじりじりと、修達のいるほうへと押され始めた。


 「弾き返せ、星盾団ッ!!!」


 更に注がれた魔力により残った花は、大きく育ち赤く輝く。

 厚みを増した盾は攻勢を食い止め、眼前に並んだ百足をすり潰しながら元の位置まで押し戻した。


 戦況はこちらの方がやや優勢……だが予断を許すような状態ではない。そこに百足の濁流に混じって、ぽつりぽつりと人影が通路から入って来始めた。入って来た人影は皆一様に、奇怪な歩き方をしている。


 「未熟な寄生体まで出してきたか!”ドルン”」


 空中に生み出された数十本の結晶の杭が、新たな侵入者を地面や壁に縫い付ける。バタバタと暴れ回っているが、2本、3本と杭が身体に突き刺さっていくうちに動きを止めた。そんなことをしている間に、広間には数十匹の百足が女王の周りに集結し終えていた。


 「有象無象がぞろぞろと…それならそれで都合がいい”鳥篭の呪歌うた”」


 ―――空を往く鳥、無垢な鳥、羽をむしられ捕らわれた―――


 歌い始めた竜の足元から、放射状に魔法陣が描かれていく。広間全体に届いた翼の紋様から、蔓状の結晶が伸び上がり百足へ殺到した。百足を刺し貫き、そこかしこで蔓同士が絡み合う。広間を縦横無尽に奔った蔓により、細かな格子が出来上がった。


 ―――哀れ若鳥、乙女鳥、縛りつけられ啼かされた―――


 進路にいた百足達は体を何本もの蔓に貫かれ、吊り上げられた。外そうともがき苦しんでいるが、蔓に生えた逆棘によってただ傷を広げるだけ。百足の血を啜りながら格子は広がり、檻となる。

 串刺しを回避した百足も、出来上がった檻に行く手を阻まれ惑うのみ。


 ―――心閉ざした篭の鳥、総てうらんで死に絶えた―――


 ベリルが前足を陣に叩き付けると、合わせるように檻が動き始めた。逃げ惑う百足を締め上げるように、檻全体が収縮していく。

 逃げ場を失い端まで追いやられた百足は、格子に細かくきざまれ肉片へと変わった。


 「「「ギュォォォォオオオオ!!!」」」


 ―――諸共砕ケ


 みるみる小さくなる檻は、中の百足を道連れに崩壊していく。



 後に残されたのは舞い散る赤い光と、緑の血に濡れた山のような肉塊。



 その山の中から、黄色い巨体が光を切り裂き駆け抜けた。



 「ハァ…ハァ、ようやく引き摺り出せたな……刃の車(グロリオサ)


 飛び込んできた女王を、奇怪な模様の円形盾シールドで迎え撃つ。


 「まだこれほどの力が残っていたか!」


 思った以上に余力を残していた女王に押され、一気に祭壇ギリギリまで移動を余儀無くされた。

 厚い結晶の盾越しに、怒り狂った女王の姿が見えた。顎を開き、盾を破ろうと食らいついてくる。

 今度ばかりは無傷といかなかったのか、外皮は所々剥がれ落ち、複腕は砕け、緑の血にまみれた姿になり果てていた。



 「それでも終わりだ、まわれ―――」



 

 ○●○




 俺は彼女の勝利を信じて、祭壇から見つめることしか出来ない。血を流しすぎたためか、体が鉛のように重く起き上がるどころか指一本動かない。

 すぐそばにいる小さな女の子を助け起こすことすら出来ずにいる。かろうじて息はあるらしく胸は今も上下しているが、それもいつまで続くか。


 (畜生…)


 意志とは裏腹に、今の俺はあまりにも無力。竜が負けたその時点で、死はまぬがれないだろう。


 カタッ…カタカタッ


 音に気づき視線を横に向けると、先ほど手から落ちた黒い剣が微かに鳴動している。

 その震えはどんどん大きくなり、遂には剣がひとりでに浮き上がった。黒い揺らめきを纏うその切っ先の向きを見て、ようやく事態を察した。残された力で叫ぶ。




 「後ろだぁぁぁぁ!!!」




 ○●○




 廻れ―――「後ろだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 修の声に反応し振り返った我が見たのは、飛来する黒い剣


 ―――ザシュッ!!!……

詩の才はあまりないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ