無職40歳、小さな光
お題:死にかけの蟻 必須要素:10円玉 制限時間:15分
「貧乏はしたくないわねぇ」
井戸端会議を横目に、無職、40歳のオレは肩身の狭い思いをしながら歩いていた。
これでも少し前までは舞台で活躍していた俳優だった。まあ脇役専門だったが、それでも充実していた。いや、それは嘘だ。人間同士の関係が嫌で引きこもっちまったんだ。
オレは世間的には何の価値もない虫けらだ。それも死にかけのな。
それでも人生40年生きてきただけの知恵はある。
ひとつは子供みたいな空想があれば貧乏生活だって割りと楽しいと思える知恵。10円玉一つでも集めれば何が買えるか、無限に想像は膨らんでいく。
こうやって小さい楽しみを持って生きていけば、いつか俺だってやり直せるだろう。
ニヤニヤしながら家に着くと、ドアの前に女性が立っていた。
それはかつて事務所で仲良くしていた明美さんだった。
「人生は本番前のリハーサルじゃないのよ。もう本番は始まっているのよ」
それだけ言って明美さんは去っていった。
どういう意味だろう。そういえば、俺は俺らしい人生を生きてきたのだろうか。こんなんでいいのだろうか。何かが違う。俺は小さな光を見出そうとしていた。