ラーメンバカ二代
お題:傷だらけの母 必須要素:豚骨ラーメン 制限時間:30分
俺は食べ物ライター。
俺の血液はとんこつラーメンのスープでできてる、そう言ってもいいくらいの数のラーメン屋を渡り歩いてきた。
豚骨ラーメンばかり食べているせいか、味音痴だとか、動脈硬化予備軍とか、ラーメン版彦摩呂とか、いろいろ言われ放題だ。
だけど俺が豚骨ラーメンが好きな理由は死んだ母との思い出があるからだ。思い出というスパイスは時に空腹にも勝る。
豚骨ラーメンを食べるときに「替え玉ダブル」を一緒に頼むのはうちの母くらいだろう。
母は替え玉ダブルを食べきる直前に豚骨スープに顔を埋めて死んだ。
俺は今、母の分まで食べているつもりだろうか。いや、多分母の死がやりきれなくて、母と同じ死に方をする為に食べているのかもしれない。
母との思い出と言っても、どこの家とも同じ、ただのうっとおしい「おかん」にすぎなかった。
なぜ親と子というのは毎日一緒にいながら、満足に関係を結ぶ事ができないのだろう。
最初は何でも話していた俺も、いつかは親を拒絶し、会話はどんどんなくなる。
話したとしても同じような会話ばかり。言いたいことはなぜか言えない。
でも現実とはうまくできているもので「言えなかった事」がそのまま「言わなくて良かった事」になる事が多々ある。俺の場合もそうだったのかもしれない。
俺は「たまにはラーメン以外も食べたい」と言いたかったけど、多分言わなくて良かったのだろう。