【4】捜索
テスト終わったぁ!!
ということで、早速書いちゃいました!!
※話ごとに書き方が不規則に変化しますが、努力と研鑽の結果なので、暖かーく見守ってくれると助かります!
「あー・・・・・・」
どうしたものか、と瑛士は苦悩の声を上げる。後ろでは、姫川も所在なさげに立ち尽くしている。
原因は、二人の目の前のある一室ーー保健室だ。
灯りが消されている。カーテンで中の様子は分からないが、恐らく無人だろうなと瑛士は思った。
チラと後ろを見れば、玲は視線を下に落とし、上の空となっている。
「さて、どうしたもんか・・・・・・」
このまま教室へ引き返すのも一つの手だが、保健室へ案内しただけで終わるのも、なんとなく目覚めが悪い。
瑛士は決心一つ固めると、改めて後ろを振り返る。
「ちょっと鍵取ってくるから、そこ座って待っとけよ」
そう言って、部屋の前に設置してある円椅子を指差す。
「・・・・・・あ、はい。ありがとうございます・・・・・・」
言って、玲は円椅子に腰を下ろした。
なんだ、急に大人しくなったな。どうかしたのだろうか?
首を傾げながら、瑛士は職員室へ急ぐ。
瑛士が職員室に消えていったのを見届けて、レイは溜息を一つ漏らした。
「何であんな態度をとってしまったのかな・・・・・・」
いくら気が立っていたとはいえ、あれでは八つ当たり以外の何者でもないではないか。
「大体っ、初めて転界した世界の教育機関に入れっていう命令自体が無茶なんです!」
レイは今のこの状況も遠くで見ているであろう存在に向かい、愚痴を溢す。
『まぁまぁ、早く終わらせてしまえばいいだけでしょう? そんなにカッカしないで?』
すかさず、落ち着きを払った女性の声が脳内に直接響いてくる。
頭上を見上げると、顔を綻ばした、白い簡素なドレスを着た女性が目に入る。ライトブルーの長髪を背中の途中で縛り、双眸は海原の如く透き通る碧眼を持った彼女ーーカテリナはしかし、まるで地球の重力に喧嘩を売るかのように、ふわふわと宙に浮いていた。
「そんなこと言ってもーー」
早く終わりそうにないから怒ってるんじゃないですか! と、レイは頬を膨らませる。するとカテリナも少し困ったように溜息を吐いた。
『確かに、この人数の中から、一人を探し出すのは、ちょっと難しいわねぇ』
「カテリナ、ほんとに目的の精霊は見つかりませんか?」
『えぇ、どうやら、契約者から離れているようなのよ』
レイは頭を抱えた。これでは探しようがないではないか。
『せめて契約者が魔法の一つでも使ってくれれば、"あの子"も戻って来るんだけどねぇ』
困り果てたように話している割には、カテリナの表情には何処か、この状況を楽しんでいるかのような笑みがあった。
それを見てレイはまたも溜息を漏らす。
「まあ、例え見つけたとしても、そのあとの交渉次第では長期線になる可能性もあります。そうならないように、説得の方はよろしくお願いしますね」
カテリナはレイに向かってニッコリと微笑んだ。
『任せておいて! 大丈夫、あの子の扱い方はちゃんと分かっているんだから!』
そうですか、とレイもカテリナに微笑みを返す。カテリナは、話していると自然に人を笑顔にさせる、不思議な力があるな、とレイが改めて実感した。
その時、「悪いっ、待たせた!」と、瑛士が走って来るのが見えた。
『じゃあ、学校生活頑張ってね。まずは仲直りから始めてみたら?』
そう言うと、カテリナは空に溶けるように消えていった。心配しなくても、彼には最初から見えてないのに、とレイは少々呆れ顔になる。カテリナの用心深さも相当なものだと思う。
よしっ、とレイはそこで一度思考に区切りを付けて、掛けていた円椅子から立ち上がった。カテリナの言う通り、まずは彼と仲直り(というより、レイが一人で怒っていただけなのだが・・・・・・)した方がいいだろう。
そう思って、レイは天城に向かってニッコリと微笑みかけた。
レイのそばに到達した天城は、その笑顔を見て怪訝な表情になった。
「え、えーと・・・・・・」
レイが言い淀んでいると、「どした?」と瑛士が声をかけてくる。
「その・・・・・・さっきは少々きつい態度をとってしまって、ごめんなさい」
そう言って頭を下げたレイに、え? と瑛士は軽く目を見開いた後、
「別にいいよ、俺が変に待たせたのが原因だし」
そう言って微笑むと、鍵でドア開けて保健室へと入っていった。
「案外、いい人だった」
レイは笑って、自分も中に入ろうと一歩足を踏み出したとき、耳元でカテリナがふと呟いた。姿が見えなくなっても、ちゃんとこの場に存在しているのだ。
『ねぇ、さっきから思っていたのだけど・・・・・・あの天城って子の髪と目、紺色に見えない?』
レイはコテッと首を傾げ、「遺伝じゃないの?」と一言言ってから保健室へと入っていった。
『おかしいな〜、少なくとも"この世界"に紺の髪を持つ人種なんていなかったと思うんだけど』
一人廊下に残されたカテリナは、人差し指をツンと自らの額に当ててポツリと呟いた。
一分とは、これほどまでに長い時間だっただろうか。静寂の中、壁に掛かった電波時計だけが、律儀に時を刻んでいる。正面では、ベットに腰掛けた姫川が、同じくやりにくそうに窓の向こうを眺めていた。
まだか、まだか、まだか、まだか。瑛士は半ば祈るように、静寂の終了を待ちわびる。しかし、そう願えば願うほど、時計が時を刻む間隔が長くなっているような、そんな錯覚に陥る。
瑛士の精神が内部崩壊寸前になったその時、ーーピピピ!ピピピ! と甲高い音が保健室に響き渡った。今のでたったの一分だと言うのだから、つくづく人間の体感時間はあてにならない。
「「ふぅ〜」」
瑛士と姫川は、ほぼ同時に吐いた安堵の溜息が重なり、どちらからともなく苦笑を浮かべる。
「それで、何度だった?」
えーとですね、と姫川は口に咥えていた"体温計"を取り出しーーそのまま体温計を見つめ、動かなくなった。
「え、おい、姫川? そんなに高かったのか?」
瑛士が声をかけると、いえ、そうではなくですね、と姫川は言いにくそうに体温計を瑛士に渡してくる。
「すみません、これって何度なんですか?」
「なんだ、初めてなのか、体温計」
瑛士は体温計を受け取り、赤い部分が目盛りのどこまで到達しているかをチェックする。
いや、しようとして、体温計の片側の先端が、濡れて光っているのを見た。
考えるまでもなく、先ほどまで姫川が咥えていた部分なのだが、それを知覚した瞬間、瑛士の顔は急激に火照っていく。
「あの? 何度でしたか?」
「ゔぇ!? あ、ああちょっと待って」
赤面しているのを気取られないよう姫川に背を向け、改めて目盛りを拝む。
「37.3℃か。微熱だな」
言いながら、温度計を手近いな机の上に置き、症状を記入用紙に書き込んでいく。
するといつの間にかベットを離れていた姫川が、瑛士の隣から用紙を覗き込んできた。
「おい、寝てなきゃダメだぞ。少し熱あんだから」
だが姫川は瑛士の警告をよそに、ただ食い入るに記入用紙を見つめている。
横顔を盗み見ると、彼女が小さな声で何かしら呟いているのが見て取れた。
「どうした?」
声をかけると、姫川は用紙を右の人差し指で擦り、おぉ、と感嘆の声を漏らした。
「いえ、紙の材質があまりにも美しかったもので・・・・・・」
瑛士は用紙に目を向ける。それはありふれたコピー用紙で、お世辞にも材質が良いとは言えない代物だ。そこで瑛士は、少し前から気になっていた疑問をぶつけることにした。
「なあ、銀髪って事は外人だよな。姫川ってどっから来たんだ?」
なんてことない、常識の範疇での質問だ。瑛士としても、別に何か特別な意図があって聞いた訳ではなかった。しかしそれを聞いた姫川は、えっ、と言葉に詰まる。そして、僅かな間を開け、
「遠いところからです。自力では決して行くことのできない、遠いところ。そんな場所から、私は来ました」
実に曖昧な、答えになっていない回答。ただ瑛士には、その答えが単なる誇張であるとは思えなかった。
次回は軽い人物紹介になるかと!