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八つ世の守護者達!  作者: 鹿米 夕ヰ
第一章  〜有能と無能〜
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【3】転入生が織り成す静寂

誰もみてないと分かっているのに、まえがきを書くのって、つらいですよね。。。。。。


私立天伸学園1年1組は、先の喧騒とは打って変わり、ひっそりとした静寂に包まれていた。

そして故意ではないとはいえ、そのあまりの美しさに喧騒を持ち去ってしまった超本人。

二人の転入生のうちの一人ーー姫川玲ひかわ れいは、そのアメジスト色の両のまなこで悠然と教室を見回す。

その仕草の一つ一つが連鎖となって、更に教室内の生徒の行動を精神的に封じているのだが、今の彼女はその事には気付かない。というより、気付く余裕など微塵も残ってはいなかった。

つまるところ、彼女は面上は平然を装い、実は内心酷く焦りきっていた。



頭の芯が熱を持ち始める。生徒達の歓声が、今はただのノイズとなってかすれ、消えていく。

頭の中は既にパニックだった。

しかし、そんな彼女の心境など露知らず、教室はいっこうに声を取り戻さない。

それどころか、生徒全員の視線が自分に集まっているのを、感じる。

あぁ、ダメだ・・・・・・緊張で思考が凍結してきた。目の前が真っ白になる。



神々しいとすら言える転入生の美しさに、しばらくの間硬直していた瑛士は、ある違和感で我に帰った。

くだんの転入生の様子が少し変だった。雪のように白かった顔が更に青白くなり、目の集点も定まっていない。

貧血か?

だとしたら、少し休ませた方がいいかもしれない。

そこからの行動は早かった。


「先生、右の転入生のかたの体調がすぐれないようなのですが」


そこで未來が僅かに目を見張るのを瑛士は見た。そう、自慢ではないが、瑛士は敬語には少々自信があった。しかし、相手に不快感を与えないようにと試行錯誤を繰り返した彼の敬語が、今や執事のそれに似通っている事に、瑛士自身は気付いていない。

又部の方も、瑛士に言われて気付いたらしい。少しの間思案げに天井を仰いだ後、まるで悪戯いたずらを思いついた子供のような顔を造り、瑛士を見据える。

瑛士がそこはかとなく嫌な予感を感じるのと、又部の口からその言葉が紡がれるのは、ほぼ同時だった。


「よし。天城、姫川を保健室まで連れて行ってやれ」


途端、滝のように怒濤な抗議の声。「何で天城だけがぁ!!」だの、「又兵衛またべえ!俺が代わりに!」だの、「抜けがけは許さねぇ!!」だの。おもに男子生徒皆様からのブーイングが激しい。ちなみに又兵衛というのは又部鳳時の生徒間共通のあだ名だ。

そこに、


「ーーうるさい!」


と、凛とした声で一喝が飛ぶ。教室が一斉に静かになり、又部を含めた全員の視線が、声の主に向けられた。未來と、もう一人の転入生ーー姫川とかいったかーーも驚いて主を凝視している。

そして、声の主ーー除夜は又部に問うた。


「先生、男子生徒のみじめな嫉妬には頭を抱えたくなりますが、みなの言い分も分かります。何故天城に頼むのですか?クラス委員だからと言うのなら、むしろ同性の私が同行した方が、彼女の気も少しは楽になるのではないでしょうか」


流石だ、と瑛士は心の中で舌を巻く。除夜の言い分は又部の発言のおかしな部分を的確に射抜いており、尚且つしっかりと男子生徒達の言い分を汲み取っている。その証拠に、彼女の抗議に同調する男子生徒達の姿が多々見受けられた。

同時に『惨めな嫉妬』という言葉には誰も反論しないのかよ、と瑛士は同じ男子として、一人密かに悲しくなった。


「いい質問だ、冬野」


又部の顔に焦りの色は無い。このくらいの返答は、あらかじめ予想していたらしい。

では聞くが、と又部による反撃が始まった。


「もし冬野が姫川を保健室に運んだとしても、教室にはまだ一人とびきりめんこい転入生が一人残るんだぞ。そのまま自己紹介でも始めてみろ。瞬く間に教室ここは動物園と化す」


「っ!!なるほど、確かに私が行くのは得策では無いかもしれません。先の浅はかな発言、失礼しました」


予想以上に潔く除夜が身を引いたことに、男子勢は皆ポカンと口を開けている。


「つまりは・・・・・・どういうことだ?」


皆を代表して、悠馬が除夜に問いかけた。

除夜は、まだ分からんのか、と呆れ顔になる。


「つまりは、私が不在になればまたお前達はケダモノになるだろう。その時、天城一人じゃ歯止めがきかんと言うことだ」


「なるほど・・・・・・畜生、そういうことか!そういうことならしょうがねぇ」


ーー納得した!?

今度は瑛士が呆れる番だった。どうやら我がクラスの男子諸君の不満は、理屈一つで鎮圧されるほどチープなモノだったようだ。しかも自分達がケダモノになることを否定してない。


「えーと、先生。もう行ってきていいですか」


状況がめんどくさくなったきたので、瑛士は手早く済ませることにした。


「おう、行ってこい」


「では。あー、姫川さん?案内するよ」


瑛士は相変わらず教卓の前に立ったってる姫川ひかわを後ろに引き連れて、教室の出口へと向かう。

だいぶ血の気は戻っているが、ぶり返したら面倒だ。

すると、すれ違いざまに又部がさりげなく瑛士に接近し、


「ついでに自己紹介でもしてこい。新炉にはもう済ましたんだろう」


瑛士にすら聞こえにくいような小声で耳打ちをした。


「っっ!」


瑛士は驚いて又部の顔を見る。すると又部は、ほんの少しだけ口の端を吊り上げていた。しかし瞬きする間に、その表情は打ち消されている。

元の穏やかな顔に戻った又部は、パンパンと手を打ちながら教室の隅から教卓の後ろへと移動し、未來に自己紹介を頼んでいる。

そこまで見届けて、改めて瑛士達は教室を後にした。

保健室へ向かいながら、先の又部の一言について考える。

つまり又部は、うまい具合に瑛士が自己紹介しなくてもいいよう、計ってくれたようだ。

なんて尊敬に値する先生なんだ! と、瑛士は内心で感動の涙を流す。



レイは瑛士から二歩程離れた位置で、その様子を半ば朦朧と眺めていた。

緊張による貧血は止んだが、その後に重くのしかかってきた倦怠感が少々辛い。しかし前方の少年(確か天城と呼ばれていた)は、保健室に連れて行くと言ったくせに、教室から五メートルも経たない場所で急に立ち止まり、どこか遠くを見つめてしまっている。

本当に私を連れて行く気があるのかな、と頭の中で不満を垂れ流しながら、レイは一歩前に進み、トントンと瑛士の肩をつつく。


「ん・・・・・・あ、ああ!ごめん、何?」


瑛士は短い呟きと共にこちらを振り返り、数秒放心したのち、状況を思い出したらしい。

レイはわざと、少し不機嫌な顔を造る。


「いえ、何? じゃなく、早く行きませんか、保健室」


「え、あれ?いつの間に立ち止まってたんだ?」


「さっきからずーっとです!」


少し責めるように受け答えしながら、レイは朝の職員室にて、又部に聞いた言葉を思い出していた。

『何か困った場合は、冬野と天城を頼るといい。二人共とても信頼できるクラス委員だ』

先生、とレイは頭の中で又部に話しかける。

冬野さんは確かにしっかりしていそうな方でしたけど、私、天城さんの方はあんまり頼れそうには見えません・・・・・・、と。

そんな評価を受けたとも知らない瑛士は、悪い、と一言謝って、軽く頭を下げる。


「別にいいです。早く連れて行って下さい」


疲れました、と、突き放すように言うと、瑛士は後頭部を掻きながら、参ったな、と呟く。


「わ、分かった。じゃあ改めて行こうか。保健室」


「はい」


こうして、二人は少しギスギスしたまま、再び目的地ーー保健室へと向かうのだった。



一応、物語のヒロインはれいです。

え、そうは見えないって?ええ、そう思いますよね、わかります。

でもこの子にも色々と事情がゴッホゴッホ。

とにかく大丈夫です!後々可愛くなるはずです!

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