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八つ世の守護者達!  作者: 鹿米 夕ヰ
第一章  〜有能と無能〜
2/14

【1】遅刻の原因は道案内?

※時間軸に歪みを見つけましたので、ちょこっと修繕致しました。(八月十日)

 ヤバい、ヤバいヤバい!

 すっかり生徒の姿が見えなくなった通学路を、天城あまぎ 瑛士えいじは疾走する。理由は単純。寝坊、そう寝坊したのだ。普段の彼からは考えられないハプニングだった。

 それもこれも彼奴の所為だ! 瑛士の脳裏に、中学時代からの悪友の顔が浮かぶ。


 「野郎、よりによって七夕パーティを俺の寮でやりやがった」 


 そう、昨日は七夕だったのだ。そこに祝日が重なったので、彼奴は七夕パーティをやろうと言ってきた。それだけならまだいい、宿題が残っていたのと単純に眠たかったので断っていた・・・・・・はずだったのだが、


 「まさか寮に押し掛けてくるとは・・・・・・」


 お陰で寝ように眠れず、ろくに片付けもせずに悪友が帰って時計を見ると、時刻は午前二時を回っていたのだった。今日の朝もそのせいで寝坊したといっても過言ではない。


 「あの野郎、このまま遅刻したらどうしてくれようか・・・・・・」


 口の端をうっすらとつり上げながら瑛士はポツリと呟く。

 と、唐突に瑛士の顔から笑みが消え、逆に絶望に染まっていく。原因は、彼から五十メートルほど離れた所に起立する一本の信号。それは瑛士が通う、『私立天伸学園』の生徒たちから密かに恐れられている信号機、通称『ストッパー』。一度赤になったら最後、それから五分間は青になることがないという恐ろしい代物だ。

 そしてそれが、今まさに点滅しているところだったのだ。


 「シャレになんねぇぞ!!」


 全力疾走ならまだ間に合う! と、瑛士は体制を低くし、間髪入れずに走り出す! 

 走る! 走る!! 走る!!! 走る!!!! 信号は未だ点滅中。

 間に合うかもしれない! 瑛士が淡い希望を抱いた刹那ーー


 「あの、ちょっといいですか」


 ーー横合いから声がかかった。


 「はい?」


 つい反射的に足を止め、振り返ってしまう。


そこに立ってたのは、天伸学園の制服を着た少女だった。鎖骨辺りまでのばした黒髪の内、左右何本かづつを束ねて耳に引っ掛けており、同色の瞳はリスのようにまん丸している。

顔が童顔のせいで年齢は判別できないが、制服のリボンが今年の一年生を示す赤色になっている。身長は百五十後半ぐらいだろうか。一言で表すとすると、『もの凄く可愛い少女』だった。


 「うぉ!」


 目の前の少女の突然の出現につい素っ頓狂な声を上げる瑛士の顔を少女は怪訝な表情で覗き込んでくる。


 「どうかしましたか?」


 だがテンパっている瑛士には届いていない。一歩二歩と後ずさり、そのまま電柱に激突し、


 「痛っ!!」


 情けない悲鳴を上げる。


 「だ、大丈夫ですか!?」


 少女は驚いて駆け寄ってくる。

瑛士はハッとする。いかんいかん、瑛士、落ち着け、リラックスリラックス。


 「あ、ああ、悪い。ちょっと突然だったから驚いただけだ」


 「そ、そうですか。じゃ、じゃあ改めて聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 「ああ、俺でよければ、って・・・・・・ちょっと待った!!!」


 そうだ、信号!! 瑛士が勢いよく振り向くと、未だ点滅中だったらしい信号は、見計らったように赤になる。


 「んな・・・・・・!?」


 茫然自失という様子の瑛士に少女は最初、訳が分からない、という顔をしていたが、瑛士の視線の先を見やると申し訳なさそうに、


 「あ、あの、信号渡ろうとしてたんですよね。すみません、私が話しかけたから・・・・・・」


 そういって深々と頭を下げてくる。

瑛士は軽くたじろぐ。う、そんなに深く頭を下げられると何かこっちが申し訳無くなるんだが・・・・・・。


 「ま、まあいいよ、どのみち間に合うかどうか五分五分だったし・・・・・・んで、聞きたいことって何なんだ?」 


「あ、あの、許してくれるんですか?」


 「ん? まあ過ぎたことは仕方ないし、今更君にとやかく言うつもりは無いよ」


 へぇ〜、と少女は目を見開く。


 「優しいんですね。最近の人ってみんな利己的で自分のことしか考えてないのに」


 「俺もその一人だよ」


瑛士は苦笑しながら言う。


「その制服、天伸学園のだろ。んでリボンの色は一年生なのに見ない顔だから大方転入生って所かな。だとしたらその質問の中身は学園までの道案内。それを遅刻の言い訳にしようって魂胆さ」


 いきなり用件を言い当てられた少女は目を丸くする。


 「じゃあ頼めますか、道案内?」


 「お易い御用だ! その代わり、キッチリと遅刻の言い訳にさせて貰うからな」


 「勿論です。では参りましょう!」


 瑛士は苦笑する。陽気な子だ。花に喩えるのならば、向日葵あたりだろうか?


 「あ、そうだ俺は天城あまぎ 瑛士えいじっていうんだけど。君、名前は?」


 「私は新炉にいろ 未來みきっていうの、よろしくね」


会ってすぐにしては、お互い砕けすぎな気もするが、瑛士としてもこっちの方がありがたかった。こんな美少女と会話もなしにただひたすら学園を目指すのは、少々気が滅入ってしまう。


 「ふ〜ん、新炉はどっから引っ越してきたんだ?」


 「未來でいーよ。ん〜とね、静岡から来たの。あなたは春からずっと天伸なの?」


 「じゃあ俺も瑛士で。まーな。・・・・・・不幸にも・・・・・・」


 最後の一言を小声で付け足す。が、未來はそれをめざとく拾ってくる。


 「不幸って、なにが不幸なの? 天伸学園って各国で活躍してるような人達ばかり輩出するスーパーエリート高校でしょ。たった一つ何かの才能が他者よりずば抜けていれば後はパーでも構わない、って聞いたよ」


 瑛士はコクリと頷く。


 「その通りだ。つまり在学生は皆何かしらの特技を持ってるって訳だろ、考えてみてくれ、もしその中に何の才もない凡人が一人いたらどうなる」


 未來は、なぜそんなことを聞くのだ? という顔をしながら、


 「浮いちゃうんじゃない?」


 「その通りだよ、それが俺だ」


 そう言うと瑛士はガックリと肩を落とした。


 「え、でも才能持ってないと入れないんじゃないの?」


 そこで彼女ははたと気付く。あるじゃないか、たとえ才能が無くても学園に入学できる方法が!!


 「ま、まさか・・・・・・裏ぐーー」


 「してないからな」


 「ーーち入学!! って、何だ違うの?」


 「当たり前だろ! それに、もししてたとして、なぜ自分から仄めかす必要がある!!」


 「それもそっか」


 未來はいよいよ分からないという顔になった。


 「なら何で才能無いのに入学できたの?」


 「才能が無いという訳じゃない! 一応学園長から認定された才能ならある。だから面と面向かって才能無いって言うのやめてくれ。傷つくから」


 「あ、ゴメンね。でも、じゃあ何て才能持ってるの?」


全く気持ちの篭っていない"ゴメン"だった。



 瑛士は心の中で葛藤と戦っていた。どうする、ここで先にぶちまけておくべきか・・・・・・だがしかし、これを言うのは正直気が引ける。大爆笑されるのが目に見えている。でも、クラスメイトの前で笑われるよりは今ここで笑われた方がマシかもしれない。いや、まだ未來がうちのクラスになると決まった訳じゃないんだが・・・・・・。


 「瑛士くん?」


さあどうする。決めろ、決めるんだ瑛士!


「瑛士くん!!」


 耳元で叫ばれ、瑛士は飛び上がる。


 「わ、分かった。言うよ、言う。だが一つ条件がある」


 「なーに? 私にできる範囲でなら」


 瑛士は簡単なことだよ、と前置きして、


 「笑うなよ」


 すると未來は心外だ、とばかりにその綺麗なおでこに皺を寄せる。


 「失礼な! 私は人の才能を笑ったりしないよ!!」


 「本当か?」


 瑛士は尚も疑い深い視線を未來に送る。


 「本当に本当だよ!」


 数秒見つめ合ったのち、未來が突然良い事思いついた、と言わんばかりに目を輝かした。


 「そうだ! じゃあ指切りしよう!!」


 「はあ?指切り?なんでそうなった」


 「だって瑛士くん信じてくれないでしょ」


 瑛士はポリポリと後頭部を掻く。

 信じないと言うよりは、言うのが恥ずかしかっただけなんだが・・・・・・、と瑛士は心の中でぼやいた。


 「ほら早く! 指切り指切り!!」


 まあいいか。たまにはこういうのも、と妥協して、未來の小指に自分の小指を絡ませる。


 「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の〜ます!指切った!」」


 「指切りなんてすっごい久しぶりだな」


 瑛士は解いた自分の小指をじっと見つめる。と、そこに未來が、「ほら、約束したから早く教えて!!」と、瞳を輝かせて催促してくる。

 瑛士は観念した。こうなりゃもう、出たとこ勝負だ!


 「分かった分かった。俺の才能はな、」


 そこで瑛士は一旦言葉を区切り、深呼吸し、続ける。


そうだ、何を恥じらう必要がある!これは俺の立派な才能じゃないか!!ただ胸を張って堂々と告げばいいんだ!!


「俺の才能は・・・・・・だ!」

 

 雲一つない青空の下、少女の失笑が高々と響き渡った。


 


二回目の投稿です!結構早かったのは、前に書いた話に少し改文を施しただけだからです。次回はかなり時間がかかるかと。


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