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片割れの人生  作者: Yashiro
2/5

勇者の力

血が戻る。傷口が再生される。麻痺していた感覚が戻る。

同時に、魔力が込められた落ち葉の傷がヒリヒリと痛み出す。

背中の傷が完全に塞がるころに、柚子は瞼を開いた。

開いてすぐ、目の前の光景に、起きるタイミングを誤ったと後悔する。

空から単体で落ちて来た夕兎の剣によって、魔人は真っ二つに切り裂かれ、彼が遣う光の魔術で魔物たちは亡骸の群れと化した。

地獄絵とはこのことか、と漂う血生臭い空気に鼻にシワを寄せる。

ほぼ不死のアゾレストは、ゆっくりと体を再生させて勇者へと魔術を放つが、直撃したはずの少年の身体は傷一つなかった。


「畜生!!本物は効かねぇの忘れてたぜ」


柚子が物理攻撃を無効とするように、夕兎は魔術攻撃を無効とできる。

焦った魔人は弓矢を放つ。

それを剣で叩き切った。

目元から鼻筋を覆う仮面のせいで、勇者の表情は伺えない。

無表情にも見える。


「ユト=アリス……てめぇは最北の地に行ってたはずだろうが…!」

「……行った。そこで精霊の加護も受け取った。…だから帰ってきたんだ」


ちらり、と妹を見た。

頬に一筋、首筋に二つ、両腕に無数の浅い傷が残っているのに気付く。


「あの血溜まりは…お前がやったのか」

「そうだとしたら、何だってんだ!」

「……」


夕兎とアゾレストの一騎打ちが始まった。

方や大太刀を振り回し、方や弓で防いでは矢を急所へ打ちつけようとする。

その間に、柚子の不運はまた発動した。

瀕死にとどまったゾルが動きだし、彼女を地面へとのし掛かる。

焼け焦げた臭いと、爛れた顔。白眼を向いたまま、憎しみだけで男は動いた。


「…なかばの…カタキ…」


大きな手で首を締め上げられる。

このままでは圧迫死どころか、骨折だ。

頼りの兄は、目の前の敵に夢中で、気付いてくれない。


「っ!!」


苦肉の策。柚子は鏡の欠片を手で手繰り寄せたぐりよせ、手に握ったものを振り上げると、その切っ先で男の手の甲へ突き刺した。


「あぐぁあああああ!!」

「ーーっ!」


首に食い込んでいた爪を引き剥がし、痛みに喘ぐ男から身を離す。

顔にかかった血を乱暴に拭う。この人怖すぎる。


「げほっ!夕兎!」


気づいた兄がこちらを向いて、仮面を剥ぎ取った。

やはり、柚子と同じ顔…少年とも少女ともつかない中性的であどけない顔が晒される。

習って、柚子も自分の頭部を覆う三角巾を脱ぎ捨てる。

背中まで伸びる髪が広がり、風に煽られた。

再生を始める細胞の働きを感じながら、戦闘中の兄を指差して声の限り爆発させた。。


「なんであたしがあんたのとばっちり受けるはめになるのよ!!この街の外では顔は曝すなって言ったでしょ!?なんでこのおっさんがあんたの顔知ってんのよ!!うっかり仮面剥ぎ取られたとか言ったらその顔ロードローラーで原型留まらないくらい変形してあげるわ!!さっさとそこの迷惑魔人倒してよ!」


ゾルは、夕兎と柚子を見比べ、呆気にとられたような表情を作る、アゾレストは舌打ち。

散々貶された兄は、口を真一文字に結んだまま頷いた。


「すぐ済ます」


彼は勇者の剣を振りかざすと、呪文を唱え精霊の力を呼び寄せた。

雨雲が渦巻いて集まる。それが厚さを増すごとに雪が降り始め、一瞬にして辺りを雪景色へと変貌させた。


これが、新しい力か。


被害が及ばぬように、柚子はできるだけ距離を置いた。

同じことを考えたのだろうアゾレストは、腕から血を流しながら体を浮かせる。

逃げる気のようだ。

反対に、ゾルは真の敵を見つけて魔力を集め出す。

夕兎が剣を払う。

すると、離れていたはずのアゾレストの足が切断された。

膝の上部分からスッパリと。

二度目の墜落で彼は悲痛の叫びをあげた。

傷口は凍ったためか、流血しない。


「この雪に触れている者は全て俺の采配次第だ」


魔人が命乞いをする間も無く、積もった雪が生き物のように口を開けて飲み込んだ。

ゴキュゴキュっと嫌な音の末に、雪のマモノはゲップをするようにして煙を吐き出す。


そして、傍らに呪文を唱えていた男はそのままの格好で氷漬けとなった。

それでもなお、憎々しげに睨む瞳は勇者を貫いている。

まるで氷の彫刻だ。

夕兎は、雪に足跡をつけることなく歩み寄ると、剣を突き刺して氷の彫刻を砕いた。


「……柚子…ごめんね」


全てを、躊躇を見せずに行った少年は、妹へと振り向いた。

一体、いつからなのか、兄は無表情の仮面の上から、涙で頬を濡らしていた。








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