水音 その四
気分を悪くした私は、部屋に戻ってから間もなく、胃の中身をトイレに吐きだした。
排水用フィルター。
排水管の接続部に挟むための物。
それを、セールスマンは台所用浄水器と偽って売りつけていた。
小さな段ボールに入ったそれには、梱包材と、コピー用紙の説明書がついていた。きっとでっち上げた物なのだろう。胸がむかむかするのは、憤りよりも生理的な悪寒のせいだ。同時に、私の記憶が嫌な単語を繰り返し、頭の中に浮かばせている。
――――中古浄水器。
これが何かに使われた物だとしたら、何を濾していたのだろう。
そこまで考えてしまうと、余計に気分が悪くなってくる。泣きながら腕を枕に叩きつける。
そんな水を、私は美味しい、美味しいと飲んでいたのか。
胸中で、憤りの割合が大きくなってくる。
絶対にその業者を訴えてやりたい。私は浄水器を取り外し、何らかの証拠にしてやろうと思った。簡単に外れた浄水器を、忌々しげに眺める。穴の中には、スポンジか網のようなフィルターが詰まっている。
ふと、その端にほつれのような物を見つけた。
ヘアピンを取ると、それを絡めるようにフィルタを穿ってみる。
中が汚れていたら、余計に気分が悪くなるのではないかと思ったが、もしかしたら綺麗に洗浄してあるかもしれない。
落ち込んだ気持ちが、少しでも良い方向に考えたいと思ってしまっていた。ヘアピンの先端が撫でると、網目が簡単に解れていく。こんなに脆い物なのかと拍子抜けしながらもそのまま穿って行くと、絡んだままでぺりぺりとめくれてきた。
なにかおかしい。
プラスチックやナイロンのような手ごたえじゃないと思う。
水を含んだせいか、ぐちゅ、、と気持ちよくない音が漏れる。
引っ張ると糸を引くようにして、中身が少しずつ露わになる。以前、牛の骨髄のスープをテレビで見たことがある。つるりと骨から抜けていく肉。ちょうどあんな感じに思えた。
「――――ひいっ!」
浄水器ごとヘアピンを取り落とす。
器の中から、黒い中身がこぼれる。その様子は、一見違和感が無いように見える。
ヘアピンには、ごっそりと――――髪の毛が絡みついていた。
それに、腐った肉のような物と、多分、あれは爪だろう……。
途端に酷い腐臭が鼻をつく。足元が定まらなくなり、めまいを覚えて、台所のシンクへとしなだれかかる。
もう空っぽになった胃からは何も吐き出されること無く、ただ嘔吐感が襲ってくるだけだ。
何故今まで気付かなかったのか。
漂ってくる匂いに顔をしかめる。
視界がぐるぐると回り、シンクの輪郭が歪む。全身が粟立ち、頭はがんがんと響く。
中古の、排水用だと言っていた。
これは一体、何を濾し取っていたのだろう。