人と兵器
イヴは一つ木陰で休んでいた。
兵士はゴクリと唾を飲み込み、意を決して話しかける。
「ご、御苦労様です! イヴ殿!」
「……むっ。先の兵士か。よく無事だったな」
イヴはふっと笑った。
その表情に思わず、兵士は言葉を無くす。
柔らかく、優しい笑顔。
一体、何が我らと違うのだろう。
「……? どうか、したか?」
「……! いえ! 先程は助けていただき、ありがとうございました」
「礼には及ばない。私の『義務』だからな」
義務。
その言葉が兵士の胸に重くのしかかる。
戦うことが、『義務』。
それが、どんなに重く辛いことか。
兵士には想像できなかった。
けれど、目の前の人間の形をした兵器は
それを百年以上背負い続けているのだ。
「……めずらしいな」
イヴは呟く。
「……何がです?」
「いや、私に話かけてくることがだ。普通は怖がって近寄らない」
「そう、なんですか」
兵士はこの兵器が恐ろしいとは感じなかった。
それはこの身形の為か。
おかしな話だ。
この兵器は他のどの兵器より強力な力を携えているというのに。
「名はなんという」
「はっ。カインと申します」
「カイン、か。良い名だ。どこの出だ?」
「北のノドという村です」
「ノドか。一度行ったことがある。農耕が盛んなとこだな。田園風景がとても美しい」
「ただの田舎ですよ」
カインは兵器と何気ない会話をしている自分が不思議だった。
他の仲間たちが私たちを訝しげな目で見ていることが分かる。
その時、ワープ装置の準備が整ったのだろう。
号令がかけられた。
「むっ。ワープの準備ができたようだな」
「そうみたいですね。イヴ殿もワープ装置をご利用に?」
「いや、私にはこれがある」
イヴは胸元に手を捧げた。
その腕には赤く輝く宝石がついた腕輪がはめられている。
「超小型化されたワープ装置だ。これで強制的にエデンの城に飛ばされる」
エデンとは首都の名だ。偉大なる王が住む町だ。
選ばれた貴族しか立ち入ることを許されない。
「……そうですか。ではここでお別れですね」
「うむ。生きぬいてくれ、『同志』よ」
「……! はい!」
生きぬいてくれ、と。
最強の兵器に言われた。
イヴに別れを告げて、カインは小走りでワープ装置の列に並ぶ。
「まずは北のやつからだー!! さっさと乗れー!!」
一般に使われているこの大型のワープ装置も
住んでいる村のワープ場まで一瞬で運んでくれる。
ワープ装置に乗り込んだカインは決意する。
生きぬいて見せる。
この先、どんな苦行があろうとも。
永遠に近い時間を戦い続けている「同志」に言われたのだ。
死ぬわけには、いかない。