圧倒的強者
……なんだ?
何が起こった?
兵士は混乱していた。
自分が助けようとしていた女が
一瞬で目の前に移動したうえに、爆撃を直接くらったはずなのに平然と傷一つつかずに立っている。
一体、どうなっている……?
茫然としている兵士のもとへ、上官が息を切らしながら駆け寄って来た。
「このっっバカやろうが!!!!」
思いきり兵士は頭をど突かれた。
「いってぇぇぇ!! 何するんですか!? 少尉!!」
「何してんだはこっちのセリフだ!! 死ぬ気か!? バカやろう!!」
「……! 自分はっ、ただこの人を助けようと」
「だから、バカだって言ってんだ!! まあいい。説教は後だ。下がるぞ」
「えっ? あっ! ちょっ!」
上官に首根っこを掴まれ、兵士は引きずられるように後ずさる。
「しょ、少尉!! あの人は」
「あれは『イヴ』だ」
「…………!!!! あの人が!!?」
誰でも知っているだろう
その名前を兵士は頭の中で反芻する。
「『人』じゃねぇ。オラ、自分で歩け」
上官は兵士の首根っこを離す。
「了解です」
兵士は上官と共に後方へと駆け出した。
振り向いて、あの「兵器」の背中を眺める。
あれが……、イヴ。
圧倒的だ。それ以外の言葉が見つからない。
争いは終了した。我が軍の勝利で。
生体兵器イヴは、我が軍の兵士が全員下がったのを確認すると戦闘体制に入った。
スッと腰を落とし、構えらしきものを見せる。
見えたのは、それだけ。
多分見えたものは一人もいないだろう。
瞬く間には、敵国の兵士、武器、戦車、大砲、ロボットが次々と戦闘不能になっていった。
速いなんてものではない。
なにも見えない。影すら見せない。
一時間後には、戦闘は終了。
残ったのは、残骸。全ての残骸。
強者たちが夢の後、だ。
兵士は開いた口を閉めることができなかった。
噂には聞いていたが、ここまでとは。
反則ではないか……。
姿を現したイヴは、やはり傷一つ付いていない。
王への報告を済ませ、撤退命令が出された。
後、三十分もすればワープ装置の準備が終わる。
一瞬で故郷へと帰れるのだ。
僅かに生き残った兵士たちは歓喜の声を上げた。
しかし、つかの間の平穏だ。
また、近くで争いが起きれば兵士として派遣されるだろう。
イヴに助けられた兵士は、この勝利の第一人者である兵器の元へと歩み寄った。